医薬分業「私的考え」

医薬分業に対する私の個人的な心情です。そのおつもりでお読みただければ幸いです。

病気を治すことが医者の本分ですが、今の時代は単に「治ればよい」というだけでは患者さんは満足しませんね。その過程も重要です。しかもいかに頑張っても治らない病気もありますので、患者さんとそのご家族の納得の上での治療というものが大切だと思います。私は医薬分業をその重要な一環と位置づけています。それに病気を治す医者が病気を作って(医原病)は患者さんに言い訳が立ちませんね。たとえ、多くの患者さんを治療したとしても、一人でも恨まれるような結果になっては本当に申し訳ないし、そのような患者さんのことは何時までも悔やまれ、脳裏から離れないものです。願わくば、すべての患者さんに喜ばれる医療をしたいものです。そうすれば医療に携わる者として仕事の充実感、満足感が味わえますし、生き甲斐も得られますからね。


薬物治療というものは的確なものであってもある程度の危険性を伴うものです。副作用は千人に一人、あるいは一万人に一人の割合で確実に誰かに起きているわけです。私の患者さんにいつ起きないとも限りません。副作用をゼロにするには薬を使用しない方法しかありませんが、これでは医者の職分を放棄したことになります。従って、副作用を初期の段階で発見し、重篤な症状になる前に服薬を中止する方法しかありません。それには患者さんに副作用の内容を理解してもらう事が必要と考えています。そうすれば副作用の早期発見につながるからです。それに、患者さんには知る権利というものがありますし、納得できなければその薬を拒否する権利もあります。なぜなら、薬もそして病気そのものも患者さん自身のものなのですから。私はそのように思っております。


病気の治療に多くの薬を用いるということは、そのいずれもが有効でないことを意味する。

ドクターズルール425(医者の心得集)クリフトン・ミーダー著・福井次矢訳、南江堂


そして、薬の説明は薬剤師にしていただくのが一番と考えています。第三者からの説明の方が私自身から聞く説明よりも患者さんの受ける安心感と信頼度が高いだろうと思うからです。この点に関して異論もあるかと思いますが、私は次のように考えています。診断から治療そして薬の説明まですべて一人の医者がするということは、たとえそれが正当なものであっても、患者さんが医療に対して若干の疑念を持っていた場合、「客観的な説明でないかもしれない」と感じられる恐れがあるということです。医薬分業が西洋で確立したのは、一人の医者にすべてを任せる危険性に感じたからではないでしょうか。きちんとインフォームドコンセントの出来るドクターであればそれはそれでいいんでしょうが、温情父権主義的医療の場合は都合のいいことしか説明しないという場面もあるかもしれませんし・・・・。それに、患者さんの立場になると、処方した医者には薬の質問はしにくいということもあります。日本人は遠慮深いので・・・。

処方ミスや調剤ミスはあってはならないことです。飲み合わせの悪い薬やアレルギーのある薬も処方してはいけません。しかし注意していても私も人間ですのでノーミスというわけにはなかなかいきません。ミスを減らすにはやはり薬の専門家のチェックが重要です。上田薬剤師会の調査(1989,9月)で15の薬局の1ヶ月の処方箋1万692枚のうち処方箋通り調剤して渡した場合、副作用が出る恐れのあるケースは0.84%に当たる90枚にのぼったということです。かなりの数値ですね。誰にもhuman errorは避けられません。航空機事故を防ぐためのfail-safe (安全装置)の思想が医療の現場に必要ではないでしょうか。私にとっては薬剤師さんがその役目を果たしてくれるはずです。


そして、更に無資格者による調剤もやはりかなり危険なものではないかと思っています。薬理作用を熟知した上で調剤するのとそうでない場合との違いはとても大きいのではないでしょうか。私の場合は分業する前に、ある中学生の患者さんに抗テンカン剤、デパケンの調剤ミスで眠気と足のふらつきの副作用が出てしまいました。明らかなミスで患者さんとそのご家族にどう言えばよいのか頭の中が真っ白になりました。ともかく事実をそのまま説明し、謝るしかありませんでした。ただ幸いなことに、大事に至らず服薬中止のみで回復しましたが・・・。この時は命に関わる副作用ではありませんでしたが、今後、もっと恐ろしいミスが起きる可能性を思い、薬剤師のいない不安を強く感じたものです。



「副作用のことを心配していては治療できない。医療にはリスクは付き物なんだ。」と言われるドクターも多いのではないかと思います。特に重症の患者さんの治療にあったている方には・・・。確かにおっしゃる通りです。私も医者になりたての頃はそのように考えていました。しかし、年とともに用心深く、より慎重になってきました。それにはいくつかの理由がありますが、いろいろ多くのことを経験した事が一番影響していると思います。そして、私の求める「安心医療」ためには薬剤師の手助けが是非とも必要だったのです。


薬で患者の気分が悪くなったら、投与を中止し、代わりの方法を見つけなさい。

ドクターズルール425(医者の心得集)クリフトン・ミーダー著・福井次矢訳、南江堂