「門前薬局」型分業の終焉は近い?(1)


院外処方箋を発行する場合、医院のすぐ近くに、できれば隣接して薬局があればとお考えになるドクターが多いと思います。この点について、少し考察してみたいと思います。医薬分業には2度手間というデメリットがあり、これを少しでも減らそうと思い、医院からなるべく近くに薬局を誘致しようと考えたくなるのだと思います。確かに、こうすれば2度手間は少しは解消されるでしょう。しかし、このこのタイプの分業には「落とし穴」はないのでしょうか?

この門前薬局型分業では医院と薬局は機能的にも経済的にも一種の“運命共同体”を形成することになります。好むと好まざるに関わらず薬局の経営状態についても責任を持たざるを得ないということです。患者数が伸び経営的にも安定し、お互いに信頼しあえる仲であれば表だった問題は生じないかもしれません。しかし、万が一、患者数の減少があった場合や新規開業で患者数が伸びない場合、何かの都合で休業、廃業せざるをえない場合などに薬局も同時に苦境に立つということです。初期投資が大きければ経済的破綻ということもありうるでしょう。そうなれば被害は薬局側だけにはとどまりません。一方、薬局側も利益が上がらない場合でも医院と運命を共にする覚悟が必要です。簡単には撤退できません。もっとも、チェーン薬局の場合には店を閉めてしまうケースがあるのも事実で、残された医院は院内調剤に戻すこともできず、立ち往生してしまいます。



次のような例がすでに起きています。関東地方の中核都市で内科・整形外科医院を開業するA氏は門前薬局から、年間数百万円の赤字が出るのでもう手を引かせてもらいたいと言われた。分業に踏み切って3年目のこと。同医院の処方箋枚数は1日平均40枚ほど。院内調剤に戻すことも考えたが、分業した際に調剤室のスペースを利用して待合室を広げたため、簡単に元に戻せないという事情がある。結局新たに薬局を探すしかないのだが、まだ見つからないという(a)。このケースでは新たに薬局が見つかったとしても状況は同じでしょう。新しい薬局にまた「やめたい」と言われるのがおちです。はじめから「面分業」での処方箋発行をしておればこんなトラブルは起きなかったはず。

さらに悪化した次のような例もあります。平成9年3月末、関西圏H市のB耳鼻科診療所でのこと。C門前薬局より電話あり、「支店の方は経営状態が悪いため3月末で閉めますが、本店の方は十分やっていけますので心配しないでください。」その1週間後「こちらの薬局もやっていけなくなりました。誰か薬局をやられる方を探してください。」その3日後、電話で突然に「今日の夕方から薬局を閉めます。」と。相手方の弁護士が言うには「自己破産は予告もなしにやるものであって、そうすることで債権者による混乱を防いでいる。」と。診療をしながら従業員に指図して、院内処方に変更するための薬の注文、調剤要員の採用。診療後には卸各社への事情説明。そして10年ぶりの院内調剤のため、投薬や窓口支払い、コンピュータの打ち込みなどの混乱あり(b)。その上、院内調剤に戻したための経済的ダメージもあったものと想像される。



破産の原因は支店の門前薬局経営が行き詰まったことにあったとのこと。その支店はB耳鼻科より約10分ほど離れたD整形外科の門前薬局。B耳鼻科は患者数も多くその門前薬局は経営的に安定していても、D整形外科がそうでなければこういう結果にもなりうるということで、チェーン展開する門前薬局の弱点です。

B耳鼻科医は一方的な被害者のように見えますが、そもそも初めからこのようなリスクも考え「面分業」で処方箋を発行しておれば起きなかったことではなかろうか。たとえ応需薬局がひとつなくなったとしても被害を最小限にとどめ、分業を続けることができたはず。薬局についても同じことが言えます。門前に開局せず、複数の医院からの処方箋も応需する、大衆薬の販売もするなど町の薬局としての機能も果たせばこんなことにならなかったかもしれない。また、一つの選択肢としてB耳鼻科とD整形外科の中間の位置にかかりつけ薬局を目的として開局するという方法もあったのではなかろうか。  

この2つは極端な例かもしれませんが、経済的に成り立たなくなった門前薬局が増えていることは事実のようです。最近届いた電子メールにもそれが伺えます。東京のE内科開業医「知り合いの門前薬局チェーン経営者は現在5店舗に手を広げました。しかし、診療報酬による門前薬局規制を無視するかのような拡張作戦が裏目に出て、卸への支払いに窮するようなありさまです。」横浜にある門前薬局のF管理薬剤師「運営会議では経営者から毎回のように『薬価差の減少と患者の受診抑制のせいで経営がとても厳しくなった。なんとかならないか。』と言われ困っています。それなりに頑張ってるつもりなんだけど・・。現場でできることは薬剤情報提供加算をとることぐらいです。お陰で今年の冬のボーナスは前年を下回りそうです。」東北地方で門前薬局チェーンを営むG薬剤師「薬価差益でようやく利益を出していたのにそれがなくなり、経営がとても難しい。処方箋のみではやっていけないので大衆薬の販売に活路を見つけるべく勉強中です。」



保険点数による門前薬局規制がここへ来てかなり効いてきているようです。勿論、不動産価格や人件費は首都圏と地方ではかなりの違いはありますので全国一律には言えませんが、点数設定が不利な門前薬局から経営困難に陥ってきたことは間違いなさそうです。<「門前薬局」型分業の終焉は近い?(2)に続く>

<参考資料>
a)日経ヘルスケア1998年4月号p75-78
b)大阪保険医雑誌1997年11月号p34-36