情報開示はドクターの処方内容を変えるか?


97年4月より薬剤師は薬剤の効果、副作用、相互作用などの情報提供が義務化されました。従って、制度上からも医薬分業イコール情報公開ということになったわけですね。薬の副作用を患者さんにきちんと説明すると医療の現場でどういうことが起きるか考えてみましょう。

患者さんに最良の処方をしてきたので、情報開示をしたとしても、処方内容の変更などあり得ない。多くのドクターはこう言います。確かにごもっともなことで、その通りでしょう。しかし、実際に重篤な副作用の説明をするようになれば、多少ともその影響が出るのではないでしょうか?私はそう思っています。

比較的軽症の患者に薬の説明をした場合「これ位の症状に、そこまで副作用の強い薬は飲みたくないのだけど・・・」言われるかもしれません。あるいは副作用を説明した場合、患者さんを納得させられないと考え、あらかじめ処方をひかえるかもしれません。そして情報開示を進めていった場合、医師の考えが、「薬の効能を追求する姿勢」から「副作用を未然に防ぎたい」に変化していき、薬の使用量が減ると思います

重症の患者さんの場合でも、副作用の危険性が薬の効能を上回ると考えられる時は、薬の使用がひかえられるでしょう。勿論、医師は以前からそのような考えで治療してきたわけですが、情報開示によって、副作用の重みがより増すと考えられます。念のためにとか、万が一を考えてという理由で処方されていた薬もありました。そのような薬は不必要であるばかりか、かえって危険だという考えに変わっていく可能性があります。

複数の病気を持っていたり、いろんな症状が同時に出た場合、それぞれの病気や症状に対して、「積み上げ式」に処方される場合が多いように思います。情報開示により副作用防止が重要視されるようになると、主要な病気に限定した処方に変化し、結果として薬が減少するのではないでしょうか。勿論、稀な副作用を恐れすぎて、肝心の病気の治療が出来なくなってはいけませんが・・・両刃の剣の「薬」をどう使うか、今まで以上に専門家としての技量が問われる事になるでしょうね。


医者が患者をだますとき」ロバート・メンデルソン著、

抜粋


患者が病院に来る。医者にしてみれば、それはすなわち「何らかの治療を求めてやって来た」ということなのである。診察室の入ってきた患者は、「治療してください」という意志表示をしているものと医者は決めてかかる。つまり、鎮痛剤の投与から手術に至るまでの治療一式を希望していると見なされるのだ。 患者にとってさらに不幸なことに、医者には、数ある治療メニューの中から、より濃厚でより過剰な方法を選びたがる傾向がある。なかには極端に走りすぎて、患者の病状など目に入らず、不要な治療を無理に行おうとする医者もいるくらいである。

患者にしてみれば、薬を使わずに治療してほしいと願うのは当然である。しかし、医者にすれば、それはとんでもない要求なのだ。医者の物差しと患者の物差しはどうしても相容れない。しかし、こんなことは別に驚くに値すまい。そもそも、医療倫理と一般常識が相容れないものだから。

現代医学は薬を使わない医者を「薬漬けの儀式」を拒否したという理由だけで異端者と見なし、こうした医者を藪医者と呼ぶ。

薬を売りさばく医者という名の聖職者から我が身を守るためには、現代医学や医者を盲信しないことである。医者の処方した薬は危険だ、安全な薬などないと疑ってかかった方が身のためなのだ。



私の場合、医薬分業して薬局で積極的に副作用の説明をしてもらっています。勿論重篤な副作用も説明しています。そういうことを進めていきますと、私の考え方も徐々に変化していき、「念のために」の処方が減って、結果として処方薬の減少につながりました。そして、今後はなるべく一剤処方に持っていきたい、出来れば薬なしで治したいという考えに行き着いたのです。


一つの例として、発熱時に解熱剤は極力使わないことにしました。解熱剤の副作用として、低体温やショック、腎障害、貧血、白血球減少、中毒性表皮壊死症等々、命に関わる副作用があります。それに、発熱は元々からだの防衛反応で、病気を治すためにわざわざ体温を上げているわけですので、副作用の危険を冒してまで使う理由が見つからなくなったのです。そして、患者にそのように指導した結果、意外な効果が現れました。それは夜間や休日の時間外患者数が大幅に減ったことです。発熱の意義を理解し「熱はそんなに心配したものではないんだ。慌てて時間外に受診しなくてもいいんだ。」という患者さんの意識の変化によるものと考えています。それに、熱を出し切ることによって発熱期間が短縮し、熱性けいれんも減少、さらには座薬の副作用による低体温などが無くなったためもあるでしょう。病気の合併症も減少しているのかもしれませんね。小児科は、時間外患者の大部分は発熱の患者さんですので、時間外診療がとても楽になり、夜も眠らせてもらえるようになりました。個人的なことですが、体力的にとても助かっています。それに、時間外は診療費が割高でもありますので、医療費 の無駄使いが減少したということにもなりますね。


もう一つ例を挙げますと、おたふく風邪が97年5月頃より当地で流行しましたが、以前ですと、化膿性耳下腺炎も否定できない、リンパ節炎かもしれもない、二次感染も心配だとの考えで、念のためにと抗生剤を処方していました。しかし今は自然治癒を重視し、副作用のことも考え抗生剤は使用していません(こんな事は以前から当たり前のことだとおっしゃるドクターもいるかと思いますが・・・。)。そして、当然のことかもしれませんが、幸いにも、抗生剤を使用しないために病状が悪化した患者さんはゼロでした。少なくともこの6ヶ月間で・・・。これらはあくまで私のケースですが、他の医療機関でも、副作用の情報開示をすればドクターの意識変化により、自然と処方内容が変わるのではないでしょうか?私はそのように予測します。