インターネット対談「岡村祐聡氏に聴く」


プロフィール、著書
岡村さんは「服薬ケア研究所」の所長で、薬剤師のためのセミナーや講演、薬局の実務支援などでご活躍です。薬剤師としてはとてもユニークな存在ですので、私のほうからお願いして、対談することになりました。



吉田均: 岡村さん、こんにちは。きょうはインターネット対談ということで、いつもと勝手が違うかも知れませんが、よろしくお願いします。

岡村祐聡: はい。こちらこそよろしくお願いします。

吉田均: 1月につくば市でご講演されましたが、参加者の反応などいかがでしたか?

岡村祐聡: 講演会はほぼ成功と言って良いと思います。来てくださった方からは非常に好評を得ることが出来ました。来場者数は50名弱、用意した会場が60席だったので、ほぼ満席状態でした。ただ、国際会議場を借りたため、会計的には大赤字でしたが(^^ゞ一番遠くは石川県の金沢市から、北陸薬科大学の1年生が泊りがけでわざわざつくばまで私の話を聞きに来てくれました。後はお隣の栃木県から6〜7名、東京からやはり同じくらい、そして神奈川からも来場者がありました。来てくださった方には何がしかの思いは伝わったと思います。しかし、もっともっと多くの人に伝えなければいけないことが山ほどあります。まだまだこれからですね。

吉田均: 大成功で良かったですね。北陸薬科大学は実在しませんので、たぶん北陸大学薬学部だと思いますが、そんな熱心な学生がいましたか。見込みがありますね。栃木県や東京、神奈川からの来場者もあったんですか。遠方からはるばる見えたということは岡村さんのお名前が「ビッグ」になりつつあるのではないでしょうか。

岡村祐聡: いえいえ、まだまだですね。今回も関東一円にチラシを配布しました。チラシを見て来て下さった方は、1/4〜1/5程度でしょう。後は研究会の主催で行ないましたので、日本全国に70名ほどいる研究会の会員のうち、関東圏の方が来てくれました。1/3位は会員だったと思います。後は私のホームページをずーっと見ていてくださった方が何人か来てくださいました。あれって不思議な感覚ですよね。向こうは長年私のページを見ているから、顔も知っているし私にある程度親近感を持って下さっている。ところがこちらは全く存じ上げないわけです。遠くからニコニコしながら挨拶されて「いつもホームページでお世話になっております。」言われても、こちらは「はあぁ〜そうなんですか・・。」という感じです。(笑)

吉田均: インターネットの面白いところですね。ところで、この「服薬ケア研究所」の「服薬ケア」とは何なのかから教えてください。服薬指導と違うんですね。

岡村祐聡: はい。服薬指導からもう一段上のレベルを目指したくて作った言葉です。服薬「指導」というと、薬剤師の側は確かに「指導はしました。」であっても患者さんの側はわかっていないことが多いんですね。やりっぱなしなのですよ。指導しっぱなっし。確かに指導したのは嘘じゃないんだけど、その結果どうなったかは全く知らない。知らないどころか影で患者さんの悪口を言っている。「あのおばあちゃん、あたしが何度も同じこと教えたのに、また守ってないんだから!!」って具合です。わたしはこれはおかしいと思ったんですよ。指導したのに守らない患者さんが悪いんだったら、それじゃ医療を行なっていることにならないんじゃないかって。

吉田均: おっしゃるとおりですね。「服薬ケア」はフロリダ大学のヘプラー教授の提唱したファーマシューティカルケアとはまた違うんですか?

岡村祐聡: はい。これは大事なことなので、きちんと説明しないといけないと思います。「服薬ケア」と「ファーマシューティカルケア」は究極の意味では同じなのです。それでは何が違うかというと、実はこれも服薬ケアと言い出した理由の一つではあるのですが、私が服薬ケアを言い出した頃、ファーマシューティカルケアというと、その言葉だけを聞きかじった多くの薬剤師が、内容を良く知らないままに「ああ、あれね。」という感じで、ファーマシューティカルケア=病棟業務=薬の説明という図式を頭に思い描いていたのです。いや、今でもそれほど変わっていません。で、端的にいって、その理解は間違っているのです。

ファーマシューティカルケアというのは、薬剤師が患者さんに対してどんなケアをやっていけるのかをまとめた考えであり、日本の現状の「服薬指導」とは、ずいぶん違うのです。それを理解してもらうのに、いちいち「あなたの思っているファーマシューティカルケアは間違っています。」とやっていたのでは、その先に話が進めないのです。第一「あなた間違ってますよ。」から話を始めたら、相手が怒っちゃって話を聴いてくれない。(笑) そこで誰も知らない言葉である服薬ケアを持ちだして、「それなんですか?」と言われたら、「それはね、〜という意味なんだよ。」と話を進めていったほうが、通じやすかったのです。

もう一つ大切なことがあります。それは文化としての医薬分業の根本的な違いです。欧米諸国では医薬分業は7〜800年も前からあたりまえのことなのです。ところが日本は130年近く前に制度的には取り入れたことになっていたはずなのに、今、やっと制度としての院外処方せんの発行が普及し始めたところなのです。当然国民一般が薬剤師といわれてイメージする役割が違いすぎるのです。その中で欧米のファーマシューティカルケアをそのまま日本に取り入れようとしても、ちょっとあわないところがどうしても出てきてしまうわけです。それならファーマシューティカルケアのスピリットだけは正しく取り入れて、実情は日本に合わせた、日本のファーマシューティカルケアを作る必要があるなということなのです。それなら日本語の方が良い。だから服薬ケアと言ってみたのです。それに何よりファーマシューティカルケアは長くて言いにくい。舌が絡まっちゃいそうです。服薬ケアの方が一言で言いやすいですよね。(^.^) 従って、ファーマシューティカルケアに関する理解が、正しく日本に広まったときには服薬ケアはなくなっても良いと思っています。あるいはファーマシューティカルケアの日本語訳として定着してくれれば、それでも良いかなと・・・・・

吉田均: 日本版ファーマシューティカルケアと理解してよろしいんですね。訳語としてはとてもいいんじゃないですか。ところで、医者がおこなう薬物療法と「服薬ケア」の違いはありますか?あるとすればその境界線はどこにあるんですか?と言いますのは、治療方針を決めるには「診断」が必要です。この「診断」は医者の仕事でして、薬剤師には出来ないわけです。薬物療法のどの部分に薬剤師が関与するのか、薬剤師の間でかなり混乱が見られると思うんです。単に医者の処方した薬を渡すだけの薬剤師もいれば本来医者の仕事である病気の説明までしている薬剤師もいます。「服薬ケア」の概念ではその辺の棲み分けはどのようになっているんでしょうか?

岡村祐聡:いきなり難しい質問ですね(笑)。でも大事なことです。これは服薬ケア理論の基礎のところできっちり理解してもらいたいところなのです。なぜかというと、薬剤師全般でここを誤解している人が結構いるからです。薬剤師が医療者として医療の一角を担うことは、医師の真似事をしてミニ・ドクターになることが目的ではありません。これは服薬ケアの三種の神器の一つであるPOSをやってみると良くわかります。つまり、プランに医師が立てるべきプランを平気で立ててしまう薬剤師がいるのです。そして、実際には自分は医師ではないのでそのプランは実行できない。そして「せっかくプランを立てても自分じゃどうにも出来ない。POSやってもしょうがない。」と言って止めてしまうのです。

さて、それではその間違いを正すためのポイントはどこにあるかというと、患者さんです。薬物治療は誰が行うかというと、患者さんなんですよね。医師が診断をして、治療方針を決め、処方を書く。ここまでの過程に、薬剤師が余計な口をはさむ必要はないんです。もちろん安全のためにチェックという意味で、処方に関して意見を述べることはあります。それは大切な仕事です。しかしそれは「患者さんから私が聞いたところによると、あなたの処方した薬はどうもおかしい。こちらの薬を処方すべきではないのか?」と、医師の判断にけちをつけることとは決定的に違うのです。よく問い合わせをしたら医師に怒られたと文句を言っている薬剤師がいますが、これを勘違いしてる人も中にはいるんですよ。それでは怒るに決まっている。

もう一度言いますが、我々が対応する相手は患者さんです。医師ではありません。患者さんが医師の診断のもと、処方せんを持ってやってくるわけです。つまり医師からは「この薬で次に来るまでの期間、薬物治療を行なってきなさいね。」と言われたわけです。薬剤師の出番はここからです。その患者さんが安全に、効果的に、そして何より安心して、その薬物治療を行なうことが出来るようにケアするのが、薬剤師の役目です。そのためには、まず処方薬全体を見回しての安全性のチェックがあります。患者さんの体質や過去の副作用の経験などから好ましくない薬のこともあるでしょう。そんなときには医師に問い合わせをして、その事情を説明し意見を述べ判断を仰ぎます。

そして服薬ケアで特に強調しているのは、「安心」して薬物治療に取り組めるかどうかの感情へのケアです。これは今まで誰もやっていなかったも同然です。いやもちろん、医師が治療全般に関して患者さんに「安心」してもらうことは気をつけているでしょう。しかし、薬物治療の過程において、副作用はどうなのか、日常生活の中で薬物治療を行うことをどう捉えればいいのか、そんな患者さんの心のケアまでは出来ていなかったと思うんです。服薬ケアではその点も非常に重視して、患者さんの安心感もケアして行く対象ですよと宣言しています。その先に何があるかというと、患者さん自身が自分で自分の人生の価値観を形作って行く、自立した自己決定による行動変容を目指しています。つまりQOLを患者さん自身の心の中でしっかりと明確化してもらうということです。これが自立支援ですね。



吉田均: 薬剤師の役割について明解にお答えいただきましたね。「服薬ケア」という語感から私は今までちょっと誤解していました。しかし、お話をお聴きして私と完全に同じお考えでしたので、医者としてはとてもうれしいです。

話は変わりますが、岡村さんはセミナーや講演では薬剤師にどのようなことをお話しているのですか。薬局の実務支援についても教えてください。

岡村祐聡: ちょっと自画自賛になりますが、私の特徴としては「高い理想」と「手堅い仕事」、すなわち精神面と実務の両面をきちんと支援することです。理論的なバックボーンなしに「とにかく汗をかけ!」式の教育では、やはり進歩に限界があります。しかし、理想論ばかり述べていると、「話は良くわかった。で、どうするの?」の先がないわけです。これでは困ってしまうわけです。世のコンサルタントと称する方々は、どうしても評論家になってしまって、手堅い仕事を手取り足取り教えることが手薄です。私はその両方を必ずやっていきます。

さて日本の現状を見ると、こと実務に関わることとなると、日本の薬局(これは主に病院の薬局です。過去からの伝統を引き継いできたのは、日本では病院の薬局でした。)では前者のタイプが多いのです。学術的なことはやたら詳しく議論しているのに、実際に実務に関わることになると、突然「つべこべ言わずに、やれ!」となってしまいます。ま、ある意味ではこれも大切な部分でもあるので、私はそれを全否定はしませんが、やはり「急がば回れ」で、早く高いレベルに持っていきたいときには、徹底的に考え方の部分、判断の基礎になる部分、考え方、なぜそれが大事なのかの理由、そうしたところをかなり重点を置いて指導したほうが教育的効果は高いのです。

言い方を変えると、過去の伝統の中では、先輩の背中を見て学んできたことでも、すべて言葉にして、なぜそうなのかを一つ一つ説明しながら学んでもらいます。私が指導した薬局の薬局長クラスの方の感想に多いのが「今までなんとなくそうだ、そんなのあたり前だと思っていても、自分ではうまく説明できなかったことを、岡村さんは何から何まで小気味良いように言葉にして代わりに言ってくれる。そして納得させられてしまう。こんな人初めて。」です。


吉田均: 理論と実践ですね。ところで、今の薬局の置かれている状況や働いている薬剤師については岡村さんはどのように思っていますか?

岡村祐聡: 非常に厳しい状況です。そしてその危機感をほとんど感じていない。今、薬剤師そのものが「いらない。」と言われてしまうような、危機的状況にいるのです。それなのにその危機感を感じていない薬剤師が多すぎる。そして薬剤師は勉強していない。もちろん勉強に励み努力を続けている薬剤師の方もたくさんいるんですよ。ですが、薬剤師一般を見たときにそのような方はやはりまだまだ少数派です。

吉田均: その状況を打破するには何が必要でしょうか?

岡村祐聡: 私のモットーは情熱と絶対にあきらめないことです。現状を打破して行くという意味では、この二つ以外にありません。とにかく情熱を枯らさないことです。もっと良いことをしたい。患者さんのためになりたい。患者さんに喜んでもらいたい。その思いを持ちつづけ、燃やしつづけることです。絶対にあきらめてはいけません。

吉田均: 岡村さんご自身はそれに対してどのようなことをなさりたいんですか?

岡村祐聡: これまで同僚の薬剤師に対してかなり厳しいことを言ってきましたが、ケチをつけることが目的で言っているわけではないのです。薬剤師がもっともっと働けるような、頼りにされるような、尊敬されるような世の中を作りたいのです。そして、心の底でそう思っている人はけっこういます。いるんです。でも現状に押しつぶされて、黙っているだけなのです。そんな薬剤師たちの心にもう一度小さな灯火(ともしび)をつけて回りたいのです。そしてその灯火を日本全国いたるところにともしていきたい。一つ一つはほんの小さな灯火であっても、日本全国いたるところにともっていれば、患者さんはそれをたよりに薬物治療を続けることが出来ます。そしてそうなるまでにはまだまだ困難があるとは思いますが、ともすことが出来た灯火は消えてしまわないように、守ってあげたいし、薪もくべてあげたいのです。この部分でハウツーは必要ありません。灯火さえともればどうするかはその人が自分で見つけ出せます。


吉田均: すばらしいです!岡村さんは、まさに服薬ケアの“伝道師”だという感じがします。では、実際にはどのように薬局支援をされているのかよろしかったら教えてください。

岡村祐聡: はい。可能なパターンとしてはいろいろあります。これまでの実績では、薬局さんへ私がお伺いして、あらかじめ綿密に打ち合わせて決めたテーマとスケジュールにあわせて、薬局で研修を行ないます。この場合、カリキュラム一切をこちらから提案することも出来ますが、出来るだけ現場を先に見せていただいて、スタッフの方にお会いして、その方の現状を把握した上で、それに合わせた内容をご指導いたします。お仕着せの研修より数倍の効果があります。そして、相手の心の状態に合わせて、相手がきちんと受け取れるように話を組み立てていきます。たとえて言えば、服薬ケアにおける窓口対応と同じなんです。相手の心が今どういう状態にあるのか、それを見極めてからその状態に合うように話して行くのです。お仕着せの講義と違って、必ず効果が現れます。

例えば新店オープンのためのスタッフ研修なら、1回90分を14回程度行ないますと、見違えるような素晴らしい店が開店できます。もちろんそんなに時間が取れない場合は最低90分×2回(一日)でも基礎の基礎は身につきます。ただ、新しい店を作るときは準備のチェックから、買い物のチェック、そして内記の指導から、実地の調剤方法まですべてをお教えしますので、出来るだけ時間を作っていただいた方が効果はより大きくなります。

そして既にあるお店をレベルアップする場合は、原則的にコンサルタント契約で経営者の方への教育方針のアドバイスから入った方が効果があります。この場合も現場に私が入って、実際に働いている方と一緒になって「良い薬局」作りをしていきます。すべてお任せいただける場合には、スタッフ全員と個別面談を一人に尽き一時間近くかけて1回から数回行ないます。ひざ詰でモラールの向上を促していきます。これが一番効きますね。

限定された依頼の場合は、薬局の中に誰か担当責任者を置いていただいて、私はその方と徹底的に話し合う形にするのが良いでしょう。そして全体に向けては私が講義形式で服薬ケアの基本を説いていきます。この場合は1ヶ月毎日私が朝礼に出席して、服薬ケアの話を5分する。これを一ヶ月続けると、薬局の雰囲気はものすごく変わります。患者さんから「感じが変わったわね。」と言われるくらい変わります。3ヶ月以上の期間があれば、毎週一回でも効果は現れます。昨年コンサルタントに入った薬局では、毎週一回通って一ヶ月くらいで待ち時間が半減しました。びっくりするくらい変わりますよ。

後は有志の集まった勉強会などでも要望があれば、どこへでも出かけていきます。最低2人の薬剤師を相手に講義に通ったこともあります。人数はどんなに少なくても構いません。極論を言えば、一対一が一番効果があがります。講演のような形であれば、希望するテーマだけお伝えいただければ、時間に合わせてそのテーマに沿ったお話をさせていただきます。

吉田均:薬局の状況に応じていろんな選択肢が選べるのですね。石川県にも是非来ていただきたいですね。個人の薬局や、少人数のグループでお呼びすることもできるということですが、その場合、具体的にはどのような手続きが必要ですか?

岡村祐聡:とにかくご要望にあわせてどんな形にも出来ますので、一度服薬ケア研究所までご連絡いただきたいと思います。研修やコンサルタントの相談をさせていただきます。もし経営者や責任者の方がお忙しくてなかなかスケジュールが合わない場合は、お試しコースとしてワンポイントアドバイス・コースをご用意しております。これは、私が薬局をお訪ねして、実情を拝見させて頂いて、ご相談に応じるものです。もちろんその後研修やコンサルタントのご契約を頂かなくても、ワンポイントアドバイスのみでも結構です。一日を有効に使って、最大限の実情に即したアドバイスをさせていただきます。私自身は不在のことが多いので、ご連絡は原則的にメールか又はFAXでお願いしています。服薬ケア研究所メール:masatoshi.okamura@nifty.ne.jp FAX:0298-63-0299

服薬ケア研究所のホームページでは、現在メールサービスの登録制度を開始しております。これは、ホームページに新しいコンテンツが増えたり、公開の催し物(講演会など)があった場合に、メールでご連絡を差し上げるサービスです。

吉田均: よく分かりました。ところで、近々、船上(海上)セミナーのご予定とお聞きしていますが、もしかして豪華客船での世界一周ツアーですか?

世界一周ですか、いいですねえ。しかし、残念ながら今回はそれではなくて、とりあえずスケジュールが決まっているのは2月の札幌雪祭りツアー1週間です。船上で講演とお薬相談を行なう予定です。

吉田均: 1週間でもいいですねぇ。豪華客船を楽しんできてください。きょうは本当にありがとうございました。

岡村祐聡: こちらこそありがとうございました。

(2000/2/2)