信じると非常に危険な医薬分業



メディカル朝日98年7月号を診療の合間に拾い読みしていたら、「信じると非常に危険な医薬分業」というタイトルが目に入ってきた。分業に対する、よくある誹謗中傷だろうと読み飛ばそうとしたところ、なんと私の名前が出ているではないか。確かに、97年8月にその「医見・異見」コーナーに「医薬分業は面分業で」という内容を投書していた。今頃になって反論が出るなんて・・・・著作権の関係で全文は掲載できませんので、要約を記します(98/7/7)。私の反論(メディカル朝日98年9月号に掲載されました)もお読み下さい(98/7/9)。





東京都江戸川区の開業医の匿名氏の意見は、医薬分業(平面分業=机上の空論)の危険性の面について一言、言っておきたい、で始まります。氏は5年前の開業時、開業予定地近くの2軒の既存薬局に処方箋を受け付けられるか確認の上、それらの薬局を中心に基本的には平面分業で開院した。ところが疑義照会の内容から薬剤師は薬の基本的なことを知らないことが分かり愕然としたとのこと。そして、調剤ミスと思われることが年に2−3回ほどあったと。「さくら」を使って服薬指導をチェックしたところ、薬剤服用歴や、薬剤アレルギーについて何も聞かれなかった。さらに、東大の内科と歯科医院と氏の医院で解熱鎮痛剤(バファリンとボルタレンとブルフェン)が3重複で処方され、当の薬局で調剤されていたが、それに気付いたのは匿名氏であったとのこと。現在は知人に近くで開局してもらい分業を続けている由。その時、薬剤師会の強い抵抗があったことはいうまでもないと。



メディカル朝日「医見異見」 「信じると非常に危険な医薬分業」に反論

吉田均(よしだ小児科クリニック、石川県)

メディカル朝日97年8月号の「医見異見」コーナーでの私の発言、「医薬分業は面分業で」に対して、匿名氏より「それは信じると非常に危険な分業だ。机上の空論だ。」との貴重なご意見をいただきました(メディカル朝日98年7月号)。興味深く拝読いたしました。おっしゃる通り勉強不足、経験不足の薬剤師の存在は認めますし、そういう薬剤師であればご経験されたような“危険な”調剤も起きうるでしょう。 

しかしだからといって、面分業すべてがだめかというと私はそうは思いません。全国で、面分業で立派に日々お仕事している薬局は多数あります。そのような薬局では重複投与、相互作用のチェック、薬歴管理をきちんとなされています。したがって、一つの事例からすべてが危険だと普遍化してしまうようなご意見には疑問を感じます。

氏のお考えでは「面分業が危険」ということですので次の選択肢としてマンツーマン分業ということになるかと思います。しかし、このタイプの分業は逆にむしろ弊害が多いと言わざるを得ません。薬局が医院の前に出ただけで、重複投与や相互作用のチェック、薬歴管理ができない、すなわち医薬分業の主たる目的が得られません(ホームページ「薬剤師の視点」)。今回起きた重複投与の見逃しはシステム的にはマンツーマンの方が起きやすいのです。しかも、この分業は癒着が生じやすく、現に某地域ではマンツーマン分業=リベート分業と言われています。このような薬局では、服薬指導がいい加減であったり、疑義照会が全くなされなかったり、他の医療機関の調剤は断ったり、薬剤師が処方医にばかり目が行き患者の立場に立った服薬指導ができないなど指摘されています。

「能力のあると思う薬局を医師の方から指名できず困ることも多いのが現在の医薬分業システムだ」とのご意見ですが、そんな窮屈な状態にした原因は、実はこのマンツーマン分業なのです。癒着を阻止するためやむを得ずできた決まりですから。 



町の薬局は本来処方箋を受け取り、調剤するためのモノです。薬剤師の経験不足の原因は今まで処方箋を発行してこなかった医師側にもあります。そして今頃になって医師側の経済的都合で処方箋を発行し始め、勉強する猶予も与えず「だめ」、「危険」の烙印を押してしまう。ちょっと身勝手すぎませんか?面分業には立派な目的理念があります。それを達成するために、全国の薬剤師は日夜勉強に励み、経験を蓄えているところです。発達段階にあると言えます。それなのに「非常に危険な医薬分業だ」とばっさり切り捨ててしまうのはいかがなものでしょうか?失敗の経験を積んでこそ信頼できる薬剤師になれると思います。医師もそうじゃないですか? 

薬剤師の勉強意欲をそぐような言動や行為(「さくら」を使うなど)はすべきではありません。ほとんどの薬剤師は遠慮がちに疑義照会をしています。その時の処方医の言動によっては次からは怖くてできなくなってしまいます。どのような問い合わせにも優しく親切に答えるべきでしょう。そうでなければチーム医療はできません。初めはトンチンカンな質問もあるかもしれません。医師もそれを繰り返して一人前になったのですから。それが経験というものではないでしょうか?

もちろんバファリンとボルタレンとブルフェンの3重複処方はとても危険で、見逃した薬剤師は二度と起きないように大いに反省すべきです。ただ、もしかしたら今までの経緯から疑義照会したくても処方医に話すこと自体が怖くてできなかった?ということがあったかも・・・・あくまで文面からの推測ですが。気軽に質問のできる医師であればこんなことが起きなかったのではとも考えてしまいます。医師の謙虚な態度が薬剤師を育て、最後には医師を助けてくれることになると私は考えています。