「門前薬局」型分業の終焉は近い?(2)



<(1)より続く>


これまでの薬局の診療報酬点数の動きについて振り返ってみますと、平成4年の改定で内服調剤料が日数倍から定額になりこれにより内服調剤料が2割以上減少。平成6年には内服薬の算定制限、内服剤10種以上の処方箋では薬剤料10%カット、処方箋受付月5000回以上の大型門前薬局の調剤基本料引き下げなどがあった。平成8年に処方箋受付月4000回以上の門前薬局は調剤基本料がさらに大幅に下げられ、面分業の薬局より28点差がつき非常に不利になった。そして、規模の小さな門前薬局でも面分業の薬局よりも10点の点数差が設けられ、しかも基準調剤加算20点も門前薬局では算定できない。



さらに、平成10年4月から薬価差益がほとんどゼロになり医療機関側と同様に薬局の経営にも大きく影響してきている。医療機関は処方箋の発行という薬価差益に代わるものがあるが、薬局側にはない。その上、昨年の9月の薬剤料の別途負担が決まってから患者数が全国的に減少、それに伴い処方箋枚数が減り門前薬局の経営を直撃している。しかも、今後、分業が進展した時点で厚生省は内服調剤料など技術料をさらに下げてくる可能性が高く、また門前薬局規制もさらに強化するかもしれない。いずれにしても、門前薬局は今後も診療報酬の面では優遇されない方向にあり、その前途はかなり不透明になったと言わざるを得ない。

そのようなリスクを見越し、次のような経営感覚に優れた(?)薬局経営者も現れている。東北地方の都市部で整形外科診療所を開業するH氏は近くのI薬局に診療所の隣接した場所に新たに薬局を開設してもらった。ただし、その際、薬局からリスクを背負わされるとの理由から2つの条件を提示されたという。一つは「処方箋に基づく薬局側の収入が最低でも月X万円を超えること」もう一つは、「2年間無利子でY万円を預り金として提供すること。なお月X万円を達成した場合のみこの中から月Z万円を返還する」というものだ。そして最近になり、I薬局からの注文がエスカレート。たとえば、(1)投薬日数を短縮し毎月の処方箋枚数を増やすこと、(2)在庫のある薬を優先的に処方することなど(a)。



このような取引は法的にも認められておらずとても危険なものです。その上、薬局経営重視の姿勢はサービスの低下につながり患者離れの原因となる恐れもある。このケースについても、「面分業」で処方箋発行しておれば、上記のような危険を背負わなくても良かったと思われるのだが・・・・・。

門前薬局をつくってみたら薬剤師の信頼性や資質、対応に問題があった場合、処方箋を出し続けられるでしょうか?あるいは、他の薬剤師に替わってくれなどと言えるでしょうか?次のようなケースが実際ありました。N県のJ小児科医は処方箋料という安定した技術料を確保できると経済的理由で、開業を決意した時点から、マンツーマンで投薬できるK薬局を選定した。土地の確保も共に行うなど、厚生省の指導に抵触しない範囲で薬局側と密接な関係を作るように心がけたとのこと。ところが、薬局がチェーン展開を積極的に開始。複数の店舗を持つと、スタッフのローテーションが始まり、相手の顔が分からない状態に陥った。また、外用薬のシールや投薬瓶に関する要望も聞き入れてもらえなかった。さらに、J小児科からわずか数kmしか離れていない所で競合する小児科医院が開業。その近隣にあるK薬局のチェーン店がその医院の処方箋も一手に引き受けるようになり、仁義に反する(?)とのことでついに処方箋の発行を停止。ところが、院内調剤にしてみたら処方箋料の分、収益がかなり落ち込んだとのこと。大変嘆いておられる(b)。

この事例のようにスタッフのローテーションはチェーン薬局ではよくあることです。それに、始めから「面分業」にしておれば、競合する相手がなにをしようとも分業を続けられたはず。「厚生省の指導に抵触しない範囲で密接な関係を作った」ということですが、皮肉にも指導以前の問題で内部崩壊した例です。こういったことも門前薬局型分業に常に潜んでいるリスクです。



医薬分業はそもそも処方のダブルチェック、重複投与や相互作用のチェック、アレルギーの薬歴管理、服薬指導、副作用などの薬剤情報提供、副作用のモニタリングなどを目的としたもので、患者さんを薬の副作用から守るための制度です。そのためには薬を住まいの近くの薬局でもらう「面分業」であるべきです。門前薬局では分業の目的を果たせません。患者さんや地域の住民から「なぜ門前に薬局が?」と不信感を抱かれ、かえって医院の印象を悪くする恐れもあります。そして、場合によっては経済的にも医院と薬局は一体と見なされる可能性もあります。分業のせいで今まで築き上げた医院の信用に傷が付いては取り返しがつかないと思います。

また、調剤過誤の問題もあります。薬剤師といえども調剤ミスは起きます。門前薬局で薬剤事故が起きた場合、患者さんは薬局を医院と一体と見ていますので、薬局のミスは医院のミスと見なされる恐れがあります。一方、面分業であれば患者さん自らが選んだ薬局ということになりますので、薬局だけの責任と考え、医院への影響は最小限におさえられるはずです。

医療機関は薬局を指定し誘導することは法的に禁じられています。その上、最近のマスコミ報道により、患者さんのあいだではかかりつけ薬局の大切さが浸透しつつあります。従って、他の薬局に処方箋を持っていくケースが必ず出てきて、対応に苦慮します。その場合、地元薬剤師会の協力を取り付けてなければ、薬の備蓄不足のため患者さんに迷惑がかかり、結局は院外処方箋への理解が得られなくなるでしょう。

(門前薬局についてはいろんなご意見があると思います。読者の皆様より反論や異論、ご叱責お待ちしております。)98/12/28

<参考資料>
1)日経ヘルスケア1998年4月号p75-78
2)メディカル朝日1997年12月号p62-65

『「門前薬局」型分業の終焉は近い?(1)(2)』は石川県医師会誌「石川医報」に投稿しました。