西部戦線は、常に米国人デザイナーやプレイヤー達を惹きつけている。その理由は、もちろん、彼らの国の軍隊が主役を演じているからだ!
ヨーロッパ戦域への合衆国の介入は、まず空と海で顕著となった。つまり、 1942年のドイツへの戦略爆撃と、大西洋での輸送船団の闘いが開始されてからである。アメリカ合衆国にとっての
“ヨーロッパの解放” とは、まずなによりも 北アフリカ、シシリー、イタリア (アンツィオ上陸作戦の失敗は、GI
達に真の第2戦線開設の心構えをさせた)、その後に フランス上陸へと続く、栄光の 『上陸作戦』 という “顔” をリレーしてゆくことだった。
東部戦線では、4年間に渡る軍事作戦の中に存在する極めて大きな多様性を、戦術 〜 戦略級 の全てのレベルで垣間見ることができる。西部戦線では事情が異なり、簡単にシミュレートできて、尚且つバランスのとれた少数の戦いが提示されている。その中の主要な2つの戦いが、ノルマンディー戦
と アルデンヌの戦い となる。この2つの戦いの場合、それを扱うすべてのシミュレーション・ゲームに難点がある。その難点とは、本当の意味での戦略的勝利を得ることができないドイツ軍が兵站と制空権の面で敵に圧倒されている、という前提条件でゲームがプレイされるということである。そのため、ゲーム・デザイナーは常にこれらの軍事作戦を厳密にコントロールしなければならないし、さらにはドイツ陣営にも穏当な作戦目標を割り当てなければならない。
これら以外の西部戦線での戦いは、ゲーム化に適するものが少ない。 : パリ占領、ブルタニュー半島での競争、包囲網の掃討、アルザス戦、ライン渡河、ドイツ国内での進撃、等々。これらは大隊レベル以上のゲームだと、大して面白くないのである。唯一特殊なケースは
マーケット・ガーデン作戦で、とりわけ、限られた時間と地域の中で重要な戦略目標をめぐって同規模の部隊同士が戦う状況を、我々は目のあたりにするのだ。
我々は厳密な意味での西部戦線について、制限を設けることにした。つまり、全く異なる状況を示す 砂漠戦と、イタリアを含む地中海戦線を排除することにした。
採点方法
: ( a / b / c )
a : ゲームの難易度 を
1(易しい)〜 5(難しい)で採点し、システムの難しさとゲーム・サイズを同時に考慮している。(簡単なモンスター・ゲームとは、単に巨大でプレイ時間を多く必要とするゲームのことである。)
b : ソロプレイの しやすさ
を 1(適さない) 〜 5(適する) で採点している。ただし、実際には どのゲームもソロプレイ用には作られていない。しかし、いくつかのゲームは練習プレイを容易に行えるメカニズムとなっている。
“3点” というのは、プレイヤーに重度の精神分裂症状を要求する平均的なゲームであることを示す。(
訳註 : この表現をまだ使い続けるとは … )
c : 心証点。 1
は「嫌い」で、5 は「大好き」。この点数は まったく主観的なものであり、そのゲームの難易度は考慮に入れていない。どちらかというと
“面白味” 、次に “歴史性” を斟酌している。(例えば、Ambush
! は偉大なシミュレーションではないが、優れたゲームである。逆に
Hell's Highway
は、その2つを兼ね備えている。)
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世界大戦を扱うゲームでは、3つの戦線
(東部・西部・地中海) から成るヨーロッパ地域の西部戦線は面積が狭くなってしまう。その代わり、経済 ・ 兵站面での合衆国の重要性をつぶさに見せてくれる。
Australian Design Group
の World
in Flames (5/2/5) は、ヨーロッパ解放の決定因であるアメリカ合衆国の目覚ましい台頭を上手く演出している。もし西部戦線だけプレイ可能なら、簡略化された上陸戦の再現と、
たった数ヘクスの広さの戦線だけが、僅かに興味の対象として残る。しかし、World
in Flames は このスケールで最も優れたゲームの地位に留まっている。特に新版からは、内容物や外観が とても豪華になっている。
このモンスターの対抗馬となる唯一のゲームは、Decision
Games の Totaler
Krieg (3/1/4)
で、遥かに手頃だ。この最新タイトルは新版として再販されたばかりであり
(VV20号参照)、重要な戦略的決断と同盟行為のすべてを、興味深いカード・システムで管理しているのが特色だ (我々の興味対象である西部戦域向けには、
"Festung Europa [ヨーロッパ要塞] " カードのように、枢軸軍に海岸を要塞化させるという、戦略的主導権をある程度左右するようなカードも含まれる)
。
ヨーロッパ規模のゲームでは、Avalanche
Press から まもなく発売される新版 ・ Advanced
Third Reich (3/3/4) (訳註:
John
Prados' Third Reich と 改題して発売された)
が極めてシンプルなシステムと相まって取っつきやすい。
さらにスケールを狭めると、Columbia
Games の
West
Front (2/1/2) がある。結局のところ、これと対をなす同社の積み木システムを使用する名作
・ East
Front ほど面白くはないのだが、初心者を引き込むことができるし、ある程度の戦略的不確実性を示してはいる
(そして何よりも、超オーソドックスなメカニズムを有する極めてシンプルなシステムだ)。
最後に、Decision Games
から再販された SPI の古典的名作 ・ Battle
for Germany (2/2/3) は、遙かにユニークなゲームだ。連合軍とソ連軍の両プレイヤーが、それぞれ相手と対峙する戦線のドイツ軍部隊も動かして対決する、という斬新なシステムを備えている。これは連合軍の進撃から終戦までのすべてをカバーする、非常に数少ないシミュレーション・ゲームの一つである。
戦役全体をカバーする作戦級ゲームの多くは、展開が予測できてしまうのが苦しいところだ。
ゲームは連合軍の上陸とともに始まる。ドイツ軍は、どのタイミングで連合軍の橋頭堡を押し止めることを諦めてドイツ国内へ後退するのか、を見定めなければならない。連合軍は敵に勝る機動力と航空優勢を活用し、兵站システムの息切れを考慮に入れて、可能な限り素早くアントワープの主要港を奪取しなければならない。連合軍側に1
・ 2回は実施の可能性がある空挺作戦や、西部戦線におけるドイツ軍最後の大攻勢の準備といった要素は、ちょっぴりゲームを盛り上げてくれる。
GRD
の Second
Front (4/3/4) は、伝説の エウロパ・シリーズ (Europa
Series) を構成する一作。いまだ魅力を失っていない古典主義的な古いゲーム・システムと、他のゲームよりも詳細な戦闘序列とを、この作戦級規模の戦略級ゲームは備えている。
だが、時として 目もくらむほどの高さになるスタックを前にして、やる気が失せてしまわないように気をつけないといけない!
3W の 1944
Second Front (2/2/2) には、フランス全土を作戦地域にするという独創性がある。故に、プロヴァンス
(訳注 : フランス南東の地中海沿岸地域) 上陸戦が実行可能で、そうなるとドイツ軍プレイヤーは、堅牢な戦線を築き直すため大西洋と地中海の主要港に守備隊を残しつつ、できるだけ早く自軍ユニットをドイツ国内へ引き揚げようとする。しかし、ゲーム・システムに不味い部分がいくつかあるので、プレイをし易くするには改訂が必要だ。
これよりも有名な
Rhino Games の
Decision
in France (4/2/3) は 1944年6月25日から開始するゲームであり、補給ポイント、戦闘方法、戦略予備
等々の革新的な要素を持つ しっかりとしたシステムを提示している。デザイナーは、マーク・シモニッチ。
このスケールで最優秀なゲームといえば、古臭いグラフィックが難だが、Victory
Games の France
1944 (2/3/4) が思い浮かぶ。このゲームは駒 (歩兵は軍団、戦車は師団規模) が少ない。しかしルールは最高に面白い。両プレイヤーは補給ポイントを使って活性化チットを購入する。次に、それらのチットを容器に入れて無作為抽出し、どちらの側がプレイできるのかを決める。…
もちろん、連合軍にはアドバンテージが与えられている … 1944年12月は例外だけどね!
特定の戦闘、または戦役だけを扱う作戦級ゲームは、(上述のゲーム群よりも)遥かに面白い。なぜなら、ドイツ軍はゲームの戦闘期間の大半において、時として
連合軍の数的優勢を埋め合わせてしまう能力を持つ優秀な装甲部隊ユニットを保有しているからである。
“モンスター・ゲーム”
のプロトタイプである Avalon Hill
の The
Longest Day (5/2/3) は、中隊レベルまでの驚くべき正確さを保持する戦闘序列を提示している。ただし、このゲームをプレイする本当の楽しみは、未だ明確にされてはいない
… 。とにかく、今日では 見つけることがほぼ不可能なゲーム。
偉大な古典的名作として、SPI / TSR
の Operation
Cobra (2/4/4) が残っている (このゲームの第2版は上陸戦を可能にする拡張モジュールを含む
・ 訳注 : 第3版が
S&T誌 #251 の付録として発売された)。 このゲームのドイツ軍陣営は、米軍に対抗、または戦線の一部で一斉反撃するために自軍ユニットを移動させることが十分にはできず、そのまま戦線の極めて薄い箇所で装甲部隊が英軍との交戦を強いられてしまう。にもかかわらず、非常に面白いとの評判だ。
このゲームと メカニズムが近似しているのが、GMT
のJune
6, D-Day 1944 (3/3/4) で、6月いっぱいの戦闘を対象としている。
XTR の Victory
in Normandy (3/2/4) は とってもユニーク、というより当惑させられるゲームシステムを備え、ノルマンディー戦役全体を扱う。各プレイヤーの活動を区分する1ターンは1日に相当する。厳密な意味での戦闘結果表は用意されておらず、しかも、ユニットを活性化させるには指揮ポイントを用いる。
Avalon Hill の
Breakout
: Normandy (3/2/3) (L2
Design Group から第2版発売予定) と そのエリア・システムは、両プレイヤーが交互に活性化フェイズを行うこと、及び、通常のヘックスを使用しないという魅力的な代案をもちろん提示している。同社製の他のゲームと同様、その内容物も大半の他社製品より良質だ。これは重要なポイント!
( 訳者より : ノルマンディー戦ゲームの特集記事(VV57号)もご覧あれ
)
マーケット・ガーデン作戦を扱う Victory
Games の Hell's
Highway (4/2/4) は、このテーマでは最良のゲームだ。大隊レベルであるにもかかわらず
非常に戦術色が濃く、射撃フェイズと防御射撃フェイズ、師団ポイントを用いる管理フェイズがあり、我々は このシステムを大変気に入っている。これの対抗馬となるのは、同じスケールの
GMT 製 Air
Bridge to Victory (3/3/4) であり、Hell's
Highway よりもう少しシンプルなシステムとなっている。
Cosi / 3W の Aachen
(4/2/3) は大隊規模で連合軍の戦闘を扱い、ドイツ国内侵入後、初の大都市となる Aix
- la - Chapell ( エクス=ラ=シャペル : ドイツ中西部の都市 アーヘン のフランス語名 ) を占領する。各プレイヤーは、主導権を得るために何ヶ所かで攻撃を行う約束をしなければならず、壮絶な市街戦が展開される。
Avalon Hill の偉大な古典的名作である
Battle
of the Bulge (2/3/2) と 最新作の Bitter
Woods (3/3/3) は、このテーマで入手可能なタイトルの中でも、特に米国人が高く評価する2作品だが、これだけではない。
3W の
Last
Blitzkrieg (4/2/3) 、そして GMT
の Tigers
in the Mist (2/3/3) は、新しいゲーム・システムながらも非常にシンプル。両陣営が交互に行うフェイズを備えるものの、支援や補給は極めて抽象的に表現されている。
The Gamers の Ardennes
(2/4/3) は良く調整されたシステムを有するが、超オーソドックス。
Decision Games
が再販したため入手可能となった SPI
の Battles
for the Ardennes (3/3/4) の改訂版は、結合可能な4つのゲームで構成されていて、1944年の戦役だけではなく、1940年の戦役も用意されている!
そして最後に私自身の趣味で採り上げるのが、 SPI
の Wacht
am Rhein (4/2/5) 。これは4枚組の巨大なマップを使って大隊規模 (!) で戦役全体を再現する、コレクター垂涎のゲームだ。
XTR
が Commad Magazine
で出している付録ゲームは、1943年時点での第2戦線開設を描く Second
Front Now ! や、Norway
でのノルウェー上陸の選択、といったような興味深いバリアント (架空戦) に取り組む独自性を我々に提供している。しかし、Victory
in Normandy 用のユニークなシナリオでは、ブルタニュー半島への上陸という、より適切な選択
(ボカージュが存在せず、上陸地点が手薄、装甲予備も遠く離れていて、しかもブレスト港に近い) が提示されている。
Avalon
Hill の Panzer
Leader (3/2/2) は、西部戦線に登場した車輌のほとんど (重砲を含む) を組み込んでいるという非常に完成度の高い戦闘序列が強味の、有名な古典作品である。
とはいっても、そのゲーム・システムは時代遅れの代物であり、West
End Games の優れた Tank
Leader West Front (3/2/5) には到底かなわない。この秀作は Oriflam
社の手によるライセンス版 ( Tank
Leader Front Ouest ) がフランス国内で入手可能で、とりわけ Frank
Stora 氏が手掛けたルール改良が成功しているというのがポイント。部隊カードや活性化 (敵部隊への妨害を伴う)
システム等々が、その証拠だ!
アルンヘムでのイギリス空挺部隊隊員達の熾烈な戦闘に興味を抱く人が Avalon
Hill の Storm
Over Arnhem
(3/2/4)
を所有することは、もはや義務である。市街地区での戦闘シミュレーションに完全適合する そのゲーム・ システムは、交互に活性化を行うゲーム・シークエンスと、エリアに区切られたゲーム・マップとの組み合わせで構成され、Thunder
at Cassino や Turning
Point : Stalingrad で その真価を発揮している。
今更説明の必要もないであろう Avalon
Hill の Advanced
Squad Leader (5/1-5/5) は、恐らく ボード・ウォーゲームの中で最も人気があり、西部戦線専用の2つのモジュール
( Yanks
と Paratroopers
) が提供されている。もちろん、イギリス人を参戦させる別のシナリオも多数ある。MMP社は
このゲームの版権を取得しており、ソロプレイと入門者向けのルール第2版となる予定のルール改訂を告知している。西部戦線用のシナリオでは、Pegasus
Bridge 、 A
Bridge Too Far 、それに様々なシナリオ・パック等々、Critical
Hit 社の分も加えると 多数存在する。
最後に、 Victory Games
の Ambush
! (3/5/5) は、たぶん今まで作製された中でも最良のソロプレイ用 ・ ウォーゲームだ。プレイヤーは西部戦線の米軍兵士8人で編成される1班を率いて、その特殊なゲーム・システムと戦う。
Move
Out ! と Purple
Heart といった拡張キットは、この作戦地域での新たな任務を与えてくれる。
連合軍の 勝利への貢献は、その大半が空軍の分野でなされたことは良く知られている。
ドイツ本国への空爆は、結果としてドイツ国家の潜在的工業力を縮小させたのだ。もし空爆のピークが 1944年11月なら、砲弾生産の増加分を対空砲が吸収している間に、第3帝国の防衛は空軍の戦闘機の配置が固定化され、地上軍への支援はますます犠牲にされるだろう。
Clash of Arms
の Over
the Reich (4/1/3) は、熱心なプレイを要求する難易度ではあるものの、航空戦の基準となるゲームだ。逆に、Rise
of the Luftwaffe
(GMT) の 1944〜45年におけるヨーロッパ上空での航空戦用の拡張キットである Eighth
Air Force (3/1/4) は、航空機の操縦を表すカードを用いて戦闘を左右する、楽しいながらもリアルなシステムを使用している。
最後に、Avalon Hill
の古典的名作 Luftwaffe
(3/2/3) は、我々の知る限りでは ほぼ唯一の戦略的航空戦役のシミュレーションである (廃刊となった The
General 誌上で、多くの改善案を得ることが可能) 。
どうやってゲームを探す?
一つ目の方法 … 一番良い方法でもある … は、ゲームショップで購入することだ! Descartes
(デカルト)の支店がフランス国内各地に展開しているし、フランスの大都市ならどこででも個人経営の良い店を見つけ出すことができる。残念ながら
ヒストリカル・ゲームの選択肢は減少傾向にあり、そして それらの店舗の大多数では ほんの形ばかりの在庫品しか陳列していない。その一方で、パリ市内のメトロ
(地下鉄) 10号線の クリュニー ・ ラ ・ ソルボンヌ 駅周辺に集積するゲームショップ群と、Descartes
の各支店は非常に品揃えが良い。 インターネット上のフランス人専門サイトを利用すれば、選択肢はグッと広がる。今日、それらのサイトはウォーゲームの選択肢を幅広く提供している
(Vae Victis 誌上の広告を参照)。
古いゲームや絶版のゲームになると、問題はもっと深刻だ。 唯一の打開策は、頻繁に名品が掲載される VV 誌上でのお知らせを利用するにしろ、e-bay
や類似の競売サイトで米国から直接購入するにしろ、中古品を狙うことである。
我々は Decision Games の子会社である Desert
Fox の名品洞窟を推奨する。ここは絶版ゲーム専門だが、並外れな価格だ。 ご所望の方はどうぞ!
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Fin
訳者より :
姉妹記事 『東部戦線ゲームのすべて』 (VV26号)の和訳も御覧ください。
本記事掲載誌の Vae
Victis 41号は、2001年8月に発行されました。
この非公式翻訳文は Vae Victis 編集部の許可を得て公開しています。
Translated
by T.Yoshida
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