第二次ハリコフ戦ゲーム

Turning the Tables [Moments in History]


Quand simplictié rime avec originalité (VV #42)



T3 Series

Quand simplictié rime avec originalité ( Vae Victis #42 )
 
単純さが独創性と韻を踏む時




我々は東部戦線関連のシミュレーション・ゲームによって、卓球台とプレイ強化週間が必要な詳細極まる『モンスターゲーム』に慣らされてしまった。
"Turning the Tables (《T3》)" というゲームから着想を得て Moments in History から発売されているこのシリーズは、それらの戦いも簡単かつ迅速な方法で再現できることを我々に示している。


Hervé BORG


まず初めに "Turning the Tables" が1998年に出版された。 このゲームが大当たりしたことで、Moments in History は T3のシステムを再利用して、一つのシリーズを作る気になった。 それが 1999年の "Drive to the Baltic!"、次に 2000年の "Velikye Luki" である。
現在、デザイナーのディルク・ブレネマンは GMTへ移籍するために MiHを離れたので、3つのゲームから成るこのシリーズは終了している。 シリーズの詳細検証を行うのは、これからなのだ。


シリーズの紹介

各ゲームは他の MiH 製品と同様、Ziplock に入れて販売されている。
ルールは約15ページの冊子に納められており、明解かつ容易に理解できる。 この冊子は、とても上出来な歴史解説によって興を添えられている("Drive to the Baltic!" は除く)。
その反面、マップの図案やユニットの色彩、そしてプレイ補助カードの構成はタイトルごとに全く異なっている。 出版社は "Turning the Tables" の地味だが効率的な体裁を改良しようとしたものの、後続の2つのゲームに表れた成果は異論の余地のあるものであった。
それでも、あるいくつかの要素は継承された。
NATO記号を用い、各ユニットは攻撃と防御に適用する戦力値と戦術値(1944年のドイツ軍臨時編成部隊とソ連軍狙撃兵旅団用の 『1』 から、1942年のドイツ軍装甲師団用の 『6』 までの間で変動する)、同じく、そのユニットが機械化されているかどうかによって あまねく均一化された移動能力値の3つの数値が記されている。



戦闘における混乱

各ターンは3つのセグメントに分割されている。
各セグメントにおいてイニシアティブを有するプレイヤーは、戦闘する前に移動するのか、またはその逆を行うのかを最初に決める。 手番プレイヤーは移動と戦闘を指揮し、続いて相手のプレイヤーが同じ手順を次のセグメントへ移る前に行う。
各ターンに両プレイヤーへ割り当てられる C3I( Command, Control, Communication & Inteligence )ポイント数を知る時が面白いのである。 この C3Iポイントは両陣営の機動戦指揮能力を表す。
各セグメント開始時に、手番プレイヤーは C3Iポイントを消費してダイスを振る。 そして活動能力表を参照し、プレイヤーが動かすことのできるユニット数と、そのセグメントに実行できる攻撃数を調べる。

C3Iポイントの数値はシナリオによって定められていて、ターンが進むにつれ変化する。
例えば 1942年のハリコフ戦の場合、5月12日(第1ターン)にソ連軍はドイツ軍の4ポイントに対して9ポイントを持っているのだが、ドイツ軍の反撃の真っ最中である 5月22日(第6ターン)には、もはやドイツ軍の7ポイントに対して4ポイントしか持たない。 従ってイニシアティブを有するプレイヤーは、各セグメント時に半数より多くの自軍ユニットを動かすことをほとんど期待できないのである!
イニシアティブを持たない側はどうかというと、いくつかの絶対に動かさなければならないユニットを注意深く選ぶことなるのは間違いない。
各プレイヤーは、セグメント毎に1,あるいは2ユニットと限定されている戦略移動の能力の恩恵に、等しく浴する事となる。

この手法は、恐らく大規模なゲームでは、とても続けることができないだろう。
しかし、T3シリーズの各ゲームはユニット数が比較的少ないので、最後までプレイし続けることが出来る。 戦闘における混乱をシミュレートしようとするこの独創的なシステムは、確かにこのシリーズの魅力を構成する主要部分である。



不確実な戦闘

T3シリーズの他の特徴は、戦闘処理の方法にある。
ここでは電卓の使用は無意味だ。 プレイヤーは、相手のスタックの一番上のユニットだけしか見ることができない。 さらに、戦闘力比以外に、各陣営の最も良い戦術値を選択し、それと一致する枚数の「戦闘に変化を与える要素」(戦闘チット)を引く。
最も大きい戦術値を有するプレイヤーは、相手よりも多い枚数の戦闘チットを持ち続けることができる。 戦闘チットには単にダイスの出目へのボーナスとして機能するもの、または損害ステップの修正(例えば、有名な『ウォッカ!』は両陣営の損害を増やす)、他にもドイツ軍機械化ユニットの戦闘力を2倍にするものもある。
これらのチットは、ゲーム・システムに高度な遊びの概念を導入しているにも関わらず、システム全体を重くはしていない。 はじめから勝つと決まっている戦いなどないのだが、ある程度の首尾一貫性は尊重される。

結局のところ T3シリーズのシステムは、プレイヤーから事件に影響を及ぼす機会を奪うことなく、戦争の奥底にある不確実さをダイナミックな手法でシミュレートすることを可能にする、簡単なルールの集合体なのだ。
だから私達は自軍を有効に指揮することの難しさを、その時強く感じる。:
C3I ポイントを消費した直ぐ後なら、プレイヤーは納得できる部隊運営を滞り無く行うことができるだろうが、あちこちで幾らかの C3I ポイントを貯めることなく、どうやって決定的な作戦を準備するのだろう?
ゲーム・プレイは比較的速く進展し、多くの場合、伯仲した展開になる。それがプレイヤーの興味をかき立てている。 この事実が、シリーズの各タイトル毎のシナリオ数の少なさという弊害を目立たなくしている。

もし、このシリーズが終わったことを残念に思うのなら、希望を失ってはならない。: ディルク・ブレネマンは、自ら配置したシステムを GMTで発展させ続けている。
全ての作戦の舞台を表現するという野心から生じたものではないと思われるT3シリーズの、単なる発展形以上に優れているのが、 “Schwerpunkt シリーズ”である。
第1作目のタイトルは、"Von Manstein's Backhand Blow" という。 このゲームは既に準備が出来ており、最終的な注文数がそのタイトル(Project 500)にまで達しないと、箱入りの形で発売されないだろう。
他方で MiHは、ブレネマンが権利を所有している為に、新たな別のシリーズ《T4 シリーズ》をスタートさせる予定だ。

『王様は死んだ。王様バンザイ!』


T3 シリーズ

ゲーム 英文、難易度:普通、出版元:Moments in History.。
付属品 マップ1枚、240〜280ユニットを含む。ソロプレイ可能。
品質 東部戦線に非常にマッチしたゲーム。システムは独創的で高性能、マスターするのは容易で、スムーズにプレイできる。
欠点 グラフィックが非常にありきたりだ。プレイ補助カードも今一つ使いにくい。シナリオ数が少ない(平均して2つ)。
評価 4点 (5点満点で)




シリーズの各ゲーム

Turning the Tables
  1942年5月、ハリコフ方面への赤軍の反撃は順調に始まるが、ソ連軍の明らかな戦術上の劣勢とドイツ軍の卓越した機動力は、状況を完全に逆転させてしまう。
ソ連軍は初期戦力の 1/3を失うことだろう。
ほとんど、古典的名作と言える。
   
Drive to the Baltic !
  1944年7月〜8月にかけての、北方軍集団に対するソ連軍の反攻という不遇なテーマのゲーム。
ルールは TtTのものと同じだが、スケールはより大きくなっている。 それが多分、シリーズで最も成功した要因である、というのが大雑把な結論だ。
にもかかわらず、全く異なる2つのシナリオが用意されている。
   
Velikye Luki
  パウルスの第6軍がスターリングラードで滅亡の危機に瀕している最中、ソ連軍はヴェルキエ・ルーキで レニングラード - ヴィテブスク間の鉄道線路を遮断することを望んだ。
不意を突かれ、ドイツ軍は機動力のある使える部隊をすべて、無駄にそこへ送り込もうとした・・・・・・。
どちらかというと、作戦・戦術級のゲームである。 ゲーム・システムは、バージョン 2.0のルールによって完璧に洗練された。
シナリオは2つだけである。

Turning the Tables の表紙画像 Drive to the Baltic ! の表紙画像 Velikye Luki の表紙画像


インタビュー

   
Vae Victis -- T3シリーズの始まりは何だったのですか?
Dirk Blennemann ええっと、プレイヤーにとってシンプルで簡単、でも変に単純化し過ぎることのないゲーム・タイトルに対する強い要望が、プレイヤー達から実際あったことに私は気付いていたのです。
そのことが、かつてのシミュレーションゲーム発展期に実現されたゲームの楽しみ、もっと最近のゲーム用語で言うなら “リアリズム” を追求することと等しくなったのです。
   
VV -- どうやって2つの要望を両立させたのですか?
DB まず第一に、シミュレーションの多様な要素を全体的にシンプルなシステムへ組み込むことによって、各フェイズ時に 40ページの冊子を絶対に参照しないで済むようにしました。 これが、私が『機械的な単純さ』と呼ぼうとした事なのです。
第二に、現場の長がコントロールできなかった(特に、チットによって表現されているような)要素を別にとっておき、その上でプレイヤーが「作戦」と「戦闘」という戦争の本質にだけしか専念できないようにしたのです。
   
VV -- どんなゲームがお好みですか?
DB 難しい質問ですね。私がとても好きなのは、
ジャック・ラディーの "Korsun Pocket" (People's War Games)、
ジョー・バルコスキーの "St Lo" と "Against the Reich" (共に West End Games)、
マーク・ハーマンの "Flashpoint Golan" (Victory Games)、
タイ・ボンバの "End of the Iron Dream" (3W)、
マーク・シモニッチの優れた "The Legend Begins" (Terran Games) もね。 それにしても、これを忘れるとは・・・・。
   
VV -- 今現在の御予定は?
DB ちょうど、1944年9月から1945年4月までの西方キャンペーンを扱う、GMTのための "The Siegfried Line Campaign" のリサーチを終えたところなんです。
   


T3シリーズの続編、Schwerpunkt シリーズ第一弾 "Von Manstein's Backhand Blow"のレビュー記事も御参照ください。


本記事掲載誌の Vae Victis 42号は、2001年12月に発行されました。

この記事の翻訳は Vae Victis 編集部の許可を得て公開しています。

Translated by T.Yoshida

 

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