“医薬分業は保険財政が赤字の点から好ましくない!?”

医事新報に載りました私の『「医薬分業を改めて問う」に反論』に“質問状”届きました。


江野川義文(医師・医療医学戦略研究家)
はじめまして。先生の『「医薬分業を改めて問う」に反論』を拝見しました。力強いご意見に、日本の医療も決して暗くはないなと思わずにいられませんでした。勿論、長島道夫先生の「医薬分業を改めて問う」も読みました。私はどちらかと申しますと、長島先生の意見に同情的です。
第一に、先生は「負担が増えないことにこしたことはないが、経費よりも薬の安全性のほうを重要視すべきではないか」と述べられていますが、少子高齢化社会の急速な出現とそれの伴う経済成長の停滞(a)が、命に直結した経済的問題を私たちに突きつけようとしている今、「安全」と同等に「経費」の問題も重要だと思います。経費なくして安全も実現できないと思います。成長する経済から経費が湧いてくる時代は終わったと思います。

<参考資料>(a)西村周三「医療と福祉の経済システム」ちくま新書


吉田均 

医事新報社経由でお手紙いただきました。私ごときの発言に対し、貴重なご意見・コメントいただきまして、誠に恐縮しております。反響があるということはとてもうれしいものです。ありがとうございました。

先生からご指摘いただきました点はいずれもごもっともなことだと思います。私の考えは医師の間ではかなりの少数派に属するモノだと思っています。むしろ、先生のようにお考えになる方が大部分だと思います。にもかかわらず、少数派の意見にも耳を傾けようという先生の姿勢には敬服いたします。

「経費」の問題については私も先生と同様とても重要な問題だと思っています。医療保険の赤字に関しては少子高齢化社会や経済成長の停滞がその原因だとのご指摘、その通りだと思います。

ただ、その他のもっと大きな原因を忘れてはいけないと思っています。といいますのは、医療に関わる人、特に我々医師が医療保険を大切に使ってきたかと問われれば、「否」としか言えないように感じています。薬価差益を求めての薬の過剰投与、薬価を下げれば高価な新薬やゾロ新へのシフト、また最近は効果のない脳循環代謝改善剤を漫然と処方し続け1兆円もの無駄使い、薬についてだけでも反省すべき点が多いと思います。入院や検査についての無駄遣いもいっぱいあります。無駄な医療をなくすだけで「赤字」の問題は大方解決するとさえ私は考えています。



しかし、西村周三氏らの指摘があるにも関わらず、日本医師会やその他の医療団体から「医療保険の無駄使いは止めよう」という声はほとんど聞こえてきません。そのような状況下で聞こえる声は「患者が減った、経営が苦しい、何とかして!」と医療機関の収益を増やしてほしいという声ばかりです(参照b)。無駄使いに関しての発言は唯一「薬局の費用は無駄で、必要ない」と自分の懐の痛まない点についてのみです。自分の無駄遣いをそのままにしておきながらこのように発言するのは、少なくとも私にはとても恥ずかしくてできません。業界(医師会)エゴと言われても致し方ないと思います。 

患者さんを診察し、薬を処方することは我々医師にとって当たり前のことになっていますが、薬剤師が処方箋を応需して調剤することも同様に「当然」のことです。そのためにこそ薬剤師という職業があるわけですから。しかも、このことは医師法や薬剤師法にきちんと明記されています。医師は処方箋を書く義務があり、また、患者さんから特に求められない限り、そして癌を告知してないなど特殊なケース以外は、調剤してはいけないことになっています。勿論、無資格者による調剤も禁じられています。しかし、実際は医師に都合のいいように法をねじ曲げ、拡大解釈して、多くの診療所では無資格者に調剤させています。これをそのままにしておいて「医薬分業は医療費の無駄遣い」と言われても私には納得できません。もし、そのようにご発言したいのであれば、最低条件として、各診療所で薬剤師を雇うべきでしょう。(98/12/20)

参考資料b:“医療費抑制に逆行”日本経済新聞98年12月23日

薬剤費の窓口負担は医療費抑制を目的に昨年9月、導入したばかり。しかし「通院を控える患者が増え、医療機関の経営が圧迫された」と医師会は主張し一年もたたないうちに自民党に廃止を要望。来年7月から70歳以上全員の薬剤費負担免除で妥協が成立。免除の穴埋めのために1270億円は国民にツケとなって跳ね返る。