薬のミス〜医療の安全性のピットフォール〜

人は思いがけないところでミスをするものです。医者、薬剤師、看護婦・・・いずれも全知全能の神ではありません。むしろ、人は間違いをするものだという前提に立って職務を遂行すべきでしょう。このページに集められた、あるいは集められるはずの失敗例は貴重な“宝物”です。読まれた方はそこから多くの教訓を読みとることでしょう。そして各自の医療現場で事故を未然に防ぐ手だてになるはずです。ミスを公開することはとても勇気がいります。このページに失敗事例を送っていただいた方に感謝と敬意を表します。読者の方は一応義務として『起こってしまった事故は“かけがえのない宝物”』をお読みの上、“宝物”を一つお送りください。お待ちしております。(99/3/3)

メールお願い!!

1)デパケン細粒調剤ミス

開院したばかりの小児科クリニック:

「A子ちゃんが足がもつれるし、眠くてしょうがないとお母さんとみえてます。お薬のせいじゃないかと言っています。」「えっ、本当?!」背中を冷たいものが走った。エピレプシー(てんかん)で通院中のA子ちゃんは以前からデパケン細粒を服用し、コントロールされていた。カルテの処方欄には以前とかわらず、デパケン細粒1.5、一日3回30日分となっている。なぜそんなことが!「その薬を持ってきているのなら、1袋だして計量してみて」・・・・・・「先生、いつもの1.5倍あります。それに残りが30包足りません。」「・・・??・・・わかった!分2で分包してしまったのだ。」こんな調剤ミスもあるのか・・・。




2)処方せん調剤を主体とする薬局でのミス

当薬局は、開設して約1年になる処方せん調剤を主体とする薬局です。少しでも、医療事故や薬害が少なくなることを願い、メールさせていただきます。

開設以来、調剤ミスや投薬ミスによって、副作用が出たりするような重大な事故は今のところありません。

しかし、小さなミスは、ときどきあります。たとえば、ロカルトロール(0.5)を投薬するところを(0.25)を間違えて投薬したり、SM散1g朝食後14日分のところを毎食後14日分を投薬したりなど.....

頻度にして、1ヵ月 受付処方せん数 約3700枚に対して 約20件くらいの調剤ミスがあります。(調剤過誤ノートにその都度記入しています。)

そのほとんどは、投薬時に、薬剤師か患者さんが気づきます。または、患者さんが、自宅に持ち返り、服用しようとしたときに、いつもの薬と外観が違うということで気づかれます。ときに、いつもと薬が違うことに気づきながら、指示どおりに服用された例もあります。幸いにも、今のところ有害反応は出ておりません。

患者さんが被害を受けたであろう1例をご紹介いたします。

患者さんは、5歳男の子

風邪(夜間の咳がひどい)にて、小児科受診、テオドール50mg錠ほか4剤7日分処方あり処方せんどおり、調剤し、投薬したつもりでした。

7日後、夜間の咳がまだ、持続するとのことで、再度小児科受診、do処方(前回と同じ処方)

前回と同じ薬ですと、お母さんにお渡ししようとしたところ、テオドールが1回2錠に増えているとのこと、よく話を聞いてみると、前回投薬したときは、薬袋に1回1錠と記入していたとのことでした。また、テオドール錠も14錠余ったとのことでした。その場で、謝罪し、後に、自宅に出向いて再度謝罪し、お許しをいただけました。

投薬ミスにより、症状改善が、長引いた可能性が考えられました。



3)処方箋記入ミス


調剤過誤の話とは、すこし違うのですが「処方箋の質」について一言。医師の手書きの処方箋・・これは「信頼性」はあるのですが、基本的なルールの守られていないものがありますね。たとえば「用法の記載のないもの」「mg数の記載のないもの」・・。当然「薬品名の書き間違い」ってのもゼロではありません。それと、「もう少し読みやすい字を・・」って希望は薬剤師のわがままでしょうか。

もっと心配なのは「カルテの処方」をコンピューターに入力し直して処方箋にプリントアウトするケース。これは読みやすいのは助かるのですが、入力ミスが多発する可能性があります。「薬品についての予備知識がない人」が入力しているケースがあるようで、よく似た薬品名を間違えることがあります。たとえば「プルゼニド・プレドニン」、「デパス・デパケン」など・・薬歴をきっちりチェックしていれば気がつくことですが、初診だと危険ですね。恐い思いをしたことは何度もあります。

これは想像しすぎかもしれませんが、処方箋ですらその状態ですから、開業医さんで薬剤師以外の方が調剤しているケースでは・・おそらくいろんな事が起きているのではないでしょうか。


治療や診断上のミスを犯したときには、患者に事実を伝えること。患者に詫び、ミスの結果何が起こりうるかについて説明すること。ミスの大小にかかわらず、必ずそうしなさい。

ドクターズルール425(医者の心得集)クリフトン・ミーダー著・福井次矢訳、南江堂



4)分包ミス


私の調剤ミスの一例をお話します。処方箋には「ダオニール1.25mg1錠、朝夕1日2回、14日分」」との記載があったのでが、何を勘違いしたのか、1錠朝1回服用するように分包してしまったのです。ところが、患者さんにお薬を渡した直後に処方箋をもう一度チェックしたところ、分2との記載があり、半錠に分割しなければならないことに気づき、慌てて患者さんの自宅へお薬を取りに行き、再分包したので事無きを得ました。このようなミスが起こってしまった理由は、たぶん、次の患者さんから次の患者さんへと調剤をしていく中での単なる間違った思い込みから起きてしまったことだと思います。このミス以来、調剤業務に従事している最中は必ず初心に返って調剤をするように心がけております。(99/3/30)



5)起こるべくして起こってしまったミスなのかな・・・・?


私の勤務する調剤薬局は、薬剤師が3名、助手、受け付けが4名やや中規模の薬局です。

確か土曜日で、薬剤師が1名休みの日のことでした。処方箋受け付け枚数は午前だけで130枚はあったかと思います。その時、私は監査を受け持ち、あとの1名はシロップ等の調剤に専念していたので、とてもしんどかったのを覚えています。

ホリゾンとボルタレンの入れ間違いをチェックできませんでした。これは自分でも理解できないミスで、あまりの混雑に監査の限界だったのか、おそらく錠数のみの計算しかできなかったのかも・・ただただ反省です。

小児用バファリンをテオドール100と間違えているのに監査ミス。どちらもHS(ヒートシール)であり、裏側が似たような銀色で14Tをきっちりゴムでとめてあり、おそらく思い込みで見逃してしまったのだと思います。テオドールの患者さんから、なんの薬をいれたのか尋ねられて解熱剤と答えたら、とってもびっくりされました。当然ですね。ONE DOSEの患者さんで、就寝前の分だけヒートであり、ヒートの監査を軽くみてしまったのかもしれません。(言い訳ですが)でも、監査をする時に大変な部分はしっかりと見ているのに意外なところ、簡単な部分で抜けてしまうことがあるんですね。

その他、血圧の薬でセレクトールとゼストリルを同効薬ということで取り間違えてしまいました。薬品名を口にだして袋に入れているのですが、それでもミスしますので自己嫌悪になってしまいます。このような多忙な状況では、患者さんへ渡す前に再確認する余裕もなく、まさに、起こるべくして起こってしまったミスなのかな、と思ったりしますが、でもやはり自分の責任はそのせいにしてはいけないと考えています。

私の薬局では、ミスした時また同じ事はしないように、また他の薬剤師へ注意を促すように薬歴簿にミスした人が、一言記入することにしています。ちょっと、厳しいかもしれませんが、本人にも他の人にも(私が多い)もう一度確認の意味で、また同じ患者さんへミスのないようにと、いいことなのかなと思っているのですが・・・・・薬剤師の不足を事務と助手さんで、補っているので限界はあるのですが風邪の流行する時期は、パニックになってしまいます。一人薬剤師の薬局の方々はもっともっと大変かなと想像してます。

謝って患者さんのお宅へ伺うと、数が多いからね、と慰められたりしますが、どんなに数が多くても、その方の薬はひとつなのですから、あってはいけないと、また痛感するのです。 


医療過誤の最大の予防方法は、患者との良い人間関係(ラポール)と包み隠しのない正直さである。

ドクターズルール425(医者の心得集)クリフトン・ミーダー著・福井次矢訳、南江堂



それから、これはミスではないのかもしれませんが、私の母のケースです。

母は隣り街の総合病院で甲状腺の手術をしました。術後、カルシウムの調節がとても難しく、二年以上通院してやっと薬のコントロールだけで症状が落ち着くようになり、自宅に近い医院へ紹介してもらいました。総合病院では、当然のように院外処方箋でしたから私の薬局で調剤して渡していました。でも、院外処方は会計が高いと本人も気にしており、娘の私にも迷惑かもと思っていたのかもしれません。医院では院内調剤でした。

私がもっと早めに母の薬をチェックしてあげれば良かったのかもしれません。ある時、薬代が病院の時の半分以下になったと聞き、よくよく話をきいてみました。すると、アルファロールの色がちがうようで、μの違いで個数で同量にしているのかと思ったのですが、よく見ると1μ2カプセルだったのが、0、25μ2カプセルの処方でした。検査の結果で減ったのだろうと願い、その医院へ問い合わせました。看護婦さんらしき方が電話に出られて、言った言葉が“うちでは、0、25μしかないのでそれで処方してます”とのこと。同じ2Capでは用量があわないのでは・・と言っても聞いてもらえません。結局、最近体調があまり良くないと母が訴えていたので、本人から医院に行って話してもらうことになり、結局 8Capになりました。しかし、母は具合が悪くなり、以前の総合病院にまた通院しはじめ、やっと薬でコントロールできました。でも、カルシウムの点滴や精神的なショックでまだ立ち直れない状態なのです。

私は、紹介されて医院に行ったのだからと安心し、薬をみてあげてもいなかったので、それがとても悔やまれます。こんなケースは、いろいろあるのでしょうが、薬剤師のいない医療機関に対して、不信感をおぼえます。医師のほうからきちんとした謝罪もないので、母は怒りがおさまらず自分の気持ちのもって行き場がないようです。

私も、医療に従事する人間としてミスはあってならないものと思ってはいますが、あってはならないミスをした時の対応は慎重にしなくてはとつくづく思うこの頃なのです。誠意をみせなくてはいけませんよね。とにかく、謝るしかないですね。そのような事にならないように充分注意しなくてはいけないと思っています。


私の感想

調剤は1日一人あたり40枚が限界だそうです。きちんと服薬指導すればこれでも多すぎるともいわれています。この日は半日で一人あたり65枚の調剤をされたことになります。一日に換算すれば一人あたり130枚ということですね。3倍以上こなしたことになります。この薬剤師の方はご自分を責めていらっしゃいますが、ミスが起きて当然な状況だと思います。

C・ヴィンセントら著「医療事故」(ナカニシヤ出版1998年)によれば(柳田邦男氏の解説)、医療事故を引き起こす要因には、現場の要員による危険行為という「顕在的失敗」と、組織の上層部の意志決定やシステム・設計の欠陥などの「潜在的失敗」の二つがあると指摘する。・・・(中略)・・・事故の構造をこのようにとらえると、「顕在的失敗」を犯した現場の要員は、いわばババ抜きのジョーカーを最後に引いた役を演じただけで、組織の上層部などの「潜在的失敗」のほうに重大性がある場合が少なくないことがわかってくる、とあります。

個々の薬剤師の反省は勿論必要ですが、それ以上に経営者責任が重大だと思います。薬剤師不足をそのままにしておけば現場でどれだけ注意しても、同様のミスはまた起きる恐れがあります。(99/4/16)


6)優秀な医師でさえ注意散漫になることがある。

「治せる医師・治せない医師」バーナード・ラウン著、1998年、築地書館

私は医師になって間もないころ、最も細心の医者でさえ、時には大変間違ったを処方することがあることを知った。まだフェローとして研修を受けていたころだが、サムエル・レヴァイン博士に、G氏を診察してくれと頼まれた。彼は他の町から診察を受けるためにボストンへきていて、ホテルに泊まっていた。大吹雪のさなか、とっくに夜中を過ぎていた。G氏は長年、重度の冠状動脈疾患とうっ血性心不全を患っており、ジギタリスを服用していた。彼は大変重症だった。心臓のうっ血は重篤で、両肺に濾出液がたまり、心拍数はきっちり毎分160だった。心臓のリズムは、明らかにブロックを伴う発作性心房性頻拍だった。ジギタリスの過剰投与で心拍が乱れる症状だ。大変な大吹雪だったので、なかなか救急車が来なかった。私は待っている間に、この種のジギタリス中毒の解毒剤として用いられる塩化カリウムを投与した。数時間後、G氏は通常の心拍に戻り、うっ血もおさまった。

しかし、なぜ彼はジギタリス中毒になったのだろう。翌朝、レヴァインに報告すると、彼は、薬の種類も量も以前から同じなのでジギタリスが原因であるはずがないと言った。患者は毎日ジギトキシンを服用していた他、週に1度だけ、体内の水分排泄するために水銀利尿剤を処方されていた。レヴァインは私に、証拠の記録を見せてくれた。それを見ても、ここ数年ずっと1日0.1ミリグラムのジギトキシンに変化はなかった。

しかしG夫人が、三カ月前に診察を受けたとき、レヴァインがジギトキシン錠剤の新しい処方せんを書いたことを思い出した。それは地元の薬局に提出されていた。シャーロック・ホームズさながら、私はその薬局に行って、ファイルの中の処方せんを調べた。すると驚いたことに、まぎれもなくレヴァイン直筆のきれいな文字で、今までの二倍のジギトキシンが処方されていた。そこには明らかに、1日0.1ミリグラムではなく、0.2ミリグラムと書いてあった。そのことをレヴァインに言うと、彼は苦虫をかみつぶしたようになり、この重大な誤りについて何の弁解もしなかった。重い心臓病患者に危険な薬を二倍処方をすれば命取りになるということを、レヴァインは重々承知していた。このように、優秀な医師でさえ注意散漫になることがある。私は気の引き締まる思いがした。


薬の投与を開始した後で出てきた新たな症状は、その他の原因が明らかにならない限り、その薬によるものと考える。

ドクターズルール425(医者の心得集)クリフトン・ミーダー著・福井次矢訳、南江堂


7)医師が謝罪をして訴訟になったケースはない。

「治せる医師・治せない医師」バーナード・ラウン著、1998年、築地書館


私は、ある患者を誤って死なせかけたことがある。その時の恐ろしさは忘れられない。K氏は心房細動を起こしていた。心房細動では脈拍が速くなるのが常だが、彼の心拍数は一定して毎分40だった。私は、心房から心室への伝導系にブロックが生じたために、細動がフィルターされたのだろうと思い、心房細動の際に通常用いられるジギタリスは必要ないと判断した。しかし、それは大きなまちがいだった。

ジギタリスを止めてから1カ月ほどして、K氏は、急激な肺水腫のために、ほとんど昏睡状態でピーター・ベント・ブリガム病院に担ぎ込まれた。このときも心房細動があり、しかもすさまじい勢いだった。K氏は瀕死の状態だった。人工呼吸器と気管挿管をしたまま、数日間、死線をさまよい、持ちこたえられるかどうか分からなかった。このように危険な合併症になった理由は明らかだった。彼の伝導系には、私が思ったような故障はなかった。それどころか、全く正常だったので、心拍数が毎分190にものぼる心房細動が起きていた。重症の心筋疾患の場合、心拍数が極端に速くなると奔馬性心不全を引き起こす可能性がある。K氏は回復すると、何が起こったのか即座に悟り、予想通り激怒した。

私は自分の重大な誤診をすぐに認めて、罪悪感と後悔にくれながら、医療過誤で訴えてくれと言った。彼は、もちろんそのつもりだと答えた。3カ月ほどして、彼は再び来院した。なぜすき好んで、わざわざ自分を瀕死の目に合わせた医師のところへ戻ってきたのきたのかと尋ねると、彼は「その通りだ。あなたに殺されかけた。だから今後、あなたは細心の注意を払ってくれるだろう。もし別のヤブ医者に行ったら、またいい加減な治療をされて、今度こそ、あの世行きになってしまうからな」と答えた。それからしばらく考えて、彼は付け加えた。彼が戻ってきたのは、私が自己弁解せずに、「いさぎよく覚悟していた」からだそうだ。

シェークスピアの「冬物語り」の中で、ある登場人物が、「もっと正直に言ってください。汝の罪を、ありのままに教えてください」と嘆願する。傷ついた患者も同じことを求めている。ミスを認め、深く謝罪すれば、しこりが払拭される。私が知る限り、医師が謝罪をして訴訟になったケースはない。医師が率直な態度をとれば、信頼と友情のきずなが深まることも多い。



8)全てを疑い、全てを批判的にみることが大切・・・・

むかーし、むかーし、こんな事があったとさ。ずーっと「テオドール」が出ていた患者さんに、「テグレトール」の処方が来ました。薬歴のチェックが足りなくて、その薬局は処方箋通り「テグレトール」を調剤してしまい、後日、患者さんが「ど〜も、ふらふらする・・・・」と来局。

むかーし、むかーし、こんな事もあったとさ。前述の「テオドール」を「サイトテック」へ、「テグレトール」を「サンフラールへ」・・・・ああ、こわい話。

  1. 薬剤師は同僚の薬剤師の能力を信じすぎてはいけません。
  2. 薬剤師は院外処方せんの内容を信じすぎてはいけません。
  3. 薬剤師は医師の「薬についての知識」を信じすぎてはいけません。

全てを疑い、全てを批判的にみることが大切・・・・。これが現在の私の「悟り」です。(99/6/9)


9)糖尿病薬の調剤ミスで民事訴訟


82歳の女性
1997年12月13日、高血圧の治療のため通院した病院から血圧を下げる処方箋を受け取り、これを近くの調剤薬局に持っていき、薬を受け取った。この際、アムロジンの処方に対して糖尿病薬のダオニールを投薬。 女性は渡された薬を服用、翌14日から冷や汗が出て、意識がもうろうとするなどの症状を訴え、15日に伊勢崎市内の病院に運ばれた。同病院で診察をうけたところ、血糖値が異常に低下していた。残っていた薬を医者に見せたところ、薬が誤って渡していることが分かった。4日後に退院したが、視力低下や頭痛などの症状が出て、退院から6日後に再び入院。昨年1月29日に再度退院したものの、食後の冷や汗や嘔吐、呼吸困難などの症状は改善せず、5月に再び入院。同年7月に肺水腫で死亡した。女性の遺族が調剤薬局を経営している栃木県の医薬品卸を相手取り、慰謝料約3400万円の支払いを求める民事訴訟を起こした。

これだけの記事からは、誤投薬と死因の因果関係ははっきりわかりませんが、調剤ミスがあったことは間違いありませんね。高血糖になってない人が糖尿病薬を飲むと高頻度で低血糖になり、死に直結します。誤投薬の原因はこの記事からは分かりませんが・・・・糖尿病薬は他の薬と一緒に並べておくことは、万が一のことを考えるととても危険ですね。特別の棚の中に保管するなどの工夫が必要だと思っています。この事件が他の薬局への教訓となればと思います。(99/8/12)



10)テオドールドライシロップ1.2gのところ転記ミスで・・・


何時も、HP拝見させていただいております。仕事上はもちろんのこと、「人としての在り方」も勉強させていただいており、感謝、感激です。私は、つい最近まで長年(20年)病院薬剤師として、日々黙々と調剤をしておりました。自宅で家内が薬局を営んでいるのですが、院外処方せんが増えてきた為に、病院を退職して家業に従事することになり、毎日、家内の顔色を伺いながら仕事をしているかわいそうな旦那です。このHPを読んだ人の義務ということで、病院に勤務していた時の「失敗」を報告します。

その病院は総合病院でたいへん外来患者さん数が多い病院です。そこでは、もちろんカルテは医師が記載するのですが、処方せんを事務員がカルテから転記します。

ある日、小児科の処方でテオドールドライシロップ1.2gのところ転記ミスでテグレトール1.2gと書いてしまい、このまま患者に交付され服用したのです。小児用量としてはテグレトール1.2g(吉田注:常用量は成人で0.4〜1.2g)は多いのですが、運が悪いことに調剤を新人の薬剤師がしたのです。新人だから仕方ないとは言えませんが・・・・・・・。その子どもは、当然死んだかのように深い眠りに入り、母親が心配して抱えて受診に来ました。テオドールドライシロップとテグレトール細粒は見た目が似ているため調剤過誤とは解らなかったのですが、舐めてみて過誤が確認されました。

その後、担当薬剤師と薬局責任者、そして担当事務員が院長室に呼ばれ、厳重注意されました。ここで、おかしいのは、処方せんは医師が記載するもので、たとえ、代筆させたところでその責任は逃れられない筈です。ところが、医師へのおとがめはなく、さらに、その医師は事務員や薬局に文句を言いに来ました。薬局としてはこの場合、非常に判断が難しく、新人でなくとも疑義照会をしなかったかもしれません。しかし、どんな経緯があろうとも、患者に対する最終的な責任は医師にあるのではないでしょうか。納得がいかなかった1例です。

それ以来、テグレトール細粒の採用を取り消しにし、必要ならば、錠剤を粉砕して調剤することとしました。まだまだ、色々なミス、失敗、納得いかないことがありましたが、次回に報告します。

医師として、人間として尊敬する吉田先生、今後ともご活躍、ご指導お願いします。(99/9/20)


11)10倍散で調剤すべきところ、原末で・・・


こんにちは。人にはなかなか言えませんが私もミスを経験しました。私は、薬剤師になって8年になります。今は調剤薬局に勤務しています。今までにも何度か調剤ミスを経験しました。薬を渡し間違えたり、用量ミスだったりです。渡し間違えのときは服用前に気づき、患家まで行って取り替え、謝罪しことなきをえました。

勤務2年目に起きたアレビアチンの用量ミスのほうは、入院にまでなり、上司の管理薬剤師と営業長が何ヶ月にもわたってお見舞いにいきました。発見は患者さん(大人)自身からの訴えによるものです。いつもの調子と違うということで病院でいろいろ調べたら服用していた薬のせいだったのです。10倍量計っていました。薬局にはアレビアチンを乳糖で薄めた10倍散と原末の2種置いてあり、2つは同じ棚に並べてありました。当時薬局の決まりではアレビアチンを計る場合0.1g/日以下の処方なら10倍散を使うことになっていました。その患者さんもいつもなら10倍散で調剤するところを、何を勘違いしたのか原末で調剤してしまいました。原末にするか10倍散を使うかは、初診ならその時の判断と、再来なら薬歴の記録によることになっていました。処方箋には単位は通常mgで書かれますので、その都度グラムに換算しなければなりません。簡単な計算ですが、10倍散or原末のことが頭にあったため勘違いが生じ、判断ミスが起きたのかもしれません。あるいは単に10倍散の瓶を取るべきところを間違えて原末の瓶を取ってしまったのか・・・・。ずっと以前は2つを区別するため 、10倍散には薄く赤く色がついていました。しかし、患者さんから同じ薬に見えないと言われてから色を付けていませんでした。

はっきりと誰が調剤したかは今でもわかっていません。しかし新人であった私のせいだと自分では思っています。

その後の対策として、次の3点を行いました。

  1. 調剤者の印を押し誰が計量したかを明確にする。
  2. 分包後全量をはかる。(分包紙こみで)
  3. 計量散剤の配置、ラベルの区別の工夫。

忘れてしまいたいほどの怖い体験ですが、逆に調剤する責任や慎重さを忘れないために教訓としてしっかりと心に刻んでいます。今は違う薬局につとめていますが、薬剤師は私一人なのでチェックはとても気を使っています。ミスは思いこみや見過ごしで起きます。あわてずゆっくり何度でもチェックしてしつこいほど見直してちょうどいいのかもしれないと思っています。(99/10/14)


可能ならすべての薬を中止せよ。それが不可能ならば、できるだけ多くの薬を中止せよ。

ドクターズルール425(医者の心得集)クリフトン・ミーダー著・福井次矢訳、南江堂


12)医療ミスー患者自身によるダブルチェックで回避

<Japan Medicineの「Editorial」に掲載>

吉田均


都立広尾病院での消毒薬誤注射死亡事故から1年が経過し、各医療現場では予防対策がとられているものと思っていた。しかし、誤注射事故は相変わらず減らない。今月になって、神戸市の病院で76才の女性で胃に入れるべき栄養剤を血管点滴チューブに注入した死亡事故が発覚。神奈川県伊勢原市の病院でも1才6ヶ月の女児に内服用水薬を血管点滴チューブに誤注入して死亡。後者のケ−スでは内服薬の入った注射器には色が付けられ容易に識別できるようになっていたという。

事故の原因は日本の医療の構造的な問題から派生しており、当事者のみに責任を問うことはできない。しかし、関係者の精神的社会的代償はあまりにも大きい。医療機関自体も社会的信頼性を失い、患者の足が遠のく。訴訟に発展すればミスのつけは更に膨れ上がる。 

では、医療ミスは全国で一体どれくらい起きているのだろうか?日本では調査されていないので不明であるが、米国の場合、the Institute of Medicine (IOM)の最近の報告によれば毎年44,000名から 98,000名が医療ミスが原因で死亡していると推定されるという。少なく見積もった44,000名の死亡者数でみても、米国の死亡原因の8位に位置し、交通事故死(43,458名)、乳がんによる死亡(42,297名)、エイズによる死亡(16,516名)よりも多い。恐るべき数だ。米国との医療事情の違いを考慮すると日本ではもっともっと多いのかもしれない。医療ミスは他人事ではないといえる。 

医療機関はミスを防ぐ各種の対策をとっていると思うが、それだけでは不足だ。患者自身にもミス防止に参加してもらうことを提案したい。そんなことは医療者としてのメンツが許さないと思われるかもしれない。だが、米国厚生省発行の『患者のための医療ミス回避の20の秘訣』によれば、もっとも重要なのは患者自身が治療チームの主要な一員になることと述べている。注射薬をダブルチェックするには患者あるいは付添人が一番適している。なぜなら、注射の現場に必ず立ち会えるし、自分自身の体内に入るものなので誰よりも熱心にチェックするであろう。実際、他人の点滴パックであることに気づいたのは患者自身であったり、患児が輸血パックに書かれた血液型に不審を抱いたことからミスが見つかったケースもある。「今から、◯◯薬を点滴チュ−ブから入れますが、よろしいでしょうか?」と患者に確認する事から始めてはいかがだろうか。医療者自身のダブルチェックにもなるはずだ。決して難しいことではない。きょうからでも実行するようお勧めしたい。(2000/4/17)


13)“患者自身によるチェック”、名案だと思います。


4月14日のJapan Medicine拝見いたしました。医療ミスの記事が、ちょうど先生の記事の下に内容を関連づけるかのように載っていますね。薬剤師の誤調剤によって、患者が死亡したとの記事です。いままでにも、薬剤師のミスで患者がなくなったケースはあるかと思いますが、今回のように、公の場で薬剤師のミスを書いた記事は私は初めて見ました。

実は、私もときどき誤調剤をします。たまたま、今までは、死亡や重篤な例がなかっただけで、その点では運がよかったと思っています。

ミスをするときは、いつも、急いで調剤をするときです。待合室で多くの患者さんが待っており、「速くして欲しい。」と注文があったり、薬局スタッフからも「先生、もっと速くしてください。」と、あおられるときです。「間違ってもいいから、速くくれ。」とは誰も言いません。しかし、間違わないようにしようとすれば、自ずと時間がかかってしまいます。そのことに理解してもらうのがなかなか難しいものがあります。ミスを減らそうとすれば、ダブルチェック、トリプルチェックをしなければなりません。しかし、ガラス越しに、急いでいる患者さんからは、「できているなら速くくれ。」と言われてしまいます。

医療ミスを減らすのは、そんなに難しいことではないと思っています。ダブルチェック、トリプルチェックをすることで防げるはずです。しかし、これが、なかなか患者さんに納得してもらえません。

先生の“患者自身によるチェック”、名案だと思います。薬局でも薬をもらうときに、患者さん自ら内容を確認することが常識化するといいと思います。早速、わが薬局でも患者さんも参加した安全対策を練っていこうと思います。(2000/4/20)


14)メバロチンの処方にバイロテンシンを・・・

4年半前の私の話です。メバロチン(10)の処方にバイロテンシン(10)を出してしまいました。他にニバジールも出ており、Ca拮抗剤2種を服用させられてしまったその方は血圧が低下しすぎて寝込んでしまわれました。その薬局は投薬時に患者さんに薬を見せて確認しながら渡すシステムだったのですが、ご本人が風邪気味のためお嫁さんが薬だけをもらいに来られたのです。投薬時にそのことや「前と同じですね」という話をお嫁さんと私はしたそうですが、私は覚えていませんでした。

当時、事務4人、薬剤師2〜4人(不確定)の調剤薬局に勤めていました。1日100枚前後ですが、地域の中核病院の処方箋が90%以上で多剤併用が多く在庫も2500品目以上あったと思います。精神神経科や小児科の散剤の処方も多く、調剤に人を取られてほとんど一人で監査、投薬していました。ダブルチェックしていましたが、見逃してしまい、ダブルチェックの意味がありませんでした。Ca拮抗剤の併用例もしばしば見ていたので、薬効で「あれ?」とも思いませんでした。

メバロチン、とちゃんと印字してある立派な処方箋で、目では「メバロチン」と読んだはずなのに、チェックの鉛筆跡もあるのに、バイロテンシンを手に持って薬袋に入れてしまったのです。思いこみでそう見えてしまったのでしょう。数日前、ニバジールのミリ数を間違えそうになったことを思い出して、注意がニバジールに行ってしまったことも原因です。お嫁さんから「この薬で本当に間違いありませんか」という問い合わせの電話があって処方箋を出して見たとき、「ああ、ニバジールの人」と思ったことからも、ニバジールがバイロテンシンをブロックしてしまったことがわかります。

そこではバイロテンシンがよく出る薬なので流してしまい、ニバジールは滅多に出なかったので印象が強かったのだと思います。メバロチンもバイロテンシンよりもっとよく出る薬で、両方とも(5ミリ)と(10ミリ)があり、どちらも(5ミリ)は10錠シート、(10ミリ)は14錠シートでした。良く出るので取りやすい位置にあり、同じか隣り合った列の棚にありました。

でも、シートや錠剤の色は全く違います。当時はシートに印刷された商品名は英字でしたが、スペルの長さも印象も違います。なぜ間違ったのか、自分で、全くわかりませんでした。

「前と同じです」と言われて薬を家に持ち帰ったお嫁さんに、ご本人は「前と違う」とおっしゃったそうです。でも、お嫁さんは私を信頼して「薬局の薬剤師さんが前と同じっておっしゃったんだから」とそのままのむよう勧められました。間の悪いことに翌日が祝日で、ご本人はおかしいと思いつつ病院にも薬局にも連絡がとれず、「ゾクゾク、ふらふらする」のも風邪のせいと思われていたようですが2日のまれたところで倒れるように寝込んでしまわれたそうです。ご家族も風邪と思い、受診する前に確認のため、と薬局に電話をされて「B」から始まっている薬、ということでミスがわかったのです。

医師にミスの内容を説明して受診され、降圧剤の服用をやめて4,5日で回復されましたが、ちょうどクリスマスにかかりこのご家族には大変な年末を迎えさせてしまい、大迷惑をかけてしまいました。

お嫁さんはご本人が「違う」とおっしゃったのにそれを無視したためにご本人が苦しむことになり、責任を感じておられました。でも、責任は私にあります。「薬局の薬剤師さんがこんな間違いをするなんて事があるんですか?」と言われました。全面的に私を信頼して下さっていたのです。でも私は処方箋を見ても「ニバジールの人」としか思い出さなかったし、謝罪に行ってお嫁さんにお会いしても記憶にありませんでした。あちらは私が言ったことを覚えていらっしゃるのに。

謝罪に行ってお話をうかがうと、コンプライアンスの大変良い方で、医師に指示に従って体調を維持しようと生活面にも気を配っておられたようです。もちろんお嫁さんもそれに協力されていました。そういう方々が、私のように不注意な薬剤師のミスのせいでひどい目にあってしまわれました。クリスマスの用意が途中の家で寝ておられる姿を見たときは涙が出ました。

それからは、どうして自分が間違えたのかを考え反省しながら仕事をしました。「こういう時に間違いやすいな」と思うことをまわりにも伝え、ミスしたら薬局の信用や経営より患者さんが苦しむし、自分もつらいよ、と言いました。また、薬剤師にとって患者さんはたくさんの中の一人だけど、患者さんにとって薬剤師はその時は一人なんだ、と意識し、「薬を見て人を見ない」ということがないように、何かしら患者さんの事を聞き出してその方を理解し自分の記憶に残そうと努力しました。こちらからの説明だけでは気づけなくてもお話を聞けばコレステロールの話になったりしてメバロチンの事に気づいたりできたはずだった、と反省したからです。

現在は別の調剤薬局に勤めていますが、ここで私は数々のミスをしました。印の押し忘れ、注意書きの入れ忘れ、錠数違い、規格違い、銘柄違い。セルベックス細粒とビオフェルミンなど、どこをどうにも間違えようにないものを同じ引き出しだったという理由でまちがえたこともあります。どれも監査で発見してもらい、事なきを得ていますが、私は不思議でなりません。

なぜ、間違えるのでしょう?なぜ、忘れるのでしょう?あんなに反省したのに!ミスの報告は以上です。(2000/6/16)


15)予防薬のようにして同じ薬を20年も飲み続けていた・・

個人的な話で恐縮ですが聞いてくださいませ。実母(77才)のことです。年老いた父と二人で郷里で暮らしています。病気一つしたことのない丈夫な母です。

最近、手が震えて(字を書こうとすると震える)力が入らなくなり自分の意志で、市内の脳外科にかかったところ、パーキンソン病と言われたそうです。(MRIと脳波の検査をしたそうです)そのとき、常用していた薬を止めるようにも言われたそうです。エリーテン《(日本化学)メトクロプラミド(JP)》という薬です。腹部膨満感の解消のため、かかりつけの近所の医師(内科)からもらって20年も飲み続けていたそうです。さっそくエリーテンという薬を調べたら、薬剤性パーキンソニズムの原因薬物の一つになっていました。

かかりつけの医師(個人病院の院長)とは両親ともに長いおつきあいで、母にとっては何でも心安く話せる大切な先生なので、「もらっていた薬が原因?」とは言いにくいようでした。「気になることは全部話さなくては、先生だって困るのよ」と話しました。

脳外科からパーキンソン病の治療薬としてもらった薬はシンメトレル(塩酸アマンタジン)という抗パーキンソン薬でした。飲むと便秘になり、こんどは便秘の薬を出され、飲みたくないとかかりつけ医に話したところ、同じ薬の量を減らしてもらって、現在、服用中です。エリーテンにかわる薬は今は飲んでいないようです。その後、脳外科にもかかっていません。医薬分業は行われていないようです。かかりつけ医には飲んでいる薬をすべて伝えてあるから・・・と言っていますが。

わたしの知り合いの神経内科の先生に以上のことに加え、もう少し細かい症状などをお話したら、薬剤の可能性もあるが、本態性のパーキンソン病の疑いもある。また本態性振戦かもしれない。とにかく神経内科の専門医に一度かかったほうがいいと言われました。

8月に帰郷するので、インターネットでみつけた神経内科専門の開業医にみてもらうつもりです。とにかく、半分、予防薬のようにして同じ薬を20年も飲み続けていたのにはあきれました。薬をあなどっていけない、とあらためて思いました。また、老人の服薬指導のむずかしさも感じました。

文献も調べてみました。厚生年金病院年報 21:241-245 1994.伊藤裕昭 “薬剤性パーキンソニズムの臨床的研究”によれば、「九州厚生年金病院の神経内科を受診したパーキンソン病100例のうち、薬剤性パーキンソニズムが27例あってそのほとんどが他医療機関で原因薬剤を処方されていた。また大部分が処方した側の医療機関でその副作用であることに気づかれていなかった」とのことです。(2000/6/19)


************

その後、実家の母は神経内科専門のクリニックで診察を受けました。その結果、パーキンソン病ではない、おそらく薬剤によるものだろう、とのことです。15年服用していたので、休薬して体の外に出すのに1から2ヶ月かかると言われました。1〜2カ月後にまた診ていただくことになっています。(2000/6/27)

あらゆる薬について、絶対でない症状というものはない。すべての薬について、どのようなものでも起こりうる。

ドクターズルール425(医者の心得集)クリフトン・ミーダー著・福井次矢訳、南江堂


16)10倍量を服用し続けた患者は倒れて・・・


アレビアチンを誤って10倍量処方してしまったメールを読んでびっくりしました。実は私共の勤務する調剤薬局でも平成6年に同じような調剤ミスがあったからです。

10倍量を服用し続けた患者は倒れて病院に運ばれました。しかし担当医はその症状を診てもアレビアチン中毒とは気づかず、入院した後も更に何日かその薬を飲まされ続けていたそうです。苦しむ患者を見かねた家族は担当医の反対を押し切って他の病院で診察を受けそこで初めてアレビアチン中毒と診断されたのですが、その病院には空きベッドがなかったため患者は元の病院に戻ってきたそうです(これはあとで患者の家族から聞いた話です)。4週間分の薬はもう4日分位しか残っていませんでしたが、明らかに量が多い、そこで初めて私共は病院に呼ばれて調剤ミスの事を知らされました。患者の症状、薬の量から考えるにアレビアチンの原末を10倍量計っているのではないか、という結論でした。体中から血の気が引く思いでした。

処方箋を見ても調剤者、監査者は分からず、分かったところでどうなるものでもない、大切なのは患者が元通りに回復してくれる事でした。約1 年間お見舞いに通いましたが、回復の兆しは見られず患者は以前かかっていた医者に診てもらうために病院を変わりました。その後約1ヶ月くらいでほぼ回復しました。「薬だけだから、と近くの病院に変わったのが良くなかったのかね。」と言っては下さるのですが全て間違えた私共が悪いのです。

でもあの時あのままアレビアチン中毒と分からずに薬を飲まされ続けていたら、と思うとゾッとします。その後個人の調剤に責任を持つという意識を高めるために、調剤者、監査者は必ず印を押す事にしました。またアレビアチン原末を10g以上も秤量するなどという行為事体非常識なので、薬の用法、用量を各自でおさらいし、ラベルに用法、用量を記載しました。

ミスの原因ですが、 調剤した者が分からないでは原因も分かりません。結果的にはアレビアチン原末1日0.15gのところを誤って1日1.5gで秤量していたのですから28日分で4.2gのところを何と原末を42gも秤量していたのです。原末であろうと10倍散であろうとアレビアチンたるものを42gも秤量器にのせる事自体考えられない事です。当時は秤量は処方箋を見て、薬剤名、一日量、全量をメモして秤量する、というシステムをとっていました。

ところが当時はメモした者が必ずしも秤量してはいませんでした。本人が書いたものでなければ4.2gのところを42gと勘違いすることも有りうるわけです。また、当時は全量を秤量して確認するという監査をしていませんでした。監査者はメモを確認するだけでした。私が推測するにAという人がメモをした、そして秤量したのは新人のBだった。Bはアレビアチンの常用量を知らなかったので4.2gを42gと読んでそのまま計った。こういう事ではなかったかと思っています。

こんな事があったにもかかわらず,今でも小さなミスは後を経ちません。前後した28包分包の散剤が逆になっていたり、チラーヂンとチウラジールという全く逆のものを処方したり。原因は処方枚数が多すぎて集中力が欠如するために起こるのではなくて、おしゃべりなのです。調剤中に同僚と他事を話しながらのミスなのです。間違えた薬を処方したら取替えに行けばいい、なんて、事の重大さを分かっていない薬剤師が増えています。どうすれば分かってもらえるのか,頭を抱える毎日です。


吉田均

この事例は4.2gのコンマを見逃しての調剤ミスかも知れませんが、もしかしたら“10倍散”が頭の隅っこにあったため無意識のうちに10倍してしまい、42gで調剤した可能性もあります。私は10倍散をあらかじめ作っておく便利さは認めますが、万が一の取り違えたときの危険性は非常に高いと思います。それを防ぐために、原末調剤を基本とし、10倍散は中止。小児などで量が少なすぎるときに限ってそのつど乳糖などを賦形するのが安全ではないかと思います。全国の薬剤師の方々はどのように思われますか?(2000/6/20)


ダブルチェックを入れる方法が・・・

転職薬剤師

私は、処方頻度によって、変わってくると思います。処方のほとんどが、10倍散の処方で来るのであれば、10倍散を用意しておき、処方せんどおりのグラム数で調剤できますので、間違いが少ないように思います。

ところで、原末を基本としても、計算違いや勘違いは起こりうると思います。したがって、原末と倍散がある薬剤については、調剤棚に目立つように、「倍散あり」とか「原末あり」と書いておきます。また、間違えやすい品目は、リストを作っておき、薬局内で要チェック品目を確認しあい、処方監査時や秤量時にチェック、または、ダブルチェックを入れる方法がよいように思います。それでも心配なら、トリプルチェックを行い、確認回数と確認者を増やすことでは、どうでしょうか?(2000/6/26) 


17)チウラジールを服用すべきなのに逆作用のチラージンを飲まされ、苦しみました。 

医療ミスに苦しむ患者


私は四国地方にすむ30代の主婦です。昨年の6月に甲状腺機能亢進症と診断され投薬治療を受けていました。当初はメルカゾールを使用していましたが飲み始めて1ヶ月ほど経ったころ蕁麻疹等のアレルギー症状が出たためにチウラジールに変更となりました。そして今年の3月に悲劇は起こりました。今年に入ってから4週おきの診察を受けていましたが4月の半ばになって発熱・吐き気・虚脱感等等 尋常でない気分の悪さに担当医に相談したのですが「風邪だ」と言われ風邪薬を処方されました。

私は風邪ではないと確信していたのでセカンドオピニオンを求め別の病院へ行き そこで事実を知るのです。3月の診察時に渡された薬は甲状腺ホルモン剤のチラージンだったのです。どうりで説明のつかない症状が1ヶ月近くも続いたわけです。カルテと処方箋には正しくチウラジールと記されてましたが実際渡されたのはチラージンです。パッケージデザインが変わったのかな?くらいにしか思わず1日1錠を14日間服用し体調の異変をきたしました。診察ミスに調剤のミスが重なったことは医者もみとめてますがこの件については 弁護士からこれは事故ではなく事件であると断定され相談をしているところです。病院・医師・薬剤師の相互間そして患者への責任と義務を再認識していただくかを検討中です。なお、薬は病院でもらう院内調剤でした。

医者曰く「頭文字がどっちもTだからねー」とのことでした。医者と薬剤師の相互間 患者の病気へのチェック機能はどうなってるのだろうかと疑問だらけです。(薬剤師は薬歴や病歴を調べないの?とか)医療の現場の労働条件は厳しいとは思います。でも「命」に対する絶対のサービス業であることは確かです。甘えは許されない職業を選んだのは自分自身のはずです。正しい薬を飲む必要性も誤った薬を投与された危険性も 医者・病院は何も語りません。自身の保身の為にそうしているとしか思えないのです。ミスを認めこれからどうするのかを真剣に考えてくれる態度が患者を立ち直らせてくれるはずです。医療の現場に携わる人みんなの「良心」に
あるのでしょうか?(2002/6/19)


18)自分のミスによって、患者さんが死に至る可能性がある・・

ひげの薬剤師

先生、こんばんは。「チラージン」と「チウラジール」の件、読ませていただきました。

調剤ミスをなくす・・、
そのために、私たちはいろんな工夫をしています。
「どうしても、ミスは起こる」という前提に立って・・。
それは当然、有効なはずなのですが、

私は思います。

調剤をするにあたって、まず必要なのは「自覚」。
自分のミスによって、患者さんが死に至る可能性がある・・という現実についての「自覚」。
そして、その自覚を前提に、「それでも自分は、調剤をするんだ」という「覚悟」。
そして、ミスをしないための「集中力」。

正直言って、今月はしんどいです。私、サッカー大好きなんですよ。日本代表の試合が日中にあった日は、地獄でした。 待合室のテレビは、中継のないチャンネルを選び、ボリュームも最小限。そして、あとはひたすら「コンセントレーション」を自分に言い聞かせてました。でも、患者さんは「お構いなし」。勝手にチャンネル変えて、盛り上がってしまいます。 なんとか投薬し、患者さんが帰ったら、また、チャンネルを戻す・・。そんな午後を、2日クリアしました。

(2002/6/21)

19)テオドールドライシロップ(20%)180rを1.8gで調剤し・・・

つい先日、私がやってしまったミスです。
近隣の医療機関の処方箋が大半ですが、忙しい時間に一枚、総合病院の処方箋が来ました。小児科の処方箋でテオドールドライシロップ180rとメプチン顆粒40mcg、その他でした。このときメプチンの単位に気を取られ過ぎました。mcg、マイクログラムなんて冷静に考えればすぐにわかります。しかしこのとき、私はテオドールの横に「1.8g」とメモしてしまいました。テオドールは20%のドライシロップです。倍量量ってしまったのです。そのまま患者さんの手に渡ってしまい、気付かぬまま一週間。月末になり、その月の処方箋を全てチェックしているときに私自身がメモに気付きました。すぐに休暇中の薬局長に報告。翌日謝罪しました。幸い分3で調剤されたものを分2で服用していたため、倍量でも治療域内だったため患者さんの健康に問題はありませんでした。

テオドールDryは気をつけるべき薬と十分認識していましたが、このようなミスが起きてしまいました。患者さんの無事を確認するまでの、胸をえぐられるような感覚。決して忘れることはありません。

もう一つ。新人時代にアダラートL20とラミタレートL20を取り違えて患者さんに渡してしまいました。翌日患者さん自身が「いつもと違う」と言ってもってきました。ラミタレートを渡すはずがアダラートを渡していました。その場で謝罪しました。成分も量も同じものですが、立派なミスです。反省しております。(2002/12/9)

20)私のミス回避方法

はじめまして、50歳の病院薬剤師です。

33歳から病院勤務となり途中二度の転職をしております。はじめの病院は救急指定で毎日市内の救急車の半分が来院するというかなり忙しい病院でした。入院患者へは注射薬の一本出しはしておりましたが服薬指導はしておりませんでした。そこで私はいまだに師と仰ぐ先輩と出会いました。「この忙しいときに何してるんや?」という同僚の冷ややかな目も気にせず外来患者さんに薬の説明をしておられたのです。今では考えられないことですが当時は番号札とお名前を照合して「お大事に」の一言のみで終わっていたのが普通でした。私はその方の姿勢を見て臨床薬剤師になりたいと思ったものでした。でも、調剤は学生時代の実習以来という私は数多くのミスをしたのです。プリンペランシロップを秤量するところをぺリアクチンシロップ、セルテクトドライシロップの代わりにザジテンドライシロップ、臨時の点滴を異なる詰所に出してしまったこともあります。今振り返るとこのころの私はとんでもない薬剤師だったと思います。ミスの重大性にあまり気づいていなかったのですから。

次の病院へ変わって、事態は一変しました。79床という小さな病院で薬剤師は二名。その同僚が私以上にミスが多いのです。患者様からのお叱りも多々受けました。同じ方に同じ間違いを続けて起こしたこともありました。そして、患者様と仲良くなり、少しの疑問や不審でも訊きやすい雰囲気を作るのが「ミスがあっても事故に至らない」最良の方法だと実感したのです。このころから研修会研究会にも積極的に参加するようになりました。まだ、病棟業務はありませんでしたが、ワンドースパックで定期調剤する入院患者が半数近くおりました。粉砕も体験、もう10年以上前ですが肝移植後の患者さんもおられ貴重な経験をしました。

さて、現在勤務する病院(75床)で病棟業務を開始し、IVHの無菌製剤もしております。外来投薬も院内ですが、保険請求がないだけでお薬手帳もお渡しし薬暦の管理や、ご希望が有れば他院の薬についての一般的な説明もしており調剤薬局に近い業務だと思っています。外来では「最終チェックは患者さん自身で」とすべてのお薬を指導箋と照合しながら説明し、入院患者への定期投薬臨時投薬は薬剤師が直接渡しています。幸いなことに当院の院長が医療事故防止や院内感染防止に積極的で定例会議も実際行われ(書類上のみという病院も多いことは知っています)いろいろな改善策も実行されています。こうして服薬指導を始めてみると指導不足による飲み間違いや患者の自己判断によるノンコンプライアンスがけっこうあるのです。患者が納得できる説明を受ければ、コンプライアンスは格段に良くなることも実感しました。それにより状態が改善されればお薬もまたすぐ変更されます。

今は自分の仕事が患者の回復を助ける役に立っていると思えます。医師・看護師・薬剤師の三者(実際は栄養士・レントゲン技師・検査技師も参加しています)の協力とフォローがよりよい医療をもたらすと考えられます。とりとめのない話になりました。実際の私はまだまだミスが多く、同僚の監査や他部署からのチェックのおかげで事なきを得ているのが実情です。患者様、同僚、他部署の職員みんなが助け合える職場が事故のない医療につながるのですね。(03/5/30)