10月21日(97年)の東京読売新聞の”「対立・討論」医薬分業”をお読みになりましたか?分業反対派(Dr.A先生)のご意見に対して佐谷圭一氏(現・日本薬剤師会会長)が「薬害を未然に防ぐためには分業が必要」と反論されています。分業派にとってはそれでもう充分と思いますが、”出しゃばり”の私(Dr.B)にもあえて発言させて頂きたく、討論形式のページを設けました。尚、Dr.A先生のご発言は新聞紙上からお借りいたしました。ありがとうございました。ここに深く感謝申し上げます。11月3日、薬剤師のyukapyさん(Ph.C)よりこの討論に対し、貴重なご意見を頂きました。ありがとうございました。討論に参加するという形で掲載させて頂きます
Dr.A)長い間私たちは分業が本当に好ましいかどうか、検討を重ねてきた。患者を対象にしたアンケート調査では、「薬は病院、医院でもらいたい」と答えた人が全体の66.4%、「薬局でもらいたい」は4.6%だった。分業への患者のニーズは、ほとんどないといえる。
Dr.B)確かにアンケートを採るとドクターから薬をもらいたいと回答する方が結構多い。私の経験ではそう答える方は「お任せ医療」のタイプが多いように思います。設問の仕方にも影響されると思います。2度手間になることを強調すれば誰でも「嫌」と答えるでしょう。無資格者の調剤の危険性を説明すれば逆に「院外処方を」と言うでしょう。アンケートの設問内容からドクターの考えを敏感に感じ取り、それに迎合する回答をする患者さんもいます。分業の意義を十分理解してもらってから、アンケートを採ると、きっと違った結果になると思います。私の場合は「医院で薬を」と答えた方は33%いましたが、そのあと私から分業の意義を説明した結果、99.9%の方が理解されました。
Ph.C)初回来局時に、分業システムの理解不足や院外薬局への不信感などから「病院でもらいたい」と答える方は結構いらっしゃいます。こうした患者さんの不信感は、投薬時の対応で解消可能です。ここで問題になっているアンケートですが、それには必ず母集団が存在しているはずです。Dr.Bがご指摘のように、その母集団や抽出の仕方次第で、数値は全く異なったものが得られるでしょうし、確率とはそういう学問であることを、どなたも十分ご承知と存じます。私もHP(お薬のお勉強会、休業中)上でアンケートを実施していますが、あくまでも参考程度の数値と捕らえています。お薬や分業に全く興味の無いような方が、私のHPにご訪問いただいているとは考えにくいからです・・・・・・・・。
Dr.A)薬害や副作用、食物との兼ね合いなどについても、「医師から」聞きたいという患者が多い。実際、医師も今日ではそうした説明にかなりの努力を払っており、「薬についての説明は薬局のほうが丁寧だ」という分業推進論は納得出来ない。
Dr.B)確かに、薬の説明を親切にそして詳しくするドクターが増えてはきましたが、まだまだ少数派です。多くの患者さんはドクターに薬の質問をするとしかられるとか、質問できる雰囲気ではないなどと言います。それに、自分のために処方を考えてくれたドクターに「その薬の副作用は大丈夫ですか?」とは聞きにくいものです。尚、下記はPh.CのHPの抜粋です。
患者さんの多くは、医師の前では「非常に物分かりのいい患者」を演じようとします。困っていても相談しない、嫌だと思っているのに口には出さない、悩んでいるのに平気な振りをする、、、そう言った患者さんの相手を数多くさせていただきました。「先生に何故言わなかったのですか?」→「悪い」or「言いづらい」等など返事は様々ですが、「このお薬はよく効くいいお薬だから、取り敢えず飲んでみて。」程度の発言では絶対に納得されていません。薬局で懇々と説明を求められます。「何に効くお薬?副作用は?相互作用は?これは?これも大丈夫か?こんなことは副作用として考えられるか??」などと、なかなか「お大事に!」と言わせていただけません。(薬剤師のyukapyさん:お薬のお勉強会より、HPは休業中) |
Ph.C)医療はチームなくしては語ることの難しい時代になっているのではないでしょうか?確かに医師も最近では患者さんへのインフォームド・コンセントを重視される方が増えてきていると思います。それは大変喜ばしいことであると思います。ただ「聞きたい=結果満足」までお付き合いできる医師がどれだけいらっしゃるか現実的に判断していただければ幸いです。 先日、ある患者さんが「主治医に他の病院でもらったお薬を見せたところ、いつも行っているかかりつけの薬局で見てもらって判断してもらいなさい、と言われました。」と自分の飲んでいるお薬を全部出してきたのです。あとで私がその方の主治医に連絡すると、その先生から「チームの一員としての責任と自覚を、今まで以上に、更に、あなた方に促したいからです。」とのお言葉を頂きました。我々も「頑張ります。」という気持ちになるものです・・・・・。
Dr.A)多剤投与も分業で防げるというが、最大の原因は患者が複数の医療機関を渡り歩くことで、分業なら防げる、というものではない。
Dr.B)勿論、分業だけで多剤投与が防げるものではありません。「医療機関を渡り歩く」の意味が「同じ病気で渡り歩く」というのであれば、多分、患者さんは気にいった一つの医療機関の薬しか飲まないでしょう。勿論、医療保険にとっては損失となりますが・・・複数の病気で複数の医療機関にかかるというのであれば、それこそかかりつけ薬局の出番です。重複投与、相互作用のチェックで薬剤が減るでしょう。
Ph.C)これに関しては、他剤併用の原因が患者さんサイドに存在しているかの如き印象を受けます。「ドクターショッピング」をされている方も決して少なくありませんが、他の医療機関でなければ診療科が病院内に無いという場合もあると思います・・・・・・・・。
Dr.A)県下の3500医療機関を対象に調査したところ、「すでに分業を行っている」が9.7%で、「行うつもりはない」が58.8%もいた。医師は、薬でもうけているので分業を望まない、という認識が一般にあるが、実際は分業したほうが医療経営は楽になる。つまり問屋やメーカーへの支払い分がなくなり、薬の在庫管理に煩わされることもなく、税率は下がり、院内薬局の人件費が減る。それでもあえて、「医師から薬局へと足を運ぶ患者さんの身になると」分業に踏み切れない、という医師が多い。この事実をぜひ理解していただきたい。
Dr.B)分業反対派の先生は二度手間のデメリットを必ず指摘されます。これは突き詰めれば「利便性が大切」か「薬の安全性を重要視する」かの問題だと思います・・・・無資格者による調剤は危険が大きいと思いますし、ドクターの処方ミスの可能性もあります。薬剤師によるダブルチェックはミス減らす上で欠かせません。「患者さんの身になる」のであれば、私は「利便性」よりも「薬の安全性」の方を取りたいと思います。
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Dr.A)いまの分業論では、日本の医療全体の上で好ましいかどうか判断する十分な情報が公開されていない。分業の場合、薬局側に異常ともいえる大きな点数配分がなされ、完全分業になると国民の総医療費の10%以上にあたる約3兆円の増加になるという試算もある。 例えば、一日100円の薬を7日分投与した場合、細かな計算は省くが医療機関なら1140円、院外処方せんで投薬を受ければ3110円。一回処方せんを出すたびに患者の窓口負担は大幅増となる。国民に対して、このような財政事情や、分業によって診療から投薬までの道筋がどう変わるのか、などの情報が分かりやすく公開された上で、分業の是非を問うのが本来であろう。患者不在、国民不在の分業論は受け入れられない。
Dr.B)これも「患者負担の増加を嫌う」のか「薬の安全性が大切」かということになると思います。現在、医療保険が赤字となっていて、総医療費を下げる努力は必要です。だからと言って「薬の安全性」を無視するわけには行きません。ところで、約3兆円の増加になるという試算は分業しても処方内容が変わらないと仮定した上でのものではないのですか?院外処方にすれば、薬価差を求めての多剤投与や高価な薬の処方が減り、薬剤費が減少すると言われています。最近、「言いたくても言えなかったひとこと・医療編」1997、ライフ企画(電話でご注文できます。TEL052-775-3120:定価¥1200+税+送料)を読みました。患者さんの切実な生の声が多数載っており医療人の一人として、教えられることばかりでした。その中のに次のような発言がありました。
私は貰っている沢山の薬のうち、痛み止めはもう要りません。と先生に言うと「いらなきゃ捨てて貰って結構です」と、またくれた。(131ページ)
風邪と言えば大量の薬が出される。なまけ者の患者は飲み忘れてゴミ箱行き。飲み込んだのは莫大な公的資金だった。(140ページ)
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もちろん、すべての患者さんにこのような処方がなされているわけではありませんが、医療費の「無駄使い」の例がここに少なくとも二つありますね。
ご発言に”窓口負担が2000円弱増える”かのような表現がございますが・・・・患者さんの薬に関する窓口負担は、「保険家族」の場合は院内で1140円の3割の340円、院外では3110円の3割で930円になり、その差590
円が院外処方の場合に高くなります。この試算では一日100円と低薬価の薬を処方したと仮定していますが、成人ではもっと高い薬のことが多いように思います。たとえば、抗生剤のセフゾンを一日3カプセルを7日分処方しますと薬代だけで2583円となります。これを低薬価の抗生剤のパセトシンに変更しますと(勿論パセトシンも効く病気であるという前提で)329円となり、2254円も減少します。窓口負担はこの3割の675円安くなり、院外処方でのアップ分の590円を吸収してしまいます。医薬分業すれば、このようなコスト-ベネフィットを考えた処方が広まり、薬剤費が下がると思います。
また、「患者不在の分業論」とおっしゃいますが、分業は「薬の安全使用」のためのシステムで患者さんのためにするものです。「患者不在」は当たらないと思います。
Ph.C)現状の医薬分業のネックは「患者さんの自己負担増である。」と指摘される医師は沢山いらっしゃるのではないでしょうか?分業の是非を議論する時、いつも問題になるのがこのことです。私も何度も医師や一般の方から「お説教」をいただきましたので、そのことについて少し触れさせて下さい。
Dr.Bがご指摘のように「cost -effctive」を意識された処方を再考察していただければ「自己負担増にはならない患者さん」も結構多いのではないでしょうか?当調剤薬局は処方による薬価差を意識していません。現行の薬価制度は近い将来変わるでしょうし、「Phamacoecomics 」を考慮に入れた処方によって自己負担の問題は解決できるのではないかと思っています。Dr.Bのご指摘された「セフゾン−パセトシン」は、患者さんの利益、延いては深刻な日本の医療費にベクトルを向けられている最たる事例ではないでしょうか?
医療費問題は何も日本に限った話ではありません。昨年(96年)の日本病院薬学会(仙台)での講演(Arizona大 J.
Lyle Bootman professor & 慶応大学医学部附属病院病院管理学教室 池田 俊也 先生)内容から知った情報ですが、アメリカにおいて、何らかの「Drug-related
problem (薬に関するトラブル)」により患者さんの自己判断で服用を中断、中止することがあります。そのため病気が悪化し、再検査、増薬等が必要になる場合には医療費が余分にかかります。それによって生じる年間支出の約6割は、医師や薬剤師の努力で薬のコンプライアンスを高めることによって、削減が可能であるということでした。その講演では最後に、「研究者のみならず、医療現場においても、正しい医療経済学の認識と実践が期待される。」と結んでいました。
Dr.A) 大学病院や大病院で分業が必要なら、患者は処方せんを、病院周辺の門前薬局ではなく、自分の住む地域社会の薬局に持っていくように指導してほしい。それによって、生活の場である地域社会に、かかりつけの薬剤師を持つことができる。そして日常生活で緊急の時には地域の医師にかかるだろうがその際、この薬剤師と連携することができる。これこそ分業のあるべき姿、「面分業」だ。 一方、地域社会の中小の医療施設では、分業は、患者の納得がいくように慎重に進めなければならない。必要に応じて分業する「部分分業」がよいと思う。
Dr.B)大学病院や大病院での「面分業」の大切さを、お認めいただくご発言と解釈いたしました。先生は「分業の意義」を、私と程度の違いはあるかもしれませんが、ご理解いただいているというふうに推察いたしました。「慎重に」でも、「部分分業」でもいいですから、それが少しづつ進展するよう願ってます。
Ph.C)面分業に対する考え方は同感です。最近では開業医の先生による連携を考慮されている地域もあると聞いています。個人的には「地域面分業」が最も理想と考えています。ある程度地域を絞った形での「多−多」の地域面分業は、患者さんの「二度手間」にかなり配慮出来るともに、地域による医師と薬剤師のチーム体型を確立し、より木目細やかな患者サービスの実践を可能にするのではないかと考えています・・・・・・・・・・。
Dr.A)いまの分業論は、「医師は薬でもうけてはならない。もの(薬)と技術を分離せよ」という論理だが、その背景には、日本的風土の中で育ったよい医療習慣を無視して、欧米のやり方に盲目的に追従している姿勢が見られる。分業で医療費が7%増加したドイツでも、必ずしも分業は評価されていない。 医療制度は国ごとに歴史も風土も違う。それを十分考慮した上で外国の方法を導入しないと、取り返しのつかない事態を招く。医師が患者と意思疎通を図りつつ、自らの裁量で投薬し、患者も二度手間や経費のかからない医療機関の薬剤投与という日本のやり方は理想的であろうと考える。
Dr.B)診療から調剤まで一人のドクターがする利点は確かにあると思います。しかしそれが必ずしも理想通り行かなかったのが現状ではないのでしょうか。医者が調剤も引き受け、しかもそこから利益があがったことが、いわゆる「薬漬け医療」の一因となったと考えられます。しかも多くの医院では薬剤師でない無資格者が調剤しているのが現状で、危険性の高いシステムです。キツーイ事を言うようで申し訳ありませんが、私は院内調剤は「日本的風土の中で育った”悪い”医療習慣」と考えています。
Ph.C)先ほどからの発言で、私は「分業絶対推進派」のような印象を持たれたかもしれませんが、私自身は案外そうでもありません。唯、ベクトルの先は常に患者さんに向けていたいとは思っています。「現行の医療体制には限界を感じている一人」である事は間違いありません。これからも更なる精進により、微力ではありますが惜しみない協力をしていきたいと思っています。
Dr.A先生、ここで先生のご意見に反論させていただきましたが、先生のお考えは一つの立派な見識として、ここに敬意を表します。私の考えに対してご意見がございましたらメール頂ければとても嬉しいです。そして、ここで再討論させて下さい。
読者の方で、この討論にご意見、ご感想ございましたら是非メール下さい。特に分業反対派の方、大歓迎です。お待ちしております。