「時速30kmの福祉(1)〜(50)」




 富山総合福祉研究所の塚本が、ケアマネジャーとして原動機付自転車で地域を回ってい
る中で見聞した事などをまとめ、月1回のペースで配信しています。





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 時速30kmの福祉(251)〜





2007.03.25.

時速30kmの福祉(第50回)

 「いつおしっこが出るか分からない人がいるのねぇ」

 通所先で出会った人のこと。外見上なにも障害などないように見える方だったため驚か
れた由。

 それにしても、外見で分からないのに、どうしてそれが分かったのでしょう。うかがっ
てみたところ、ご本人がトイレに向かわれた後、通所先のスタッフの方がご本人の持って
きたカバンから紙おむつを取り出してトイレに持っていったから分かったとのこと。

 このお話をうかがって、トイレから出て自分の席にもどってきたときの、周囲の人と目
があった瞬間のご本人の顔が思い浮かび、さぞや気まずい思いをされただろうと気の毒に
なりました。

「もし、ご本人の荷物が他の人から見えないところにあれば、かばんから出されるのを見
られることなく、ご本人も嫌な思いをしなくてすんだかもしれませんね」

 と申したところ、少し間をおいて、

 「いくら歳をとったといっても、人間の尊厳というものがあるものねぇ」

 とおっしゃられました。いつもやわらかく美しい言葉を選んで使われる方。その方から、
ふいに「人間の尊厳」という厳しい響きのある言葉が飛び出したことにドキリとしました。

 事務所にもどり机の前に腰かけてから、あらためて言葉の余韻をたどりました。もし自
分もいつおしっこが出るか分からない状態になったらどうしようという不安、そうなった
ときに本当は周囲からさりげない配慮や心配りがほしいという望み、でもそれを言うこと
はためらわれるという遠慮、気兼ね。

 パーソンフット(その人らしさ)を大切にするケアを否定するケアスタッフはほとんど
いないと思いますが、果たしてどこまで気づけているのか。むしろ、ケアスタッフの側の
努力をはるかにしのぐほどの心の働きが見落とされている恐れはないか。同じことがケア
マネジャーにもあてはまるのではないか。そのようなことを考えさせられました。





2007.02.25.

時速30kmの福祉(第49回)

 昨年4月の介護保険法改正施行で、要介護度が軽度の方の場合特殊寝台などの利用が認
められなくなり、自費で特殊寝台を購入したり、簡易ベッドを購入するなどの対応に追わ
れたのは記憶に新しいところです。

 この問題について、本年4月から取り扱いを見直すとの厚生労働省方針が出されました。
それによれば、軽度認定者に対するレンタルを認めない原則は変えないけれど、一定の条
件を満たした場合には、「例外的に」特殊寝台のレンタルを認める、ということのようで
す。今後2月中にパブリックコメントを募り、3月に関係通知を改正、4月1日から変更
開始となる見込みです。

 具体的に、どのような場合に例外として認められるか、ですが、「例外的給付の対象と
すべき事案」として以下の3つが示されました。

(1)疾病その他の原因により、状態が変動しやすく、日によって又は時間帯によって、
   頻繁に告示で定める福祉用具が必要な状態に該当する者

(2)疾病その他の原因により、状態が急速に悪化し、短期間のうちに告示で定める福祉
   用具が必要な状態になることが確実に見込まれる者

(3)疾病その他の原因により、身体への重大な危険性又は症状の重篤化の回避等医学的
   判断から告示で定める福祉用具が必要な状態に該当すると判断できる者

 上の3つのいずれかに該当することが、

(ア)医師の意見(医学的な所見)に基づき判断され、

(イ)サービス担当者会議等を経た適切なケアマネジメントの結果を踏まえていることを、

(ウ)市町村長が確認している

という(ア)から(ウ)の手順が守られていれば例外的に特殊寝台のレンタルを認める、
という方向で検討されています。

 昨年度の「貸しはがし」がきっかけとなって病態が悪化した人がいることを思うと、な
ぜはじめから個別の必要性に基づいて判断できる制度にしなかったのか不信感が募ります。
自然科学の動物実験とは違い、現実の社会で生きている人に適用する法制度がこのような
乱暴な検証で揺れ動くことは、人権保障の観点から極めて問題があると思います。

 他方、今回の見直しは、制度の改善を求める声が自治体経由で国に届いた事の反映であ
るという側面もあります。サービス利用者にとっても、保険料・税金の納付者にとっても
合理的ではない法制度は、政府任せにせず自分たちの手で変えていかなければならないと
あらためて思いました。


2007.01.25.

時速30kmの福祉(第48回)

 昨年末から年明け、そして今日までとてもおだやかな気候が続いています。あまり雪が
降らなすぎるのも夏場の渇水を思うと問題ではありますが、出歩く機会の多い者にとって
は好都合。雪かきもなく楽をさせていただいています。

 その陽気も、もしかしたらこの子が運んでくれたのではないか、と「緑の風のなかの少
女」(いわさきちひろ 1972年)を眺めながら思っています。今年はなにかいいこと
があるかもしれない・・・。

 笑顔いっぱいのこの絵の中の少女は、緑の草原をわたるそよ風にふかれて元気よく歩い
ている。最初はそういうイメージで見ていました。でも、何度も見ているうちに、風その
ものが緑色なのではないかと考えるようになりました。

 智恵子抄で有名な高村光太郎は、西洋で絵画と彫刻を学んで帰国した際、見たまま感じ
たままを自由に表現できない日本の「狭い」価値観を嘆いたそうです。太陽も、その人が
緑色に見えたのならば、緑色で表現すれば良い。それが受け入れられないことの方が間違
いなのだと。

 緑の風のなかの少女は、もしかしたら日本の芸術表現の歴史を背負っていて、「風は緑
色に見えてもよい、描いてもよい」ことを密かに主張しているのではないか。少女の笑顔
は、力強く時代を拓いた自信の表れではないか。穿った見方かも知れませんが、そう思っ
てあらためて絵と向かい合うと、緑色の風は少女の内面からあふれ出しているように見え
るのが不思議です。

 デイケアハウスにぎやかの阪井理事長は、家族としておつきあいしていた方をにぎやか
内で看取られた際に、部屋の中があたたかいもも色になった、と自らの体験を語っておら
れます。また、居合わせた他のスタッフの方も、色はオレンジっぽい色だけれども、やは
りあたたかく感じたのだそうです。阪井理事長は、感じる色は人それぞれでよい、死は決
して暗くさびしいものではなく、生そのものであり、あたたかいものなのだと理屈ではな
く体感できたことがすばらしいと付け加えられました。

 デイケアハウスにぎやかでは、10周年を期に記念フォーラムと第2のにぎやか「かっ
ぱ庵」の見学会を3月24・25の両日に計画しておられます。きっと、にこにこ顔の年
齢・性別不詳の少女たちが全国から集まって、それぞれの色の風で満たされることでしょ
う。


2006.12.25.

時速30kmの福祉(第47回)

 このところ、NHKの福祉関連の番組が気になっています。認知症の人のケアについて
は1年間かけてのキャンペーンを展開するとのこと。以前、同じNHKで社会的ひきこも
りサポートのキャンペーンが展開されたとき、この方面の社会的理解がとても拡がりまし
た。ボランティアで社会的ひきこもり相談員をしている当方のような立場の者は、マスコ
ミが理解を示してくれたこと、力を与えてくれたことをうれしく思ったものでした。今回
の認知症サポートのキャンペーンも同様に成功すればすばらしいことだと思います。

 ところで、治療方法が確立されていない病気(特定疾患と呼ばれます)の治療技術の開
発や患者の福祉などを目的として医療費を公費で負担してくれる制度があります。この制
度について、予算の関係でパーキンソン病と潰瘍性大腸炎の2つの疾患の軽症者を保障対
象からはずす内容の変更が行われる予定です。仮にそのような制度変更が行われると、患
者にとって命に関わる深刻な問題が発生するのではないかということで、関係者はとても
心配していました。

 この問題について、先日NHKが番組でとりあげ、客観的な視点で患者が直面している
事実を丹念に紹介しました。それからほどなく、政府与党議員から厚生労働省に申し入れ
があり、低所得の人に対しては医療費の公費負担を継続する経過措置の方向が決まったと
報じられました。あらためてマスコミが潜在的に持っている大きな力を感じました。

 NHKでは、「つながる」という言葉で社会連帯を呼びかけるメッセージを発信してい
ます。一人ひとりが、自分の問題ではない、関係ないと考えるのではなく、同じ社会で生
きている者として「つながる」問題なのだと気づき、自分になにができるかを考え、行動
することが求められているのだと思います。NHKは、マスコミとして考え、行動した。
われわれはどう考え、行動するべきか。一連の番組を観ながら、そのようなことを思いま
した。


2006.11.25.

時速30kmの福祉(第46回)

 11月11日、12日の両日、富山国際会議場にて日本内観学会主催の内観療法ワーク
ショップが催され、当方も参加させていただきました。

 内観とは、もともと仏教の浄土真宗で行われていた身調べという修行法を宗教の枠を超
えて一般化したものです。定められた手順と方法により、自分のこれまでの人生を事実に
即して客観的に捉え直し、自分自身の存在を拘束していたあらゆる価値(壁と言ってよい
かもしれません)を乗り越えてほんとうの自分や自分をとりまく世界のことに気づくこと
を目指します。この内観を治療に応用したものが内観療法です。内観は、医療分野だけで
はなく、教育現場や企業の研修の場などでも行われており、地理的にも日本だけではなく
世界各国に拡がっています。

 当方は、11日のプログラムで、内観を実際に体験させていただきました。本来であれ
ば一週間泊まり込んで集中して行わなければならないところを2時間弱に短縮したプログ
ラムであったため、体験したというよりは、「こんな感じかな」と感触を知る程度の浅い
ものではありましたが、日常から離れ、自分と向き合う有意義な時間を過ごすことができ
ました。

 医療や看護、介護の現場で人を相手に働いている専門職は、ついついそれぞれの専門知
識や価値観の眼鏡ごしに相手を見てしまうくせがあります。それが壁となって、その人の
ありのままの事実が見えなくなってしまう。かえって、専門知識や余計な先入観を持たな
い一般の人の方が事実をよく見ている、ということがままあります。

 認知症の人へのケアの分野でも、クリスティーン・ブライデンさんが「本人」として自
分に起きたことを語っても、専門職の反応は当初否定的でした。「あの人は本当は認知症
ではないのだ」といった具合です。しかし、本当に認知症であるという事実を否定できな
いと分かり、やっと自分たち専門職がこれまで認知症の人の話を全く聴いてこなかったの
だという恐るべき事実に気づかされることとなりました。

 新しい認知症ケアは、「本人から話を聴く」という、もっとも基本的なことがくりかえ
しくりかえし強調されます。このことは、専門職が聴いたつもりになっているだけで、本
当は聴いていない、専門職であるがゆえに壁が邪魔をして気づけないことへの警鐘でもあ
ります。

 今回の内観療法ワークショップで、専門職としての先入観などを捨ててその人自身の内
面をありのままに受け入れる事の大切さと、それができるような対人援助者になるための
気づきの厳しさをあらためて学ばせていただきました。





2006.10.25.

時速30kmの福祉(第45回)

 先日、ある通所介護事業所の方から、厳しいお叱りを受けました。通所中のある方の利
用回数を、週1回から週2回に増やしたいとご家族がおっしゃっているのに、なぜご希望
のとおりにしないのか、理由が分からないので説明しろとのこと。通所が週1回から2回
になるのはご本人にとっても良いこと。ご家族のご期待に添えるよう通所介護事業所とし
ても苦心して受け入れ体制を整えた。にもかかわらず、なぜケアマネジャーがそれを妨げ
るのか。もっともな疑問でした。

 当方からは、ケアマネジメントの技法の一つにご本人やご家族のご希望とは相容れない
方針をあえて対置するコンフロンテーション(confrontation)という技法があること、今
回はいくつかの理由によりコンフロンテーション介入が必要と判断し実行したことなどを
ご説明しました。

 ご本人、ご家族のご希望に反する方針を打ち出すということは、ご本人、ご家族との間
に緊張関係をあえて持ち込むことを意味します。ただでさえ忙しいケアマネジャー、わざ
わざややこしい問題が発生しそうなことをするよりも、適当に相づちをうって御用聞きを
していた方が楽かもしれないのですが、それが結果的にご本人、ご家族のためにならない
ことがわかっているならば、相談を業とする専門職として敢然と対峙することもときに必
要となります。

 どんなときにコンフロンテーション介入を行うのか、判断を誤ると信頼関係を決定的に
損なってしまいます。また、たとえタイミングが正しくても、介入技術が拙ければ、結局
のところ失敗してしまいます。

 このご家族とは、今回の通所に限らず、様々な場面でご希望とは相容れない方針を対置
しては綱引きの綱をひっぱりあってきました。気に入らなければ、いつでもケアマネジャ
ーを変更できたはずです。しかし、ご家族は忍耐強く「素直に言うことを聞かないケアマ
ネジャー」につきあってくださっています。感謝、感謝です。

 また、通所介護事業所としてご本人、ご家族の利益を代弁すべく、懸命にケアマネジャ
ーを問いつめたスタッフの方にも、二つのことを感謝したいと思います。一つは、ご本人、
ご家族のことを単なる「お客様」としてではなく、人間として真剣につきあっていただい
ていること、もう一つは、「言っても無駄なケアマネジャー」とあきらめずに思いをぶつ
けていただけることです。

 偶然ですが、丁度同じ時期に、ご家族自身の腰痛治療についてご相談を受けました。こ
こ数ヶ月介護負担が高じて腰痛が悪化、当方は受診をお勧めしていたのですが、ご家族は
拒んでおられました。それが、試しに治療してみようかと心が傾かれたご様子。この機を
逃さず、受診予約をとりました。当日は心変わりされないよう「監視」のために当方が同
行する予定です。





2006.09.28.

時速30kmの福祉(第44回)

 ここでは、仮の名前を花子さんとします。花子さんは、先日玄関から外へ出たときに、
あれほど転ばないようにと気をつけていたにもかかわらず、転んで足のつけ根の骨を折っ
てしまいました。その日のうちに病院に入院したのですが、骨折したところを固定し、ベ
ッドにもしばりつけてあったのに、なにをどうしたのかいつの間にかベッドから抜け出し、
病院の廊下を四つ這いになって移動中のところを発見され、大捕物になってしまいました。
ご本人は大変な興奮状態で、当方が面会のため到着したときには、こんなところには居れ
ない、死んだ方がましだと険しい表情で繰り返し叫んでおられました。

 病院の看護師さんにお願いし、しばらく花子さんと二人だけで話をしました。認知症の
ある花子さんは、あれよあれよという間に御自宅から病院へ、そして病室へと運び込まれ、
次から次へと白い服を着た人が入れ替わり立ち替わりあわただしくやってきては強い口調
で何か言ってくるけれど、なんだか良く分からない。しかも足が痛いし重くて動かないの
は何故だろうということで、大混乱に陥っておられたのだと分かってきました。

 そこで、病棟のスタッフの方々に、花子さんは認知症があること、花子さんから罵声を
浴びせかけられても論理的に説明して納得させようとしたら逆効果になるのでやめてほし
いこと、感情的な混乱状態の原因になる事を一つずつ無くしていけば治療や看護もやりや
すくなると思うことなどをお伝えしました。

 ご家族が毎晩付き添われました。最初の夜は大暴れされたそうです。しかし、日中にな
るべく起きるように、夜間は安眠するようにと少しずつ生活リズムを整えるよう工夫され、
花子さんの論理的には支離滅裂だけど気持ちのこもったお話を丹念に聞くようにされた結
果か、不安や混乱から生じると思われる行動は少なくなっていきました。

 術前の説明をご家族といっしょに聞かせていただきました。全身麻酔ではなく部分麻酔
で行うと担当医がおっしゃられたときには、手術中に突然暴れたりしないだろうかと内心
心配しましたが、手術は無事成功しました。

 その翌日の今日、面会で病室を訪れたところ、花子さんの表情は見違えるほど穏やかに
なっておられました。足は相変わらず痛いし、なぜ痛いのかも分からないご様子でしたが、
「順調に治ってきていますので、あと2、3週間もすれば元どおり歩けるようになると思
いますよ」と言ったら喜んでおられました。あれほど病院を嫌がっていたのに、「うちに
いるよりよほど良い」などと言われたので、ベッドサイドのご家族は笑っておられました。

 積極的傾聴の大切さを説いたカール・ロジャーズは、内部的照合枠(the internal frame
of reference)、つまりその人の内側から見る姿勢がなければ共感的理解を得ることがで
きないと考えました。外側から見ると困った患者の問題行動ですが、内側から見ると、ち
ゃんと理由がある当たり前の行動だと分かる。それはびっくりしたね、不安だったねと共
感できるというわけです。

 ロジャーズは、積極的傾聴と共感的理解によって得られる自己受容(花子さんの場合は
「うちにいるよりよほど良い」いまの自分)は、周囲の積極的なサポートによって強化
(バリデート)されるとも説いています。このバリデートという側面は、1980年代の
ナオミ・フェイルのバリデーション(フェイル・メソッド)へとつながっていきます。

 認知症でも心は生きている。心を無視しないでほしい。認知症でなくても心がおろそ
かにされがちな昨今ですが、花子さんの叫びは人間性の内奥を厳しく照らしているよう
に思いました。





2006.08.24.

時速30kmの福祉(第43回)

 8月は、戦争のときのお話をうかがうことが多い月です。今年は、救護看護にあたられ
た方々のお話を伺いました。

 ある方は、富山の大空襲のときに、当時まちなかにあった病院から入院している患者さ
んを抱えて逃げた体験を聞かせてくれました。橋の下に避難していたら、自分の横にいた
その患者さんの右半身に焼夷弾が当たって、その後お亡くなりになったそうです。

 自分のいのちと患者さんのいのちをひとつのものとし、紅蓮の炎のなか看護職としての
使命をいのちがけで果たそうとされたお心と、力が及ばなかった悔しさ、悲しさ。世間話
の合間にほんのわずかだけ語られる言葉の一つひとつから、時を超えて静かに重く暗く伝
わりました。

 中国大陸に軍隊とともに行った人、復員する人を乗せた船に救護のため乗船した人、そ
の後の朝鮮戦争でアメリカ兵の救護看護のために日本国内で働いた人。当時の言葉でいう
救護看護婦は、兵隊さんと同じように紙切れ一枚で赴任先が決まったのだそうです。

 大空襲のときには、事前に何月何日の何時に空襲をするから避難するようにとアメリカ
側から通告されていたけれども、逃げたら非国民という扱いになって、ひどいことをされ
るものだから逃げられなかった。それで、大勢の人が亡くなってしまった。愚かなことを
していたと。

 時は下り、交通事故死者数の多さから交通戦争という言葉が生まれたように、介護殺人、
介護心中や介護に基因するうつ病などが戦争さながらに多発している今日、わたしのよう
な福祉の相談員はいったい何をなすべきなのか。お話を今日の状況に重ね合わせながら自
分に問いかけていました。





2006.07.24.

時速30kmの福祉(第42回)

 7月末近く、定期訪問先で自殺の事が話題となりました。
 治療や介護に悩んでの、無理心中や自殺の報道が後を絶ちませんが、富山市内でもつい
数日前に心中事件が起きてしまいました。その記事をご覧になられて、とても他人事とは
思えないとおっしゃっておられました。

 子ども一家も自分たちの生活でせいいっぱい。病気や障害そのものはさして苦には思わ
ないが、それがために家族に迷惑をかけていると思うことがとてもつらい。

 昔は、病気になってもお金がかかるので治療を受けられない時代があった。またそんな
悲しい思いをしなければならない時代になってきた。

 竹の子生活、という言葉も話題になりました。蓄えを取り崩して、取り崩して、行き着
くところまで行き着いたら、おしまいだと。

 事務所に戻って「竹の子生活」をインターネットで検索してみたところ、戦争直後、昭
和22年の庶民の窮乏生活の意味で、現在は「死語」であると出ていました。

 死語と言われた竹の子生活という言葉が復活する時代。大きな戦争の後でもないのに、
多くの人が追いつめられ、苦しんでいる。

 もしかしたら、日本はいまこれまでの言葉遣いとは異なる意味での「戦場」と化してお
り、われわれ相談員が目の当たりにしているのは最前線の惨劇ではないか。そのような思
いがよぎりました。





2006.06.17.

時速30kmの福祉(第41回)

 6月半ばのある日、複数の方から市町村民税・県民税のご相談がたて続けにありました。
昨年まで税金がかかっていなかったのに、本年度は納付書が郵送されて課税されるようだが
何故かとのお問い合せでした。

 当方にて調べたところ、理由は2つほど考えられることが分かりました。1つは、老年者
控除が廃止になったこと、もう1つは収入金額から所得金額を算出する計算式が変更となり、
非課税から課税に転化する所得階層が発生したことです。

 またしてもお金に余裕があるわけでもないのに負担増という事で、「なぜ」への説明なく
納付書が送りつけられた事も重なって、政策の理不尽さが際立った観があります。

 このような納付書が届いた場合でも、昨年度所得税の確定申告をしておられなかった方で、
医療費控除や保険料控除、障害者控除などを受けることができる方の場合、いまからでも市
町村の税務担当課に出向いて市町村民税・県民税の申告書を提出する事により、課税から非
課税に変わったり、課税額が減額となります。

 ご高齢の方の場合、所得税の確定申告のために市町村の窓口に出向いても、人でごったが
えしているので用紙をもらわずに帰ってしまったという人も多いのではないでしょうか。あ
るいは、どうせ所得税非課税だからと手続をとらなかった人もいるかもしれません。

 もし本年度はじめて市町村民税・県民税の納付書が届いたという方がいらっしゃいました
ら、あきらめずに申告を試みていただければと思います(ただし、全期ではなく、年度後半
の第三期以降に税額変更となる見込みです)。

 詳細は、おすまいの市町村か当研究所宛お問い合せください。





2006.04.23.

時速30kmの福祉(第40回)

 この4月から介護保険法の改正で制度が大きく変わりましたが、これとは別に、介護保
険法の適用とならない若い人を対象とする支援費という介護サービスも、この4月から自
立支援法という法律の介護サービスに切り替わることになりました。

 ところで、介護保険法の適用となる方の場合、原則として若い人向けの自立支援法の介
護サービスを併用する事は禁じられていますが、一定の条件を満たした人の場合は併用が
認められています。一定の条件とは、介護保険のサービスを限度いっぱいまで使い切って
もなお在宅生活を維持するだけの介護量を満たすことができないことや、使っているサー
ビスの半分くらいは訪問介護のサービスを受けていることなどです。首から下が思うよう
に動かない全身性障害と呼ばれる重い障害のある方などの場合、施設ではなく自分の家で
暮らしたいと思っても、家族やボランティアの人たちの支えだけでは不足する介護量を満
たすのに限界があります。そこで、例外的に介護保険法のサービスと自立支援法のサービ
スの併用が認められているのです。

 ところが、富山市の場合、この併用のための条件が厳しくなるらしいということが分か
ってきました。そして、もしそうなってしまったら、さまざまな意味で困ったことが起き
るらしいということも分かってきました。そこで、この問題に気がついた人たちが集まっ
て、「自立生活を考える会富山(仮称)」を作ろうということになり、その設立準備委員
会が4月12日にできました。また、4月20日には、設立準備委員会の委員長名で、富
山市長宛の公開質問状を提出し、両方のサービスを併用する場合の法律の解釈と運用の問
題を指摘、改善に向けての制度説明会を開催するよう求めました。

 今回の併用問題だけではなく、ひろく障害の有無にかかわらず人が自立して生きる、生
活していくということはどういうことなのか、それを実現するためにはどうすればよいの
かといったテーマについて、興味関心のある方々との議論を通じて深めていきたいと考え
ています。準備委員会の情報は以下のホームページから発信されていますので、興味をお
持ちいただける方は是非お立ち寄りくださいませ。


仮称「自立生活を考える会富山」設立準備委員会





2006.03.22.

時速30kmの福祉(第39回)

 今まで通っていた病院から、リハビリのための通院はもうできませんと断られて困って
いる、というご相談が増えています。診療報酬という医療機関に支払われる報酬のしくみ
が4月1日から変わり、長期間リハビリを受けている人に対していくらリハビリを提供し
ても、医療機関にはお金が入らなくなる事が原因のようです。どのくらい長期間だとダメ
なのかについては、疾患によって異なります。脳卒中の後遺症の方の場合、発症してから
180日を超えた場合や、症状が悪化してから180日を超えた場合がリハビリの対象外
とされています。

 医療機関の側は、4月1日を境に通院リハビリの患者さんが一気に減ってしまいます。
そこで、リハビリの資格を持った職員を減らすところや、患者さんの家を訪問してリハビ
リを行う訪問リハビリサービスを始めるところが出てきました。もっとも、介護保険を使
っている患者さんの場合、訪問リハビリは医療保険ではなく介護保険から提供されるのが
原則であり、その介護保険では、これも4月から報酬の計算方法が変わって、リハビリの
資格を持った人が訪問する回数は、看護師の資格を持った人の訪問する回数と比較して多
くてはいけないという制限が設けられました。これにより、そんなに頻繁には訪問できな
い、利用者から見ればそんなに頻繁に利用できない事となりました。

 介護保険を使う人の場合、老人保健施設などに通ってリハビリを受ける事ができます。
しかし、もし医療機関で断られた人たちのために老人保健施設が通所を多めに受け入れた
くても、1日当たりの利用人数が制限されています。また、これも4月から報酬の計算方
法が変わり、1日当たりの受け入れ人数が多いところは、老人保健施設に入る報酬が低く
なる仕組みとなりました。

 提供されるリハビリが本当に無駄なものであれば、止めてしまった方が公費の節約にな
ります。しかし、無駄かどうかは個々の患者さんによって様々なはずなのに、一律発症後
の日数で制限をかけてしまうのは問題だと思います。統計的には「例外」かもしれません
が、医師から改善の見込みなしとの説明を受けた人が、ご本人の努力や周囲の支援で歩け
るようになったり、スプーンを口元まで運ぶことができるようになったりという事も、介
護現場ではそんなに珍しいことではありません。

 何年にも亘る夫婦二人三脚のリハビリで、医師も驚く回復をみせた人がいます。4月か
らリハビリ通院できないと言われても納得できず、なんとかならないか病院にくりかえし
相談した結果、病院側があらためて検討、4月以降も引きつづきリハビリ通院できるよう
になった方があります。その方の場合は、病院側の過剰反応で、本当は通院継続できる人
だったのに、ダメなものと思いこんでいた模様です。

 この4月からは医療も介護も制度が大きく変わります。その変わる理由を「自立支援」
のためと言いながら、実際にはリハビリをあきらめなければならないなど、逆方向に進ん
でいるように思えてなりません。必要な人に必要な医療、看護、介護、リハビリテーショ
ンが保障される仕組みにしなければならないと思います。





2006.02.15.

時速30kmの福祉(第38回)

 前々回(第36回)の本稿で、国の国際生活機能分類(以下ICF)の理解に違和感を
感じていると述べました。そして、前回(第37回)は、ICFについての当方の理解を
少し詳しく述べました。今回は、ではなぜ当方が国のICFの理解に違和感を感じるのか
という事について述べます。多少難解な言葉が続きますがご寛恕下さい。

 国は、これからのケアやケアマネジメントは、国際標準であるICFに基づかなければ
ならないとしています。ここまでは、当方もそのとおりだと思います。

 しかし、国は同時に、今回の介護保険法の改正で、介護と介護予防の二本立ての制度を
作りました。これにより、人間には、「介護の対象になる人」と「介護予防の対象になる
人」、「どちらの対象にもならない人」の3種類を分ける壁ができてしまいました。そし
て、「介護予防の対象になる人」は、介護予防のサービスを受ける事によって、壁の向こ
うの「どちらの対象にもならない人」の仲間になる事と、「介護の対象になる人」のいる
壁の向こうにはいかない事が求められるようになりました。

 これは、実はICFを作るときに、これではダメだといって克服したはずの、矢印が一
方通行の医療モデルの価値観そのものです。良心的なリハビリテーションの専門家の中に
は、ICFに基づく仕組みづくりには賛成だが、「介護予防」という言葉には反対だとい
う人がいます。もっともな事だと思います。

 ICFに基づいた仕組みを作ると言いながら、できた仕組みはICFに反している。な
ぜこんな事が起きるのでしょうか。

 ひとつには、バイオ・サイコ・ソーシャルモデルのうちのバイオモデル、つまり言葉を
換えると医療モデルなのですが、これが「予防」という領域では他のサイコ・ソシオモデ
ルよりも強調されたり、重視されたりする傾向があるため、ICIDHではないけれども、
結果的に医療モデルに偏った「日本型」バイオ・サイコ・ソーシャルモデルになってしま
っているという側面があると思います。

 いまひとつは、その偏りを修正できるだけのソーシャルモデルの確立が遅れているとい
う側面もあるのではないかと考えます。例えば、「自立」とは、介護予防の考え方によれ
ば「どちらの対象にもならない人」であり続ける事、という事になりますが、ICFの考
え方によれば、「介護の対象になる人」も自立できる、むしろ、その人に必要な介護など
の環境を整える事によって、システムが正しく作用して自立できるという事になります。

 介護予防政策の「自立」観は、西洋近代の復古的な個人主義的自立観であり、自由競争
の名の下に差別や排除を許す「お金で買えないものはない」価値観に根差しています。こ
のような根本的な価値観を超克する新たな人間理解や社会の原理を提示できなければ、偏
ったソーシャルモデルがバイオ・サイコ・ソーシャルモデル内に組み込まれたままとなり、
その意味でも3者のバランスのくずれを一層助長してしまいます。

 以上をまとめると、医療モデルの偏重とそれを修正する社会モデルの不在の2つの理由
で、特異な「日本型」バイオ・サイコ・ソーシャルモデルが生まれたという事になるかと
思います。では、これをICFのモデルと呼んでいいかどうか、が次に問題となります。

 当方の考えでは、ICIDHからICFに改訂された時に克服されたはずの課題がその
まま残されているという意味で実質的にICFに反していますので、これをICFモデル
と呼ぶ事はできないだろうと思います。

 もっとも、このようないわば「日本型」の解釈を許してしまうという事は、ICF自体
がまだまだ未完成のモデルであるという見方もできるかもしれません。今のICFはもと
もとICIDHを見直して作られた「よりまし」なモデルですので、今後も問題点が見つ
かれば、それを改善した新たなモデルに進化する事は可能でしょうし、そうしていくべき
であろうと思います。

(補足)

 当方は、競争原理を超克するためには共生原理を確立する必要があると考えています。
当方の主張する第三者機関主義は、ケアマネジメントの領域において共生原理を実現する
道すじとして想定したものです。





2006.01.25.

時速30kmの福祉(第37回)

 前回の時速30kmの福祉の末尾で、国際生活機能分類(ICF)の捉え方について触
れました。その事について少し詳しく述べたいと思います。

 国際生活機能分類(ICF)は、世界保健機関(WHO)によって作られた「健康」な
状態についてのモデルです。もともとかつての国際障害者年の頃に作られた国際障害分類
(ICIDH)というものがあったのですが、これを改訂して作られました。

 国際障害分類は、日本語で一口に「障害」と言っても、実は様々な段階(機能障害、能
力障害、社会的不利の3つがあると説明されました。それぞれの頭文字がI、D、Hだっ
たので、国際的な分類=インターナショナル・クラシフィケーションの頭文字I、Cと併
せてICIDHと略されます)がある事を明らかにし、各段階ごとに適切な対応があれば
人は幸せに生きていけるのだと訴えました。当時としては画期的な事で、障害を持ったか
らもう人生はおしまいだという事ではない、社会的な差別の存在に気づき、改める事によ
って障害のある人がもっと暮らしやすくなる、といった意識が生まれていきました。

 しかし、他方で、この分類にはいろいろ問題がありそうだという事もだんだん分かって
きました。

 一つには、これは障害のある人自身の視点というよりは、医療者の側の視点から障害を
捉えたものではないか、という問題です。人間を健常者と障害者に分け、人間の「望まし
いあるべき姿」を「健常者」と考える。そして、病気になったり、その病気が原因で障害
を持ったりしたら、望ましい姿から一歩後退した事になる。そうならないように、病気に
ならないようにまず病気を予防(プリベンション)しましょう。これが第一段階です。で
も、不幸にして病気になってしまったとしても、機能障害を持たなくても済むよう治療し
ましょう、もし不幸にして機能障害を持ってしまったとしても能力障害を持たなくても済
むよう機能回復訓練をしましょう、もし不幸にして能力障害を持ってしまったとしても社
会的不利を持たなくても済むように制度や環境を整備しましょう。ちょっと誇張した表現
になるかもしれませんが、このように階段を一つずつ下りていく、落ちていくような価値
観が実は潜んでいたのではないか。この点が障害のある人たちから批判される事となりま
した。

 また、このような階段を一段ずつ落ちていくような一方通行の理解は、現実の「障害」
と一致しないという指摘もなされるようになりました。機能障害はあって能力障害はない
けれど社会的不利はある、というように、必ずしも前段階を前提とせずに次の段階が存在
する場合がある(ハンセン病の場合など)。つまり、現実は、矢印が一方通行ではないぞ
という事がわかってきたのです。

 そこで、このような国際障害分類の不備を、いろいろな人が改善しようとしてあれこれ
修正の努力を行いました。それを受けて、世界保健機関として正式に大幅な改訂を加え、
今日の国際生活機能分類(ICF)になりました。

 今回の改訂の眼目は、一つには医療モデルからの脱却という事があります。世界保健機
関の使う言葉で言えば、バイオ・サイコ・ソーシャルモデル、つまり、医療面だけではな
く、心理面や社会面からも総合的な視点で作られたモデルになりました。そして、かつて
の健康→病気→障害(実は、世界保健機関の当時の文献には、障害の次の矢印の先に「死」
と書かれていました)という一方通行のモデルではなく、矢印が双方向のモデルに変わり
ました。

 また、以前の分類は「障害」の分類であり、健常者には関係のない障害者に関するもの
というイメージだったのですが、後からできた国際生活機能分類では、すべての人に当て
はまるモデルに切り替わりました。健常者と障害者という2種類の人間がいるわけではな
くて、1種類の人間の中に、様々な「健康」の構成要素の組合せから生活に不都合な状態
が生まれたり、逆に相互作用によって消失したりする。そのような自己完結したシステム
をイメージしたモデルになりました。 (次号に続きます)





2005.12.22.

時速30kmの福祉(第36回)

 先日、富山県下の介護支援専門員を対象とした介護保険の新予防給付に関する研修会が
ありました。その際に、4月からの、軽度の認定を受けた人などのためのいわゆる介護予
防ケアマネジメントのマニュアルや書式についても説明を受けたのですが、個人的にはい
くつかの理由でがっかりする内容でした。

 ひとつには、その方にとって何が必要か、また何を望んでおられるかを調べるアセスメ
ントについて、新予防給付などあらかじめ国が利用を想定しているサービスを必要とする
かどうかを調べる項目に限定する書式例になっている事です。

 このような書式例では、アセスメントからプランを作るという本来の方向ではなく、サ
ービス提供者側が利用させたいと思うサービスを組み込んだプランから逆算してアセスメ
ント欄を埋めるという逆方向の手順を誘導しやすくなります。もともと介護予防ケアマネ
ジメントという新しい事を始めるにあたり、これまでのケアマネジメントはこのような逆
方向の手順になりがちだったのでそれを改めるために新制度を作るのだという説明がなさ
れてきただけに、どうしてこのような書式例にしてしまったのか疑問が残りました。

 ケアマネジメントは、制度から人を見るのではなく、人から制度を捉え直す事が必要だ
という気づきから始まっているしくみです。制度に合わせて人が生きるのではなく、人に
合わせて制度を利用したり、人に合わない制度は改めたり、人に必要な制度がなければ創
造したりする事、人としての尊厳が大切にされる地域を創っていくのが本来のケアマネジ
メントの姿です。

 その意味では、介護の必要な度合いが重かろうが軽かろうが、その人の年齢が高かろう
が低かろうが、ケアマネジメントとしてやることは一つしかありません。

 それにも拘わらず、あたかも「自立」は軽度の介護を受ける人だけに特別に必要である
かのような価値観から制度を分断し、その分断された制度に合わせてケアマネジメントも
分断する誤りを犯してしまいました。

 その結果、国が考える「自立した人間像」に合わせて、制度に合わせて人が生きるよう
に誘導する事がケアマネジメントであるかのような誤解が、ケアマネジメントを行う側に
も受ける側にも拡がりつつあります。そして、人に合わない制度を改めたり、必要な制度
を新たに創造するという思考が、次第に忘れ去られようとしています。これは、とても危
険な事だと思います。

 当方ががっかりしたふたつ目の理由は、いわゆる国際生活機能分類(ICF)の捉え方
について違和感を持ったためですが、これについては次回に触れたいと思います。





2005.11.27.

時速30kmの福祉(第35回)

 ここ数日、ある一級建築士が耐震構造計算書という書類を偽造して、地震に弱いマンシ
ョンを作ってしまったという事件が報じられています。

 マンションを発注した側が、コストを安くするために不正を知りながらこの一級建築士
に頼んだのではないかとか、工事を請け負った業者が不正を知っていたのではないかとの
疑いをかけられていますが、発注者や請け負った業者はいずれも否定しているようです。

 また、専門家が図面を見れば容易に見抜ける不正だったのに、なぜ検査段階で発見でき
なかったのかという事も問題になっています。

 ある報道関係者は、一部の、特定の人たちの利益のためならば公の利益、社会的な利益
はどうなっても良いという価値観が根底にあると指摘していました。

 ところで、時期を同じくして、医療制度改革について、〈1〉2006年10月から現
役並み所得者を現在の2割負担から3割負担に引き上げる、〈2〉療養病床に長期入院す
る高齢者の食費・居住費を原則自己負担とする、(3)2008年度から75歳以上の高
齢者の医療保険を分離独立させる、などの政府・与党の合意が得られたとの報道がありま
した。

 うち(3)については、破綻確実として健保連が反対を表明したとの事です。(1)と
(2)についても、果たしてそれで「持続可能な制度」になるのかどうか、条文だけ残っ
て保障が失われ、経済的な理由で必要な医療が受けられなくなるのではないかといった不
安の声が聞こえてきます。

 介護保険法改正、障害者自立支援法制定、そして医療制度改革と、新たな設計図に基づ
いて次々に制度が見直されていきますが、その結果公の利益、社会的な利益が損なわれた
り、エンドユーザーがどうなっても良いということになってはいけません。2つの報道が
重なって見えるのが気になります。





2005.10.20.

時速30kmの福祉(第34回)

 今月8日、旧八尾町で開催された呆け老人をかかえる家族の会富山県支部の集いに参加
させていただきました。

 今回の集いでは、地域でおはなしの会の活動にとり組んでいる方から、おはなし2題の
ご披露がありました。子ども向けのものがたりの中にも、いのちの尊さや生きることの意
味を問いかける内容が含まれていて、その語り口の柔らかさとともに、耳の奥深くに刻ま
れました。

 認知症の人へのケアに関する研究と実践は日々進化しており、今日ではご本人から直接
お話をうかがうケア、ご本人の生きている「ものがたり」を理解し、その中でともに生き
るケアが大切であるとされています。

 認知症の人に限らず、ひとはすべて自分の生きてきた体験をものがたりとして記憶し、
理解している。もしそうであるならば、自分自身のものがたりがどのようなものなのか、
折に触れて振り返ってみるのも良いかもしれないなぁと感じました。

 次回の集いは、11月6日(日)の午後2時から、旧大沢野町の大久保ふれあいセンタ
ーで開催されます。介護家族の「ものがたり」でもある介護体験のご発表と、渡辺代表世
話人のご講話、参加者同士の交流、語り合いなどが予定されています。





2005.08.28.

時速30kmの福祉(第33回)

 さる8月26日、富山市高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画の策定に関する懇談会
が開かれ、参加いたしました。そして、せっかくの機会なので、いくつか質問してみまし
た。

 ひとつは、この「時速30kmの福祉」の第27回目(2004年10月)で言及した
「ケアマネジャーの持っている情報を災害救援に役立てる」というアイディアについてで
す。実は、内閣府がこの問題について同時期の10月より月1〜2回のペースで検討会を
重ね、本年3月にガイドラインを取りまとめています。

集中豪雨時等における情報伝達及び高齢者等の避難支援に関する検討会
http://www.bousai.go.jp/gouu_kentou/

 そして、その具体化のための作業が、本年8月より始まっています。
http://www.bousai.go.jp/oshirase/h17/050802kisya.pdf

 内容の詳細は直接お調べいただければと思いますが、ケアマネジャーの試験問題に災害
時の配慮に関するものを追加すべきとする議論なども行われている事が分かります。

 これまでは、高齢者保健福祉計画と地域防災計画は行政内部の全く別々の部署で討議さ
れ、必ずしも整合性がとれていませんでした。しかし、近時の広域災害復興支援の教訓か
ら、両者を有機的に連携させていく作業が必要なのはもはや明らかです。そこで、新しい
計画の策定にあたり、地域防災計画の担当部署と連携をとっているかどうかが気になり、
質問した次第です。

 この点につき、富山市の回答は期待を裏切るものでした。はっきりとは言われませんで
したが、部署間の連携は全くとれておらず、その必要性の認識もないように見受けられま
した。

 ところで、今般見直しの対象となっている現行の高齢者保健福祉計画の中には、既に
「防災安全対策の推進」が謳われています。今のままではそれが名目だけ新計画に引き継
がれる結果に終わってしまいそうです。国レベルの新しい政策動向を踏まえ、新計画が実
質を備えたものとなるよう部署間の連携強化を望みます。

 次に、これも「時速30kmの福祉」の第6回目(2002年11月)で言及した「イ
ンフルエンザ予防接種と市町村の垣根」の問題についてです。当時も記しましたが、旧大
沢野町では、議会答弁上は「大沢野町外の医療機関でも公費によるインフルエンザ予防接
種を認める」とされながら、実際にはほとんど認められない運用が継続されてきました。
そこで、新富山市となって後も旧町村の垣根を残すのか、それとも垣根を越えてどの医療
機関でも可とするのかを質問してみました。

 この点については、新市となった以上、旧町村の垣根はなくすと市の担当者の方が明言
されました。もっとも、これまで議会の答弁と実際が違っていたぐらいですので、本当に
運用上も垣根がなくなるかどうかは、今年のインフルエンザ予防接種の時期になって慎重
に検証しなければならないだろうと思います。





2005.07.18.

時速30kmの福祉(第32回)

 先日介護保険法が国会で可決され、この10月から順次施行される事となりました。ま
た、若い方のための障害者自立支援法も衆議院本会議で可決され参議院に送られました。

 このような制度の変わり目で、医療や介護サービスを利用しているご本人や介護してい
るご家族にどのような変化が起きようとしているのか、またご本人やご家族が何に困り、
何を望んでおられるのか、ケアマネジャーとしてきちんと学ぶための会を企画いたしまし
た。主催団体はケアマネジャーの団体ですが、どなたでも自由に参加できます。サービス
を利用するご本人とご家族が中心となったしくみづくりを目指している全国各地のケアマ
ネジャーが富山に集まってきますので、この機会にぜひお立ち寄りいただき、皆様の声を
聞かせていただけましたら幸いです。

 また、当日ご参加いただけない場合でも、こんな事で困っている、こんな事を心配して
いる、あるいは逆に、制度が変わることによってこんな事が良くなるというご意見などを、
当方までお寄せいただけないでしょうか。

 いただいた情報は、誰からの情報かは分からないように統計処理し、9月11日に予定
されている公開会議の資料に掲載させていただきます。また、後日発行される公開会議の
報告書にも掲載させていただきます。

 催しの詳細につきましては、以下のホームページで公開しています。ご不明のことがあ
りましたら、以下の連絡先までお尋ねくださいませ。

開催日時 2005年9月11日(日)
     午前の部 午前10時〜12時
     午後の部 午後1時〜4時30分

場所   富山県総合福祉会館(サンシップとやま)

主催   独立・中立型介護支援専門員全国協議会

ホームページ
http://www2.nsknet.or.jp/~mcbr/ifncm-toyama-2005.html

連絡・お問い合せ先

    富山総合福祉研究所(担当:塚本)
    電   話:076(468)9123
    ファックス:076(468)9124
    電子メール:mcbr@po2.nsknet.or.jp





2005.06.20.

時速30kmの福祉(第31回)

 6月16日、17日と2日間の日程で開催された日本ケアマネジメント学会に参加しま
した。その際に、イギリスのある自治体でケアマネジャーの教育や指導に携わっておられ
る方からお話を伺う機会を得ましたので、通訳の方を介して日ごろ疑問に思っていたこと
を尋ねてみました。

(塚本)「イギリスでは、ケアマネジャーが月1回利用者宅を訪問する事が義務づけられ
    たり、訪問しなかったらケアマネジャーにペナルティを課せられるという仕組み
    がありますか?」
(ゲスト)「利用者中心のケアマネジメントは、当然のことながら個々の利用者ごと個別
    に異なる。利用者宅への訪問の頻度は、単純なケースと複雑なケースでは異なる
    し、不安定なケースと安定したケースでも異なる。一人の同じ人に対しても、ケ
    アマネジメント過程の各段階で訪問頻度は異なる。従って、月1回画一的に訪問
    するという事はあり得ません」
(塚本)「日本では、国の制度として、すべての利用者宅に月1回訪問しなければケアマ
    ネジャーの報酬が減額されます。個人的な意見としては、このような制度はケア
    マネジメント理論の観点から間違っているので改正すべきだと思っています。」
(ゲスト)「その意見に全面的に賛成します。安定したケースの場合、そもそもケアマネ
    ジメント過程から抜け、6ヶ月に1回程度の訪問で十分であるし、無駄な訪問を
    するくらいならば、その費用と時間をより集中的に対応する必要があるケースに
    投入すべきです。」

 この対話で、現場のケアマネジャーが素朴に感じた疑問、そして必要がなくても訪問し
てくるケアマネジャーを月1回引き受けなければならない利用者御本人・御家族が素朴に
感じた疑問は、ケアマネジメント理論の観点から「まとも」であった事を確信しました。

 それにしても、この学会には大勢のケアマネジメント理論の研究者や行政関係者の方々
が参加しておられ、イギリスからのお客さんのお話にも大いにうなずいておられたのです
が、その同じ人たちが、いざそれぞれの大学や自治体に戻ったら、とたんに「月1回訪問
するのが良いケアマネジャー」「月1回訪問しないのは間違い」と平気で指導してしまう
のは何故なのか。理論的に見て政策が誤っているのであれば、理論に合わせて政策を変え
るべきであるのに、なぜ声をあげないのか。これらの見識ある方々が自らの道義的責任を
果たすだけでも、介護保険制度は今より随分良くなるのではないかと思います。





2005.02.23.

時速30kmの福祉(第30回)

 2月21日から4日間、第三者評価調査者の研修が開催され、参加しました。第三者評
価というのは、福祉サービスなどの事業者から依頼を受けて、その事業者とは利害関係を
持たない第三者機関で富山県が認証した評価機関から調査員を派遣、事業内容やケアの質
などについて定められた項目ごとに公正で客観的な調査と評価を行うというものです。

 評価結果は調査を受けた事業者に伝えられ、事業内容の改善やケアの質の向上に役立てら
れます。また、内容の一部はインターネットなどで公開され、サービス利用者の方々も活
用できるようになる予定です。

 第三者評価のしくみには、(1)調査者のレベルの違いによって評価にばらつきが出る
のではないか、(2)たかだか数日の通り過ぎるような調査期間で正しく事業内容やケア
の質を評価できるのか、(3)調査項目や判断基準となるマニュアル自体が本当に適切か、
などなどいろいろな課題が残っています。

 とは言うものの、福祉サービスなどを利用する人の権利を守ったり、地域全体のケアの
質を高めるために有効なしくみの一つとして大きな期待が寄せられているのもたしかです。

 第三者評価が実際に始まるのは次の年度からとなりますが、評価調査を行う立場から残
された諸課題の解決・改善や地域ケア水準の底上げに資する評価・調査に努めていきたい
と思います。





2004.12.17.

時速30kmの福祉(第29回)

 12月15日午後7時30分に、NHK総合テレビの「クローズアップ現代」という番
組で、「問われる介護の質〜介護保険5年目の課題〜」が放送されました。番組の中で、
介護の質を高めるためには、ケアマネジメントサービスをダイレクトケアサービスから切
り離す事、いわゆる「ケアマネジメントの独立」が必要であり、独立を促す環境づくりを
厚生労働省として考えているという説明が流れました。

 2003年の1月、独立したケアマネジャーの全国組織の設立に発起人として関わりま
したが、この時点では、ケアマネジャーの独立開業は「あり得ない」事とされていました。
旧厚生省自身、介護保険法を施行するにあたり、ケアマネジャーが独立開業する事態を全
く想定していなかったと当時の政策担当の方から伺いました。

 それが、今日では、公正中立のためには「独立」が不可欠であるとされ、厚生労働省も
この事を認めるに至りました。介護保険法改正も、独立しやすい環境づくりに配慮された
ものとなるでしょう。

 当研究所は、独立開業としては富山県で初めての例でしたが、今では富山県内の独立ケ
アマネジャーがネットワークを形成し、月1回の勉強会を開くまでになっています。今後
ますます独立の動きが拡がり、利用者中心のケアマネジメントが浸透していく事を期待し
ます。





2004.11.26.

時速30kmの福祉(第28回)

 NHK教育テレビの「福祉ネットワーク」という番組で、「国際アルツハイマー病協会
・京都会議から」をテーマとして3回連続の特集が組まれています。

 第1回目は、「ぼけても心は生きている」と題して京都会議での痴呆症状のある人本人
の発表の様子や、そこに至るまでの家族の会の歴史、家族の意識の変化などについて、家
族の会の高見代表理事へのインタビューを中心にした構成でまとめられていました。

 高見代表理事は、「ぼけても心は生きている」「ぼけの人はふつうの人」というシンプ
ルで力のあるキーワードを用いて、これからの痴呆ケアは御本人に聞く事、同じ人間とし
ての共感的理解を基礎としなければならない事を説かれました。家族の会の歩みを小括す
るにふさわしいお話でした。

 第2回目は、「私が私であるために」と題して、京都会議でもご発言がありましたクリ
スティーン・ブライデンさんのオーストラリアでの活動などの取材を中心に構成されてい
ました。

 1995年の春に初回の診断で「ひどくなるまでにあと5年ぐらい」と宣告されてから
今日まで約10年、本人として語る活動や本人の会を定期的に開催して懇談する活動など、
地道で力強く、しかもユーモアと笑いに彩られた歩みが見事に表現されていました。痴呆
の人本人がいかに共感と理解を切望しているか、またそれが得られたとき痴呆のあるなし
にかかわらず人はいかに幸せに生きることができるかを証明する内容でした。

 第2回目は、11月30日の午後1時30分からNHK教育テレビで再放送されます。
第3回目は、「地域でささえる痴呆性高齢者」と題して、同じ11月30日の午後8時か
ら本放送されます。再放送は12月7日の午後1時30分に予定されています。既に再放
送も終了した第1回目は、NHK富山放送局でアーカイブとして見せてもらうことができ
ますので、見逃された方は是非ご覧いただければと思います。





2004.10.25.

時速30kmの福祉(第27回)

 熊騒動から始まり、台風被害、地震被害と自然災害が相次いでおります。罹災された方々
に謹んでお見舞い申しあげます。

 大規模な災害が発生すると、当方のような福祉の相談員は、障害を持っている方々、病
気で治療を要する方々そして抵抗力の弱い子どもたちが無事でいるかどうかとても気にな
ります。

 折しも、先日富山市内で、新潟県三条市の災害救援活動の報告会があり、当方も参加さ
せていただきました。そこでも問題になっていたのですが、上に述べたいわゆる「災害弱
者」の方々が、地域のどこに居てどんなサポートを求めているのか、そういった情報がな
いので必要なサポートを迅速に行う事ができないのだそうです。

 市町村には住民情報をみだりに漏らしてはならない守秘義務がありますので、災害救援
のボランティア団体に対して個人情報を公開するという事はまずありません。そこで、プ
ライバシーの権利を守るあまり、より重大な生命や身体、財産といった法的権利・利益が
損なわれるという逆転が生じてしまうのです。

 このような問題を解決する方法として、ケアマネジャーの持っている情報を災害救援活
動に役立てる仕組みを創るべきではないかと思います。具体的には、ケアマネジャーと障
害を持っている人や御家族が契約を結ぶ際に、万一に備えて災害による被害の程度に応じ
てプライバシー情報を必要な範囲だけ救援活動団体に伝える事に同意いただき、いざとい
うときに居場所情報や必要なサポートの情報がすぐに救援に役立つようにするというもの
です。

 日々の報道で被災地の惨状を見るにつけ、こういった仕組みづくりを急がなければと思
います。





2004.09.25.

時速30kmの福祉(第26回)

 ひとり暮らしの方から教わった「よく生きる秘訣」です。

目で美しいものを見て

鼻でほのかな香を楽しみ

耳ですばらしい調べを聴き

口でおいしいものを食べ

身体でここちよいことを行い

心でこのしあわせをありがたく思う

そして、お金はなるべく持たない

 ちょっと注釈をつけますと、まず「おいしいもの」というのは、豪華なものということ
ではなく、身体に無理のない種類と量でという意味だそうです。小学生が糖尿病や肥満に
なる暮らしを見直せという事ですね。

 「身体でここちよいこと」の一つが朝風呂なのだそうです。ひとり暮らしならではの時
間かまわずの贅沢。

 あと、最後の1行は、身に余るお金は判断を誤らせ、人を不幸にするという意味だそう
です。

 これを、「長生きする秘訣」ではなく、「よく生きる秘訣」と言われた事に感銘を受け
ました。日々慌ただしくしている姿を見て、自分を見失うなと諭されたのかもしれないと、
これを書いていて思い当たりました。





2004.08.25.

時速30kmの福祉(第25回)

 公開2日目の夕方、話題の映画「華氏911」を観ました。ブッシュ政権の成り立ちや
権力の背景について、またイラク攻撃の根拠について、厳しい批判を含む内容でした。

 ブッシュ氏個人への人格非難のような表現や、きついブラックジョークがふんだんに出
てくるので、反発したくなるような嫌みを感じるはずなのですが、映画を観て残った感情
はそれとは違うものでした。それはおそらく、ふざけ気味の演出とは裏腹に客観的な事実
のみを根拠として構成されている事の重みに圧倒されるからだと思います。それに加えて、
訴えている事が人間の真実に根差しており、制作者であるマイケル・ムーアさんが本当に
怒っている事が強烈に伝わってくるからなのだと思います。

 映画の中で、地方都市の貧困と教育・福祉政策の不備がイラク攻撃と無関係ではない事、
むしろ政策によって貧困が生み出され、またそれが利用されているという仕組みの一環な
のだと訴えられています。

 アメリカの福祉は、保守的な政策の流れの中で後退を続けており、いまその同じ道を日
本が少し遅れて歩んでいる事を考えると、自分自身の仕事とのつながりに思い至りました。

 ところで、華氏911のタイトルは、レイ・ブラッドベリ著「華氏451」(宇野利泰
訳・早川書房)にちなんで名付けられたそうです。451の方は、出版物に火をつけて燃
え上がる温度を意味し、言論統制を象徴します。主人公は、上から命じられるまま本を焼
き続けますが、やがて疑問を感じ、本を守る側の立場に転じていくというストーリーなの
だそうです。

 911のラストには、これから何かをなさなければならないと思う人のためにという事
で、ホームページアドレスが記されてありました。観て終わるのではなく、そこから始ま
る映画でもありました。

(参考情報)
マイケル・ムーア日本版公式ウェブサイト
http://www.michaelmoorejapan.com/





2004.07.25.

時速30kmの福祉(第24回)

 介護保険法の見直しについて、今月16日に厚生労働省案が示されました。その内容は、

(1)新しい介護予防給付を作り、要支援、要介護1の認定を受けた人などのうち市町村
   (保険者)が必要と判断した人を対象に実施する。
(2)「地域包括支援センター(仮称)」を新設し、総合的な介護予防のマネジメントを
   行う。

 といったものです。うち(1)については、要支援、要介護1の認定を受けた人は、従
来の介護サービスを利用できるのかできないのか、できるとして介護予防給付との併用が
認められるのかが問題となります。また、仮に併用できる場合は、そのケアマネジメント
は誰がやるのか、予防給付と従前の給付を一人のケアマネジャーで管理するのか、それと
も縦割りの制度ごとにケアマネジメントも分けるのかが問題となります。

 (2)については、仮にそのような支援センターを新設するとして、既存の在宅介護支
援センターや居宅介護支援事業所などとどのような関係になるのか、制度体系の整合性が
問題となります。

 こういったいくつかの問題について、いまのところ厚生労働省は明確な回答を示してい
ません。今月30日の社会保障審議会介護保険部会で明確な回答が出される事を期待した
いと思います。

 福祉相談員の立場から今回の厚生労働省の介護保険見直し案を見て思う事は、またして
も現実の社会で生きている人々の生活や文化的な価値が置き去りにされたという事です。
「介護を受けない人づくり」ではなく、「障害のあるなしを問わず安心して暮らしていけ
る地域づくり」を目指すべきでしょう。

 ひとは、工業製品ではありません。子どもの品質、歳をとってからの品質を一定に管理
する事が教育、福祉ではない。ひとは、政策がこうあれと望む以前の存在であるのに、そ
の事が忘れ去られようとしている。そんな危険を感じます。





2004.06.24.

時速30kmの福祉(第23回)

 「小規模・多機能型」や「地域密着型」という言葉が、介護保険法の改正論議の中で注
目を集めています。大規模な施設ではなく、民家などを改装した小規模な施設を地域のあ
ちこちに作って、そこでヘルパーさんなどの訪問サービスはもちろん、通いのサービスも
泊まりのサービスも、必要な介護サービスは全部そこに行けばこと足りる、希望する人に
は終末の看取りまで対応するという仕組みです。

 サービスの利用者にとっては、良いことづくめのように見える仕組みなのですが、いく
つか気にかかることもあります。

 まず、このような小規模・多機能型が一つの介護保険サービスの提供形態となった場合、
お金をたくさん持っている法人や大規模施設を既に持っている法人が、たくさんの小規模
・多機能型事業所を作っていわゆる「囲い込み」の道具にしてしまう恐れがあります。小
規模・多機能型の生成には、大規模施設が陥りがちな画一的処遇への批判精神や、草の根
からの地域づくりの精神が深く関わってきた歴史がありますが、介護保険法改正を機に批
判の対象であったはずの大規模施設のノウハウで小規模多機能型が乱立する事になれば、
ハコは増えても魂は滅ぶという事態になりかねません。

 また、これはあくまで予想し得る最悪のパターンとしての仮定ですが、小規模・多機能
型が特定の地域で独占的にワンストップサービスを提供する仕組みという形で導入される
方向になった場合、介護保険の原理の一つである市場競争原理との矛盾や、サービス利用
者の選択権保障との矛盾は避けられません。そして、小規模・多機能型以外の従前のサー
ビスとの関係も、うまく説明できなくなります。

 まだまだ水面下の論議であり、最終的にどのような政策が打ち出されるかはなんとも言
えません。しかし、一人のケアマネジャーの立場で言わせていただければ、小規模・多機
能型サービスの利用者に対して、ケアマネジャーの選択権は保障してほしいと思います。

 現行介護保険法下では、グループホームに入居した人は、グループホーム職員の立てる
ケアプランに基づいてサービスの提供を受ける事はできますが、グループホームに入る前
に担当していたケアマネジャーにケアマネジメントを依頼するという選択肢が認められて
いません。小規模・多能型をこれと同様の仕組みにしてしまったら、ケアマネジメントも
含めて一つの法人にケアの一切、生殺与奪の権を握られるほか利用者には選択の余地がな
くなります。具体的なケアサービスが一極集中するシステムであればあるほど、利用者と
サービス提供者との力のバランスを修正するためにも、ケアマネジメントは第三者機関に
委ねる事を原則とするシステムが求められると考えます。





2004.05.25.

時速30kmの福祉(第22回)

 先日、パワーリハビリテーション指導者研修という催しに参加しました。

 パワーリハビリテーションというのは、普段使っていない筋肉を科学的な計算に基づい
て3ヶ月ほどかけて計画的に動かす運動の事です。名前のイメージからは、たくましい身
体を作る過酷な運動のように思われがちですが、実際には拍子抜けするほどの軽運動です。

 このパワーリハビリテーションが、痴呆症状の改善に効果ありとして、注目されはじめ
ています。なぜ効果があるのかは今のところはっきりしていませんが、おそらく使ってい
ない筋肉を使う事によって、痴呆症状改善に役立つ体内物質の分泌が促進されるのではな
いか、あるいは身体を健康にしようという前向きな気持ちが芽生えてくるからではないか
などと推測されています。

 他方で、リハビリテーションの専門家の間でも、身体運動が本当に痴呆症状の改善につ
ながるのか疑問の声もあります。まだまだ新しい取り組みですので、実際にどの程度効果
があるかは、今後証明されていくのだろうと思います。

 痴呆症状の改善にパワーリハビリテーションを積極的に採り入れているところとして、
広島県の愛生苑という老人保健施設が全国的に有名です。今年の10月9日・10日と、
広島県庄原市で、具体的な方法などについての研究発表会があります。関心のある方は、
以下の連絡先までお尋ね下さい。

連絡先

 痴呆のケアinしょうばら
 実行委員会事務局

 電 話 0824−72−8711
 FAX 0824−72−8685





2004.04.25.

時速30kmの福祉(第21回)

 前回のお話の中に出てきた路上生活をしている人の事について、多くの方からお問い合
せをいただきました。読者の方々にはご心配をおかけしましたが、今は食べるものにも、
着るものにも、寝泊まりするところにも心配のない環境を確保する事ができましたのでご
報告申し上げます。

 生活保護法は、路上生活をしている人にも健康で文化的な最低限度の生活を保障します。
福祉事務所や市町村の福祉の窓口では、住所が定まっていなければ生活保護を受ける事が
できないという説明を行っている例がありますが、これは正しくありません。

 また、生活保護法の運用は、ご高齢で働けないか、若くても重い障害を持っていて働け
ない人以外の人を排除するような傾向がありますが、これも路上生活をしている人にとっ
て不利な条件です。路上生活をしている人は、仕事をする能力があっても、住所がないばか
りに連絡先をハローワークに登録できず、職業紹介を受けられない事がままあります。仕
事をする能力があるのに仕事をしていないという理由で生活保護を受けられないという事
では、ますます悪循環に陥ってしまいます。

 そもそも、生活保護は、仕事をする能力があるかどうかではなく、生活に困窮している
かどうかで要否を判断しなければならない事とされています。

 まず、生活保護を受けて生活を立て直し、住所などの連絡先を手に入れてから職業紹介
を受ける。就労が軌道にのり、安定した収入が得られるようになれば生活保護から離脱し
て自立していく。そういった手順で路上生活をしている人のサポート体制を確立する必要
があると考えます。





2004.03.25.

時速30kmの福祉(第20回)

「生活保護という制度はご存知ですか?」
「はい、憲法で保障された最低生活をする権利だと思います」
「いままで生活保護を受けられた事はありますか?」
「いえ、役場の窓口まで相談に行った事は何度かありますが、受けた事はありませ
 ん」
「なぜ受けられなかったのですか?」
「住所のない者は受けられないと言われました」

 いっしょに窓口へ行く。当日付で申請書を作成し、受理される。

 さしあたり、今日どこで寝るのか・・・。
保護決定までには時間がかかる。救護施設入所は? 行路病人法は? 職権保護は? い
ろいろ可能性を探る。しかし、答えは見つからない。

「一旦お帰りいただいて、後日また来てもらう事になります」
「帰るところはありません。明らかに保護要件を満たしている方です。なんとかなりま
 せんか」
「なんとかと言われても、いたしかたありません」
「この庁舎内で雨露をしのぐという事はお認めいただけないでしょうか」

 ひと呼吸おいて、毅然とした態度で答えが返ってきた。

「できるわけないでしょう。常識で考えてください。」

 常識で考える、常識で考える。
 言葉がいつまでも去来した。





2004.02.25.

時速30kmの福祉(第19回)

 「わしらが子どもの頃は、針にエサの魚をつけて獲ったもんだ」

川面に反射する日差しに紛れて、鴨の群れが外来待合室の窓越しに小さく見える。

「あれらも、病原菌を運んでくるがかのう」

このところ話題になっている鳥インフルエンザのことだろう。

 子どもの頃のこと、若い頃に体験した語り尽くせぬつらいこと、いまの家に移ってから
のこと、ひとつひとつたどるように語る。

 「ここの医者は長続きしない。外来患者が多くてさばききれん。体力が続かんようにな
ったら、2、3年で変わっていく」

 絶望的な言葉を精神科医から聞いた直後とは思えないおだやかな口調で続ける。

 「いやぁ、強かったのう。ああでなくちゃ、この病院では務まらんちゃ」と医師をねぎら
う。

 妄想と混乱と不安。いま隣に座っている人間との対話は、かろうじて残された自分自身
を確認する手立てなのだろう。

 そのいのちが終わるときまで、繰り返し会いに行くことになるだろうと横顔を見ながら
思った。





2004.01.25.

時速30kmの福祉(第18回)

 「スタンプラリー型ケアマネジャー」、「佐川急便型ケアマネジャー」という言葉があ
 ります。今年の4月から、介護保険法の運用が変わり、月1回以上サービス利用者のお
 宅に訪問し、サービス利用票という紙2枚にハンコを押してもらい、うち1枚をサービ
 ス利用者に交付するという作業をしなければ、ケアマネジャーに対する介護保険法から
 の報酬が3割減額される事になったため、減額されないように、毎月1回ハンコをもら
 いに家々をかけ回る姿を、皮肉を込めてそう呼ぶようになったものです。

 このような、月1回の訪問とサービス利用票の交付という作業は、実は介護保険法が始
 まった2000年4月から、ケアマネジャーには義務づけられていました。しかし、サ
 ービス利用者へのアンケート調査などから、サービス利用者のお宅に全く訪問しない、
 顔を見せたこともないというケアマネジャーの存在が明らかとなりました。そこで、こ
 れを正すために報酬減額、悪質な場合は事業者としての指定取消という「罰」を与える
 事になったわけです。

 ケアマネジャーの仕事は、その人がどのような生活環境の中で暮らしているかを知らな
 ければ、そこから先のケアプランを作るという作業を行う事ができません。サービス利
 用者のお宅に全く訪問しないケアマネジャーというのは、仕事をしていないのと同じ事
 ですので、それを正そうとするのはもっともな話です。

 しかし、この報酬減算の取り扱いで、これまで真面目に仕事をしてきたケアマネジャー
 の方が、逆に不利益を被るという事態も起きています。ケアマネジャーがサービス利用
 者宅に訪問する頻度は、本来それぞれのサービス利用者の方のお身体の状態やサービス
 の利用状況に合わせて、必要な回数行わなければならないものです。それぞれの状況に
 よっては、月1回の訪問では足らず、頻繁に足を運ぶ必要がありますし、お身体の状態
 が安定し、サービス利用のパターンも安定した人であれば、月1回までの訪問はむしろ
 不要で、3ヶ月から6ヶ月の訪問で十分な場合もあります。これを、どの方に対しても
 一律月1回の訪問をしなければ減算とする事により、月複数回の訪問が必要な方への必
 要回数の訪問を行わず、月1回までの訪問が不要な方への訪問を優先した方が減額され
 ずに済み、逆にケアマネジメントの専門性に照らして、すべての人に必要な回数の訪問
 を確保しようと努力した方が「罰」を受けて減額されてしまうのです。

 ケアマネジャーに対する報酬を考える場合、ケアマネジメントの専門性の観点から、本
 当に必要な仕事、良い仕事をしている事に対してプラスの評価を加えるようにしていか
 なければ、「儲かる事しかしない」というモラルハザードによって、日本のケアマネジ
 メント全体の質の低下をもたらしてしまうと思います。

 今年もあとわずかですが、施設に入所している方や病院に入院している方に面会し、年
 末年始に御自宅に帰れない心の寂しさを癒すという事も、ケアマネジャーとして大事な
 仕事だと思っています。報酬に反映されない事でも必要であれば行うケアマネジャーで
 ありたいと思います。





2003.11.25.

時速30kmの福祉(第17回)

 2005年4月の介護保険法改正に向けて、いろいろな団体が様々な政策提言を発表して
います。それらを読んでいると、介護保険制度には多くの改善すべき問題がある事をあら
ためて感じます。

 最近ケアマネジャーの間で話題になった単位数の繰り越し、前借りの問題もその中の一
つです。介護保険のサービスは、認定結果ごとに決められた枠内、ひと月いくらという枠
内で利用するように定められていますが、生活していく中で、その枠ではサービス量が一
時的に不足するという事があります。

 例えば、介護していた奥さんが入院して数週間不在になるなどの場合、ご本人の要介護
状態に変化はありませんが、奥さんが分担していた介護分を、介護保険の当月の未利用分
の枠で補いきれないという事が起こり得ます。

 このような場合、超過分を全額自己負担で利用するのが介護保険法のルールなのですが、
普段利用できる枠いっぱいまで利用していない人の立場から見ると、毎月使わずに流して
いる分で穴埋めできないのは不合理に感じるというのも心情的に分かります。そこで、ケ
アマネジャーとサービス事業者が、実際にサービスを利用する月の前か後の月に、あたか
もサービスを利用したかのように書面上装い、結果的に毎月使わずに流している枠分の単位
数を繰り越したり前借りしたりしているというのです。

 このような行為は、介護保険法の解釈を逸脱するものであり、違法行為と受け止められ
てもいたしかたないものと思います。しかし、反面、このような行為が見聞されるという事
は、法そのものが現実社会の要請に応えきれていない事の証左であるとも言えるのではな
いでしょうか。

 イギリスでは、ケアマネジャーが必要と判断した場合は、ケアマネジャーの裁量で一時
的に利用枠を拡大できる制度があると聞いた事があります。そもそも利用できる枠の設定
自体の合理性も問われるところですが、せめてイギリスのような、利用する人に合わせた
柔軟な制度に改善できないものか。今は違法行為の疑いのある繰り越しや前借りも、むし
ろ一定の条件を満たした場合には合法とするような取り扱いの変更があってもよいのでは
ないかと考えます。





2003.10.25.

時速30kmの福祉(第16回)

 先般県内のある方より、希望するサービスを利用できなくて困るというご相談を受けま
した。近所に新しい通所施設ができたので、これまで通ってきたところに加え、新しい通
所施設にも通ってみたいと伝えたところ、ケアマネジャーからケアプランの変更を断られ
たとの事です。

 このような、ケアマネジャーが自分の所属する法人以外のサービス、特に内容が競合す
るサービスをケアプランの中に組み込んでくれないのでどうすればよいかというご相談が、
ここ数ヶ月の間に県内のあちこちから寄せられています。通所系のサービスだけではなく、
訪問系のサービスについても同様のご相談があります。そして、苦情の相手先は、株式会社
などの営利法人だけではなく、医療社団法人、社会福祉法人も含まれます。

 介護保険法が施行された2000年4月から、このようなケアマネジャーによる「囲い込
み」が問題になってきましたが、これだけあからさまに、そして広範囲に利用者の権利を侵
害する事態となったのは、本年4月のケアマネジャーの業務見直し以降ではないかと思いま
す。

 月1回の利用者宅訪問や、少なくとも3か月に1回のケアプラン実施状況の確認と記録、
要介護認定期間終了月までのサービス担当機関を集めての会議開催など、ケアマネジャーの
仕事の質を高めるために設けられたハードルが、かえってケアマネジャーの仕事の質を落と
している観があります。

 それらのハードルをクリアしたという証拠書類づくり(アリバイづくり)に時間をとられ
てケアマネジャー本来の仕事ができなくなる。そこで、少しでも時間を節約するため、同じ
サービスならば1つの事業所にまとめたいと思ったり、会議ならばなるべく少ない事業所、
できれば自法人内の人間だけで終わらせたいという誘惑に負けるケアマネジャーも出てくる。
その結果、自法人への囲い込み行為が助長されてしまうという構図です。

 しかも、この事を市町村など公の窓口に相談しても、話を聞くだけで何も解決してくれな
い。ケアマネジャーを変更したいと思っても、どのケアマネジャーもみんなそんな具合なの
で誰にも頼めない。

 そのような八方ふさがりの状態の人から、車で片道2時間以上かかる当研究所まで相談が
来るのです。あなたが引き受けてはくれないか、と頼まれます。しかし、ケアマネジャーは
本来地域事情に詳しい地元の人を選ぶのが望ましいですし、地元のケアマネジャーの方々に
公正な仕事をしていただくのが正道ですので、これまではお断りしてきました。これからは
どうするか・・・。

 今後も同様のご相談が続くようならば、富山県内の方に限って、ケアプランが安定するま
での間だけ一時的にケアマネジャーをお引き受けし、地元行政を巻き込んで地域の意識を変
えるという仕事も必要かなと考えはじめています。





2003.09.06.

時速30kmの福祉(第15回)

 9月に入って富山県の介護保険担当部局より連絡がありました。通院の送り迎えの訪問
介護について、計画の仕方がおかしいというご指摘でした。

 県の担当者の方によれば、通院の送り迎えをして、その後にお風呂の介助をした割には
時間数が少ない、あり得ないとの事でした。また、通院なのに身体介護だけではなく、生
活援助(身体介護よりも低い単価のサービスです)が混ざっている計画は今まで見たこと
がないとの事でした。

 当方からは、距離的に遠い病院への通院であっても車両での移動時間は訪問介護費を算
定できない事、院内付添時間もすべて訪問介護費で算定できるわけではなく、検査時間や
診察時間は病院の直接管理下に入るため、訪問介護費を算定できない事、また、単にいっ
しょにソファーに座っているだけの時間も訪問介護費を算定できない事をご説明し、それ
らを差し引いて計画しているため書類上は時間が短くなって見える事をお伝えいたしました。

 また、生活援助については、たとえば御本人がソファーに座ったままで、訪問介護員
(ヘルパー)が薬を受け取ったり、窓口で代わりに清算する場合は、運営基準上身体介護
では算定できず、買い物代行に準じて生活援助で算定すべきと考える旨お伝えしました。

 その結果、当初の計画通りで良いとの県からの御所見を得たのですが、なんとも腑に落
ちない話しです。もし、本当は介護保険を使えない時間帯まで料金を請求されたり、低い
単価の生活援助で良いのに高い単価の身体介護で請求されたりして御本人・御家族が気づ
かず、監査指導を行う県もそれを見逃しているとしたら問題だと思います。

 通院の際の訪問介護サービスの利用についてはこのコーナーでも度々触れてきました。
4月以降まったく採算の合わない話で、訪問介護の事業者の方々には気の毒なことだとも
思っています。しかし、だからといって制度解釈で許される範囲を超えて不正に介護費を
請求してよいという事にはなりません。この問題は、いろいろな意味で「制度を正す」事
によって解決すべきだと考えます。





2003.08.17.

時速30kmの福祉(第14回)

 8月5日、東京渋谷にある国連のILO駐日事務所に行って来ました。ILOの提唱す
るディーセントワークについて意見交換を行うのが目的です。

 ディーセントワークというのは、平たく言えば「人間らしい労働(環境)」という事で
す。本年4月以降、介護保険制度の一部が変更となり、ケアマネジャーの長時間残業や過
労による故障など、これまで以上に問題が深刻化しています。この問題を解決するために
は、何が必要なのか。

 ILO駐日代表の堀内さんによれば、ディーセントワークと女性の社会的地位には関連
があり、国際的に見ても女性が多く働く領域において、賃金水準をはじめとする労働環境
にしばしば差別があるとの事です。介護労働は、もともと家庭介護の領域でも女性がその
役割を強いられてきたため、二重の意味で差別があるとも言えます。この方面の運動との
協働の必要性を再認識しました。

 ILOでは、介護労働に関して2001年に報告書を出しており、以降も継続調査を行
っていますが、ケアマネジメントの分野は未だ白紙に近い状態です。堀内さんからのご助
言もあり、ILO本部(ジュネーブ)に対し、調査研究の実施を訴えていきたいと思いま
す。





2003.07.06.

時速30kmの福祉(第13回)

 昨年の6月から月1回のペースで書き続け、今年の6月が丁度1周年記念だったのです
が、多忙のため6月中に原稿を仕上げる事が出来ず、とうとう初めて穴を空けてしまいま
した。

 独立開業した昨年4月当初4件だったケアマネジメント担当件数は、本年7月1日時点
で50件、入院中の方や介護保険以外のサービスを利用しておられる方まで含めると80
件にまで増えました。訪問介護など何らかのサービスを持たないで、ケアマネジメントだ
けで事業を興すことは到底不可能と言われていた中で、やり方によっては順調に担当件数
を増やす事ができるという前例を残せた事は幸いでした。

 また、ケアマネジャーは時間もお金もない、全国的な職能団体を自主的に作る能力はな
いと言われていた中で、本年1月、ケアマネジャーの中でも特に「あり得ない」はずのケ
アマネジメント1本の事業所のケアマネジャーの全国組織を盛会のうちに立ち上げ、当方
も副代表として運営に参加させていただく事になりました。ケアマネジャーは自ら専門職
としての地位の向上を勝ちとる能力がある、運動主体になり得るのだという事を内外に示
す事ができたという意味で、これも日本のケアマネジメントの歴史の中で画期となる出来
事だったと思います。

 個別の相談に、そして職能団体の活動に奔走しているうちに、とうとう時速30kmが
止まってしまった。しかし、角度を変えてみると、1周年記念にふさわしい喜ぶべきハブ
ニングであったかもしれません。





2003.05.06.

時速30kmの福祉(第12回)

 3回連続で通院時等の車両への乗降介助の問題についての話題です。

 5月8日付で、この件についてあらためて厚生労働省から各都道府県宛に通知が出され
ました。それによると、

(1)要介護4と5の人は、通院時等の車両への乗降介助は「身体介護」で行う。ただし、
   連続して20分から30分程度以上時間がかかる場合のみ認める。その時間の中に運
   転時間は含まれない。
(2)要介護4と5の人で、時間が(1)の長さに満たない介護を受ける場合は、「通院等
   乗降介助」(100単位)で行う。要介護1から3の人への介助は、一律100単位
   で行う。
(3)ただし、入浴介助や食事介助などの外出に直接関係のない介助が30分から60分程
   度以上乗降介助の前や後につく場合は、(1)(2)に関わらず、「身体介護」で行
   う事ができる。
(4)要支援の人は、公共交通機関等を用いて外出する場合のみ「身体介護」で算定できる。
   公共交通機関等を用いる場合は、要介護度がどうであれ、「身体介護」で算定できる。
(5)院内の移動介助などは医療機関で行う事を原則とするが、それができないなどの事情が
   ある場合は訪問介護員が行ってもよい。

 といった内容です。ちょっと考えただけでも、公共交通機関としてタクシーを利用した
場合、要支援の人も含め要介護度がどうであれ運賃をとって身体介護となるはずなのに、
一方で(2)の基準で通院等乗降介助とするという規定もあり、矛盾が生じます。通院等
乗降介助は運賃を介護保険で補填するタクシー業者を締め出すために設けたという厚生労
働省の説明が色あせて見えます。

 また、障害を持っている方々にとって、入浴した後直ちに通院するのはとても体力を消
耗する行為であり、通常は考えられません。いかにも机上で考えられた基準の観がありま
す。

 社会的な理由で移動の自由が制限された人たちに対して社会がいかにその自由を保障す
るのか、その根本の解決から逃げて表面的なつじつま合わせでごまかす限り、この混乱は
まだまだ続きそうです。





2003.04.06.

時速30kmの福祉(第11回)

 前回お伝えした通院時等の車両への乗降介助の問題について、3月27日に厚生労働省
から発表がありました。4月から通院できなくなるという利用者の不安の声が高まった事
から方針転換となり、これまで通り介護保険を用いて通院して良い事になりました。

 そこまでは良かったのですが、無償移送ボランティアを用いて前後の乗降介助を行う場
合は「公共交通機関等」の利用として身体介護で算定できるとも解釈可能であるため、4
月度以降新設された通院時等の乗降介助100単位(本人利用料片道100円)のサービ
スと身体介護をどう使い分ければよいのか分からないという問題が新たに発生しました。

 また、今回の発表で100単位サービスをタクシー営業許可なしで行ってよいという事
になったのですが、許可なしでは運賃をとれず、事業所として採算が合わない。結果とし
て参入する事業所がなくてサービス量が不足するという問題が依然として残りました。

 もともと100単位の新サービスは、タクシー営業許可を受けた事業所向けに報酬を低
く抑えたサービスだったはずです。タクシー営業許可を受けた事業所が100単位、そう
ではない事業所が身体介護とはっきり分けてしまえば、問題は解決します。

 いつまでも「グレーゾーン」として放置せず、国家として説明責任を果たすべきです。





2003.03.10.→2003.03.12.一部訂正

時速30kmの福祉(第10回)

 4月からの介護保険制度の変更で、通院時等の車両への乗降介助が訪問介護として認め
られるかどうかが大きな問題になっています。

 4月以降は、乗降介助について取り扱いが変わり、事業者がタクシー営業許可を受ける
事や、要介護1から5の人に利用者を限る事などを条件に訪問介護として認められ、これ
までよりも安い片道100円の利用料が設定されました。

 しかし、事業者の側にとっては採算が合わず、しかも営業許可に面倒な手続きが必要な
ため事業参入できない、結果として必要なサービスを引き受ける事業者が不足して利用者
の方々が困るという事態も起きそうです。

 今回の制度変更では、バスなどの公共交通機関等を利用する場合の乗降介助については
これまで通り訪問介護として認められます。そこで、公共交通機関「等」に無償ボランティアの
移送が含まれればサービス不足を回避できるのですが、この点についての法律解釈は未だ
にグレーゾーンのままです。

 社会的な理由で移動の自由が制限され、差別される人がいるならば、社会がその自由を
回復する事に責任を負う、そんな社会にしていきたいものだと思います。





2003.02.17.

時速30kmの福祉(第9回)

 1月下旬に新聞などで介護保険報酬改定案が報じられて以降、4月からの利用者負担に
ついてご相談を受ける事が多くなりました。

 多くの一人暮らしの方が心配される事は、訪問介護、わけても在宅での日常生活維持に
不可欠な家事援助の利用料負担です。改定案によれば、1時間半の訪問を月8回利用して
いる方の場合、1割の利用料で計算すると月1,776円から2,328円で552円の
値上がりになります。

 訪問介護利用料減額となっている方の場合、3月までは月533円、4月から6月までは
699円、7月以降について政策に変更がなければ減額割合が3%から6%に引き下げら
れ、負担は1,397円とほぼ倍増する事となります。

 今回の報酬改定案で「家事援助」とされていたものを「生活援助」とし、訪問介護事業
者への報酬を引き上げた事自体は制度改善の側面があると思います。しかし、それが直ち
に利用者側の負担に跳ね返ってしまうと、必要なケアを受けられない方が出てきます。

 応益負担の徹底は、実際の生活場面で公正を損なう事になります。生活者の視点に立っ
た制度の軌道修正が求められます。





2003.01.05.

時速30kmの福祉(第8回)

 1月12日、13日の2日間、静岡県浜松市で、「独立・中立型介護支援専門員全国会
議」が開催され、当方も参加しました。この会議は、ケアマネジメント一本で独立開業し
たケアマネジャーかそれに準ずる人の集まりです。

 ケアマネジメントは「やればやるほど赤字になる」と言われていますので、普通に考え
れば「あり得ない」人たちですが、それにもかかわらず、全国から20名以上の人たちが
ケアマネジャー当事者として集まり、1日目の総会で常設の全国協議会を設立しました。

 2日目は一般参加自由だったのですが、北は北海道から南は九州まで、ボランティアス
タッフを含め100名ほどの参加があり、盛会でした。

 全国協議会では、ケアマネジャーの労働環境の改善のための研究や政策提言、ケアマネ
ジャー相互の研修、不適切なケアマネジメントに関する苦情相談窓口の設置、第三者機関
主義(ケアマネジャーをケアサービス提供事業者以外の第三者機関から選ぶ事)の普及啓
発などを事業目的に掲げています。

 サービス利用者中心のケアマネジメント実現に向けて、歴史的な一歩を踏み出しました。





2002.12.05.

時速30kmの福祉(第7回)

 今年もあとわずかとなりました。毎年この時期には、病院に入院している患者さんや御
家族への退院の「肩たたき」が始まり、困ったという事でケアマネジャーに相談が入って
きます。

「えっ、こんな状態で退院ですか?」
「はい、このとおり紙に書いてあります」

 紙というのは、入院から退院までの治療手順が書かれたもので、通常この病気の場合は
入院して何日後には何をして、と標準的な治療パターンが記されてあります(クリニカル
パス)。

 紙に書いてある通り指定の日に退院せよと担当の医師から告げられると、機械的に退院
までの手順が進められていきます。病室に出入りする看護スタッフやリハビリスタッフは、
「なんで退院なのかねぇ」などと、患者さんや御家族への配慮からか声をかけていきます。

 人間を見なくても、紙を見れば退院日が分かるという仕組みはどこかが間違っている。
患者サイドも病院の現場サイドもそう思いながら、淡々と退院へ向けて機械じかけのよう
に動いていきます。その姿は、さながら利用者不在の医療制度改革にも似て、その行き先
に冷たい不安を感じさせます。





2002.11.07.

時速30kmの福祉(第6回)

 このところ寒い日が続いています。毎年この時期はインフルエンザの予防接種が話題と
なります。昨年度から予防接種法が改正され、お年寄りの場合費用が一部補助されるように
なりました。しかし、自分の住んでいる市町村以外の医療機関に通院している場合、補助
が出ないので困るという相談が増えています。

 予防接種を受ける側にしてみれば、そもそも予防接種を受けて良い身体状態か確認して
もらったり、接種を受けた後に体調が悪化した場合(いわゆる副反応)には治療してもら
う必要がありますので、かかりつけのお医者さんにお願いしたいと思うのは当然です。受
診先が市町村の内か外かで補助が出たり出なかったりするのは不公平な話です。

 石川県では、「県内に住んでいる人なら誰でも引き受けるよ」と手を挙げてくれたお医
者さんが県に登録され、名簿が各市町村に配られますので、能登半島の先端に住んでいる
人が金沢市内で予防接種を受けても補助が出ます。富山県内でも、富山市は独自に内外の
壁を取り払いました。やればできるんですね。

 健康という最も身近な問題について、各市町村の人権感覚と県のフォロー体制のあり方
が問われています。


(後日談)
 「時速30kmの福祉」でインフルエンザ予防接種の地域割り問題を取り上げましたが、
その後富山県より各市町村の実態調査が予定されました他、大沢野町では町外医療機関に
おける接種にも補助の道が開かれました。あと、北日本新聞10日朝刊でもこの問題が取
り上げられていました。他の市町村でも利用者本位の柔軟な対応が拡がる事を望みます。





2002.10.12.

時速30kmの福祉(第5回)

 10月に入ってから、定期訪問で家々を回らせていただいているうちに、通院するのを
止めたという方が多い事に気づきました。これまでは月1回の定期受診をしておられたの
が、「このところ調子がいいから、年に1回の健康診断だけでやめとくちゃ」と言われる
方や、もともと自分で加減して月2回の受診を月1回にして半分しか薬を飲んでいなかっ
た方も、「もうやめようかと思うて・・・」とおっしゃいます。

 これは、おそらく10月以降制度の改正で、お年寄りの医療費の自己負担が実質的に増
えたためだろうと思います。これまでの定額負担が1割負担になり、診察代は減ったけれ
ども薬代が増えて、差し引き自己負担が増えたという声があちこちから聞こえてきます。

 通院を止めても健康に支障のない方ばかりならよいのですが、かかりつけのお医者さん
に聞いてみると術後の経過を定期的に確認しなければならない方であったりします。そう
ではない方でも、通院が滞って病態が悪化して入院となり、日頃の健康管理に要する費用
以上の出費が結果的に必要となったり、住み慣れた家での生活を断念するなどお金に代え
られない損害を被る事にもなりかねません。それは、ご本人にとっても不幸ですが、節約
するつもりがかえって財政を圧迫するという意味で、政策として見ても不幸な事です。

 生活の実態から出発した、下から根拠を積み上げた医療・福祉政策の実行を望みます。





2002.09.08.

時速30kmの福祉(第4回)

 はやいもので、国際アルツハイマー病協会が9月21日を世界アルツハイマーデーと決
めてからおよそ8年が経過しました。富山県内では、毎年恒例の記念講演会が富山と高岡
で開催されました。今年は、「新しい家族関係とぼけの介護」と題して東海学園大学の奈
倉教授より御講話をいただきました。

 奈倉教授によれば、家族は一つの社会集団であり、その構成員相互の人間関係と作用の
全体(システム)がどうなっているかを調べ、悪循環に陥っているシステムを正常に機能
させる事により、人間関係に根差す痴呆の随伴症状を緩和できる場合があると説かれまし
た。

 痴呆は脳の問題という事で、「治療して治らなければ仕方がない」と考えがちになりま
すが、心理・社会的な面からの改善をシステム理論で試みる事の大切さを知りました。

 また、これは家族だけにあてはまる事ではなく、施設入所中の方と職員との関係も一つ
の「システム」ですし、ご家族といっしょに暮らしている方へのケアマネジャーやホーム
ヘルパーなどからの関わりも、「システム」への関わりとして捉え直すならば、システム
理論を学ぶ事は医療・保健・福祉関係者にとっても意義深いことであると思いました。





2002.08.07.

時速30kmの福祉(第3回)

 8月に入り、富山大空襲の犠牲者を弔う花火大会が開催された夜、私は要介護認定の手
続きのため、あるお年寄りのお宅におじゃましていました。その当時、幸い大沢野町にお
られたため直接の被害には遭われなかったものの、後日富山市街へ向かったところ、人の
身体がちょうどスルメイカのようにこげ縮んで折り重なっているのを目撃されたそうです。

 別のお年寄りからは、戦地で爆撃に遇い、自分の隣にいた人が被弾して一瞬のうちに命
を落としたのに、自分はかすり傷ひとつせず、ほんの数センチの位置の違いで命運が分かれ
た事、残され生かされた事の意味を未だに考え続けているというお話をうかがいました。

 私は、高齢者福祉の世界で十数年生きてきました。その間に、いくらか人の死というも
のを身近に見てきたかも知れません。いのちは運命の前にいつも無力であり、人為の及ば
ぬ力を思い知らされます。それだからこそ、いまここに生かされている自らのいのち、他
者のいのちのかけがえのなさを痛感します。

 戦争の体験を語り継ぐ人がいます。自らの内に封じ込めてきた体験や思いを外に出す事
によって、私的な体験を人類共通の体験に昇華させ、同時に自らの心の癒しとされます。

 私はその語りを聞く度に、体験を内に引き継ぎいまを生きる者としての責任に思いが至
ります。そして、自らが糧とする福祉という仕事を通じてなにをなすべきか、自分はどこ
まで出来ているかを反省させられます。





2002.07.05.

時速30kmの福祉(第2回)

 梅雨に入って、気候がすっかり変わりました。原動機付自転車のエンジン音も、梅雨時
には微妙に濁ります。機械でさえ調子が狂うのですから、ましてや人間をや、です。訪問
する先々で、風邪をひいた、身体の節々が痛くなったなどという声が聞こえてきます。

 一旦しまったコタツを引っ張り出してきたり、上着をいつもより余計に着込んだりして
自衛できた人はいいのですが、拍子の悪い人は入院を余儀なくされる事もあります。

 入院という事で、最近耳にしたお話ですが、入院期間中の一時帰宅時に介護保険の訪問介
護や訪問看護、ベッドなどのレンタルを利用できない事が全国あちこちで問題になってい
るとの事。たとえご自宅にいても医療制度上は入院している事になっているので、介護保
険の「在宅」サービスは利用できないというわけです。ご家庭の事情によっては、在宅サ
ービスを利用しなければ数日だけの在宅生活も難しい場合があります。このような特殊な
場合は、入院期間中でも例外的に介護保険を使えるように制度が変わればいいなぁと思い
ます。また、介護保険制度が今のままでも、入院医療機関の側が一時帰宅ではなく「再入
院を前提とした退院」の扱いにしてくれれば、患者さんとご家族は助かるのですが・・・。

 退院に向けて在宅生活をどう組み立てるかケアマネジャーといっしょに考えていただけ
る医療機関は増えてきましたが、一時帰宅についても同様の連携が進めばと思います。





2002.06.08.

時速30kmの福祉(第1回)

 福祉相談員という立場で独立開業? そんな事できるの? 自分でも答えがわからない
まま、2002年の3月に富山総合福祉研究所という恐ろしい名前の法人を立ち上げてし
まいました。そして、4月1日以降、富山県からの指定を受けて、「やればやるほど赤字
になる」と言われている介護保険法上の居宅介護支援事業(ケアマネジメントなどと言わ
れます)を手がけています。

 なにしろ、「やればやるほど赤字になる」という話しなので、事業継続のためには切り
つめられるところをことごとく切りつめなければいけません。そこで、まず考えたのが交
通費の節約です。10年以上前の原動機付自転車をひっぱり出してきて、移動の際にはな
るべくこれに乗ってガソリン代を浮かせる事にしました。上手に乗れば、ガソリン1リッ
トルで70km走る優れもの、とても重宝しています。

 ところで、原動機付自転車で福祉相談のため地域を回っていると、これまでとは違った
視点で見えてくるものがあるような気がしてきました。そこで、「時速30kmの福祉」
というタイトルで、日頃の活動を通じて感じたことなどを綴ってみようと思います。

 本当に時速30kmで走っているの? という声がきこえてきそうですが、そこは信号
で止まったりしてるので、ならして30kmという事で・・・。 く(^_^;)








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