Reviewed
by Brian Datta
Kharkov 1943 はソ連のハリコフ市内および周辺地域における戦闘を扱う。この戦いは マンシュタイン元帥のバックハンド・ブロウとして、さらには同年夏に起きたクルスク戦のお膳立てとなったことでよく知られる。
このゲームには およそ 400個のユニット・カウンターが用意されており、戦闘部隊ユニットと情報カウンター(マーカー)が半々となっている。
23インチ× 16インチ のマップが一枚、ルールは 8ページ、そしてチャートや表が 2ページある。
ユニット・カウンターには素晴らしい絵が描かれていることにプレイヤーは気づくだろう。普段、私は大隊レベル以上のユニット・カウンターにアイコン
(絵) を使用することを好まないが、ひょっとすると、そのうち私は信奉者に変わってしまうかもしれない。本当に魅力的であり、その美しさは言葉では言い尽くせない。ルール
(の体裁) も同程度に良く、イラストをユニット・カウンターやマップから引用している。グラフィック面での唯一の欠点はマップである。ユニット・カウンターやルールと比較すると、マップは全然駄目だ。これは平原地形のことを指している。もちろん、冬の後半のロシアがそれほどカラフルではないことを私は承知しているし、このゲームのマップの平原が見苦しいと言っているのではない。ついでに、Waffen
SS (ドイツの武装親衛隊) のユニット・カウンターを黒色で表現するという、些か賛否両論ある慣習を踏襲している点は指摘しておかねばなるまい。
部隊規模は軍団 (ソ連軍のみ) 、師団、旅団、連隊、そして特殊大隊。部隊は 攻撃・防御・スタック の面で評価され、さらに補助的な装甲効果や対戦車能力の共通レート
(装甲連隊はXポイント、歩兵師団はYポイント、等々) を持つ。ティーゲル や KV-1 で編成された戦車大隊は、戦闘に影響を及ぼす重装備部隊と見なされる(後ほど詳述する)。連隊の中には師団よりも大きいスタック値を持つものがいくつかある。第4装甲師団とラヴェンナ歩兵師団がその好例で、両師団はスターリングラード周辺における冬季戦でかなりの深手を負っており、このゲームでは1スタック・ポイントを持つ単一駒となっている。ユニット・カウンターには部隊名とその上級組織も記載され、単なる略称とおぼしき名が記されているものもある。
このゲームにはシンプルだが効果的な天候システムが用意されている。まず、ドイツ軍プレイヤーが (訳注
: ルールには 「ソ連軍プレイヤーが」 と書かれている) ダイスを振って地表状態が 凍結 か 泥濘 か ノーマル(積雪)
かを確認し、次にもう一度ダイスを振って空模様が 晴天 か 曇天 か 降雪 (訳注
: 原文ルールには 「降雪」 は無く、「薄曇り 」とある) かを確かめる。通常、泥濘と凍結の地表状態は部隊の移動力と戦闘修正に影響する。空模様はプレイヤーが航空ポイントを戦闘に投入する際、その投入量に影響を及ぼす。
両プレイヤーはイニシアティブ (主導権)
獲得のためにダイスを振り、大きい目を出した方が先手になる。手番プレイヤーは司令部ユニット1つを活性化する。その司令部ユニットの指揮範囲内
(これが問題になっている) にある戦闘ユニットを 8 個まで活性化できる。手持ちの全ての司令部ユニットの指揮範囲外にある戦闘ユニットを
4 個まで活性化することもできる。次に、活性化した戦闘ユニットを 移動 ・ 戦闘 させる。戦闘は移動の一部になっている。機械化ユニットは作戦ポイント
(移動ポイントの項を参照) を 12 ポイント、歩兵ユニットは 10 ポイント持つ。活性化した戦闘ユニットの上に活性化マーカーを載せる
(これがまた、無線機の絵が描かれた 実にナイスなマーカーだ) 。活性化した司令部を裏返しにして使用済みであることを明示する。先手プレイヤーが最初の活性化を一旦終えると、次に後手プレイヤーが活性化を行う。ここまでの手順を先手・後手と交互に、両プレイヤーがパスするまで繰り返す。その後、ターン終了となる。
戦闘には 「クイック (機動)」 ・ 「通常」
・ 「準備」 の 3タイプがある。各タイプの戦闘を実施するには作戦ポイントが必要であり、戦闘解決時にもタイプ別にダイス修正がある
(通常攻撃の場合は修正なし) 。
戦闘はこのゲームで最も複雑な機能だ。 まず、基本となる 「攻撃側 : 防御側 」 の戦闘比を計算し、防御側が占めるへクスの地形と照合して、(戦闘結果表で)
正しい戦闘比列を見つける。次にその戦闘結果表上でコラム・シフト操作を行う (普通は、補給状態や 「装甲効果」
対 「対戦車効果」 の比率等を考慮した上で) 。 そして、航空ポイントや部隊規模、防御側が防御陣地内にいるかどうか、攻撃側がどのタイプの攻撃を実施しているのか、等を確認して修正を施す。それからダイスを一個振って戦闘結果を確定した後、それを適用するのだが、結果はステップ・ロス
(ユニットの下に回転型の戦力減少マーカーを置いて表示する)
や後退という形になるだろう。たいていはステップ・ロスか後退かを選択できるのだが、ステップ・ロスを強要される場合もある。ステップ・ロスを適用した場合、喪失した戦闘力は均等に分けられる。例えば、12戦闘力を持つ
4ステップの戦車軍団は 1スタック・ポイント (1ステップ)
を失うたびに 3戦闘力を失う。戦闘力やステップ数が奇数の場合、端数を切り捨てて整数にする。 「突破」 という特殊な攻撃方法もあり、攻撃側は敵の
ZOC を無視できるようになる (移動の際は地形コストにのみ作戦ポイントを消費する。戦闘は強制されない。)。 「突破」 は防御側が全滅した際に、攻撃側の選択により発生する。
最近のゲーム・プレイから例を挙げてみる。 1つのへクス内にドイツ軍の守備隊が 4個ある。 FB/GD連隊 (3戦闘力)、GR/GD連隊
(-1ステップ、4戦闘力)、PZJ/GD大隊 (装甲猟兵、3戦闘力)、そして S/GD中隊 (ティーゲル重戦車中隊、2戦闘力)。
このへクス内の合計戦闘力は 12。彼らを攻撃するソ連軍部隊は、1へクス内にいる 第11・12・83の 3個親衛騎兵師団 (合計で
12戦闘力) と、別のへクス内にいる 第15戦車軍団 (12戦闘力) と 第201戦車旅団 (6戦闘力) 。ソ連側の攻撃力は合計で
30戦闘力。基本戦闘比は2対1 ( 30対12 は防御側有利となるように端数を切り捨てて 2対1 となる) 。
ここからが面白くなる。様々な修正を全て計算に入れるのだ。
まず、ソ連軍は機動攻撃を選択する。これで左向きに 1コラムシフトが生じ、戦闘比は 1対1 になる。次に、参加部隊の対戦車効果と装甲効果を調べる。ドイツ軍側は、装甲部隊は額面戦闘力
( 3 + 2 = 5 ) を用い、装甲擲弾兵部隊 (FB
と GR) は基本値 2 を用いるので、対戦車効果は合計で 9ポイント。ソ連軍側の装甲効果は 12 と 6 で合計
18ポイント。これで比率は 1対2 になるが、ルールでは合計ポイントの多い方にのみ、コラムシフトが発生するとある。したがって、ソ連軍が右方向への1コラムシフトを手にし、戦闘比は
2対1 に戻る。ドイツ軍には重戦車ボーナスがあるため、ダイスの目から1を引く修正を得る。さらにドイツ装甲部隊とソ連戦車隊の対決で
-1 のダイス修正を得る (訳注:この例ではソ連軍側に騎兵部隊もいるので、正確にはこの
-1 のダイス修正は生じない) 。ダイスを振って出目が4、修正して2 (訳注:正しくは3)。
〔 訳注 : 戦闘結果は 「 2 / 1 」 ( 攻撃側 /
防御側 ) となる。〕
ソ連軍は損害の適用方法を選択できる。2へクス後退するか、2ステップ・ロスさせるか、あるいは 1へクス後退して 1ステップを喪失する。たった一箇所の戦闘に、これだけ多くの労力が求められるのだ。
両陣営ともに、歩兵用と機械化用に分けられた補充ポイントが与えられる。普通、1ステップ・ロスを回復するには1ポイントを消費するが、(全滅したユニットの)最初の1ステップを回復するには2ポイントが必要。ソ連軍プレイヤーは補充ポイントを蓄積できないのに対し、ドイツ軍プレイヤーはそれができる。このため、ドイツ軍は
ダス・ライヒ師団や グロス・ドイチュラント師団といった超強力な部隊を事実上、再建できてしまう。このことからも、補充はこのゲームでは欠かせないものと思われる。ソ連軍はドイツ軍と同程度の補充ポイントを得るわけではなく、しかも上述したように、ターンからターンへと補充ポイントを蓄積できない。これは補充ポイントがさほど重要ではないという意味ではなく、実はもっと貴重なものなのだ。ソ連軍プレイヤーは補充ポイントを最重要部隊のために温存し、注意深く使用しなければならない。
これは面白いゲームだ。
あの戦況が、ソ連軍とドイツ軍の両プレイヤーを粗暴な攻撃側と不屈の防御側という役割に仕立てている。ソ連軍は 第2ターンに、ドイツ軍は
第4および 第5ターンに、それぞれ大量の増援を受け取る。シナリオは 2つで、12ターンのキャンペーン・ゲームと、5ターンで終了するソ連軍の攻勢・ギャロップ作戦を扱うショート・ゲームが用意されている。キャンペーン・ゲームの終盤にはソ連軍プレイヤーは大ピンチに陥り、序盤に獲得した戦果を失わないよう必死になる。迅速な(機動)攻撃は、特に攻勢の初期段階では最大の関心事となる。たとえ敵部隊の守備が薄くても、それ無くしては、やがて攻勢は頓挫してしまうだろう。
(ドイツ軍には)攻勢側に損害を与えるさらに大きなチャンスがある為、戦力を立て直した上での反撃は可能だが、戦闘ユニットは作戦ポイントが続く限り何度も繰り返して攻撃できるので、(ソ連軍は)非常に有効な機動攻撃を実施することになる。
このゲームに関しては、ゲーム・バランスが問題になるとは思わない。 どちらのプレイヤーも一方的に勝ってしまうことはない。両者ともに攻撃と防御を行わなければならないし、両陣営には攻撃
(および防御) 面で十分に良質な部隊を有している。攻勢から防御へ、またはその逆へ、何時転換するのかを正確に理解していることが秘訣と思われる。地形は、少なくとも私の言える範囲内では、戦闘に適切な効果をもたらす。この戦いを扱う他のゲームで私が唯一良く知っているのは、SPI
の Kharkov だ (他にもあることは知っている)。あのゲームには市街地や河川、森林以外の地形がほとんど無い。
(訳注 : SPI の 「Kharkov」 といえば 第2次ハリコフ戦のゲームですが、他に
SPI のハリコフ戦ゲームってあるのでしょうか? ・・・・・ あぁ、「星作戦」 がありましたね。)
寛大な読者が、このゲームは全てが (女性の肌のように)
艶やかなピンク色をしているなどと勘違いしないよう、私が思う問題点を記しておく。 大物は、ユニット・カウンターのエラッタ。20個以上もあるのだ! そのいくつかは単純な誤記載、他は数値の記載漏れや、明らかに単純な欠品。こんなことは言いたくないが、このエラッタはゲームをブチ壊している。欠品ユニットのいくつかは全く説明がなされていないが、数値の記載漏れや誤記載のあるユニットの中には、プレイの際に重要となるものがある。大半のユニットのエラッタは
Vae Victis 誌の 26号で説明がなされているし、どうやらゲーム・プレイのコツも掲載されているらしい。その記事はフランス語で書かれており、今のところ翻訳(英訳)文は公開されていない点に注意されたい
(訳注 : 手前味噌ですが、和訳文はこのサイトで公開済み)。
カウンター・ユニットのエラッタ問題以外では、戦闘システムが、少なくとも この小さな (ユニット数 400個弱の) ゲームには少し大袈裟だと
私は感じる。ほんのちょっとだけ、多めに機能するのである。恐らく、装甲効果と対戦車効果のサブ・システムは丸ごと省略できると思うし、ダイス修正やコラムシフトには、もっと別の単純且つ簡潔なシステムに融合できそうなのがいくつもあると思われる。カウンターのエラッタとは違い、この戦闘システムはゲームをブチ壊してはいないが、ゲームの進行を遅くしている。
これは良質なゲーム・パッケージだ。グラフィックは素晴らしく (プレイの邪魔にならない、癖の無いマップだ) 、戦闘システム以外のゲーム・システムは
この戦いの規模と状況に上手くマッチしている。もし この問題点が無ければ、これは優秀なゲームと言えるのだが。現状では、Kharkov
1943 はイイセンまで行ってるけど 惜しい出来のゲームである。
購入する価値はある。でも、エラッタ・カウンターを見つける心構えはしておくこと。
Fin
本記事掲載誌の Paper Wars 36号は、2000年7月に発行されました。
この非公式和訳文は、Omega
Games の許可を得た上で公開しています。
Copyright © 2008 Omega Games.
Copyright © 2008 T.Yoshida.
Translated
by T.Yoshida
Kharkov
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