兵庫県警は姫路市の診療所「S胃腸科外科」診療所長と看護助手5人を保健婦助産婦看護婦法違反などの疑いで書類送検した。 同外科では11月4日(97年)、事務長が薬剤師法違反容疑で逮捕されたばかり。 97.11.27毎日新聞地方版 |
下記の文書を入手しました。おそらく上記の事件を受けての「通達」と思われます。
平成10年3月31日 会員各位 姫路市医師会 会長 上野一也 医療機関における調剤行為について (ご通知) 標記の件について、次のとおり兵庫県保健部薬務課より姫路市保健管理課を経由して、姫路市長名にて通知がありましたので、ご通知致します。 尚、この件については、1/22の第20回理事会、第5回理事部長会でご報告し、速報にてもご連絡致しております。 記 社団法人姫路市医師会 会長 上野 一也様 姫路市長 堀川 和洋 (保健管理課) 医療機関における調剤行為について 標記の件について、別紙のとおり通知がありましたので、送付します。 (写) 事務連絡 平成9年12月26日 姫路市薬務課主管課 御中 兵庫県保健部薬務課 医療機関における調剤行為について みだしのことについては、平成9年12月2日付け医第1403号の「医療機関に対する指導監督の徹底について」で保健部長から通知申し上げているところです。 医師または歯科医師が処方箋を発行した場合の調剤行為は、薬剤師法第19条及び同法第23条で医師または歯科医師が自己の処方せんにより自ら調剤を行う他は、薬剤師が行わなければならないとなっております。 つきましては、上記の場合の取り扱いについて、貴市内の医療機関に対して周知等いただきますようお願いします。 (参考) 「薬剤師法関係」 第4章 業務 (調剤) 第一九条 薬剤師でない者は、販売又は授与の目的で調剤してはならない。ただし、医師若しくは歯科医師が次に掲げる場合において自己の処方せんにより自ら調剤するとき、または獣医師が自己の処方箋により自ら調剤するときは、この限りでない。 一、患者または現にその看護に当たっている者が特にその医師または歯科医師から薬剤の交付を受けることを希望する旨を申し出た場合 二、医師法(昭和23年法律第201号)第22条各号の場合、又は歯科医師法(昭和23年法律第202号)第21条各号の場合 (処方せんによる調剤) 第二十三条 薬剤師は医師、歯科医師または獣医師の処方せんによらなければ、販売または授与の目的で調剤してはならない。 2、薬剤師は、処方せんに記載された医薬品につき、その処方せんを交付した医師、歯科医師または獣医師の同意を得た場合を除くほか、これを変更して調剤してはならない。 追記 尚、理学療法は(牽引、超音波、ホットパック等)は医師の指導の下、OT、PTまたは看護婦が施行するようにして下さい。 |
この文書を読むと姫路市医師会は会員に、(1)医師自らが調剤する(2)薬剤師を雇う(3)院外処方せんを発行する、のいずれかを選択するように言っていることになりますね。でも実際はどうなるのでしょうか?・・・・・・・今まで通り「みんなで渡れば恐くない」・・・・・・・・・?
今日まで下記の「2)3)4)の会話」を信じて、全国の多くの診療所では「危険な道路(?)を渡ってきた」のですが・・・・
1)ある県のお役人との会話
「開業医では事務員が調剤している場合が多いのですが、法律的には・・・?」「当方では、医師自身が調剤しているという風に認識しています。法律上、事務員が調剤してはいけません。」「あのー、ほとんどの開業医は事務員が・・・・」「こちらとしては、先生が調剤していると思っているわけで・・・」「ジャー、患者さんから訴えがあった場合は・・・?」「当然、監査にはいりますね。そして、この前の某県の放射線技師法違反と同じ結果になるでしょうね。」「それは怖いですね」「だから、院外処方箋にするなどして、ちゃんとしておいた方がいいですよ。」
事務員の調剤は少なくとも表向きは認めていないということらしい。「表沙汰にならなければ、このままで黙認するが、患者さんや、マスコミから通報があれば動かざるを得ない。」ということになる?
そこで日経「判例に学ぶ医事紛争予防学」をひもといてみたところ、今までに2医療機関が「無資格者による調剤」で摘発されていました。刑事事件となるそうです。コメントとして、医師サイドは薬剤師法19条但し書きの要件の遵守につとめる努力が求められるとのことです。
2)ある医師会の事務方との会話
「医者の監督下であれば、診療所では無資格者の調剤は認められています。」「あのー 薬剤師法では・・・・」「薬剤師法は薬局の法律であって、医者には適応されません。」「????・・・ レントゲンの場合は無資格者はだめですよね。」「技師法は医者に適応されます。」(注:この点は本当かどうかは?です。)「患者さんから訴えられたら、医師会は守ってくれますか?」「監督下と言うことで大丈夫です。この点は日本医師会とも詰めてありますので心配ありません。」「県のお役人はだめだと・・・・」「役人はそう言うものです。」「・・・・・・」
3)日経「判例に学ぶ医事紛争予防学」の著者(司法関係者)との会話
「あの2件とも不起訴になりました。それに、医者の監督下であれば無資格者の調剤は大丈夫です。警察も裁判所も動きません。医者の指導の下での調剤は認められているのですから。調剤する者と医師が同じ建物にいれば{指導下}ということになります。」と明快な?お答え。
4)お国のお役人との会話
「お国は無資格者の調剤を認めているのですか?」「無資格者の調剤に対して訴えがあった場合、どうするかは警察、裁判所が決めることです。」「今後のお国の方針は?」「無資格者の調剤は確かに形式的には法律違反ですが・・・・・・・公益(医師会の益?それとも法律通りにすると現場に混乱が生じ、2次的に患者さんに迷惑がかかるから?)に照らしてということで・・・・・」
さて、今回逮捕された事務長さんは起訴されるのでしょうか?・・・・・・・・・・・・たとえもし(幸いにも)不起訴となったとしても、今回の事件でこの診療所の受けたダメージは相当大きいでしょうね。医療機関は「信頼性」が第一ですので・・・・・。一度失った信用は取り戻すのは難しい・・・・。それに職員の労働意欲は当然低下するでしょうし、辞めていく人も出てくるかもしれません。イメージダウンは職員の新規採用にも影響するでしょう。そして最も心配な点は、所長である医師自身の精神状態です。余程のお人でなければ、落ち込んだり、やる気をなくしたりするでしょう。今まで医師という職業に「誇り」を持っていたとすれば、そのダメージはより大きいものになるでしょう。医師会の言うことを信用した上での「調剤」ですので、本当にお気の毒です。その上、「看護婦法違反」の追い打ちまでかけられてしまい・・・・・元通り立ち直れるよう心より祈っております・・・・・・
この「薬剤師法」については乾宣子氏のHP「お医者さんの薬に関する法律講座」がとても参考になります。それによりますと、この法律が実際にはかなりねじ曲げられ、拡大解釈されて運用されているようです。上記の「会話」のようにたとえ医師会やお国や裁判所が「大丈夫」と言っていても、「県」のお役人や、警察は法律通り動かざるを得ないのでしょうね。そうだとすれば、たとえ、地検が「不起訴」と判断するとしても、今回のように「逮捕」「書類送検」されることになり、それだけで医療機関にとっては十分致命的です。
事務長さんは予想通り不起訴となりました。とりあえず良かったですね。(98/5/15)