ぜんぜん

こちらの方が「ぜんぜん」お得です

 最近の言葉について考えてみたいと思います。表題のような言いまわしを聞いたことはありませんか。あるいはあなたも使っていませんか。「こちらの方がとてもお得です」という意味なのでしょうが,最近はこの「とても」とか「非常に」のかわりに「ぜんぜん」を使うことがよくあります。しかし,本来「ぜんぜん」という言葉は後に続く否定の言葉とセットで使われるべき語だと言われています。つまり,「ぜんぜん前が見えない」とか「数学の問題がぜんぜん解けなかった」という使い方が正しいのです。
 確かに学校でも国語の時間にはそのように指導されています。しかし,それは本当かな?と異を唱える言語学者がいます。この学者は次のように言っています。
 <ぜんぜん+肯定>の用法が誤りであるという認識は戦後教育ではないだろうか。その根拠となるものを3例挙げています。
 ① 昭和8年の国定教科書の中に『むずかしい数学はぜんぜん忘れられてしまっている』という表記がある。
 ② 夏目漱石の「坊っちゃん」の中に『ぜんぜん悪いです』という下りがある。
 ③ 森 鴎外の「怪人」の中にも『ぜんぜん同じことである』という文がある。
というのです。
 どれどれと思い,私は夏目漱石を調べてみました。角川文庫の文庫本「坊っちゃん」
280円を思い切って購入しました。ありました,67ページの下3行目です。職員会議の一場面で熱血主人公の発言です。『いったい生徒が全然わるいです。どうしてもあやまらせなくっちゃあ,癖になります。退校さしてもかまいません。…』
 森 鴎外は小遣いの関係で買っていません。つまり,「ぜんぜん」の使い方が最近乱れているように言われているが,本来の使い方にもどっただけ,戦前教育を受けた人たちには違和感はないのだとこの学者は言うのです。あなたには違和感がありますか。無ければとても若いか,あるいは70歳以上かどちらかです。