第三者機関主義ケアマネジメントについて



caremanager as a third party









最終更新日 : 2016年11月19日  (次回定期更新予定日:2016年12月05日)


このページは、第三者機関主義ケアマネジメントに関するページです。






2016.11.19.SAT

 富山総合福祉研究所所報掲載のコラム「時速30kmの福祉」で関連する内
容の文章を発表しましたので、この欄にも転記します。尚、同コラムはネット
上でも公開しています。

「時速30kmの福祉」


(以下「時速30kmの福祉(第183回)」からの引用)

時速30kmの福祉(第183回)

 11月18日付のインターネット内のあるコラムで、「ケアマネジャーを介
護事業所から分離させよ」と題する文章が掲載されました。執筆者は日沖博道
さんという方で、経営学の視点からこの問題に関心を持たれたご様子です。著
作権侵害になってはいけないので、以下にアドレスを引用するに止めます。


ITmediaビジネスオンライン
日沖博道「コラム:ケアマネジャーを介護事業所から分離させよ」
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1611/18/news045.html


 日沖さんは、囲い込みが横行している日本のケアマネジメントシステムの欠
陥を厳しく指摘し、早急に手を打たなければ財政破綻を招くことになると警告
しています。その問題意識はとても共感できるのですが、制度の理解に若干不
正確なところがある他、運用面の実態についても十分調査をされていないため
か、結論として述べておられる箇所にいくつかの問題があります。広く読まれ
ているコラムだと思いますので、誤解が拡がらないようにするためにも、以下
にいくつか述べておきたいと思います。


(1)「ケアマネジメントの独立」と「ケアマネジャーの独立開業」は同じで
    はない

 日沖さんは、囲い込みが生じる原因を「ケアマネジャーが介護サービス事業
所に所属する『雇われ人』であること」に求めています。しかし、介護保険法
上の介護支援専門員が所属しているのは居宅介護支援事業所であり、ダイレク
トケアサービスを提供する介護サービス事業所ではありません。おっしゃりた
いことは分かるのですが、厳密に言うと、ケアマネジャーが所属法人や関連法
人などの「事業者」の利益が最大となるように動いていることが問題なのです。
逆に言えば、たとえケアマネジャーがダイレクトケアサービスを提供する法人
等に雇用されている場合でも、所属法人や関連法人などのサービスをケアプラ
ンに組み込まないというルールを確立するだけで、囲い込みを防ぐことができ
ます。北米の高齢者ケアマネジメント専門職団体(NAPGCM)をはじめと
して、国際的にはケアマネジャーの独立開業の有無を問題にしているところは
どこにもないと思います。彼らが問題にしているのは、利用者の利益とケアマ
ネジャーが所属する法人や関連する法人などの利益が相反する立場に立たない
ルール(利益相反行為禁止ルール)の有無です。この違いが分からないと、
「ケアマネジャーの独立開業」の主張と「第三者機関主義ケアマネジメント」
の主張の区別が理解できなくなります。


(2)地域包括支援センターは必ずしも公正中立ではない

 日沖さんは、囲い込みを無くす方策の一つとして、ケアマネジメントの担い
手を居宅介護支援事業所所属のケアマネジャーから地域包括支援センター所属
の主任介護支援専門員に移管する案を提起しています。しかし、これは現場を
知る者であれば賛成できないことです。

 制度上の建て前では、介護支援専門員の所属する居宅介護支援事業所は公正
中立であるはずです。しかし、日沖さんがおっしゃるように実際はそうではあ
りません。これと同様に、地域包括支援センターも、制度上の建て前では公正
中立ということになっていますが、現実の運用を観ると必ずしもそうではない
ことが分かります。直営ではなく民間に委託している場合、委託先の法人が地
域包括支援センターを使ってさらに醜い囲い込みを行っている例はそこらじゅ
うにあります。また、行政サイドも、委託先の法人を天下りの腰かけとして押
さえているような了見のところでは、天下りした者の経済的な安定のために囲
い込みで収益を上げる動機付けが高まってしまうことすらあります。居宅介護
支援事業所が公正中立ではないということが地域包括支援センター創設の提案
理由の一つであったけれども、社会保障審議会の議論の過程で利益相反行為禁
止の1点を圧力に負けてはずされてしまい、今日のようななんの歯止めもない
仕組みになりました。当方に言わせれば、居宅介護支援事業所に利益相反行為
禁止ルールを厳格に適用するだけで、ほとんど費用をかけずに囲い込みの問題
を解決できたはずです。にもかかわらずそれを行わないばかりか、気の遠くな
るような多額の公費を投じて地域包括支援センターという新たな罪を作ってし
まった。愚かと言うほかありません。


(3)独立開業していれば公正中立とは限らない

 日沖さんは、囲い込みを無くす方策の一つとして、ケアマネジャーが独立開
業できるだけの報酬アップを図るという案も提起しておられます。また、それ
と同時に、もしも報酬をアップした場合にその財源をどうするかが課題である
とも述べておられます。

 しかし、いままで囲い込み三昧で公正中立の規範意識に欠けていた者が、独
立開業できる報酬をもらったからといって急に公正中立な倫理を身につけると
どうして言えるでしょうか? 盗人に追銭となってしまわないでしょうか?

 かつて独立・中立型介護支援専門員全国協議会の副代表として厚生労働省に
出向き、囲い込みの実態を伝え、第三者機関主義ケアマネジメントの段階的法
義務化を政策として採用するよう求めたことがあります。その当時の老健局長
は、「門前ケアマネジャー」では意味がないという趣旨のことをよく述べてお
られました。つまり、医薬分業下の門前薬局のように利害関係を強固に保って
いれば独立など形骸化してしまい、囲い込みを抑止できないという意味です。
これは全くそのとおりで、問題なのは利益相反行為禁止ルールの欠如であって、
独立開業しているかどうかは全く関係がないのです。

 ちなみに、第三者機関主義ケアマネジメントの段階的法義務化の場合、基準
日以降の新規受任ケースから時間をかけて要件を満たした場合に報酬を上げて
いき、逆に要件を満たさない場合に報酬を下げていきますので、相殺と激変緩
和の二重の意味で日沖さんが心配する財源の問題をクリアできます。また、囲
い込み完全抑止によりサービスの費用対効果が格段に向上しますので、その意
味でも無駄を省いて生み出された余裕を本当に必要なケアに振り向けることが
できるようになります。


(4)特定事業所集中減算では囲い込みを防げない

 ところで、当時の老健局長は、第三者機関主義の段階的法義務化を政策とし
ては採用せず、特定事業所集中減算の仕組みを創設してしまいました。理由は、
利害関係のあるなしにかかわらず一律にパーセンテージで規制を加えれば内密
で通じようとする者もすべて対象とすることができるので、その方が優れた仕
組みだというものでした。

 冷静によく考えれば分かることですが、特定事業所集中減算の論理では、パ
ーセンテージを下げれば下げるほど、たとえば90%を80%にし、さらに
70%、60%としていけばいくほど、減算に該当する確率が高くなっていき
ます。そして、最終的に0%にすることは絶対にできない。0%では、ケアプ
ランが作れないからです。このことは、特定事業所集中減算というしくみでは、
囲い込みをゼロにすることが論理構造上絶対にできないことを証明しています。

 ケアプランへの組み込みを禁止しなければならないのは、利益相反行為禁止
ルールに抵触するサービス、つまりケアマネジャーと利害関係のあるサービス
だけです。あらゆるサービスを射程に入れるということは、ガン細胞だけとれ
ばよいものを、まわりの正常な細胞まで巻き添えにして切り取っていくような
ものであり、不必要を通り越して有害でさえあります。

 ちなみに、第三者機関主義ケアマネジメントを段階的に法義務化すれば、時
間はかかりますが囲い込みを最終的にゼロにすることができますし、関係のな
いサービスを巻き添えにすることも一切ありません。

 日沖さんは特定事業所集中減算という仕組みにどちらかというと肯定的な印
象を持っておられるようにお見受けしますが、これはむしろ無くしてしまった
方がよい仕組みです。


(5)誰にとっての費用対効果か?

 最後になりますが、ケアマネジメントとの関わりで費用対効果を論じる場合、
日沖さんの場合に限らずですが、主語が国家であったり、納税者・保険料納付
者であったり、保険者であったりする言説をよく耳にします。それらに共通す
るのは、サービス利用者や介護家族にとっての費用対効果の視点がなぜかすっ
ぽりと欠落しているということです。サービス利用者や介護家族の集合と国家、
納税者・保険料納付者、保険者の集合がそれぞれ利害の対立する別存在である
かのように対抗軸を設定する立論には無理があります。ケアサービスもケアマ
ネジメントサービスもエンドユーザーである利用者・家族にとって最善である
ことを目指さなければならない。だからこそ、1円でも無駄にしてはいけない。
無駄を省いて、それを必要なケアに振り向けなければならない。ケアマネジメ
ントは、正にそのためにあります。ケアマネジメントが正しければ、個々のサ
ービス利用者や介護家族にとってもっとも費用対効果の高いシステムになりま
す。それはすなわち、国家にとっても、納税者・保険料納付者、保険者にとっ
ても好ましいシステムであるということです。利用者・家族が視界から消えた
財政論や経営学では、最終的に利用者・家族にとって最善のシステムにはなり
ません。無駄を削って必要を満たすシステムではなく、必要なものも奪って税
金や保険料だけ巻き上げていくシステムになりかねません。

 これは、「ケアマネジメントの主体は誰か?」という哲学的な問いとも密接
に関連するとても大切な視点なのであえて言及しました。


(参考情報)
・塚本聡「ケアマネジメントにおける『第三者』性について〜『第三者』概念
 の内容分析から政策効果を予測する〜」
http://www2.nsknet.or.jp/~mcbr/p-chuchotement20130605.pdf





2016.04.16.SAT

 富山総合福祉研究所所報掲載のコラム「時速30kmの福祉」で関連する内
容の文章を発表しましたので、この欄にも転記します。尚、同コラムはネット
上でも公開しています。

「時速30kmの福祉」


(以下「時速30kmの福祉(第176回)」からの引用)

 報道によれば、本年3月25日、会計検査院が、独自の実態調査の結果ケア
マネジャーによる利用者の「囲い込み」行為の横行が明らかになったとして、
これを抑止する実効性のある対策を講じるよう厚生労働省に対し求めたとの事
です。厚生労働省は、これまで特定事業所集中減算というしくみで「囲い込み」
を抑止できると説明してきましたが、会計検査院はこれを「機能していない」
とばっさり切り捨てました。そればかりか、減算逃れのための工作を行う事業
所が続出してしまい、特定事業所集中減算というしくみ自体が現場の倫理を荒
廃させていることまで指摘しました。

 ケアマネジャーによる「囲い込み」行為を抑止するためには、ケアマネジャー
がサービス事業者と利害関係を持たない第三者機関となる必要があります。北
米の高齢者ケアマネジメントの専門職能団体であるNAPGCMでは、第三者
性の担保のために厳しい実践倫理基準を設けています。これを範として、日本
よりも後から高齢者ケアシステムを整備するようになった諸外国の専門職能団
体も、自国内のシステム下で第三者性を担保する努力を行っています。

 翻って日本国内の状況はどうか? 過去20年間のケアマネジメント関連の
文献や研究者の発言などを詳細に調査すれば客観的に明らかになることですが、
第三者性の担保の必要性についての認識が著しく欠如しています。

 かつて「独立・中立型介護支援専門員全国協議会」の設立に携わり、副代表
として厚生労働省に赴いて囲い込みの実態を訴え、「第三者機関主義の段階的
法義務化」を政策として採用するよう強く求めたことがあります。しかし、厚
生労働省が示した答えは「特定事業所集中減算」の創設でした。当時の老健局
長は、「特定事業所集中減算というしくみは、利害関係のあるなしに関わらず
すべての事業所をパーセントで縛るので第三者機関主義よりも優れている」と
発言しました。これに対しわれわれは、「囲い込みの免罪符となってしまいか
えって倫理を荒廃させる恐れがある」と反論しました。あれから10年以上経
過し、会計検査院はいずれの主張が正しかったかを悲しいまでに証明しました。

 厚生労働省は、確かに間違えた。そして改めなかった。それは、責められる
べきことです。しかし、責任はひとり厚生労働省にあるのではありません。む
しろ、もっと重い責任を自覚しなければならない人々がいます。「囲い込み」
が社会実態として存在すると知りながらつい最近まで「気づかなかった」ふり
をし続けてきた人々、政策が間違っている場合はそれを厳しく批判し、ではど
うすれば正しくなるのかを理論的に明らかにする義務を有しているのにそれを
怠った人々、倫理に違背することを知りながら己の利益を求め続けた人々です。
彼らは、この期におよんでまだ抵抗を続けています。油断すれば今よりももっ
と悪質なしくみが生み出される恐れすらあります。
 




2015.06.03.WED

 富山総合福祉研究所所報掲載のコラム「時速30kmの福祉」で関連する内
容の文章を発表しましたので、この欄にも転記します。尚、同コラムはネット
上でも公開しています。

「時速30kmの福祉」


(以下「時速30kmの福祉(第165回)」からの引用)

 報道によれば、本年5月20日に開催された社会保障審議会介護給付費分科
会の場で、この4月から「特定事業所集中減算」の対象が拡大された事に対し
て厳しい批判が相次いだとの事です。当方自身、同分科会には過去度々足を運
び、実際の議論と後から報道される内容との間にずいぶん隔たりがあって驚い
た経験をしているので、この度の報道も果たしてどこまで本当のことなのか残
念ながら確証はありません。ここでは、一応報道内容が正しいものと仮定して
論じます。

 同分科会の場で批判として述べられた内容は、概ね以下のとおりです。


(1)特定事業所集中減算の対象が拡大されたため、減算にひっかかる場合は、
   たとえ質の高いサービスを提供する事業所でも減算を避ける目的でケア
   プランを変更し、別の事業所のサービスに切り替えなければならなくな
   る。その結果、サービス利用者は質の高いサービスを受けられなくなり、
   質の高いサービスを提供している事業所は選ばれなくなるという意味で
   不利益を被る。これではいかにも不合理で本末転倒だと言える。

(2)その事業所を選ぶ正当な理由があれば減算対象からはずれる仕組みでは
   あるが、手続が大変で現場での対応は困難。

(3)不適切な法人をチェックする仕組みは他にもあるはずで、特定事業所集
   中減算のような不合理なしくみは直ちにやめるべき。


 以下、当方の私見を述べます。上の(1)〜(3)は複数の委員から発言が
あったとの事ですが、その方々に共通するのは、ご自身がケアマネジメントの
実務に就いているわけではないということ(当方の誤解がなければですが)で
す。当方のような直接ケアマネジメント業務に携わっている者の立場からは、
これらの意見には相当の違和感を持ちます。

 まず(1)との関わりで指摘しておきたいのは、「質の高いサービス」と口々
に言われるのは、ケアマネジメントサービスの事ではなく、ダイレクトケアサー
ビス(訪問看護や訪問介護、通所介護などの直接ケアを提供するサービス)で
あることが話の文脈から明らかです。なぜ、「質の高いケアマネジメントサー
ビスはいかにあるべきか」を正面から論じないのか、非常に不自然で屈折した
論理展開となっています。また、「質が高い」とは客観的・具体的にどういう
事を指すのか全く説明がありません。論者の中には、「質が高い事業所」とい
う言い回しの他に、「がんばっている事業所」というフレーズも用いているよ
うですが、がんばっているかどうかはどうでも良いことです。がんばっていな
くても質の高いサービスを提供できていればそこを選べばよいし、がんばって
いても質が劣れば選ばなければよい。それだけの事です。がんばっているかど
うかを忖度すること自体情緒的であり、ケアマネジメントがそのような不確か
なもので左右されているとしたら、それこそ「質の高いケアマネジメント」と
言えるのか厳しく吟味されなければならないでしょう。「がんばっている」は
論外ですが、「質が高い」についても、当方の目から観るとずいぶん粗い視点
に映ります。

 ケアマネジャーがサービスの組み合わせを考えるとき、その判断基準はただ
一つ、「ご本人ご家族にとってニーズを充足するために最善の選択であるかど
うか」です。具体的な例として福祉用具のレンタルを例にして述べると、地理
的にその方のご自宅をエリア内にもつ事業所が複数あるとして、それぞれの事
業所の長所・短所がどこにあるのかを把握していることが大前提となります。
そして、たとえばご家族が土日にしか日中時間を割くことができない方であれ
ば、土日でも当たり前に動いている事業所であることが紹介条件として高い順
位となります。ご病態が安定せず、福祉用具の種類を頻繁に切り替える必要が
予見できる場合は、それに対応できるだけの品揃えとなっている事業所である
ことが紹介条件として高い順位となります。経済的にあまり余裕のない方であ
れば、平日営業に特化し、品揃えを犠牲にして種類を絞り込み、そのかわり同
じ品物ならばより安くレンタルできるようにしている事業所であることが紹介
条件として高い順位となります。区分支給限度ぎりぎりで超過負担が発生する
かもしれない方であれば、介護保険外の自費ベッドをレンタルできる事業所で
あることが紹介条件として高い順位となることがありますし、さらに体格やご
病状により巾が広めのベッドを要する方であれば、巾の狭い自費ベッドしか扱っ
ていない事業所か巾が広めの自費ベッドも扱っている事業所かといったより細
かな情報が決定的に重要となります。

 何を言いたいかというと、Aさんにとって最善の事業所であるからといって、
Bさんにとっても最善の事業所であるとは限らない。あくまでご本人・ご家族
のニーズがどこにあるのかケアマネジャーとの双方向の対話によって絞り込ま
れ特定されていくなかでやっと最善の事業所が明らかになるということです。
ここでは福祉用具のレンタルについて述べましたが、あらゆるサービスについ
て同様のことが言えます。このことは、現場で日々「ほんとうに」ケアマネジ
メントを行っている者であれば誰でも知っていることです。分科会委員の方の
語る「質が高い」というフレーズには、そのような重み、厚みが感じられませ
ん。本当に自法人以外の事業所個々の長所・短所をきちんと把握した上で語っ
ているとは思えないのです。「利用する相手が誰であろうとうちの法人の事業
所は質が高いから」などと平気で言えるような感覚では、少なくとも現場では
通用しません。

 次に、(2)とも関係する事ですが、「減算を避ける目的でケアプランを変
更する」とはどういうことなのか? もし本当に現在のダイレクトケア事業所
を選択することがその方にとって最善であるならば、なぜケアマネジメント事
業所(居宅介護支援事業所)の利益ではなく、その方の最善の利益を優先でき
ないのか? 委員はあたかも制度の被害者であるかのような自己認識を述べて
おられますが、倫理的二律背反の場面で、ケアマネジャーが事業所の利益を優
先してケアプランを変更し、結果的にサービス利用者が最善のサービスを受け
られなくなったという事であれば、それは被害者ではなく加害者として振る舞っ
ているのだと気づかなければなりません。アメリカのGCMの倫理基準を引用
するまでもなく、そういう場合はケアマネジャーの方を変えるという選択肢
(選択は利用者の権利!)もあることをご本人ご家族にきちんと説明できてい
るのか検証すべきです。さらに言えば、ケアマネジャーを変更しなくても、
「その事業所を選ぶ正当な理由」を述べるだけでもよいはずです。(2)では、
その理由を述べるのが「手続が大変」で「現場では困難」だと主張されていま
すが、その意味がさっぱり分かりません。ここで言う「その事業所を選ぶ正当
な理由」とは、唯一「ご本人ご家族にとってニーズを充足するために最善の選
択である」理由を証明すれば足りることです。まともなケアマネジャーであれ
ば、なぜその事業所の利用をお勧めするのか、ご本人ご家族に日々当たり前に
説明しているはずであり、それをそのまま述べればよいだけのことなのに、一
体なにが「手続が大変」で「現場では困難」なのか。仮にご本人ご家族に対し
てすら「その事業所を選ぶ正当な理由」を説明せずにケアマネジメントを行っ
ているのだとしたら、それこそ「質の高い」どころかケアマネジメントと呼ぶ
に値しない、報酬請求に値しない行いをなしているを言わざるを得ません。

 次に、(3)の批判ですが、「不適切な法人をチェックする仕組みは他にも
あるはず」と論者は言いますが、では具体的にはどんな仕組みがあるのか、論
者は述べていません。「あるはず」というだけで解決を他人任せにするのはあ
まりにも無責任です。仮にも社会保障審議会という公の場で、国家の政策につ
いて論じているのですから、その立場、その責任に見合った発言を行うべきで
す。

 以上、(1)〜(3)に対する当方の私見を述べました。ところで、上のよ
うなことを言うと、当方が「特定事業所集中減算」のしくみを擁護する立場で
あると誤解される向きもあるかもしれません。当方は、このしくみの導入が発
表された当初から、一貫してこれを批判し、反対してきました。当方自身は、
「第三者機関主義の段階的法義務化」を政策として提案し続けてきた者ですが、
これと「特定事業所集中減算」を混同して批判する人がいるのでとても迷惑し
ています。冷静に考えれば誰でも分かる簡単なことなのですが、両者はその目
的も、範囲も、効果も全く異なる別個のものです。特定事業所集中減算を囲い
込み防止の政策だと言う人がいますが、当方に言わせれば全く逆で、この論理
では「絶対に」囲い込みを根絶できないのです。また、上の(1)の批判にあっ
たような「これまで使っていた事業所を減算逃れのために変更しなければなら
ない」といった不合理は、第三者機関主義ケアマネジメントの場合は起こり得
ません。なぜならば、段階的法義務化とは、一定の基準日を設け、それ以降の
新規ケースからルールを適用するしくみであるからです。基準日前の既に出来
上がったケアマネジャーとの関係やサービス事業者との関係は、当然のことな
がら維持されます。その意味でも、とても合理的な解決策なのです。

 すでにかなりの長文となりましたので、「特定事業所集中減算」と「第三者
機関主義ケアマネジメントの段階的法義務化」との違いに関する説明は次号に
譲ることとします。                     (つづく)





2015.05.20.WED

 富山総合福祉研究所所報掲載のコラム「時速30kmの福祉」で関連する内
容の文章を発表しましたので、この欄にも転記します。尚、同コラムはネット
上でも公開しています。

「時速30kmの福祉」


(以下「時速30kmの福祉(第164回)」からの引用)


 5月15日に、地域限定の番組ではありますが、NHKで「ナビゲーション
なぜ起きる不正請求〜検証介護保険制度〜」というタイトルの番組が放送され
ました。同番組は17日にも再放送されています。

 この番組の中で、不正請求の原因として、系列法人の居宅介護支援事業所が
ケアマネジメントを行うため、経営者の意向でケアマネジャーが不正に荷担さ
せられている実態があると指摘されていました。このような問題提起が番組を
通じて行われる事自体は社会的に意義があり、また必要な事であると思います。
しかし、番組内で行われた問題の分析内容や解決方法として提示された内容は、
なんとも拍子抜けさせられるものでした。

 番組内では、学識経験者として、だと思うのですが、東洋大学准教授の高野
龍昭さんが登場し、コメントをしていました。当方に誤解がなければ、高野さ
んの発言の要旨は概ね以下の3点にまとめられると思います。


(1)ケアマネジメントの公正中立のために独立開業という考え方はあるが、
   介護報酬が低いので「理想ではあるが非現実的」。

(2)和光市のような地域ケア会議によってケアマネジメントの公正中立を担
   保するのは「一つの」解決策。

(3)公正中立を目指す際に、アメリカでは保険者がケアマネジメントを「第
   三者」として担っており参考になる。


 ここからは、上の3点についての当方の考えです。

 まず、(1)についてですが、高野さんは「非現実的」と言われますが、独
立開業者は「現実に」増えています。増えている理由は、上から利益誘導を強
制されることなく、損得勘定抜きで「ほんとうのケアマネジメント」を追求し
たいという気持ちがそうさせているのです。もし独立開業が「理想」であると
いうのなら、その理想を実現するために努力をしなければならないはずです。
心のある人びとは、介護保険が始まってから10年以上、公正中立なケアマネ
ジメントに対する介護報酬の引き上げを求め続け、議会に働きかけ、行政に働
きかけ、学会に問題提起し続けてきました。当方を含め、理想を実現するため
に実際に汗をかいてきた人びとであれば、「理想ではあるが非現実的」という
言葉で傍観者的に語られることに強い違和感を禁じ得ないはずです。

 次に(2)についてですが、現場に身を置く立場で言わせていただければ、
「地域ケア会議では公正中立を担保することができない」とする主張がめずら
しくなく、むしろ普通です。地域ケア会議の効用を肯定する立場の人への取材
だけではなく、批判する立場の人への取材も公平に行い、両者の主張とその根
拠をきちんと明示した上で当否を論じるのが研究者としてとるべき態度である
と考えます。

 次に(3)についてですが、当方の理解では、アメリカで保険者がケアマネ
ジメントを行うというのは、民間の保険会社が給付を抑制するために行ってい
ることで、保険料を払わせて必要なサービスを提供しないことがむしろ社会問
題となっています。アメリカのケアマネジメント研究者や実践者、わけてもソ
ーシャルワークをベースにケアマネジメントを考えている人びとは、そのこと
をとても怒っていて、「あれはケアマネジメントではなくマネーマネジメント
だ」と厳しく批判しているはずです。「ほんとうのケアマネジメント」はそん
なものじゃないと言っているのです。

 理論的にみても、この(3)の主張には問題があります。まず、ケアマネジ
メントの主体論としてですが、ケアマネジメントの主体が保険者であると主張
されるのであればともかく、ケアマネジメントの主体がサービス利用者・家族
であるとされるのであれば、ケアマネジャーは保険者からも独立した立場でケ
アマネジメントを行う必要があるのは自明のことです。次にケアマネジメント
の範囲論としてですが、ケアマネジメントは保険給付以外の社会資源も含め、
トータルでご本人ご家族のニーズを満たすことが目的であるはずです。保険者
がケアマネジメントの主体である必然性は、「必要であるにもかかわらず保険
給付を認めない」ことを目指すのでない限りは、全くありません。

 以上、(1)〜(3)に関して当方の意見を述べましたが、この度の高野さ
んのご発言の中で一番問題だと感じたのは、「第三者」という言葉の使い方で
す。当方は、日本のケアマネジメント政策の流れのなかで、近年「第三者」と
いう言葉の意味が意図的にすり替えられつつあることに対し、学会口演などを
通じて警鐘を鳴らしてきた者です。この度の高野さんの言葉遣いにも、そのよ
うなすり替えの意図がなかったか、当方は疑いを禁じ得ませんでした。サービ
ス利用者・家族と保険者の利害が対立したときに、ケアマジャーはいずれの立
場に立つのか? この倫理的二律背反(エシカル・ジレンマ)の解決を、高野
さんはどのように考えているのか明らかにすべきでしょう。

 さらに言えば、高野さんは、「第三者機関主義ケアマネジメント」について
は完全に無視されました。なぜ「第三者」という言葉だけを取り出し、「第三
者機関主義ケアマネジメント」には一言も触れられなかったのかはご本人に聞
いてみなければ分かりませんが、はなはだ不自然なことです。仮に(1)の独
立開業が「理想だけれど非現実的」だと言うのであれば、それを実現する手段
としても提示されている「第三者機関主義ケアマネジメント」について、なぜ
それが非現実的であると結論づけられるのかを説明しなければならないはずで
す。これは、この領域を専門に研究している立場の人であれば、気が付かなかっ
たでは済まされないことです。

 「第三者機関主義ケアマネジメントの段階的法義務化」を政策として採用す
れば、囲い込みをして利益を得ることができなくなるので、ケアマネジャー一
人当たり年間200万円前後の赤字を出してまで居宅介護支援事業所を経営す
るメリットがなくなります。つまり、損得勘定で事業所を持っているような法
人は、ケアマネジメント事業から自分で撤退してくれるわけです。強制的・権
力的に事業者指定を廃止するために必要な時間とコストを考えれば、格段に費
用対効果の高い政策であることが分かります。

 もっとも、世の中の居宅介護支援事業所のほとんどがそのような事業所なの
で、ケアマネジメントをする人がいなくなってしまうと心配をする人も出てく
るかもしれません。しかし、現時点の「非現実的な」低価格の介護報酬でも、
「理想」のケアマネジメントを行いたいというただそれだけの理由で独立開業
者が後を絶たないのは何故なのか、そういう心配をする人には考えてほしいで
す。世の中は、損得勘定だけで満たされる人間ばかりではないということを知っ
てほしい。むしろ手弁当でも一歩を踏み出す人びとに対して社会が高い介護報
酬を準備するやり方の方が、現状の囲い込みによって生じる膨大な無駄を抑止
する効果の点で優るため、結果的に保険財政の健全化に資することが分かるは
ずです。


(参考情報)
・塚本 聡「ケアマネジメントにおける『第三者』性について〜『第三者』概
 念の内容分析から政策効果を予測する〜」(日本ケアマネジメント学会第12
 回研究大会口演要旨)2013年
 http://www2.nsknet.or.jp/~mcbr/p-chuchotement20130605.pdf





 2014.11.26.WED

 第115回社会保障審議会介護給付費分科会の当日資料(「資料9 居宅
介護支援の報酬・基準について(案)」に、第三者機関主義ケアマネジメン
トとも関連する内容がありました。今後の動向を注視していきたいと思いま
す。

「資料9 居宅介護支援の報酬・基準について(案)」





 2014.06.25.WED

 本日午前に第103回社会保障審議会介護給付費分科会が開催され、ケア
マネジメントの公正中立や独立に関して審議されました。

第103回社会保障審議会介護給付費分科会

 その傍聴参加記録として以下のページから議事要約を発信しました。

第103回社会保障審議会介護給付費分科会議事要約(塚本版)





 2013.06.14.

 本年6月5日に大阪で開催された日本ケアマネジメント学会第12回研究
大会で関連する口演を行いました。その要旨を以下に公開しました。

「ケアマネジメントにおける『第三者』性について〜『第三者』概念の内容分析から政策効果を予測する〜」





 2013.04.08.

 富山総合福祉研究所所報掲載のコラム「時速30kmの福祉」で、2月から
第三者機関主義ケアマネジメントについて少しまとまったことを書き始めまし
たので、この欄にも転記します。尚、同コラムはネット上でも公開しています。

「時速30kmの福祉」


(以下「時速30kmの福祉(第136回)」からの引用)


 第三者機関主義ケアマネジメントについての第3回目です。前回は、ケアマ
ネジメントは法規範的には準委任契約であることと、準委任契約は「忠実義務
(duty of loyalty)」を伴うこと、「利益相反行為の禁止」ルールが守られな
ければならないことなどについて述べました。今回は、「利益相反行為の禁止」
ルールがケアマネジメントの世界にどう採り入れられてきたかについて、海外
の例を述べます。

 この時速30kmの福祉では度々言及していることですが、北米の高齢者ケ
アマネジメント専門職の団体(NAPGCM。さらに略してGCMとも表記さ
れます)では、ケアマネジメントの実践基準と倫理綱領を設けており、その中
で「利益相反行為の禁止」ルールを定めています。両方とも、最新のものはG
CMのホームページから見ることができます。

 GCMでは、良いケアマネジャーを選ぶために、「かしこい利用者がケアマ
ネジャーに質問すべきこと」をいくつか挙げています。その中のひとつに、「あ
なたの所属している団体は、(ヘルパーやデイサービス、ショートステイなど
の)介護サービスも提供しますか?」という質問があります。日本では、この
ような質問を受けたケアマネジャーが、「わたしが所属している団体では、あ
りとあらゆるサービスを提供することができますので、同じ団体に所属してい
る強みを生かして、ケアマネジャーとしてあなたに必要なサービスはすべて提
供できます。」と答えるのが立派なケアマネジャーだと錯覚されるかもしれま
せん。しかし、GCMの考える模範解答は、これとは正反対です。「ケアマネ
ジャーの仕事は、ご本人・ご家族にとっての最善を目指さなければならない仕
事です。しかし、わたしが所属する団体からケアマネジメントサービスと介護
サービスの両方を提供することになった場合、ご本人・ご家族にとっての最善
と介護サービス事業者にとっての最善が衝突し、一方を立てれば他方が立たな
いという利益相反の立場に陥る危険性があります。それでは、ケアマネジャー
としての忠実義務に違反することとなりますので、両方を同時にお引き受けす
ることはできません」と説明できるケアマネジャーが、対人援助専門職として
の倫理を身につけた良いケアマネジャーとされます。これだけではありません。
GCMの実践基準では、ケアマネジャーが介護サービスを紹介するときには、
所属する団体のサービスかどうかだけではなく、別団体でも親族などが実質的
な経営者ではないか、資本提携関係やキックバック関係などがないか、ケアマ
ネジャー個人と利害関係のある団体かどうかといった情報も、サービス利用者
・家族に対して書面および口頭で説明すべきこととされています。GCMは北
米の団体ですが、その水準の高さから、世界中で模範とされ、実質的な国際標
準となりつつあります。次回は、これとは対照的な日本の実態とその原因につ
いて述べます。          (つづく)

(「時速30kmの福祉(第136回)」引用終わり)




 2013.03.17.

 富山総合福祉研究所所報掲載のコラム「時速30kmの福祉」で、前回から
第三者機関主義ケアマネジメントについて少しまとまったことを書き始めまし
たので、この欄にも転記します。尚、同コラムはネット上でも公開しています。

「時速30kmの福祉」


(以下「時速30kmの福祉(第135回)」からの引用)


 前回に引き続き、第三者機関主義ケアマネジメントについてのお話です。今
回は、ちょっと難しい言葉遣いになりますが、「ケアマネジメントの法規範的
意義」について述べます。「法規範的意義」というのは、日本の法体系上の位
置づけ、といった意味です。

 ケアマネジメントは、介護保険法の世界では「居宅介護支援」と名付けられ
ています。居宅介護支援は、サービスを利用する人かもしくはその利益を代弁
する人とケアマネジャー(介護保険法上は「介護支援専門員」)の所属する事
業所との間で契約が成立することによって始まります。この契約は、法規範的
には「準委任契約」(民法第656条)という位置づけになります。準委任契約
は、「委任契約に準ずる契約」です。両者の違いは、法律学的には「法律行為」
を扱うのが委任契約、そうではない行為(「事実行為」など)を扱うのが準委
任契約です。もっとも、この区別そのものについては、あまり意味がないこと
なのでここでは略します。委任契約の分かりやすい例に、弁護士と依頼人との
契約関係があります。介護支援専門員と依頼者との関係も、委任契約に準じた
ほぼ同様の関係という事になります。ちなみに、医師と患者の診療契約も、法
的には準委任契約です。

 ところで、弁護士は、一つの訴訟において、原告被告どちらか一方の弁護を
引き受けた場合、同時に他方の弁護を引き受けることは認められません。その
ような行為(「双方代理」)は弁護士法や民法で禁じられています。さて、な
ぜそれが禁じられているのでしょうか?

 もしも、訴訟となっている問題の正しい解決(答え)が一つしかないならば、
法と正義に照らして、誰が担当しようと答えは同じになるはずです。それなら
ば、同じ弁護士が引き受けても構わないじゃないか、という人があるかもしれ
ません。しかし、どのような答えであっても、一方にとって有利な答えは、他
方にとっての不利な答えであるということもまた事実です。弁護士にしてみれ
ば、原告との関係に忠実であろうとすると被告との関係に利益相反が生じる(そ
の逆の場合もあります)わけで、どちらに転んでも契約の相手方との間の対人
援助専門職としての「忠実義務(duty of loyalty)」に悖(もと)ることとな
ります。そこで、このような「倫理問題(Ethical Dilemma)」の発生を未然に
防ぐために、原告被告のように利害が対立する関係の場合は、双方からの依頼
を同時には引き受けないという一律適用のルール(「利益相反行為の禁止」ル
ール)が確立されたのです。このルールは、弁護士と依頼人との関係だけでは
なく、委任契約、準委任契約の一般ルールとなっています。

 次回は、この「利益相反行為の禁止」という倫理規範が、ケアマネジメント
の世界にどう採り入れられてきたかについて、海外の例を述べます。(つづく)

(「時速30kmの福祉(第135回)」引用終わり)




 2013.02.17.

 富山総合福祉研究所所報掲載のコラム「時速30kmの福祉」で、第三者機
関主義ケアマネジメントについて少しまとまったことを書き始めましたので、
この欄にも転記します。尚、同コラムはネット上でも公開しています。

「時速30kmの福祉」


(以下「時速30kmの福祉(第134回)」からの引用)


 今月から、第三者機関主義ケアマネジメントについて、何回かに分けてこの
場でお話をさせていただければと思います。

 なぜ、そうしたいと思ったのかには、いくつか理由があります。

 ひとつには、先日地域で開催された民生委員さんとケアマネジャーとの交流
会に参加した際に、おひとりの民生委員さんから、「第三者機関主義について
勉強しなければならないと思った」とのご発言があったからです。介護保険も
10年以上の歳月を積み重ねてきておりますが、民生委員さんからこのような
公の場で発言があったというのは、おそらく今回が初めてだと思います。その
ことを、当方は重く受け止めました。

 理由の二つめは、ケアマネジメントをみんなで考える会のつどいに参加され
た方との会話の中で、通所先を変えるためにケアマネジャーも変えなければな
らなくなって困ったというお話をうかがったからです。

 ケアマネジャーは、通所などのダイレクトケアとは全く別のしくみであり、
通所先の事情やご本人の症状の変化などによって通所先を変更する必要が生じ
た場合でも、同じケアマネジャーが一貫してご本人ご家族の立場を代弁し、次
の最善の環境づくりに向けてともに歩むのが本来の仕事です。

 しかし、日本の場合は、ダイレクトケアサービスを変えるたびにケアマネジ
ャーが変わるのが当たり前になってしまっていて、心の支えとして重要な役割
を担ってきたケアマネジャーが変わってしまう場合、その変化はご本人ご家族
にとって大変なダメージとなってしまいます。どうしてこんなことが起きるの
か、どうすれば解決するのか、これを機にあらためてきちんと言葉にする必要
を当方は感じました。

 そして理由の三つめは、国レベルで進行しているケアマネジメントシステム
の改変の動きです。もともとケアマネジメントの世界で「第三者」というとき
は、「ダイレクトケアサービスとは利害関係のない第三者の立場からケアマネ
ジメントを行う」という意味合いで言葉を用います。これは、国際常識と言っ
てもよいと思います。しかし、国の「介護支援専門員(ケアマネジャー)の資
質向上と今後のあり方に関する検討会」における議論の中で、「第三者」とい
う言葉が全く別の意味で用いられている事に、公開されている議事録を読んで
気づきました。

 2005年当時、政府は、ケアマネジメントの「独立」という言葉の意味を
すり替えて、かえって独立を阻害する仕組みに介護保険を改悪してしまいまし
た。それと同じことが、いま「第三者」という言葉の意味をすり替えて行われ
ようとしています。同じ過ちを繰り返させてはいけない。それが、あらためて
「第三者機関主義ケアマネジメント」についてこの場で述べなければならない
三つめの理由です。                     (つづく)

(「時速30kmの福祉(第134回)」引用終わり)




 2011.12.05.

 本日、ケアマネジャーについてご相談を受け、以下の受け答えをいたしました。

(おたずね)ケアマネジャーは、コンピューターソフトなしでできますか? どこに頼んでも、引き受け
      てくれるケアマネジャーがいなくて困っています。請求業務だけ国保連のソフトは必要かな
      と思っていますが、ケアプランのソフトを導入すると費用面で大変なので・・・。


(おこたえ)コンピューターソフトを導入しなくてもケアマネジメントを行うことはできます。もっとも、
      今では月額2,000円を切るものも出てきていますので、国保連のソフトだけを取り寄せ
      るよりも、そういったソフトを利用された方が合理的かもしれません。


 この度はコンピューターソフトに関するお尋ねでしたが、法人設立の方法など、独立開業を念頭に置い
たご相談が増えつつあるように感じています。2012年4月以降、独立開業者にとっては経営的に逆風
予想が拡がっているなかで、あえて独立開業の可能性を検討せざるを得ないというところに、ケアマネジ
ャーの置かれている閉塞的な状況が見て取れます。マネーマネジメントに加担することを嫌う良心的な地
域包括支援センタースタッフや居宅介護支援事業所のケアマネジャーの方々、介護休業中や定年退職後の
介護支援専門員で、制度の現状に問題意識を持っている方々などが、覚悟の上で独立開業に踏み切られる
のであれば、同様の選択をした者として支援や協力をしていきたいと思います。




 2011.11.20.

 本日、ケアマネジメントをみんなで考える会とやまのつどいに参加されたことのある方
より、内々に相談したいとのご連絡があり、以下の受け答えをいたしました。

(おたずね)これまで通ってきたデイサービスが閉鎖になり、別のデイサービスに通うことになったので
      すが、ケアマネジャーも移った先のケアマネジャーに変えなければいけないでしょうか? 
      いままでのケアマネジャーの方がとても良い方で、できれば変えたくないのです。やっぱり
      変えないと、先方によろしくないのでしょうか? 


(おこたえ)ケアマネジャーを変える必要はありません。介護事業者によっては、変えることを暗に求め
      るところがありますし、ケアマネジャーによっては、自法人のサービスを受けないのならケ
      アマネジャーも他に変えてくださいと縁切りを申し出る人も残念ながらあります。そのよう
      な介護事業者やケアマネジャーは、選ばない方がよいと思います。たまたまおたずねのあっ
      たデイサービスは当方も存じていますが、そのような強要をする法人ではないので安心して
      ください。また、いま担当なさっているケアマネジャーの方も、自分から縁切りを申し出る
      ような無責任な方ではありませんので、どうぞご安心ください。よほど困ることが起きるよ
      うであれば、あらためて当方にご相談ください。


 サービスを利用される方には、ケアマネジャーを誰にするか自由に選ぶ権利があります。また、いった
ん選んだ後も、自由に変更する権利があります。自分でケアマネジメントを行いたい人は、その時点でケ
アマネジメント契約を終了し、セルフマネジメントに切り替えることもできます。こういった、利用者の
権利を明確に説明し、理解していただくことも、ケアマネジャーの大切な仕事です。また、選択権が侵害
されたという相談を受けた場合は、権利回復のために必要な支援を行うことも、ケアマネジャーの大切な
仕事です。




2008.09.20.

 第三者機関主義ケアマネジメントの小括について、簡単ながら以下の雑誌に私見を掲載
いただきました。

「わたしたちが望むケアマネジメントについて」(「介護支援専門員」2008年9月号メディカルレビュー社)




 2006.03.20.

 第三者機関主義とは、ケアマネジャーを選ぶときは、その人が利用するケアサービスを
提供する法人や関連する法人以外の第三者機関から選ぶべきであるとする立場の事です。
もともと筆者が在宅介護支援センターに勤務していた時に提唱した考えであり、後に独立
・中立型介護支援専門員全国協議会の倫理綱領に採択されました。
 しかし、第三者機関主義についてはその意味を正しく理解しないまま言葉を使用する人
や、内容を誤解して誤った批判をする人が後を絶たないので、休眠していたこのページを
復活させ、その含意などを解説したり、質問にお答えする場にしていきたいと思います。




 2003.06.15.

 2003年1月13日の独立・中立型介護支援専門員全国会議シ
ンポジウムで第三者機関主義について発表させていただいてから、
第三者機関主義についてのお問い合せが増えてきました。
 そこで、第三者機関主義に特化したページを新たに作り、よくあ
るご質問と回答などを掲載していきたいと思っています。
 多忙のためなかなか内容が充実しないかもしれませんが、マイペ
ースで更新していきますのでよろしくお願いします。









このぺージについて、ご意見、ご感想などの Eメールをいただければ幸いです。





  • 富山総合福祉研究所目次ページにもどる