医療機関側は患者さんの利便性の面から病医院のすぐ前に薬局を誘致しようと考え、薬局側もなるべく多くの処方箋を受け取るために門前に薬局をつくりたいと医療機関に働きかける。ここに双方の利害が一致し、全国に門前薬局が蔓延してしまった。だが、「門前薬局型分業の終焉は近い(1)&(2)」で述べたように情勢が変わり始めている。今日の新聞の経済欄に下記のような記事がありました。
1999年2月25日・日本経済新聞
「かかりつけ薬局」をめざす・ドラッグストア・調剤部門併設を加速ドラッグストア各社が相次ぎ、住宅地や商店街にある店舗で医師が発行する処方せんを受付する調剤部門の併設を進めている。院外の薬局向けに処方せんを出す病院が増えていることに対応し、主に店舗の近くに住む客を対象に安定した集客を狙う。客は複数の病院で診察を受けても同じ店で薬が買えるため、客の薬歴を管理して飲み合わせの悪い投薬を防ぐ「かかりつけ薬局」としても機能を果たす考えだ。
首都圏を地盤とするSJは来月一日、本店であるSE店に調剤コーナーを導入する。昨秋調剤事業を始めたSO店では一日に120枚以上の処方せんが集まるなど採算ベースに乗っており、「複数の病院に通院する患者の薬歴が蓄積できた」(同社)という。同店の店舗の大半は商店街や住宅地にあり、地域住民のニーズを集められると判断。現在5店で営業する調剤部門を来年春にかけ10店以上に拡大、その後も医薬分業率の高まりに合わせて開業ペースを上げる。関東全域に約350店を持つ最大手のMKも調剤部門の併設を加速する。(後略)
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首都圏では今後、個人経営の薬局とドラッグストア薬局が「かかりつけ薬局」という点で同一線上に並ぶことになります。前者の“錦の御旗”であった「かかりつけ薬局」が大手資本のドラッグストアに奪われかねない状況と言えるかもしれません。私はドラッグストアの調剤は必ずしも賛成ではありませんが、「かかりつけ薬局」を目指し、薬歴管理や重複投与、相互作用のチェックができるのであれば、理想的分業に一歩近づいたものとして歓迎したい。
調剤専門薬局の門前でのチェーン展開を苦々しく思ってきましたが、ドラッグストア業界からこのような動きが出てきたことは、経営戦略から見ても「かかりつけ薬局」の有利さがようやく認識されてきたということだろう。首都圏のように処方箋受け取り率が40%を越えれば面分業でも薬局経営を十分やっていけるということかもしれない。むしろそのほうが診療報酬の面で門前薬局よりも有利だということが賢い経営者に理解されてきたのだと思う。それと、患者さんのあいだで「かかりつけ薬局」の大切さが認識されはじめ、処方箋調剤を門前薬局から自宅近くの薬局に移動しはじめたこともその要因の一つであると考えられる。以上の状況の変化を逆の面から眺めれば、“門前薬局型分業”が経営的に不利であるとの認識が広まり、その“終焉”が近づいてきたとも言える。
今後、新規開局を考えている個人の薬剤師もその立地条件として、人の集まる所、交通の便の良い所、競争相手のいない所、需要の望める住宅地を重要視するようになるはずです。これらの条件は他の職種のお店と同じということです。そして、特に先の読める賢い方は、一医療機関のみに処方箋に頼る危険性と診療報酬面での不利を十分認識し、むしろ門前を避けるようになっていくものと考えられます。すなわち立地条件として、“医療機関からなるべく離れた場所”という条件が加わることになるはずです。今までとは正反対の条件ですね。さらに、既存の門前薬局の中からも「門前」から撤退し、「かかりつけ薬局」を目指してより有利な場所に移動するところも出てくるでしょう。
ところが、診療報酬でのかかりつけ薬局への誘導策が働かない分業形態があります。それは「逆門前薬局」です。複数の医院がグループで開院するケースが増えてきています。同一の診療ビルでの開院のケースもあります。これ自体はむしろ患者さんのためにはよいことでしょう。しかしここに薬局も加わった形でのグループ診療についてはどうでしょうか?薬剤師や医師、不動産業者、土地所有者が診療ビルや土地を用意し薬局の周りに医院を作る形態です。これを「逆門前薬局」と名付けましたが、本来の面分業=かかりつけ薬局とは少し異なりますね。薬局にとっては複数の医院から処方箋を応需することになりますので、診療報酬の面で有利でしょう。もし、それを意図した上でというのであれば、カシコイお人がいらっしゃるものだなぁと感心いたします。しかし、かかりつけ薬局として十分な機能は果たせるのでしょうか?この形態が経営面で有利とすれば今後増えてくる恐れがあります。実際、当石川県にもそのような動きがあります。面分業が広がり、かかりつけ薬局の大切さが地域住民に認識されたあかつきにもこのような薬局が生き残れるのかどうか注視していきたい。(99/2/26)