全国から寄せられたご意見、ご感想(13)


「医者が患者をだますとき」

ロバート・メンデルソン著、草思社1999年(著者は数々の栄えある賞を受賞したアメリカ医学界の重鎮で小児科医、すでに故人。1979年初刊)
抜粋

〜あなた、病院に行くと病気になりますよ〜

受付で手続きを済ませるとき、患者は人格を持った人間であることをやめさせられ、検査値と症状の寄せ集めとしてあつかわれる。自分が自分でなくなり、治療の対象である「症例」になっていくのだ。今まで暮らした世界をあとにして、本来の自分は過去のものとなる。衣服を脱ぎ去り、それを所持品と一緒に衣装棚にしまいこむときこれまでの生活の思い出もどこかにしまいこまなければならない。家族や親類のものとの面会は制限され、許可されるのは形式的な面会だけだ。

患者が病院で受ける待遇は、人間の尊厳を完全に無視している。患者は衣服を脱いで病院のお仕着せをまとい、医者、看護婦、技師らの検査攻撃にさらされて、なすすべもなく防戦一方の状態で、ほとんどの時間をベッドで横になって過ごすだけである。自由に動き回ることは許されず、あてがわれた食べ物を口にしなければならない。もちろん、その時間があればの話である。さらに見ず知らずの人たちと同じ部屋で寝泊まりもしなければならない。しかもその人たちは全員病人である。私はこれまで25年間にわたって医療現場で働いてきたが、患者が恥辱を受け、人格を否定されることによって健康を取り戻したのを見たためしがない。


医者にとってはまさに衝撃的なタイトル。内容も超激辛。最初の1ページからから最後ページまで、医学、医療そして医者を新しい視点(私にとって)で徹底的にたたきのめす。その影響で、今日は打ちのめされたような気分だ。今まで自分の行ってきた医療はほんとに正しかったのだろうか?今している治療は本当に患者さんのためになるのだろうか?今日は、患者さんひとり一人について自問自答しながらの診療でした。そして突き詰めて考えると、私自身に医者としての存在理由が本当にあるのか?・・・・・・・最悪の結論が待っていた。(99/3/31)

1)「薬剤師よ医者を恐れるな 」を読んで。


“転職”薬剤師

吉田 均 先生

いつも、医薬分業に関する情報ありがとうございます。

さっそくですが、もう、先生も読まれたかもしれませんが、おもしろ本がありましたので、ご報告いたします。

「薬剤師よ医者を恐れるな 」〜 医薬分業のからくり 損得勘定の発想からは国民のための医薬分業は生まれない〜著者:東栄一、エール出版社1400円

<内容>

石川県、門前町生まれの医療関係ジャーナリストの著者が、患者のためになる医薬分業制度を実現させるために、現在の問題点や対策についてわかりやすくよくまとめてあります。現在の医薬分業のあり方については、反対ですが、医薬分業が本当の意味で、機能すれば、医療の質は上がると書かれています。そのためには、「くすりの専門家である薬剤師が、医師の処方した薬をもう一度チェックします。疑問点があれば責任をもって医師に問いただします。医薬分業はそのための制度です。」「薬剤師がきちんと国民にメッセージを伝えるべきであろう。」とのことです。また、患者さん(国民)に対しては、「くすりの説明をしない医者にはもう行くな。そんな薬局もボイコットしよう。」とのことです。

<感想>

医師(医師会)は、医療制度がどう変わろうが、自分たちの既得権益は、なにがなんでも手放さない。(すべての医師がということではありません。)薬剤師(薬剤師会)は、日の目を見たい。しかし、勉強はあまりしない。官僚(厚生省)は、自分たちの権力を手放したくない。患者(国民)は、めんどくさいことはしたくない。現状で、医薬分業を理解するのは、積極型人間のみ。う〜ん。なかなか難しい問題です・・・。

薬剤師として、「わたしは、くすりの専門家です。医師の処方した薬をもう一度確認します。疑問点があれば責任をもって医師にお尋ねいたします。医薬分業はそのための制度です。」と、患者さんに対して言えるようになるのは、いつのことでしょうか・・・。



2)方向性は違っていても、医師としての原点は同じ・・・

冨原 均(兵庫県西脇市、医師)

はじめてメールをさしあげます。兵庫の田舎で「循環器科・内科」で開業3年目に入った、冨原と申します。

この4 月に「医療問題研究会」(医師会の中での一つの研究会)で、「医薬分業について」議論をおこなうことになりまして、私自身は、医薬分業そのものについては現時点では考えておりませんので、その知識を得るべく、インターネットの検索を行ったところ、まず先生の「医薬分業のすすめ」に出会ったというわけです。私は、十数年間にわたり、大学付属の救急救命センターを擁する分院にて循環器科の医師として勤務、「心臓カテーテル」を明けても暮れても、そして真夜中、早朝を問わずにやっておりましたが、2年半前に、思うところがあって、田舎の開業医として「循環器科・内科」の医師として、@地域医療に貢献すべく診療に於ける情報公開を原則とした患者さんに分かりやすい医療の提供。A院内新聞発行(開業以来23号まで発行)による患者教育・啓発 B公民館活動と位置づけた講演会(23回) C私の経験を生かした市職員への心肺蘇生教育や消防隊員への「循環器救急」に関する講義などに精を出しています。

私の立場は「患者さんにいかにより良い医療を提供するか」です。 

先生の主張に対する私の率直な感想は、相矛盾した複雑なものです。

1.まずは素直にこの莫大な「ホームページ」を実に明快に「医薬分業をすすめ」る立場から展開されていることに敬意を表します。先生のエネルギーに対しても敬意を表します。私自身エネルギッシュですが、方向性は違っていても、医師としての原点は同じと感じています。遅ればせながら、私も本気で「医薬分業」というテーマに取り組んで行きたいと思います。

2.不満があるとすれば、「医薬分業反対派」なるものが存在するために先生の論点が、「どういう医薬分業なのか」という点から、時々それて「医薬分業に賛成なのか反対なのか」という点に集約され過ぎている点が気になります。先生が力説されて「論破」されている「分業反対」とされている方々の論点は、この「ホームページ」からしか分かりませんが、私から言っても、「論理的でなく、感情的で、患者のためにという視点の欠けた」ものと感じます。しかし、そこで賛成派・反対派と色分けされてしまえば、「いかなる医薬分業なのか」という本来の視点がなくなって行くようで心配です。

3.要するに、医薬分業に現時点で消極的な医師の中にも「真面目に考えている」人もいるし、医薬分業を推進している人の中にも「実は全く患者のことを考えていない医師も薬剤師もいる」と思うのです。

4.先生の意見は誠に正論です。しかしながら、時には「正論」必ずしも「正道」とは思いません。「正しい方針は、それが受け入れられる状況の中で初めて、正しさを有する」と思うからです。ですから、先生の所での医薬分業と私のような田舎での医薬分業では、違いがあって当然だと思います。私は、情報公開が原則という立場から、その一貫として「医薬分業」に原則賛成です。

しかし、現状では、まだ出来ないと考えています。その一つが、薬剤師の人たちの「医薬分業」への取り組みの姿勢と臨床経験に基ずく知識です。もちろん、私の町での薬剤師会の動き、ともすれば門前薬局を開きたいとの申し出等や、先生の「ホームページ」に寄せられる多くの薬剤師の方々のメールは、「吉田先生様々」といった、介護保険導入で「活気」の出ている「介護事業参入業者」の姿と重なって見えてしまいます。「医師の手から我々の権利を取り戻せる」喜びに満ちていますが、薬剤師として、「どう患者と立ち向かって行くのかという」先を見据えた意見が少ないように思います。現情勢の中で、先生の「正論」が変に利用されぬ事を願います。あまりに正論ですので!



5.医師の既得権などとこざかしいことを言うつもりは毛頭ありませんし、患者さんを薬漬けや「薬価差」で儲けようなどと、考えたこともありません。(いまや薬価差などという言葉は死語だと思っています。ゾロで薬価差と言っても、使用頻度は全国で、7%程度ですし・・・ただ信頼性のある!安価な薬は切望しますが・・)むしろ、私自身は、患者さんにインフォームド・コンセントを行うためにも、また個人の開業医として「在庫管理」などの手間から解放されたいという気持ちは当然あり、医師としても本来の仕事に集中したいという気持ちですが、医師が安心して、面分業に託せる臨床経験豊かな薬剤師の育成は急務と思います。(この点を切に願っております。) 

救急救命士の制度について、発足はしたが、かえって搬送に時間がかかり、救命率の向上には何の効果も現時点ではありません。それをもって、こんな制度は意味がないとまで言い切る医師もいますが私は、更なる教育によって、すなわち医師に指示によらず、独自の判断で「救急処置」が可能な法的な整備も見当されるべきだと思います。何故この話かと言いますと、救急救命士制度は、本当に過酷なまでの研修の結果においてさえ、まだ不十分だと言うことです。

薬剤師の人たちが、真に臨床の分かる薬剤師たる立場に立つには、逆に「医薬分業万歳」ではなく、十分な不安感をもって、しかしながらそれに立ち向かって行く「気概」を見せていただきたいと思う次第です。それが私に伝わったときに、私の「医薬分業」は始まると思っています。

それまでは、「医師であれ、薬剤師であれ、ミスするのは当然」という「立場」にたって、いかにミスを患者さんへの「不利益」にならぬように、ダブルチェック・トリプルチェックを行うかという基本で対処して行きたいと考えています。一つのミスで「薬害を含めた医療ミスが起こることは稀です。」一つ目のミスを是正できる体制こそが、いずれにしても大切だと考えます。

本日は、長くなってしまって、論点がジグザグしたかもしれませんが、真意をお酌み取りいただきたく存じます。先生と私とでは立脚点が「医薬分業」においては「ズレ」があるかもしれませんが、患者さんに「より良い医療をどうやって提供するか」という点は同じだと思います。

また、気の向くままに、お手紙を差し上げると思います。今後とも御活躍を期待します。


返信
吉田均

冨原 均 先生、はじめまして。HPについて真摯なご意見お送りいただき、誠にありがとうございます。とてもとても参考になりました。


>しかし、そこで賛成派・反対派と色分けされてしまえば、「いかなる医薬分業なのか」という本来の視点がなくなって行くようで心配です。

確かにおっしゃるとおりですね。ご忠告ありがとうございます。反対派の言葉尻をとらえて、反論ばかりしていると自分の進むべき道を見失ってしまうかもしれませんね。HPの前半部分はわりと大人しい内容で、「医薬分業はこうあるべき」を論じていたつもりだったのですが・・・・・。1年ほど前から少し過激になってきまして・・・・というのも、分業反対派の意見に反論できなければ医薬分業は結局「絵に描いた餅」で終わってしまうのでは、と危惧しましたので・・・。今後は少し抑え気味で行った方が良さそうですね。


>3.要するに、医薬分業に現時点で消極的な医師の中にも「真面目に考えている」人もいるし、医薬分業を推進している人の中にも「実は全く患者のことを考えていない医師も薬剤師もいる」と思うのです。

これもおっしゃるとおりです。多分、分業反対派を論破しすぎた(?)ためこのように思われたのだと考えます。薬価差益がなくなったのでその代償としての医薬分業、実は分業派のドクターの多くはこのようなお考えです。要するに利益が目的の分業ですね。

「真面目に考えている」人については、先生のほかには、HPの「重篤な副作用の説明が出来ますか」のページにある桜井隆氏が代表のおひとりです。彼は医薬分業に消極的ですが、「情報開示」の実践はマスコミにも何度も取り上げられています。彼からは教えられるところがとても多いので、お会いして直接お話を伺ったほどです。私の気持ちの中では、医師を分業賛成派・反対派で分類するというよりも、情報開示派VS旧来型医療派という認識でHPで発言しているつもりです。したがいまして、HPのせいでちょっと誤解を与えましたが、私の思いは先生のお考えと完全に同じと思っています。


>4.先生の意見は誠に正論です。しかしながら、時には「正論」必ずしも「正道」とは思いません

ご指摘の通りだと思います。私の主張は「机上の空論」とも言われました。「正論」=「理想論」、いつの時代も「現実論」に押しつぶされる運命にあります。「正論」ばかり振りかざしていては実現するものも実現しなくなるという声も聞こえてきます。確かに、まったくその通りですね。ただ、日本の医薬分業は放っておくとすぐに道に迷ってしまう「くせ」がありまして・・・・・。実際、かなり道に迷った分業が全国に多いですね。分業の理想を高く掲げて誰からも見えるようにしておかないと、迷路から抜け出せないないのではと・・・・。


>現情勢の中で、先生の「正論」が変に利用されぬ事を願います。

実際、ある会社組織から利用されかかったことはあります。きっぱりお断りしましたが・・・。もっとも勝手にこのHPを「変に」利用している人はいるかもしれませんね。


>薬剤師の人たちが、真に臨床の分かる薬剤師たる立場に立つには、逆に「医薬分業万歳」ではなく、十分な不安感をもって、しかしながらそれに立ち向かって行く「気概」を見せていただきたいと思う次第です。それが私に伝わったときに、私の「医薬分業」は始まると思っています。

まさにおっしゃる通りですね。私は「気概」をお持ちの薬剤師をたくさん知っています。ただそれが医者側になかなか伝わってこないのが実状ですね。「救急救命士の制度は救命率の向上には何の効果も現時点ではありません。」とのことですが、医薬分業も同じ様な状況にあります。でも、先生は「心肺蘇生教育や消防隊員への「循環器救急」に関する講義などに精を出しています。」とのこと。先生の「救急救命士制度」に対する思いと私の分業に対する思いは相通ずるところがあるように思います。不完全な医薬分業でも、そのままにしておけばいつまでたっても医師からの信頼は得られません。卵が先か鶏が先かということになりますが、私は医者側がまず処方箋を発行しなければ、薬剤師はいつまでたっても勉強する機会が得られないと思います。わたしの考えは「鶏になるのを待ってから」ではなく、卵から元気なひよこが生まれるように「卵を抱く」ことが必要と考えています。「卵を抱く」役目は処方箋を発行する医者という認識です。



3)“小判鮫商法”では患者満足(CS) が得られない・・・


転職薬剤師K.A (群馬県桐生市)

初めまして。私は製薬メーカーのMRから調剤薬局に転職してまだ、1ヶ月たっていません。まだ調剤のなんたるかも解っていないような者です。先生のホームページと群馬県薬剤師会の会報で先生の記事を、拝見させていただきました。医師側から理想的な医薬分業を押し進めるために活動をされていることに感激と尊敬の念でいっぱいになりました。

私の勤務している薬局はいわゆる門前薬局(開業医の)です。現状では、(地域性もあると思いますが)残念ながら門前で始める方法をとらざる得ないと思います。ただ、言葉は悪いかもしれませんが門前薬局の“小判鮫商法”では患者満足(CS) が得られないことも確かです。したがって、門前でも、面展開できるような体制を整えていくことは、大切でしょう。

私は、薬剤師も外にどんどん出るべきだと思います。在宅指導、配達はもう当たり前にしなくては!しかし、既存のものを壊して新しい価値観を植え付けていくことは数々の壁があるようです。私が思うに、なによりも大切なのが「ドクターの理解」と「患者さんの満足」。これは、薬剤師に与えられた、そして、あと数年以内で解決しなければならない課題のような気がしています。

何年後かに医薬分業が成功か失敗かを決めるのは患者さんであると思っています。その為には、現状の制度が悪いとか門前薬局がどうだとか議論することも大切ですが、それ以上に医療提供者として、今できることを精一杯実行していくことが最重要課題だと思います。同じ医療サービスを提供している仲間として医師に認めてもらうには薬剤師の勉強は欠かせないと思います。医師と薬剤師が対立ではなく協力していかなければ良い意味での医薬分業が広まっていかないと思います。

先生のご意見は9割は同感できます。しかし門前の薬局も試行錯誤しながら期待に応えようとしているのです。それを解っていただきたくてメールしました。

あまりの雑文で申し訳ございません。今後も楽しく先生のページ拝見させていただきます。では。



返信
吉田均

HPへのアクセスとメールありがとうございます。ちょっと忙しかったものでご返事が遅れました。

群馬県薬剤師会会報、本日届きました。掲載していただきありがとうございました。


>言葉は悪いかもしれませんが門前薬局の“小判鮫商法”では患者満足(CS) が得られないことも確かです。

うーむ“小判鮫商法”ですか。・・・確かに、親鮫から処方箋が廻ってくることだけで満足している薬剤師もかなりいるでしょうね。今までは鮫にくっついておれば努力なしでも利益は得られたでしょうが、今後はどうでしょうか。鮫からの“おこぼれ”は減少の一途をたどっています。親鮫から離れて、自立して自分自身で餌を捕らなければれば飢え死にするかもしれませんね。


>先生のご意見は9割は同感できます。

門前薬局でも、かかりつけ薬局を目指してがんばっているところも多いと思います。そんな薬剤師にとっては、私のHPの意見、主張には賛同できない点も多いと思います。「門前で始める方法をとらざる得ない」ことは必要悪であったとは認めます。しかしこの形態の分業は過去形になりつつあります。門前薬局を医薬分業の「通過点」あるいは「仮の住まい」と考え、最終目標ではないことを認識すべきかと思っています。(99/5/24)



4)患者にかかる金銭的な負担についてはどうお考えですか。

患者代表

医薬分業にすると、患者には金銭的な負担がかかります。また、財政難の社会保険等にも負担がかかります。ただでさえ、患者負担が増え、薬代を別に負担し、家計を圧迫しており、医者にかかることもままならない状況において、医薬分業が本当に必要でしょうか?

あなたたちのような裕福なかたがたにはわからないかもしれませんが、ちょっとしたことでは病院等にもいかれない状況に置かれた人に、これ以上の負担を負わせる、これ自体患者をないがしろにしていませんか?あなた方医者だけではありません。厚生省ともども考え方がおかしいとしか思えません。限られた社会保険料の中で、国民はどうやって安心して病気を治せばいいのでしょうか?

返信
吉田均


こんにちは、貴重なご意見ありがとうございます。医療関係者でない一般の方、すなわち患者さんの立場でのご意見と拝察いたしました。医薬分業に賛成でない方からのご意見はとっても貴重です。大変勉強になりました。

医薬分業によって医療費が高くなる点に関しては、私のホームページのいろんな所で論議しております。2度手間とともに最大のデメリットですね。多くの方が指摘される当然のご意見です。おっしゃる通り医療費は安ければ安いに越したことはありません。安くて良質な医療を提供できればこれがベストです。しかし、残念ながら、安全な医療を受けるにはそれにともなった手間とコストがかかります。医療費が高くついても薬の安全性の方を重要視するのか、あるいは薬の危険性に多少目をつぶっても医療費はともかく安ければいいのか、このどちらかを選択するということになろうかと思います。

人によって薬物療法の危険性についての認識がかなり違います。このことをあまり心配なさらない方は、医薬分業の必要性を当然感じないと思います。必然的にコストの方に目が行きます。実は、日本では、患者さんに薬物療法の危険性について十分知らされておりませんので、そう思われる方が多いのも当然ですね。

今年の1月から横浜での患者取り違え事件に始まりいろんな医療ミスの報道が相次いでおります。今のところ薬のミスによる報道は少ないのですが、実際は薬の医療事故は医療ミスの中でももっとも多いものです。薬の過量投与、重複投与、飲み合わせの悪い薬の処方、などは医療現場では日常的に生じています。公にされず医療関係者だけで処理されて表に出ませんので、滅多にないことだと誤解されている方も多いのです。新聞に報道にされるような、あるいは裁判になるようなケースはほんの氷山の一角です。最近、私の近くの病院(院内処方)で小児に抗アレルギー剤を出すべきところ間違って高血圧の薬を渡し、患者さんから指摘されて初めて気づかれたケースがありました。この病院の場合はそうではないと思いますが、患者さんから指摘されなければうやむやにされるケースが実は多いのです。

薬物療法はよほど慎重に行う必要があります。お医者さんからもらう薬は安全だと思っていらっしゃる方も結構います。しかし、これは誤った認識ですね。薬物療法には常に副作用というデメリットを伴います。それに医療ミスも加わります。これを少しでも減らすためには、薬剤師によるダブルチェック、そして慎重な調剤、副作用の初期症状の説明、服用後の副作用出現のチェックなどが必要とされます。今までの医療ではこの点不十分でした。

医薬分業は患者さんのためにすることです。病院や薬局のためではありません(この点をしっかりと理解していない医療人もいますが・・・・)。医薬分業を選択するか否かは最終的には患者さん、すなわち国民の考えに委ねられます。薬の安全性よりもそれにかかるコストを嫌うのであればそれもやむなしということです。

それと、ご存じかと思いますが、つけ加えますと、院内調剤システムだと薬を使えば使うほど医療機関がもうかるような仕組みになっております。薬の過剰投与の原因になっていたわけですね。上質な医薬分業が普及すれば、薬の過剰投与がなくなりその分医療費が安くなると考えられています。医薬分業によって医療費がアップしても過剰投与がなくなった分とで相殺されるということです。これは厚生省官僚から私が直接聞いたことですが・・・・。最近、脳循環代謝改善剤が効かないということで発売停止になりましたが、この薬で一兆円ほどの医療費が無駄遣いされました。脳循環代謝改善剤だけではありません。効かない薬はもっともっとあります。薬で利益が出なくなれば、医者の処方内容も徐々に変化していくはずです。無駄な薬が出ないということは医療費が安くなると同時に、薬の副作用の危険性もそれだけ減少するということです。


そのまた返信
患者代表

お返事いただきました件についてですが、重複投与や薬の組み合わせについては、患者本人が医者にかかるときに自分の病歴や、現在飲んでいる薬について説明すべきだし、わからないのであれば薬を持参したりすることは必要だと思います。もっと患者自身が病気について知らなくてはいけないと思います。医者も説明する義務があると思いますが・・・。

また、過剰投与については医者個人のモラルの問題なのではないでしょうか?患者が執ように薬を要求しているわけでもあるまいし、信用している先生にだまされている被害者です。そのうえ、自分たちの仲間のモラルを治すために、患者の負担を増やしたり、社会保険等を圧迫する必要がありますか?自分たちの仲間のことは自分たちで解決できないのでしょうか?私は疑問に思います。


そのまたまた返信
吉田均

おっしゃる通りですね。ご自分の飲まれる薬のことですから患者さん自身が気をつけることも大切ですね。慎重なドクターは、重複投与や飲み合わせに十分注意しながら処方しております。他院の薬の内容が分からない場合は重複投与などを恐れ、処方しないドクターさえいます。しかしこのようなドクターはむしろ少数派。重複投与や相互作用のチェックがおろそかになっているのが現実です。患者さんが「この薬の飲み合わせは大丈夫ですか?」と尋ねているにもかかわらず危険な処方がされた事件があります。(ご参照:ホームページの『院内調剤は「危険」だと証明されているのですか?院外調剤は本当に「安全」なのですか?』)他院にかかっていることさえ言わない患者さんも結構いらっしゃいます。それと、もし、たとえ重複投与などのチェックは医院でできたとしても、処方ミスのダブルチェックはできません。と言いますのは、多くの医院では薬剤師がおらず事務員などが調剤しているからです。

薬の無駄遣いや過剰投与に関してはおっしゃる通り、医者個人のモラルの問題です。これをなくすために患者に負担をかけるのは確かにおかしいことですね。自分たちの仲間のことを自分たちで解決できないのかと言われますが、悲しいことですが、残念ながら今まで解決できてきませんでした。医師仲間での自浄作用というものがほとんど働いていないということです。むしろ逆に互いにかばい合ってきたいうのが現実ですね。医者の団体で、『医療費の無駄遣いをやめよう』というキャンペーンが張られたことはかって1度もなかったように思います。むしろ、いかに工夫にしたら医療機関の収入がアップするかの努力に終始してきたように思います。薬の無駄遣いをなくすには診療報酬による誘導しか有効な手段がないように思います。残念ですが・・・・。

しかし、それさえもなかなかうまくいきません。昨日の新聞に、薬の使い過ぎを是正するための「医療保険改革」が先送りされたという記事が載っておりました。現在の案では外来患者数の減少につながる恐れがあるということで、ある医療団体が自民党に働きかけ、先送りになったということらしいです。医療保険改革を実行できなければ、いずれ国民の皆様方が保険料アップということで、負担が増えるいうことになります。


皆様からいただいた現在の保険料の範囲内で、医薬分業にかかる経費すなわち薬剤師の技術料を賄えばとてもいいことだと思います。そうすれば薬の安全性の確保もできますし、医療財政にも影響は来ないと思います。しかしそうするには、医療費の再分配が必要になります、すなわち医療機関の取り分を減らすということです。しかし、医療機関、特に病院の場合は現在の収入でも赤字のところが多いので、もしそうなれば倒産する病院が続出することでしょう。それでもいいんだということであれば、そういう選択肢も確かにあります。実際、首都圏では現在の診療報酬でさえ経営できず、倒産あるいは閉院しているところが続出ししております。医療費をどう配分してどこに回し、国民にどういった医療を供給するかということが問われています。限られた保険財政の中でどうやりくりするかということです。国民の皆様方が「医薬分業は不要だ、薬の安全性の確保は二の次でもいい」という選択をされるのであれば、それはそれで1つの考えだと思います。医療保険は保険料を支払った国民=患者さんのものです。医者や薬剤師のものではありません。医療をどうしたらいいのか皆様方それぞれがご自分 の考えを持ち、皆様方の望むものにされればよいと思います。

最後に、繰り返しになりますが、私は経済よりも『薬の安全性の確保』を最優先にすることが患者さんのためになるし、又そう考えている患者さんも多いのではないかと思っています。このようなささやかなホームページを作ったのも、そう信じ、そして、よりよい医療のため少しでもお役に立てないかと思ったからです。

今後とも当ホームページをよろしくお願いいたします。(99/6/7)