第三次ハリコフ戦ゲーム
Nach Stalingrad ! [HC / Vae Victis #54]

En route pour Stalingrad et la Mer Noire !

(Vae Victis #56)

 


スターリングラード と 黒海へ 出撃!

(VaeVictis #56)


目次

リプレイ本文  プレイ例 ・ その2



SPI 製の由緒あるゲーム " Drive on Stalingrad " と Rhino Games 製の "Campaign to Stalingrad " を除けば、1942年におけるドイツ軍の夏季攻勢全体をシミュレートするゲームは ほぼ皆無だ。 Nach Stalingrad は皆さんに挑戦状を突きつける。 あなたは バクーまでたどり着くことができるか?



by
Christophe GENTIL-PERRET & Luc OLIVIER


Nach Stalingrad は、1942年夏のドイツ軍の攻勢 (「青の場合」- 青作戦 ) と 1942〜43年冬のソ連軍による反攻を扱う作戦級ゲームだ。 Vae Victis 誌 54号の付録として出版された後、同誌 55号で さらに拡張され、全部で6つのシナリオが公開されている。

一つ目のシナリオでは、スターリングラードへ向かうドイツ軍の攻勢 “灰色アオサギ作戦” を 1942年8月初めから 同年11月半ばまで、つまり 7ターンに渡ってプレイできる。
二つ目のシナリオは、同時期のコーカサス地方と黒海沿岸の港の制圧をマップ南部と拡張マップを用いて試みる “エーデルヴァイス作戦” をシミュレートする。
最後のシナリオは、全部のマップを使って '42年6月末から 同年11月まで、つまり9ターンにも及ぶ戦いを繰り広げる。このシナリオでは スターリングラード、バクー、それに黒海沿岸の港の占領を目指す “青作戦” 全体をシミュレートする。

スターリングラードのドイツ第6軍に対するソ連軍の攻勢から始まり、マンシュタイン元帥の反攻、ハリコフ戦へと続く 1942 - 43年の冬季戦役を三つのシナリオを通じてプレイできるエキスパンションが、Vae Victis 誌の 55号 に掲載されている。
一つ目の “ウラヌス作戦” は、マップの狭い範囲だけを使って2ターンしかプレイしない ゲーム・システム修得用シナリオだ。このシナリオは、少なくともソ連側でのソロプレイに適している。
スターリングラードにおける第6軍の包囲と ホト将軍の救援の試みが失敗した12月半ばからの “小土星作戦” シナリオ、ならびに 11月半ばのソ連軍の攻勢直前から始める“ドニエプルへ進撃せよ!” シナリオという二つのシナリオは、それぞれ異なる初期状況から 1943年3月23日までの冬季戦役全体を カヴァーする。
結局、これらは 18ターンでシミュレートされる9ヶ月間の戦役なのだ。
42年夏から 43年春まで 18ターンでプレイできる 完全なキャンペーン・シナリオは、今号の "Journal de Marche" (訳注 : 付録ゲームのマップ裏) に掲載されている。

ゲーム・スケールは、1ターンが 15日、ユニットは枢軸軍側が「軍団」、ソ連軍側が「軍」を表す。各損害ステップは、ドイツ軍は 0.5個師団相当、他の諸国は 1.5個師団相当となっている。1ヘクスの対辺間距離は 42km、そして拡張マップを用いるプレイ領域はクルスクからバクーまで広がり、広大なロシアの領土を良く再現している。




作戦メカニズム

用意されているユニットは、各陣営の 部隊 ・ 司令部 ・ 指揮官 を表している。ユニットには 移動力 ・ 攻撃力 ・ 防御力 ・ 熟練度 ・ ステップ数 が記載されている。各ユニットは最大6ステップまで所持することができ、そのユニットの下に損害マーカーを置くことによって、攻撃力と防御力を相対的に減少させる “損害” を表示することになっている。
熟練度 は戦闘に大きな影響力を持ち、枢軸同盟諸国用の 「1」 から、ドイツ軍装甲ユニット用の 「4」 まである。大半のソ連軍部隊は 「2」 、ドイツ軍歩兵は 「3」 である。
司令部 はゲーム・システムの核心だ。実際のところ、 “ターン” は作戦フェイズの連続として展開する。両プレイヤーは交互に 「軍」 または 「方面軍」 司令部 を活性化させる。活性化した司令部は、その指揮範囲内 - 司令部によって2〜7ヘクス - に存在する部隊ユニットを移動させた後、兵力投入能力値 (ドイツ軍側は大抵3または4、ソ連側は1) と等しい数までの戦闘を実施することができる。
軍集団司令部は、複数の下級司令部 (訳注 : 「軍」または「方面軍」司令部) を 同一フェイズ時に活性化させることにより、もっと多くのユニットを移動させ、戦闘を仕掛けることを可能にする。
作戦フェイズ中、活性化されたユニットは移動してから戦闘を行い、最後に、それらの中の幾つかは もう一度移動することができる。とりわけ、2つの移動フェイズに渡って移動可能な 戦車 (装甲) や 機械化 それに 騎兵 ユニットは、追加移動ポイントというコストが掛かるものの 速攻が可能になる 「機動攻撃」 を、いくつかの制限下で実施できる。ドイツ軍は、以前 (訳注 : 第1移動セグメント時) に移動させなかった歩兵軍団を、第2移動セグメント時に移動力いっぱいまで動かすことができる。そのため、敵よりも優れた柔軟性を備えている。
一般に、攻撃目標をターン開始時に定めることによって、はじめて各ユニットの運用能力を発揮させることができるものだ。ソ連軍は親衛狙撃兵部隊以外の部隊が柔軟性を欠くうえに、 “ 移動 → 戦闘 ” という図式の部隊運用を強いられている。
軍集団指揮官と装甲軍指揮官は、攻撃 ・ 防御 ・ 移動 、さらには一緒にスタックしている司令部の兵力投入能力値を増加させる、といったボーナスを提供してくれる。残念ながら “撤退” や “戦闘拒否” などの行為は、上級司令部による彼らの更迭を引き起こす。
この広大な作戦展開地域において最重要な要素である 「補給」 の輸送は、ドイツ側のレール幅に変換しなければならない鉄道、または航空機、あるいはトラックに依存している。
最後に空軍は、空軍ユニット によって抽象的に表現されている。空軍ユニットは、敵戦闘機 または 天候 を要因とする損失 ならびに増援に応じて、個数が変動する可能性がある。空軍は戦闘機や爆撃機、さらには航空補給、あるいは (ドイツ軍には) 艦船攻撃 - 黒海艦隊 またはヴォルガ船団 - 等の任務で多忙になるだろう。




あなたが作戦指揮する(かのような) 青作戦!

以下に御覧に入れるリプレイは、プレイ・レベルが同程度のプレイヤー2人が " Nach Stalingrad ! "(邦訳・スターリングラードへ!) シナリオをプレイした様子である。
このシナリオの勝利条件は、3つの領土目標 - スターリングラード、バクー、黒海沿岸の港 - と、枢軸軍の潜在的軍事力の保持 と ソ連軍機械化部隊の殲滅 という、枢軸軍に課せられた軍事目標の組み合わせとなっている。 自軍の戦略を確定する前に、これらの勝利条件を真面目に分析することは、枢軸軍プレイヤーにとって非常に重要である。瞬時の戦略的勝利 (サドンデス勝利) を 彼に保証してくれる3つの領土目標の征服でもしない限り、最低でも戦術的勝利を望むには軍事目標の達成が必要となる。そうでもしないと、最高でも引き分け、最悪の場合は3つのソ連軍勝利レベルで終わってしまう。

これらの勝利条件は よく考えられている。それもそのはず、もし枢軸軍が コーカサス全域の征服に失敗し、両陣営にとって必要不可欠な石油資源を奪取できなかった場合、 毎度おなじみの冬季反攻に耐えるために必要な潜在的軍事力を保持していなければならなくなるのだ。 初期配置で用意される 112.5 損害ステップ、それに増援と補充分の 16.5 ステップを加えて 合計 129 ステップ。ゲーム終了時に、そこから少なくとも 98 ステップを維持するための選択の余地は僅かしかない …… 全目標の征服に乗り出す行為は、熟慮を要求する危険をドイツ軍が引き受けることになる。失敗した場合、彼は自軍を無駄に消耗させてしまい、良くても 引き分けを手にすることとなる。
だが その一方で、慎重過ぎる戦略に捕らわれていると、その道の果てにも敗北が待っている。史実では、枢軸軍は それらの目標のいずれにも到達することなく、戦役はソ連軍の戦略的勝利に終わった。枢軸軍プレイヤーは必ずや、もっと上手く振る舞うことだろう。




プレイ開始時の状況


初期配置は固定されており、クルスクからスターリノへと達する南北ライン沿って互いに向かい合っている。
枢軸軍部隊は2個軍集団に編成されていて、北部は第2軍と第6軍、ハンガリー第2軍、それに第4装甲軍を含む B軍集団、南部は第17軍とクライスト将軍の第1装甲軍を有する A軍集団である。直前の戦闘 (訳注 : 第2次ハリコフ戦のこと) での傷跡が残っているので、いずれの軍団も編成上での最大戦力状態にはない。ドイツ軍の歩兵部隊が最大兵力の 80 パーセントを保持している一方で、攻勢の先鋒部隊を形成する6個の装甲軍団は、理論値での 36 損害ステップ中の 20 ステップしか保持していない。 プレイ開始時の戦況図

ソ連軍は、4個方面軍司令部が 10 個軍と少数の予備軍を統率することで、この脅威に立ち向かう。こちらでも 各 「軍」 は、ほとんど定員を満たしていない。現時点のスタフカ (ソ連軍の最高司令部)は、戦車や機械化部隊を 自由に使える状態にはない。
幸い、増援と補充は豊富に与えられることになっている。



● 第1ターン : 1942年 6月28日 〜 7月15日

史実での計画に従い、B軍集団は強力な空軍に支援された攻勢を 6月28日に広正面で開始した。ホト将軍率いる第4装甲軍はソ連軍の第40軍をオーバーランしようとしたが失敗し、装甲軍団は この移動セグメントにそれ以上移動することができなくなってしまった。この僅かなアクシデントは本当の意味で第40軍を救うことはなく、後の戦闘で彼らは殲滅されてしまう。その南では 第38軍が諸兵科連合による攻撃を受けて全滅。ドイツ軍は、自軍装甲部隊の機動性 と 歩兵部隊の作戦行動上の柔軟性 を上手く用いることにより、この戦闘でソ連軍の防衛戦に突破口を開いたのだ。
歩兵軍団のいくつかが 南西方面軍 ( SO : South-Ouest) の後方に回り込んでいる間に、ドイツ軍は北部で第13軍を包囲した。編成途中の第60軍が薄く守る ヴォロネジの城門にたどり着いたホト将軍は、いとも易々と この街を占領してしまった。
青作戦の第1段階は、開始から 15日にも満たない時期での ヴォロネジ占領や、いくつものソ連軍の 「軍」 を壊滅または包囲するといった、誰が見ても明らかな勝利を飾った。

南部では、対峙しているA軍集団が一息ついている隙に、ソ連軍は部隊を後退させてから再配置を実施した。この動きに対し枢軸軍部隊は攻撃を行わず、後退したソ連軍を直ちに追撃した。このゲームの第1ターンでは、B軍集団とはタイミングをずらして(遅らせて)開始したA軍集団の攻勢を再現するため、A軍集団の作戦フェイズ手順の一部が削除されている。
活性化されたA軍集団のユニットは、以下のシェーマに従って行動しなければならない。: 戦闘 → 第1移動セグメント ( → 作戦フェイズ終了) 。

ドイツ軍の攻撃から生き延びた南西方面軍のソ連軍部隊は、オスコル川を南東方向へ渡り、形成途中のポケット(包囲網)から逃れるべく努力する。北方のヴォロネジ方面軍は、ソ連軍最強の機械化部隊である第5戦車軍に その全ての予備となる3個軍を支援につけてヴォロネジ市の東方へ向かわせ、状況を回復しようと試みた。



● 第2ターン : 1942年 7月16 〜 31日

7月半ば、史実での作戦では ドン河湾曲部の掃討と、この大河に架かる橋の安全確保を主眼に置いた。しかし、プレイヤーは これとは逆に、ヴォロネジ東方のステップ地帯のド真ん中を ホト将軍の装甲部隊に駆け抜けさせた。彼らはソ連軍部隊を押し退け、マップ端に達する鉄道線と スターリングラード方向へ続く鉄道線の交点という、鉄道の戦略的要衝 (訳注 : ヘクス 1807 のこと) を占領した。第5戦車軍は壊滅。さらに悪いことに、この地域内のソ連軍部隊は完全に混乱状態となってしまって、反撃を始めることが全くできない。
ドイツ装甲部隊の突撃によって後退を余儀なくされたのが原因で、まだ生存しているソ連軍部隊は司令部の指揮範囲外に出てしまう羽目に陥り、ターンの終わり頃に設けられている特別作戦フェイズ (戦闘不可) にならないと移動できなくなってしまった。

「ドン / スターリングラード方面軍」 と名称変更された 旧・南西方面軍は、2個戦車軍の増援を受けて オスコル川のドイツ軍橋頭堡を殲滅し、川沿いに防衛線を築こうと試みる。が、攻撃に失敗してしまった。
その前に、ブリヤンスク方面軍司令部がドイツ軍の鉄床(かなとこ)の南端を形成する第8軍団に対して攻撃の火蓋を切るべく急派された。、これにより、戦線中央のソ連軍部隊は脱出路を確保することができた。
まだ その脱出路は開かれたままになっているが、それもいつまで保持できるだろう?

答えを待つまでもなかった。A軍集団が自軍の手番時に攻勢へと移ったのだ。フォン・クライスト将軍は スターリノの北東で 力まかせにドネツ川を突破すると南西方面軍の後方に出て、枢軸軍部隊の侵攻ペースを鈍らせようと画策する 弱体化したソ連軍を一掃した。戦車と航空機 (言い換えると、装甲部隊とスツーカ) の組み合わせは、敵に損害を強いるか、あるいは戦車の損害を抑えることにより (訳注 : “電撃戦” のボーナスのこと) 、初期の電撃戦のような驚くべき効果を上げた。 死力を尽くす ドン方面軍を包囲するべく、歩兵部隊は装甲部隊のあとを追った。 南部では、第17軍とイタリア軍によって ミウス川が突破された。
ドネツ川沿岸全域は、15日間で枢軸軍の手に渡ったのである。



● 第3ターン : 1942年 8月1 〜 15日

8月の初め、依然として ロストフだけがしっかりとソ連軍の支配下にあった。事態の深刻さを前にして、スタフカは この都市の保持を軍集団指揮官・イェレメンコ将軍に命じ、現場に急派した。
ソ連軍の潤沢な補充を使えば 「軍」 ユニットはいくらでも再建可能とはいえ、ステップ地帯に防衛線を築くのは もはや論外だ。そのため、再建した部隊はスターリングラードとロストフに送り込まれる。 ドイツ装甲部隊がロストフの側面へ回り込むのを防ぐため、第38軍がマニチ湖からロストフまでの川沿いを占拠した。熟練度 「3」 を有する現時点で唯一のソ連軍ユニットである第1親衛軍が大河の東岸に配置された。その間に、2個軍がスターリングラードに集められた。
第3ターン終了時の戦況図北部の鉄道線がドイツ軍によって制圧されたため、もはやスターリングラード向けの補給はヴォルガ河経由か、あるいはコーカサスの港から長距離迂回させるしかない。ヴォルガ河経由の補充と増援が渡河に1回の作戦フェイズを要する一方で、コーカサスの港は補給能力に制限がある。この2つの理由により、ソ連軍には問題が生じる。
ドイツ軍の補給組織は、部隊の進撃速度、特に先頭を突っ走るホト将軍のユニットのあとに付いていくのに苦労している。
作戦開始直後の勝利と ソ連軍の抵抗が僅かなものであったことに ヒトラー総統は気を良くしてしまい、枢軸軍の2個軍集団から装甲師団のいくつかを抽出してロシア戦線の他の地区へ それらを投入してしまった。
(第3ターン : 装甲4ステップを抽出しなければならない)

A軍集団は麾下部隊をロストフの周囲に結集し、同市を素早く陥落させようとした。ソ連軍は重大損害と引き換えにドン河南岸に踏み止まり、枢軸軍側の急速な浸透を阻止。
ロストフ陥落時の戦況図フォン・クライスト将軍は装甲部隊に対して、敵部隊が全く存在しないステップ地帯の突進を命じた。その頃 彼はドン河を渡り、スターリングラードの手前まで到達したのだ。史実とは反対に、ドイツ軍プレイヤーは この機に乗じて都市の周囲に存在するソ連軍部隊に対する機動攻撃を開始した。 ; つまり、主要都市ヘクス内に対してであり、市街戦ボックス内に対してではなかったのである。
攻撃は成功し、ソ連軍部隊は都市から追い出された! 
スターリングラードの北に到着したホト将軍は、ソ連軍による市街北部へのアプローチに対する安全を高め、あらゆる直接攻撃を妨害するのが任務である。周辺にはソ連軍部隊は全く見あたらない。

ドン河と コパール (Khoper) 川の間を通過するドイツ軍の補給線に対する限定的な反撃が 、ソ連軍側の唯一の勝利となった。結果的に、他の軍集団向けに機械化兵力の抽出を実施したため戦力が極端に弱体化していたドイツ第40装甲軍団の壊滅を この反撃はもたらした。 こうして東方への鉄道線を遮断することにより、ドン河を越えて危険に身を晒しているドイツ軍の2個軍団から補給を奪うことがソ連軍にもできるのだ。



● 第4ターン : 1942年 8月16 〜 31日

8月中旬、ドイツ軍の工兵隊は突貫作業を進めていたが、鉄道線の先端は未だドネツ川を越えておらず、最も前進したドイツ軍部隊とは 400 km 以上 (訳注 : 10ヘクスほど) も離れていた。補給不足により、スターリングラード地区の第4装甲軍、その中でも市街北方に集結している部隊の多くが危機的状況に陥る。この脅威を阻止するため、ホト将軍と フォン・クライスト将軍は攻勢に打って出た。部隊の練度差が決め手となり、ソ連軍は一時的に押し戻される。
3つの勝利目標ヘクスのうちの1つである スターリングラードの守備のために守勢を強いられている装甲部隊と交代するため、ドイツ軍歩兵部隊は強行軍で先端部隊が待つ地点に集結した。

第1装甲軍はロストフの南を出撃してコーカサスへと向かったが、ソ連軍は直前に マニチ川の防衛を放棄していたため、何ら抵抗にあうこともなかった。
この時期、ドイツおよび枢軸同盟国の軍団は、ドン河湾曲部にて損耗と補給欠乏に喘ぐソ連軍のポケットを簡単に殲滅した。
ドン河の北で孤立していたドイツ軍軍団は南に向かって後退したものの、ドン河を渡る前にソ連軍部隊の追撃を受けて撃破されてしまった。
ドイツ軍の進撃に直面するコーカサス方面軍は、先端の (枢軸軍) 歩兵部隊を攻撃するという遅滞行動を実施。


● 第5ターン : 1942年 9月1 〜 15日

9月初頭、南方への攻勢を実施するドイツ軍は増援を多数受領し、イタリア軍部隊による クラスノダール (訳注 : ヘクス 0924) 占領が可能となった。
第5ターン終了時の戦況図ソ連軍の側では、スターリングラード地区に ヴァシレフスキー将軍の軍集団司令部が到着し、その ソ連軍2個方面軍を同時に活性化させることができる能力を活用して大規模攻勢を開始する直前である。4個軍が、スターリングラードの北に展開するホト将軍の装甲部隊に対して攻撃を始めた。ホトの装甲部隊は敵襲に耐えはしたものの、非常に苦戦。同じ頃、ドン河の北でドイツ軍は撤退していたのだが、危険を冒してこれを援護していたルーマニア騎兵軍団は壊滅した。

スターリングラード方面軍の補給を脅かすことで、スターリングラード市に駐留するドイツ軍防衛部隊に掛かる圧力を減らすことを意図とする最北部のソ連軍への攻撃が、ヴォロネジ近郊のドイツ軍部隊によって開始された。この攻撃は、ある程度は成功した。だが、ロシア兵達を本当に尻込みさせる効果はあまり無く、ドイツ軍側の補給も不十分だった。


● 第6ターン : 1942年 9月16 〜 30日

9月中旬、枢軸軍の進撃は黒海沿岸の港を目指して休みなく続く。
ソ連艦隊の支援も空しく、戦力を消耗している装甲軍団によって ノボローシスク (ヘクス 0725) は占領され、その間に タマン (ヘクス 0523) は孤立状態となった。黒海艦隊は基地の喪失や ルフトヴァッフェの空爆に遭いつつも、時間が経過するにつれて益々困難になることがハッキリしている 艦隊の作戦行動能力の保持 を試みようとした。
マニチ湖の東に位置し、敵部隊との接触が予想される エリスタ市 (ヘクス 2222) を制圧するため、装甲軍団から1個師団が抽出された (枢軸軍がヘクス列 xx22 を越えた時点で装甲2ステップを引き抜くという、シナリオの特別ルールより) 。 損耗 と OKW (ドイツ国防軍最高司令部) が決定した この引き抜きにより、枢軸軍は今後、プレイ開始時のせいぜい 40 % の (装甲) 戦力しか持てなくなるのである!

コーカサス方面軍は1つ目の山岳支脈に防衛線を築いた。
9月末、やっとスターリングラードのドイツ軍部隊に、鉄道線を使用した補給物資が届けられた。
ホト将軍は、南方の部隊と合流するため、スターリングラード地区から引き抜かれた。



● 第7ターン : 1942年 10月1 〜 15日

10月の初め、タマンがイタリア軍の手に落ちたため、クリミアの第42軍団がケルチ海峡を渡ることができた。
枢軸軍部隊は、コーカサス方面軍の防衛線北部を強引に突破。これによって ルーマニア第1装甲師団がソ連軍防衛部隊を背後から襲うことが可能となり、さらに 唯一の補給路を遮断したため、ソ連軍の3個軍が孤立した。マイコプ (ヘクス 1226) と アルマヴィル (ヘクス 1425) の放棄は、ソ連軍が反撃を行うためには やむを得ない処置であった。孤立した3個軍はこうして補給を回復したものの、スフミ (ヘクス 1431) への唯一の抜け道が足下に存在するので身動きがとれず、形勢が不利であることに変わりなかった。その頃、唯一の装甲師団に随伴していたホト将軍は ソーチ港 (ヘクス 1128) を奪取。ソ連軍の第12軍は、沿岸道路沿いに スフミ近郊まで撃退されてしまう。
この港の喪失によって 黒海艦隊の作戦行動レベルは大きく下がってしまい、これ以降は海岸沿いのソ連軍部隊を支援することができなくなってしまった。

ドン河東岸のステップ地帯では、ヴァツーチン将軍のソ連軍部隊がドイツ第55軍団を叩きのめした。このため、枢軸軍部隊は残念ながら この大河を再び渡るか、またはヴォロネジに後退することになる。
スターリングラード周辺の戦況図北側面の安全が確保された今、スターリングラード北部のドン河とヴォルガ河に挟まれた地域で親衛5個軍による攻勢を新たに始めるのが責務だ、と ジューコフは ロコソフスキーに打ち明けた。この攻勢により、枢軸軍は 僅かばかりの土地を取り戻されてしまったが、強力な歩兵軍団が徐々に増強されたため、主要都市への唯一の接近路はしっかりと保持されている。
フォン・クライスト将軍は南方でホト将軍と合流するため、都市 (スターリングラード) 北部での防衛を断念した。

(右図) 第5ターンから第9ターンにかけて、スターリングラード北部のドン河とヴォルガ河の間にある回廊地帯に対し、ソ連軍の絶え間ない攻撃が加えられる。定期的に増強されるドイツ軍部隊は領土を失うものの、スターリングラード市は維持することになる。


● 第8ターン : 1942年 10月16 〜 31日

10月後半は南部で珍しく乾燥がつづいた。そのため、ホト将軍は黒海沿岸沿いに攻勢を継続することが可能になり、フォン・クライスト将軍は最近投入された装甲軍団を伴ってホト将軍の後を追う。ホト将軍は第12軍の残余を掃討し、スフミを奪取した。
バクーから延びる鉄道線を遮断したため、黒海沿岸にある最後の二つの港は孤立した。この深刻な事態に直面したスタフカは、クータイ (ヘクス 1932) へ増援を急派したが、この地区内の鉄道網が脆弱であるため、送り込める増援の規模は制限されてしまう。コーカサス鉄道を使う輸送は、ターン毎に半個軍である。
コーカサス方面軍は エルブルース山 (ヘクス 1830) の北で側面を突かれたものの、結局はルーマニア軍団が壊滅したので、ピャチゴルスク (ヘクス 1927) の辺りで体勢を立て直すことができた。

第9ターン終了時、北部の戦況図スターリングラード北方の回廊地帯では、ロコソフスキー将軍がソ連軍部隊の大群を投入して、ドイツ第4装甲軍への攻勢を継続していた。再び彼は僅かばかりの土地を獲得しつつも 多くのドイツ軍部隊を壊滅させ、目標となる主要都市に到達した。



● 第9ターン : 1942年11月1 〜 15日

11月の初め、装甲部隊は黒海沿岸の最後の港 : ポチ と バツーミ を占領し、さらに森林の奥深くへと前線を移動させて安全を確保した。ソ連の第21軍には、ドイツ軍の防衛線を打ち破って勝利目標を奪回する力は無かった。 : 艦隊に残された最後の艦 (フネ) は自沈した。

第9ターン終了時、南部の戦況図北部では、ヴァツーチン将軍が つい最近創設されたばかりの2個機械化軍の支援を受けてドイツ第17軍団を撃退し、ようやくドン河を渡河した。だが、もはやそれ以上は前進できなかった。スターリングラードの北西で陣を構えていた別のドイツ軍2個軍団は、ロコソフスキー将軍の圧力を受け、後退を余儀なくされた。しかし、都市 (スターリングラード) と、この地区の部隊の補給を支える唯一の “へその緒” である鉄道線は、枢軸軍の手の中に留まっていた。


総括 : 枢軸軍はスターリングラードと黒海沿岸の港を支配下に置いている。だが、マップ上の枢軸軍戦力は 72損害ステップ分しか残っていない。従って、勝利条件上では 「引き分け」 となる。



作戦面の徹底訊問

● ソ連軍のコメント :
ゲーム開始時のソ連軍は強そうに見えるが、実は まだ見かけ倒しの軍隊である。ドイツ軍の 「軍団」 ユニットと比較すれば ソ連の 「軍」 ユニットは強力に見える。しかし、実際は遙かに弱体であり、少なくとも4ステップの損害を被ると、その戦闘力は急激に低下してしまう。おまけに熟練度の格差は不満の種で、さらに、恐怖のルフトヴァッフェは戦闘時における最高の支援を可能にしている。
ドイツ空軍に立ち向かう VVS (ソ連軍航空部隊) は能力が大幅に制限されており、とりわけ地上部隊の支援では 機動攻撃時の援護が不可能で、通常の戦闘時も極僅かな支援しか実施できない。ソ連軍は各戦闘での防御時に空軍ユニットを1個しか置くことができないため、枢軸軍にとって必要不可欠な空軍駒1個を消耗させる方策として、なるべく戦闘機として配備しておくほうが良い場合が多い。
最後に、司令部の兵力投入能力値が低いこと、それに 移動 - 戦闘 の順序が、ソ連軍から柔軟性をある程度奪っている。こうした状況では、頑張ってゲーム開始時の土地に しがみついていても仕方無いようだ。とすれば、第1ターンと第2ターンの間、オスコル川に防衛線を築くという南東方面軍の試みは、スターリングラードまで全く防衛線を張れないステップ地帯を敵に渡すことになるので、しばらく後に包囲または壊滅へと至ることになってしまう。
ドイツ軍の装甲部隊は、機動攻撃と装甲軍指揮官が提供する移動力ボーナスを利用して素早く移動し、大部分の我が防衛線を横切って通過できるため、こちらは敵の出方を先読みする必要がある。
スターリングラード南方の鉄道線が お約束通り切断されてしまうや否や、南方面軍の補給全てが 輸送困難なコーカサス経由になってしまうという現実がソ連軍に突きつけられる。増援と補充はカスピ海沿岸の港に積み上げられ、その大半は徒歩で移動して前線に辿り着かなければならない。
黒海沿岸の港の防衛の面では、枢軸軍にコーカサスへの道を開くロストフ市の陥落以前に、計画を練っておく必要がある。今回のプレイではそれができなくなり、戦力が低下した2個軍をタマンとノボローシスクに急派することしかできなかった。だが、これでは不十分なのは明らかだ。
コーカサス山脈で足止めを食ったコーカサス方面軍は自身の生き残りのために戦うことで精一杯で、編成上の戦力 - 定員を充足した3個軍 - を擁していたにもかかわらず、山岳地帯を越えることができなかった。そのため、ホト将軍の黒海沿岸突破を阻止することができなかった。
勝利条件上は、枢軸軍の潜在的軍事力を減少させておくことが必要不可欠である。しかも枢軸軍プレイヤーがよほど軽率でない限り、枢軸軍自身が起こした戦闘で被る損害は、おそらく軽微だろう。そのため、最も進出していて、多くの場合、補給切れになっている枢軸軍部隊に対し、一斉反撃を加えることは必須である。


● ドイツ軍のコメント :
攻勢に出ている間のドイツ軍は、強力で手強い存在と見なされている分、勝利条件が困難かつ達成し辛く設定されている。42年半ばのドイツの戦闘マシンは、確かに攻勢用途には申し分のない存在だったのだ。 : 装甲部隊は強力で快速、練度も非常に高く、指揮官による適切な指揮を受け、しかも空軍に支援されていた。歩兵部隊はタフであり、足も まぁ速かった。同盟国軍は弱体ではあったが、包囲を維持したり側面を守るには十分であった。
とはいえ、枢軸軍に要求されている勝利条件は 狂気の沙汰であるとしか言いようがない! ドイツ軍は自軍部隊の損失を抑えつつ、敵の機械化部隊を叩きながらマップ全域を占領していかなければならないのだ。たとえば引き分けた場合、地理上では見事な戦果を収めたことになる反面、部隊損失の観点からは非常に高くついたことになる。幸い、このゲーム (訳注 : 前半戦シナリオのこと?) はソ連軍による反攻直前に終了する。というのも、反攻が始まるとパニックに陥ってしまうから・・・・・。
ドン河の北に展開する第4装甲軍を使って圧力を掛けるのは、ゲーム序盤では妙案といえる。なぜなら、第4装甲軍がソ連軍の増援を阻止すれば、多分スターリングラードを早期に占領することが可能になるからだ。がしかし、史実では逆に、 この作戦はドイツ軍部隊の墓場を築くことになった。 ヴォロネジを陥落させた後、ドン河北岸へは あまり深入りせず、史実と同様に第4装甲軍を南岸沿いに進出させることで、スターリングラードを素早く奪取できるはずだ。幸運なことに自軍有利が明白になるような偶然の力を確認するために、装甲部隊ステップを多く投入して黒海沿岸の港を奪取する必要があったものの、それ以外のタイミングは なかなか良かった。それとは逆にバクーを占領 (不可能な任務?) するなら、スターリングラードを陥落させた直後に、指揮官と装甲2ステップの組み合わせを 真南へ派遣しておかなければならない。補給や航空補給が欠乏すると迷子になっちゃうけど・・・・・。

今回のプレイは両陣営ともに心から楽しめるものだった。 Nach Stalingrad ! は、プレイヤーを大いに楽しませると同時に、両陣営の行動の自由を多く残しつつ、史実上の大まかな出来事を ちゃんと再現するゲームだ。


この記事のプレイ経過図の作成に活用した、このゲームのサイバーボード・モジュールの作者、Laurent Grimbert 氏に謝意を表します。





プレイ例 その2


★ ヴォロネジ占領と北方攻撃


  第1ターン :

ドイツ軍プレイヤーは2個装甲軍団を移動させるため、B軍集団司令部 (ホト将軍とスタックしている) を活性化した。彼は2移動力のコストが掛かる機動攻撃を第40軍に仕掛けた。32 対 10 の戦力比は 3/1 になる。練度差 (+2 コラムシフト) は、機動攻撃時の補給の欠如に起因する必然的なペナルティー (-2 コラムシフト) を相殺してくれる。プレイヤーはダイスを振って1を出したが、ホト将軍の攻撃ボーナスのおかげで +2を加える。戦闘解決表は 「0/1」 を示す。ソ連軍プレイヤーはステップ・ロス または 後退を選択できるのだが、後退した場合はユニットが混乱状態となってしまい、しかも この機動攻撃が成功したことになって、装甲部隊に移動の継続だけでなく、さらなる機動攻撃の実行を許すこととなる。ソ連軍プレイヤーは部隊をその場に留め、ステップ・ロスを適用させることにした。そのため、この機動攻撃は失敗したことになり、ドイツ軍スタックは、この移動セグメント中の移動を停止しなければならなくなった。

戦闘セグメント中に、装甲部隊スタックは第40軍を再び攻撃した。
1ステップを失っているので、第40軍の防御力は7しかない。戦力比は 4/1。補給ユニットの消費と練度差によって、比率は 6/1に上昇する。2個空軍ユニットも投入された。最終的な戦力比は 8/1となり、装甲軍指揮官が存在するので ダイスの出目に +2を加える。 先鋒ユニットの装甲部隊と、空軍ユニットの組み合わせは “電撃戦” 攻撃という効果を生む。ドイツ軍のみに適用される戦闘ボーナス “電撃戦” は、空軍の支援を受けた装甲部隊が先鋒を務める攻撃を行った際に、自身への損害結果を減少させるか、または 敵の損害結果を1だけ増大させるかのどちらかを可能にする。 ドイツ軍プレイヤーは、敵の損害結果を1だけ増加させる方を選んだ。ダイスを振って3を出し、修正して5となる。これは 「0/5」 の結果を示し、電撃戦の効果で「0/6」に増加する。防御側は最大で2ヘクスしか後退できないため、このユニットは4ステップ・ロスの吸収を要求されて壊滅してしまった。ホト将軍の装甲部隊は解放されたヘクスへ前進、先鋒ユニットは防御側ユニットが壊滅したので さらに1ヘクス余分に前進できる。

第2移動セグメントでは、装甲部隊は全移動力、つまり6移動力分の移動ができ、同様にホト将軍とスタックしている軍団は8移動力を使って移動できる。後者はヘクス 1005 まで移動し、4移動力を消費した。彼らは、ヴォロネジの第60軍に対して機動攻撃を仕掛けるのに十分な移動力を保持している (都市ヘクスへ進入するための1移動力 + 橋を渡るための1移動力 + 機動攻撃に必要な1移動力。つまり、合計で3移動力 ) 。16 対 4 の戦力比は 4/1となり、機動攻撃ゆえに -2コラムシフト、装甲部隊の高練度によって +2コラムシフト、空軍1ユニット (機動攻撃時に許される最大限度) が戦闘に投入されて、最終的には 5/1と、ダイスの出目に +2。この機動攻撃では、防御側の戦闘結果に1を加えることにした (訳注 : “電撃戦” のボーナスのこと) 。ダイスの出目は4、修正して6、結果は 「0/3」 。ソ連軍ユニットは少なくとも1ステップ・ロスを被らなければならず、それは このユニットの壊滅へと行き着く。ヴォロネジは枢軸軍部隊によって占領された。第24装甲軍団は ヘクス 1005 まで移動したものの、この主要都市へ到達するために必要十分な移動力を持ち合わせていなかった。

 


 



本記事掲載誌の Vae Victis 56号は、2004年4月に発行されました。

この非公式翻訳文は Vae Victis 編集部の許可を得て公開しています。

Translated by T.Yoshida

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