第三次ハリコフ戦ゲーム

Von Manstein's Backhand Blow [GMT]

Coup de bluff ou Coup de génie ? (VV #49)


Turning the Tables (T3) シリーズのレビュー を先にお読みになることをお薦めします。


Von Manstein's Backhand Blow [GMT]

Von Manstein's Backhand Blow (GMT) の箱絵 Lost Victory (GMT) の箱絵 Kharkov 1943 (Vae Victis 25号) の表紙絵

Coup de bluff ou Coup de génie ? ( Vae Victis #49 )
 
虚仮おどしか、閃きの一撃か?




一年以上前(VV#42)にお知らせしてから久しく、ついに Schwerpunkt シリーズが発売された。
シリーズ第一作目の "Von Manstein's Backhand Blow" は、東部戦線ファンなら誰もが御存知の、1943年の第3次ハリコフ戦を扱っている。


Hervé BORG


歴史を手短に振り返ってみよう。
1943年1月、ソ連邦ではスターリングラードの戦いがほぼ終結していた。 パウルスの第6軍は包囲され、ボルガの川岸でゆっくりと壊滅しかけていたのである。
スターリンはドイツ国防軍に歴史的敗北を味わせただけでは満足せず、ウクライナ東部の全ドイツ軍部隊を絶滅させることを、その時点では切望していた。 兵員不足で疲労状態のドイツ軍が、赤軍の鉤爪から逃れることは不可能であろうと見られていた。

しかし、兵站基地からあまりにも遠くまで進出していたソ連軍部隊は、ハリコフ方面でフォン・マンシュタイン元帥の仕組んだ罠に縛られ身動きできなくなる。 ドイツ軍の激烈な反撃によって赤軍の進撃は停止し、情勢は完全に逆転した。 ボコボコに殴られたソ連軍部隊は ハリコフを放棄せざるを得なかった。
この局地戦は第3次ハリコフ戦という名で知られている。 第2次世界大戦で当然最も重要な要素と見なされているこの戦術機動によって、フォン・マンシュタインは間違いなく破滅しかけていた自軍部隊を救出し、敵対者の手中にあった戦略的主導権をかすめ取ったのだ。

この信じ難い突然の情勢の変化は、従来からゲームデザイナーにとって おあつらえ向きな着想の根源となっていて、それはこの局地戦を扱うシミュレーションゲームの数に表れている。
幾つかのゲームは、およそ20年前に作製されており (注1) 、その他の作品は割と最近のものである (以前にGMTが出版した "Lost Victory"、VV#2参照) 。 Vae Victis #25 で付録として提示された "Kharkov 1943"、ユーロゲームズが出版した、同じく "Kharkov 1943" -- 興味深い紹介が全く無く、もっと多くの意見が必要だ -- がある。

注1
Peoples War Games の "Duel for Kharkov" ( Cosi から "Duel bei Charkow" というタイトルで再販されている。VV#3参照) と、Clash of Arms の "The Last Victory" (The Winter Storm シリーズ) は、歳月を経た現在でも、相変わらず優れた作戦級シミュレーションゲームである。

 

シリーズのデザイナー

Von Manstein's Backhand Blow の内容物T3シリーズ (Moments in History より発売) を大ヒットさせたディルク・ブレネマンもまた、このテーマに取り組んだ。 彼は "Von Manstein's Backhand Blow" (以下、VMBB) をひっさげて、全く新しい "Schwerpunkt シリーズ" を始めたのである(今度は GMTから発売)。
デザイナーによると、新シリーズはルールの観点からすれば同じT3シリーズの単なる改良バージョン以上のものであるという。
彼の野心は、今回取り組んだテーマが第2次世界大戦全体で最も重要な戦いをシミュレートすることであることからも明瞭だ。 それでも VMBB に生命を与える精神は、簡単で独創的なゲームによって構成されていた T3シリーズの主要な特性を良く受け継いでいるように見えるので、ファンにとっては一安心である。

ゲームの内容物は、全くご立派な仕立てとなる代わりに、MiH から GMT への移行の恩恵を大いに浴した ( 訳註 : MiHへの痛烈な嫌味です)。  ユニットは字が読み易くて機能的である (たとえ、比較的簡素な図柄を惜しむことしかできなくなっても) 。
一方で、プレイ補助カード類は便利でとても良く考えられている。 ルールは寧ろ短く、もし一冊に収めることができたなら良かった。
しかし実際には、シリーズは VMBBにも義務を負わせ、2つの冊子を備えて登場した。:1冊目は Schwerpunkt シリーズ全体で有効な共通ルール、2冊目は VMBB の専用ルールである。



良く錬られたシステム

1冊目の冊子では、T3シリーズを成功させた要素を再び見出せる。
各ターンは、幾つかの活動セグメントに分割されている。 第1セグメントにイニシアティブを持つプレイヤーが行動し、次に相手側のセグメントになる。 この手順を続けて行う。
各活動セグメントの初めに、手番プレイヤーは移動の前に攻撃するのか、またはその逆の手順で行動するのかを決める。 それから C3I ( Command, Control, Communication, & Intelligence ) ポイントを消費し、ダイス(2個)を振って一覧表を参照する。 こうした手順で変動的な行動ポイントを獲得するのである。
このポイントによってプレイヤーは、自軍ユニットを動かすことができるようになる (1ユニットにつき、1ポイントを要する) し、幾つかの戦闘を始めることが可能になる (3ポイントを消費する) 。 行動ポイントを消費することにより、全部隊のほんの一部分を移動させることができる。 とりわけ、手番プレイヤーが、もし多数の攻撃を行うことを決めたのならば。

幸いにも、各ターンの終わりにある 総合セグメントでは、両軍ともそれぞれ全ユニットを活性化することができる。 この総合セグメントでは、(訳註:ユニット毎に) 移動または攻撃のどちらかを選択するのだが、両方を行うことはできない。

戦闘の際には、防御側と攻撃側の戦闘力の比率を求め、各陣営の最も良い戦術値を見る。その戦術値は、各自がランダムに引く戦闘チットの枚数となる。 最大の戦術値を有するプレイヤーは、引いたチットから3枚残しておく。 他方のプレイヤーは1枚だけ残す。
これらのチットは、ゲームシステムの基本面を構成するプレイ面に加えて、いくつものファクターを戦闘に含ませることを可能ならしめている (空軍、砲兵、重戦車の投入など) 。 しかし、同時に非常に実際的かつ簡単な方法でもある。

さらにチット使用のおかげで、時には限定的ながらもリアルなイベント上の落とし穴を防御側は持っている。 それらは戦闘にメリハリをつけ、1つの戦闘結果表だけでは非常に困難な“戦闘結果の相違”の発生を可能にしているのだ。
確かにVMBBでは、概して攻撃側は、戦線に存在する相手側の堅固な要塞を壊滅するために、気違いじみた比率 (14対1,さらには 19対1) で攻撃するか、多量のダイスの出目ボーナスを受け取るか、またはその両方を用いなければならないだろう。

その一方で、あまりに大きなダイス運の善し悪しを相殺するために、極端な結果 (6面体ダイス2個を振って 2、3、11、12 が出たとき) ではランダム・イベントを引き起こすようになっている (訳註 : 3と11はランダム・イベントでは無く、"SNAFU"が発生する) 。 これは 「すべての戦闘には不確かな面が存在する」 という戦争の基本的な概念に触れているのだ。
もちろん、ここがこのシステムの重要な特性でもあり、その結果は道理に適っていて、実際に変化をつける要素であり、彼らの成功の秘訣である。



特徴

シリーズの基本ルール以外に、2冊目の冊子で VMBBの専用ルールが記されている。
T3シリーズ最終作 (Velikye Luki) の概念を再び採り入れているので、デザイナーは管理移動を体系づけた。活性化セグメント (訳註 : Schwerpunkt セグメントと、総合セグメント) の初めに、手番プレイヤーは1つのユニットをマップ外の管理移動ボックスへ動かすことができる。 次に、補給下にある任意の自軍ユニットに隣接するヘクス (訳註 : それと、補給下の自軍ユニットが存在するヘクス へ、その管理移動ボックス内のユニットを置くことができる。
管理移動の重要な点は、それが『無料』であること、つまり活性化ポイントが不必要だということだ。

第3次ハリコフ戦は、ちょうど雪解け前に繰り広げられたので (Raspoutitsa : 〈ロシア〉道がぬかるむ雪解け期)、天候 (地表状態) は凍結と泥濘の間を行ったり来たりしていた。
泥濘の場合、2つある活性化セグメント ( 訳註 : ここでは Schwerpunkt セグメントの意 ) のうちの1つが省略され、それに応じてそのターンに受け取る C3Iポイントも変更 ( 訳註 : 少なく ) される。 もし、泥濘の後に続けて泥濘が発生すると “重い泥濘” となり、そのターンの Schwerpunkt セグメントは2回とも無くなる。 その場合、両プレイヤーには総合セグメントだけが行動するために残される。
そこがまた、軍事行動へのロシアの雪解けの影響を表現する簡単で面白い方法なのだ 。

ソ連軍プレイヤーは自身の活動ポイントを2つに分割して、南西方面軍とヴォロネジ方面軍へ公平に配分しなければならない。 そのため、2つの方面軍マーカーがマップ上に配置される。
この2つのマーカーは等しく活性化の中心として機能し、もし友軍ユニットが方面軍マーカーから12ヘクス以内の距離にいない場合、総合セグメントの間を除いて、そのユニットは行動することができない。 このような拘束は、1943年の第3次ハリコフ戦の期間中、ソ連軍の方面軍 (軍集団に相当) が補給線の調整と遙か遠方への延伸の両面で、なおも慢性的不足に苦しんでいた事から見ても不可欠である。

"Lost Victory (GMT)" の内容物ドイツ軍プレイヤーには、チェスのようにキャスリング (ロシャーデ) を実行するチャンスという、一種の特殊能力がゲーム中一度だけ与えられている。 ターンの初めにドイツ軍プレイヤーがキャスリングを宣言すると、そのターン中はドイツ軍に大変有利な特別の活性化表の恩恵に浴することとなるのだ。
これはフォン・マンシュタインの反攻の直前、ドイツ軍戦車部隊によって主導された総括的な戦略機動を表している。
そのため、幾つかのゲーム (例えば "Lost Victory" (GMT) のような) とは逆に、ドイツ軍プレイヤーがこの種の機動を実行する時機を選ぶことができるようになっている。
同様に、ドイツ軍プレイヤーは C3Iポイントを蓄積することが可能で (ソ連軍プレイヤーも可能)、好機とみなした時に反撃を開始できる。
ゲームが反撃開始の時機を (訳註 : プレイヤーの代わりに) 決めてしまっていないのだ。



戦闘と移動

硬直よりも柔軟が、正面対決よりも機動がVMBBでは好まれることは、皆さんが御理解しているだろう。 この機動は確かに、ドイツ国防軍が赤軍の能力を妨げ、ハリコフで優位を占めることを可能ならしめた要素であった。

この戦いを正確にシミュレートするのは容易な事ではない。 ドイツ軍に実際と同じ反撃を実施する好機を与えるために、しばしば今までのハリコフ戦ゲームではソ連軍プレイヤーに史実と同じ過ちを正確に繰り返させるよう、無理強いする努力をしていた。 同じくドイツ軍プレイヤーの側も、あらかじめ定められているターンでしかユニットを回復させられない、ということがあった。 ドイツ軍プレイヤーにとって不幸なことに、もしゲームの展開が歴史と同じ動きを繰り返さなかった場合、本来の反撃を開始することは非常に困難だったのである ( "Lost Victory" で生じていたのは、正にこれである)。

VMBBでは勝利ポイントという間接的な方法によって、各陣営はスターリンの命令 (どんな犠牲を払ってもドニエプル川に到達する ) と、ヒトラーの命令 (どんな犠牲を払っても全てを保持する ) に服すことを強いられる。しかし、各軍が被るステップロスも勝利ポイントに加算される。
枢軸軍プレイヤーは ハリコフ東方の橋頭堡を可能な限り長期間保持しなければならず、このハリコフ市と更に自陣営の部隊も大切に扱わなければならない。 同様に、ソ連軍プレイヤーは主要都市を占領するに留めるべきではなく、威信により、敵対者を殲滅することも実行しなければならない。
各ターンの最後に勝利ポイントの合計を確認し、もしその数字がそのターン時に定められている範囲よりも低いと、ドイツ軍プレイヤーの勝利となる。 もしその結果が範囲を超えていると、勝者はソ連軍プレイヤーとなる。 合計値が範囲内に留まっている場合は、プレイを続行する。

従って、どのような戦略を採用するのかという強制力 (主導権) を握っているのは、もちろんプレイヤーなのであり、ゲームではない。 各陣営には勝利達成のための方法がいくつもあり、どれを選ぶのかを決めるのはプレイヤー自身なのである。
このシステムの唯一の問題点は、ソ連軍ユニットによる海方向への突進と結びついた勝利条件の欠如である。 実際、ソ連軍の計画では黒海に到達することによって、最終的にドイツ軍部隊の相当数を孤立させるつもりだったのだ。
ゲームマップは海の遙か手前で止まっている。 ところが、部隊ユニットを退去させたり、上記の計画を実行するための用意は何もなされていない。



各ゲームの手順

その複雑な性質ゆえに、第3次ハリコフ戦は活性化とイニシアティブの決定に関する独創的な手順の創作意欲を刺激してきた。
イニシアティブの決定の分野においては、独創性の栄誉は恐らく "Lost Victory" のものになる。 このゲームの中で、両プレイヤーは各ターンに実施するつもりの義務的な攻撃数を“賭ける”。 最も多い数を申告したプレイヤーが先攻になるのだ。
これに関して "Kharkov 1943" (Vae Victis 25号付録) では、両プレイヤーがダイスを1個ずつ振ることで決定し、最も良い目を出したプレイヤーがイニシアティブを獲得する。
VMBBではそれらとは逆に、どのゲームよりも限りなく規則正しい交代制である。 最初にプレイするのは常にソ連軍プレイヤーであり、ドイツ軍プレイヤーはその後である。

第3次ハリコフ戦は、第2次世界大戦の軍事作戦術における一種の“頂点”と見なされている。 であるから、ゲームデザイナーの意向は、現代戦の最も重要な要素をそこに注入することとなる。そしてそれらの要素の一つが戦闘での混乱であり、そうした混乱を収めることなのである。

"Kharkov 1943"(VV25) ・シナリオ3 セットアップ時故に、この戦闘シミュレーションでは多くの場合、ユニットの活性化のメカニズムが複雑になる。
その点で再び思い切った手法を用いているのは "Lost Victory" であり、明確なゲーム・フェイズを用意せず、各ユニットがそれぞれ実行しようとする移動、戦闘、砲撃の順序を完全にプレイヤーの判断に委ねている。
私が気になるのは、この方法では、とりわけプレイヤーの思考に混乱の種を蒔く効果があることである。
(訳註 : なぜ、ここで笑いを取ろうするか・・・)
"Kharkov 1943" は、その考え方を再び採り入れてはいるものの、両軍の司令部を交互に活性化させるという “枠” をつけることによって、遙かに納得できる結果をもたらした。
VMBBでは、不確かで限定された個数のユニットしか活性化を許さない、という全く正反対な手法をまたもや用いている。《移動してから戦闘》 または 《戦闘してから移動》 するという基本的な図式は、そのまま踏襲されているのである。

本来、VMBBは第3次ハリコフ戦から着想を得て独自のシステムを発展させたゲームでは無い。デザイナーは、むしろ機動戦の普遍的なメカニズムを理解し、それを簡単な方法で表現しようと試みたのだ。
そのようなシリーズ・システムの配置は、なるほど完全ではなく、寧ろ独創的であり、充分にリアリズムなまとまりを与えている。
とは云え、取っ付き易さはそのままだ。その普遍的なシステムが、それぞれ固有の戦いのために修正されているのは結果に過ぎない。

第3次ハリコフ戦への過度のリアリズム願望は、 "Lost Victory" を 『少しばかりプレイして楽しいシミュレーション』 という曲がりくねった道へと導いてしまった。
"Kharkov 1943"は、幾つものオーソドックスな手法を重ね合わせることによって複雑なゲームになったが、理解しやすくてプレイ可能である。
一方で VMBBは、ディルク・ブレネマンによって配置されたシステムの長所を完全に生かし切っている。

"Von Manstein's Backhand Blow" は、第3次ハリコフ戦の楽しいシミュレーションだ。
ルールの習得が相変わらずスピーディーなのは明瞭である。 同一テーマの他のゲームで見られたようにユニット数を増やすような事はせず、逆にこれを減らすという選択によって酷い結末とは無縁となっているし、幾つかの特殊部隊の干渉を表現する配慮をチットに委ねることにより、ゲーム・プレイはスムーズになっている。各陣営は管理移動と総合セグメントのおかげで本当に自由に機動できる。

実際のゲーム・プレイでは同じような展開になることは滅多になく、プレイ進行も比較的速い (既に経験を積んだプレイヤーでも、1ターンあたり1時間を切るのは不可能と思われ、キャンペーン・シナリオは17時間掛ければ・・・・・) 。
唯一の紛れもない欠点は、シナリオ数が僅かしかないことである。
デザイナーズ・ノートによると、その他のやるべき事柄は、GMTが発行している C3Iマガジンで詳しく説明されるとのこと。

Schwerpunkt シリーズは、皆がやっていることから抜け出したがっているように、私には見える。
と言うのは、次の作品が "Schwerpunkt Series Quad I" というタイトルになるからである。これは SPI 時代のように、4つのゲームを1つの箱に収容する形となる。:第2次ハリコフ戦 (1942年5月) 、第4次ハリコフ戦 (1943年8月) 、アルデンヌの戦い、そして最後にコルスン・ポケット。
そんな理由 (わけ) で、シリーズはつづく・・・・・。




Von Manstein's Backhand Blow

ゲーム 英文、難易度は普通、出版元はGMT。
付属品 マップ1枚、342ユニット、プレイ補助カード7枚、ルールブック2冊。
長所 取っつきやすく、習得するのは速い。相互の活動量は大きく、再プレイの頻度も高い。
短所 シナリオが1つだけで、その他は準備中。
(訳註 : 実際にはシナリオは2つある)
評価 : 4.5点 (5点満点で)



本記事掲載誌の Vae Victis 49号は、2003年2月に発行されました。

この非公式翻訳文は Vae Victis 編集部の許可を得て公開しています。

Translated by T.Yoshida

 

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