先輩を許さない

E先輩を許さない!  

それまでの私の黒鯛の最高記録は38㎝でした。
その日も私はE先輩とYの釣り仲間3人で出かけました。
この日は誰の竿にも快いあたりがありません。
そろそろしまおうか…と思ったそのとき私の竿が大きくしなりました。
お二人のお力もお借りしながらつり上げた獲物は明らかに新記録の40㎝オーバーです。二人には悪いとどこかで思いながらもこの釣果の差は技術の差であるかのようにはしゃいで2人に別れを告げて家路につきました。
玄関の戸を開けるももどかしく,女房,子どもを呼び集めます。
「おーい!新記録を釣ってきたぞー!物差しを持ってこーい!30㎝のはだめや。1mのを持ってこーい。」
女房(うるさそうに)「そこに置いといて,今,夕飯の支度で忙しいから。」
子どもたちにも反応がない。おばあちゃんも無関心にテレビを見ている。
(おかしいなあ38㎝の時は家族全員玄関まで出てきてみんなで感動を分かち合ったのに…)
しかたがないので,自分で計測すると案の定新記録の42㎝である。家族はどうであれ,あの竿から伝わる新記録の引きの強さがまだ腕に実感として残っていることがうれしい。そうだ,新記録といえば「魚拓」だ。
「かあさん!魚拓をとるから,墨と紙を準備してくれ。」
すると,女房の口から信じられない言葉が。
「あんた!人にもらった魚の魚拓をとるの?」
「なぬー?今,何て言ったー?」
「さっきあんたが帰ってくるちょっと前,Eさんからちゃんと電話があったよ。」
電話の内容はこうである。
「もうちょっとしたら旦那が大きな黒鯛を持って帰ってくる。当人は自分で釣ったようなことを言うと思うけれど,本当はさっきいっしょに行ったYが釣ったのをもらって喜んで帰っていった。」というのである。
「ゆるさーーん。絶対 E ゆるさーーん!訴えてやるーー!」