「抗生剤」を考える(2)


「抗生剤」を考える(1)


「吉田君の医療は危険だよ。風邪だからと言って高熱の出ている患者に抗生剤を出さないなんて・・・、万が一の場合はいったいどうするんだ」「アデノチェック(アデノウィルスの迅速診断法)が陽性ならCRP(炎症反応)が10以上でも抗生剤を出さないそうだが、そんな恐ろしいことは私にはできない。名医の吉田君(これはすっごい皮肉です)にしかできない治療法だ」親切な先輩ドクターが忠告してくれる。ありがたいことだ。(でも、風邪に抗生剤・・・。こちらのほうがもっと怖いんだけどなぁ。)

抗生剤は肺炎、敗血症、細菌性髄膜炎など細菌感染症にはなくてはならない薬だ。この薬のおかげで人類は多大な恩恵に服した。実際私も日々の診療で抗生剤を使用し、劇的に症状が改善したこどもたちを何人も診てきた。他のドクターも同様であろう。抗生剤の有用性については論ずるまでもないことだ。ただし、これは細菌に限定しての話だ。抗生剤が効くのはあくまで『細菌』。『ウィルス』には全く効かない!

ところが抗生剤の効能に目が奪われ、熱が出ると「万が一を考えて抗生剤」「念のため抗生剤」「とりあえず抗生剤」などとウィルス疾患との見きわめもせずに処方されるケースが多い。「熱が出れば無条件で抗生剤」「熱が出なくても、後で出るかもしれないと抗生剤」このような親切すぎるドクターもいる。しかも、ウィルス感染と診断できたケースでさえ「肺炎の予防に抗生剤」という理由で処方される。「親切のつもりがありがた迷惑」。皮肉を込めて言えば、“ご親切医者”ということになる。そして、このようなドクターが日本では多数派を占め、私のような抗生剤をめったに出さない医者はむしろ少数派になっている(葛根湯医者 読み進む前にここは必ずクリック!)。

しかし・・・、何でもかんでも一律に抗生剤を処方するのならば医者は必要なかろう。自動販売機で『発熱』のボタンを押して抗生剤を買えばよい。




かぜ熱に抗生剤を処方されるドクターの気持ち、分からないことはない。いや、むしろ過去のことを考えれば大いに理解できる。25年ほど前にさかのぼるが、私が医者に成り立ての頃、重症の肺炎、膿胸、敗血症、髄膜炎などの患者さんはとても多かった。その頃、大学病院や基幹病院で研修をしていたが、昼夜を問わず病棟に重症細菌感染症が次々と運び込まれてきたものだ。手当の甲斐なく命を落とした患者さんもまれではなかった。細菌感染症の恐ろしさは身にしみた。しかし、その後、時代の変遷とともに重症感染症は急速に減少し、今は昔に比べればずいぶんと減ったものだ。髄膜炎にあわてることも少なくなった。しかし、時代が変わっても過去の経験にとらわれ抗生剤を使い続けているドクターも多い。そんなドクターに尋ねると「抗生剤を使い続けたからこそ細菌感染症が減ったのだ。抗生剤を減らせば、また、昔に戻る」と。

確かに発熱患者(大部分はウィルス性)の中に含まれる一部の細菌感染を選び出し、その患者だけに抗生剤を処方するというのはなかなか難しいのだろう。少なくとも過去には・・・。検査せずに聴診器一本の診察だけでは「闇夜に鉄砲で抗生剤」ということにもなりかねない。区別できないのなら発熱患者全員に「抗生剤のじゅうたん爆撃」すればよいということになったのだろう。打ちまくればいずれ当たるだろうということを期待して・・・。そして、このおかげで助かった患者さんはいたのでしょう。たぶん。

しかしながら、今や「じゅうたん爆撃」の弊害が出てきた。それは薬の効かない「耐性菌」の逆襲だ(抗生物質)。抗生剤をやみくもに使いすぎたことに原因がある。耐性菌は抗生剤の効きが弱いか全く効かない細菌である。したがって、耐性菌による肺炎や髄膜炎にかかると命に関わる状態となる。実際、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP、実際はセフェム耐性肺炎球菌と言ったほうが正しいのだが・・・)による難治性の中耳炎が全国的に増えている(難治化する急性中耳炎 薬剤耐性菌による急性中耳炎の治療ガイドライン案軽症例に対する治療選択)。日常的とさえなった。また、さらにもっと重症のPRSP肺炎や髄膜炎になりこの場合は死亡するケースも出ている。PRSPの前に問題となったMRSA(メチシリン耐性ブドウ状球菌)は全国の病院で多発し、多数の死亡者が出たことでマスコミにも大きく取り上げられた。その原因は主として術後の感染予防のため の点滴抗生剤の使いすぎだ(抗生物質の使い方と院内感染対策)。一方、PRSPは病院(病棟)よりも市中のクリニックや病院の外来でみられという特徴があり、ということは入院しなくても誰でもかかりうるということだ。そして、その原因は外来での経口抗生剤の使いすぎだ。(抗生物質が効かなくなる−耐性菌の恐怖


腸には400種の常在菌(良い菌)が住み着いており、その数は10兆以上と言われている。抗生剤(特にセフェム系抗生剤)を飲むとこの大切な常在菌叢が破壊され、耐性菌に置き換わってしまうのだ。PRSPなどの耐性菌はいったん定着するとこれを絶滅することはまずできないと考えるべきだ。それでは耐性菌を増やさない方法はあるのかということになるが、実は耐性菌のほとんどいない国がある。それは北欧4国。ここではどうしているかというと、古い抗生剤(エリスロマイシン、ペニシリン、メチシリン)を使い、その使用量もまた少ないのだ。薬も限定的に使えば耐性菌も増えないということだ。(耐性菌について1、 耐性菌について2

耐性菌PRSPは、日本だけでなく米国をはじめ諸外国で問題視されており、これに関する多くの調査研究がなされてきた。その一つにスペインのNava氏らの研究がある。それによると『セフェム系の抗生剤を今飲むと後日耐性肺炎球菌による重症感染症になる確率が非常に高くなる(オッズ比5.9)。』これは日々患者に接する臨床医にとっては画期的な研究だ。耐性菌を予防するには地域全体、国そして世界全体での対応しかないのかと思っていたが、個々の患者での個人防衛がまず基本であるということがわかった。「幼稚園でうつってくるからしょうがないんだ」ではなくて、「あなたがこの前抗生剤を処方したから、それが原因で今耐性菌肺炎になったのだ」ということなのだ。




また、アイスランドで次のような調査がある。5つの地域で7歳以下の子供ので耐性肺炎球菌(鼻咽頭培養)の保有頻度を調べ、これと年齢や性別、兄弟の有無、抗生剤の服用歴、各地域での抗生剤の消費量などのパラメーターとの相関関係を調べた。結果は抗生剤の一人あたりの消費量が他地域の2倍の地区に住んでいるこどもと抗生剤の1年以内の服用歴のあるこどもではPRSPの保因者の頻度が高くなっていた。

日本にも重要な調査がある。小豆島で唯一の病院小児科で抗生剤の使用を減らしたところ、 3年間で同科の耐性インフルエンザ菌とPRSPの検出率が下がった。その報告された武内一先生(現・堺市の耳原総合病院勤務)は抗生物質を使用しなければ、小児医療における耐性菌は確実に減少すると結論づけている(外来小児科 Vol.2 No.1 p51-56, 1999)。また、世界的権威の米国疾病予防対策センター(CDC)は「今、抗生剤を使用すれば後日、耐性肺炎球菌に感染するリスクファクターとなる」と家庭医向けの雑誌で警告している。

4年前にPediatrics誌に小児に対する抗生剤適正使用の根本方針(Principles) (一番下までスクロールすると6つの論文があります)が出た。そして、昨年の3月Annals of Internal Medicine誌に成人向け根本方針 (Position Paperの項に9つの論文が載っています)が出た。ウィルス感染に対する抗生剤の使用を厳しく制限する内容だ。ずれもEBMに基づいて書かれたもので信頼でき説得力がある。抗生剤を処方するすべての医者が読むべき指針である。

米国では耐性菌問題は人類に対する脅威ととらえており、CDCが中心になって国をあげて取り組んでいる。その詳細はCDCのホームページに掲載されている。ぜひ一度お読みいただきたい。先日、そこにある抗生剤適正使用の冊子(日本語訳もある)をインターネットで入手した。アメリカ小児科学会、CDCそしてアメリカ細菌学会の共同で作ったもので、これは親向けのキャンペーン冊子。表紙には「Your Child and Antibiotics」と書かれ子供とクスリの写真があり、その下に「Unnecessary Antibiotics CAN Be Harmful(不必要な抗生剤はかえって危険だ)」と書かれている。さらに、「ウィルス感染に対して細菌の2次感染を防ぐ目的で抗生剤を投与しても効果がないばかりでなく、かえって耐性菌に感染しやすくなる」との記載もある。抗生剤の適正使用には患者の親の教育も大切ということだ。確かに患者さんやその家族から「この熱に抗生剤は本当に必要ですか?」と質問されれば、医者は抗生剤の処方がしにくいだろう。抗生剤の無駄な処方を減らすにはこれが一番いい方法だ。でも、日本でできるだろうか?小児科学会や細菌学会、感染症学会の現状をみているとちょっと無理だと思う。なぜかというと、そういう学界の権威の人たちは一般に製薬メーカーとの結びつきが強いから、メーカーに不利なことはしない。


日本にもありました。環境問題を取り上げているNPO組織の日本子孫基金という団体から『こどもを守るために耐性菌の危険を断つ』という小冊子が出ています。監修に携わったのはMRSAの日本での第一人者平松啓一氏(順天堂大学)と耐性菌の増加に危機感を持つ小児科医寺澤政彦氏です。見出しフレーズに「どの抗生剤も効かない多剤耐性菌」「医療崩壊の危機」「中耳炎:できるだけ様子を見る」「風邪・インフルエンザ:ウィルスだから抗生物質は効かない」「腹痛:まず乳酸菌薬を」とあります。そして、「白血球1万以上、CRP上昇などの所見があれば抗生物質による治療が必要です」とも書かれています。この小冊子はインターネットで手に入れることはできる。
Unnecessary Antibiotics CAN Be Harmful(不必要な抗生剤はかえって危険だ)

日本の健康な幼児(30-40%)の鼻腔内に耐性肺炎球菌がすでに住み着いている。ここにインフルエンザウィルスが侵入してきて高熱が出たとしよう。そして、インフルエンザと診断できず、肺炎予防と称して抗生剤が出たとするとどうなるか。ウィルスには抗生剤が全く効かないので熱が下がらない。当然抗生剤を飲み続けることになる。すると抗生剤のせいで、のどや、鼻腔、腸管にいる大切な常在菌が大量に死滅する。そして、普段は密集する常在菌の中に静かに埋もれていた耐性菌がここぞとばかりに増殖を始めるのだ。インフルエンザが治る頃あるいは数ヶ月後の忘れた頃に、耐性菌による中耳炎や肺炎、場合によっては髄膜炎などを発症するのだ。すなわち、肺炎予防と称して処方した薬のせいで、肺炎になったということになる。皮肉なことだ。


術後感染症の予防と称して、手術後も何日も抗生剤の点滴をするのが日本では当たり前のことになっている。しかし、ここでも同じことが起きる。体内から大切な常在菌がいなくなると、薬の効かないMRSA(入院の場合はたいていはこの菌)が増殖しはじめ、退院際になって突然暴れだす。どんな抗生剤を使っても全く効かず急速に悪化し死亡するケースが続出している。耐性菌をうつさないようにと看護婦が入室の際手洗いをしているが、見当違いの対策だ。その入室の目的が抗生剤の点滴だったらこれはブラックユーモアだ。



<石川県内で実際あった症例:上記のことが現実になったようだ>

「ペニシリン耐性肺炎球(PRSP)感染症による成人呼吸窮迫症候群(ARDS)にて致死的経過をとった1女児例」小児科臨床50:1139,1997

それまで特別な病気もしたことのない4才の女の子が、咳と発熱で近くの医者を受診し、経口抗生剤のセフジニール(商品名セフゾン)が処方された。いったん症状が改善したが、6日後より再び発熱し咳も悪化したため近くの病院に入院。胸部レントゲン撮影で両側肺野に実質及び間質陰影が散在し、CRPは27.4と異常高値を示した。WBC1100、血小板3200といずれも異常に減少しており、重症肺炎と診断された。血液培養・咽頭培養からともに肺炎球菌が検出され、後日耐性菌PRSPと判明。呼吸困難が増強したので高度医療のため金沢大学付属病院に転院。カルバペネム系抗生剤やバンコマイシンなど耐性菌に対する強力な抗生剤を用いたが、症状は悪化の一途をたどった。人工呼吸器による呼吸管理、胸腔ドレナージ、高頻度ジェット換気、体外式人工肺などあらゆる手を尽くしたが気胸と呼吸不全のため亡くなられた。最初の発熱から全経過20日間、悪夢のような出来事であった。

今回服用したセフジニールによって耐性菌が作られたのか、あるいはどこかでうつされたのかは不明で、証明はできない。しかし、耐性菌肺炎の恐ろしさが思い知らされたことは紛れもない事実だ。これは7年前の出来事であるが、その後PRSPはさらに増えてきており、今後同様な重症例が増加しないか危惧される。


ウィルス感染に対して抗生剤を処方する理由は2つある。2次感染の予防と細菌感染が否定できないという理由だ。



1)抗生剤は2次感染を予防できるか?

これに関して、EBMに基づいた国際的な調査研究がたくさんある。たとえば、EBMの権威コクラン・ライブラリーにある「The use of antibiotics versus placebo in the common cold」によれば抗生剤を飲んでも病状を軽減する効果はないばかりか細菌の2次感染も予防できなかったと結論づけている。このことは国際的にはすでに常識となっている。にもかかわらず、肺炎の予防のためと称して日本では抗生剤が使われ続けている。このことはすでに明らかなのでこれ以上論ずるまでもない。

2)ウィルス感染と細菌感染は区別できるか?

これがクリアーカットに区別できればこんな楽なことはない。とはいえ、慎重な問診、ていねいな診察、適切な検査で大部分の病気は鑑別できる。はしか、風疹、水痘、手足口病、伝染性紅斑(リンゴ病)、単純疱疹、帯状疱疹などの急性発疹症はその特徴的な発疹で診断がつく。またおたふくかぜやヘルパンギーナ、ヘルペス性歯肉口内炎、咽頭結膜炎、伝染性単核症などはその特有な所見で診断できる。感染性胃腸炎(ロタウィルス、SRSV、アデノウィルス)は流行状況と問診、診察で大部分診断できる。これらのウィルス疾患はもちろん抗生剤は必要ないし、実際ほとんどの医師(この場合主に小児科医になるが)は抗生剤を処方していないはずだ。細菌感染との鑑別が問題になるのは、高熱だけかあるいはせき、鼻、のど痛、頭痛、腹痛、下痢、嘔吐などを伴っている場合、単なるウィルス感染症(インフルエンザウィルス、パラインフルエンザウィルス、RSウィルス、アデノウィルス、ライノウィルス、コクサッキーウィルス、エコーウィルスなど)なのか細菌性の中耳炎、肺炎、副鼻腔炎、腸炎、尿路感染症、敗血症、髄膜炎なのかの区別が診察だけではわかりにくいケースだ。細菌感染の多くは丁 寧な診察と検尿・血液検査、細菌培養、レントゲン検査、腰椎穿刺でわかるが、全員にこれだけの検査をすればやりすぎだ。そこで、どうするか。

スクリーニングとして血液検査、特に白血球とCRP検査がとても有効だ。

白血球増加やCRP陽性で細菌感染を疑う。もし白血球正常でCRP陰性であればまずウィルス感染であろう。(もちろん厳密に言えば例外はある。)耳たぶから少量の血液を採取するだけで簡単にできる検査だ。5分ほどで結果が出る機器 (アクセス後「血液検査室」をクリック)も開発され普及してきた。若干痛いという欠点はあるが、発熱疾患の診断には欠くべからざる検査だ。昔からこの検査はできたのだが、短時間で手間なくできるような機器はなかったので抗生剤のじゅうたん爆撃も容認せざるを得ない面も確かにあった。細菌感染があれば白血球は即反応して増加するが、CRPは12時間遅れで上昇してくる。ただし、中耳炎や副鼻腔炎ではこの検査は当てにならず、丁寧な診察が大切である。

もし、中耳炎・副鼻腔炎を問診・診察で否定し白血球正常&CRP陰性であればウィルス感染による発熱と考えておおかたの間違いはない@。これにより抗生剤の使用をかなり減らすことができるはずだ。例えば小児科の場合発熱患者のおよそ90%(or more)はウィルス感染だ。従ってきちんと検査すれば抗生剤の使用量を約90%減らすことができる。他科でもこの数値に近いのではないだろうか。

ただし、この頼りになる白血球数・CRPも万能ではない。白血球数は細菌感染でも増えないことも時にはある。敗血症などの重症感染症では逆に減ることさえある。減りすぎにも注意が必要だ。CRPは白血球数よりも信頼性は高いが、前述のように発熱初期12時間以内は細菌感染でも上昇しないことが多い。従って発熱して半日までは白血球のほうが当てになる。市中肺炎(通院患者の肺炎)などは12時間後の診断であっても通常手遅れではない。まれな例外を除けば十分に治療できる。問題は新生児や体力の弱ったお年寄りの場合だ。例えば2ヶ月未満の新生児・乳児では発熱を見た時点でCRPがどうであれ特別扱いが必要だ。入院やseptic study(咽頭培養、尿培養、血液培養、髄液培養、胸部レ線など)が必要かどうかを常に考慮しておくべきだ。軽率に抗生剤の内服で様子を見ようとしたらかえって痛い目に遭う。

ともかく、この年齢以外でも発熱の場合原因を確かめることが最重要で、抗生剤で様子を見ようとする診療態度は診察医の心に隙(すき)を作り診断の遅れにつながることがあり危険だ。そして、抗生剤が生半可に効くと病状がマスクされさらに手遅れとなる。こういった点をきちんとおさえて白血球数・CRP検査をすれば精度がさらに上昇し信頼性の高い検査法となる。たとえば、生後6ヶ月頃の高熱で一番多いのが突発性発疹症であるが、この中に細菌性髄膜炎が紛れ込んでいることがある。それを心配して、抗生剤を飲ませることが多い。ところが抗生剤を処方したことで自分の責任は果たしたと考え、往々にして経過観察が甘くなりがちだ。髄膜炎の早期診断にはCRP&白血球数のチェックと慎重な経過観察が大切だ。

過ぎたるは及ばざるより悪し

☆抗生物質の危機(2) 〜魔法の終わる時〜

恐るべき進化の話

細菌の謎、抗生物質の限界



『患者さんからのメール』

はじめまして、私は東京在住で、3歳の男の子を持つ母親です。以前は通信社の記者でしたが、今はパートで大学の教師しています。
 
先生のホーム・ページを読んで子供を薬漬けにしたくないものだと改めて思いました。 抗生剤、解熱剤の話、これだけはっきり言ってくださるお医者さんはまだまだ少ないです。正直なところ、私は、この方なら信頼できるという小児科医に出合ったことがないのです。先生のような小児科医が近くにいらしたらと願わずにはおれません。

 子供が一歳になる頃、はじめての発熱で近所の女医さんのところに連れて行きました。元気で食欲もあり、熱以外の症状はなかったので二日程様子をみてから連れて行ったのですが、この女医さんから、「熱が出たらすぐに連れてきなさい!川崎病かもしれないのに!」ときついおしかりを受けました。いきなり川崎病という言葉が出てきて、ひどく動転して気をもみました。この時、「のどが赤い」と、抗生剤と解熱剤の座薬を処方されて使ったのですが、解熱剤の効き目がきれてまた熱が上がってくるときにひどく苦しそうで、解熱剤って怖いなという印象を持ちました。この女医さんは、きっと、のんびり屋の親への教育的配慮として「川崎病」という脅しを使われたのだと思うのですが、私は彼女を信頼することはできませんでした。

 次にお世話になったのは、別の女性開業医です。若くて気さくで、解熱剤も使わないので、いいお医者さんにめぐり合えたとほっとしましたが、抗生剤だけは彼女も頻繁に出しました。でも、私は四十度を超す高熱の時と、気管支炎の時、それから下痢にあやしい血が混ざっていた時以外は飲ませませんでした。その頃までには、私もウイルスには抗生剤が効かないということを学んでいましたし、うちの子供は抗生剤で下痢を起こすので、体調の悪い時によけいな負担をかけたくなかったのです。

 今息子のかかりつけをしていただいているのは、年配の女医さんです。しろうとっぽい質問にも人を馬鹿にしない態度で答えていただけるところがありがたく、それに見立てがいいのです。彼女が、「今日の夕方には元気になりますよ」と言うと、ほんとうにその通りなのです。でも、問題はやはり彼女も薬好きだということです。鼻かぜ程度でも、うんちがゆるい程度でも抗生剤を処方されます。高熱の時には、もちろん解熱剤も出ます。ドクター・ショッピングを続けるのもいやなので、とりあえず、彼女に見立てていただいて、薬の方は私が判断して飲ませています(解熱剤はぜったい使いません。抗生剤も飲ませないことが多いです)。

 結局、私はお医者さんからいただいた薬の大半を捨ててしまっています。それでも子供は元気で育っています。夫は医者の薬が役に立たないと思うなら、医者に連れて行かなければいいと言いますが、私は熱や咳や下痢があると、とりあえず心配のないものかどうか確認したくて連れて行ってしまいます。不必要な薬を出さず、一緒に経過を見守ってくださるような、そんなお医者さんに出会いたいと心から思います。診察を受ける必要があるのかどうかもいつも迷います。不必要に医者に連れて行って風邪などをもらってくるのもいやなので、電話相談などを受けて下さったら心強いと思います。(アメリカなどでは、電話相談が一般的なようですが)。ただ電話ではお医者さんの収入にならないので、電話でお聞きするのは心苦しい気がします。こうした方法も診療報酬になればいいのにと思います。

 「かかりつけのお医者さんを持って、信頼関係を築きましょう」というようなことがよく言われますが、実際には、むずかしいことです。救急で見てもらったドクターからは、私のように細かいことを聞く母親は、小児科医に嫌われるとまで言われてしまいました。でも、抗生剤を乱用しないお医者さんは、いったいどこにいるんでしょうか。

 話は飛びますが、インターネットなどの普及で私のような理屈っぽい母親が様々な情報を得ることができるようになっている現状と先生がおっしゃる”医者村”の現状にギャップが広がってきているのではないかと思います。例えば、熱はウイルスや細菌に対する正常な生体反応で、解熱剤は敵に塩を送るようなものであることはネットを五分も検索すれば知ることができます。ところが、いざ小児科に行くと、解熱剤や抗生剤が気軽に処方されてしまうのです。

このあいだ、先進各国の科学知識を調査した結果が出ていましたが、抗生剤がウイルスに効かないということを知っていたのは日本人で確か三割くらいしかおらず、調査された国の中で最低でした。今はまだこういう状況ですから、お医者さんたちも気軽に抗生剤を処方できるのでしょう。でも、いただくお薬がなんであるかわかるようになり、その薬についての情報も簡単に手に入るようになった今、公に発信される情報と実際の医療のずれが広がり、医者に対する不信感を持つ人が多くなるのではないかと思います。

長文を最後まで読んでいただきありがとうございました。先生のご活躍、今後も期待しております。


「返信」

                                                   吉田均

貴重なメールありがとうございます。私の周辺でも抗生剤・解熱剤に対してはっきりしたご意見をお持ちの母親が増えてきましたね。

科学知識の調査については初めて知りました。3割しかいなかったのですか。さもありなんですね。インターネットのお話、まさにそのとおりだと思います。ネットが普及し、一般の方の医学知識が急速に増してきていますが、医者側は今もって「どうせ素人にはわからないんだから」という古い考えのままです。患者さんは知識があっても医者の前では黙っているものなので、知らないものだと勘違いしているわけです。ま、一種の裸の王様といったところでしょうか。いずれ、裸であることを思い知らされて大恥をかくことでしょう。



「とにかくすぐ医者に行き薬をもらうのが普通、しかし・・・・」

初めまして、3児の母です。私が経験と勘でやってきたこと、解熱剤を使わなくても風邪は治るしその方が調子が良いなどが先生のHPでとてもわかりやすく解説されていて、感動しました。初めてのメールが長文になり申し訳ないのですが、読んでいただけると幸いです。

私は生まれたときから体が弱かったらしくて、体調がすっきりせず、ちょっとしたことで体調を壊すことが多く、胃腸炎や風邪はいつも治ったらすぐにぶり返すという状態でした。母は、医者通いや心労で、とにかく私を育てるのは、たいそう大変だったそうです。母によくぼやかれました。^^

大学に通うために一人暮らしを始めたのですが、自分自身母からいわれるほど、虚弱だと思っていなかったので、風邪をひいても、お金がないこともあり、以前ほど医者に行ったり、薬を飲んだりすることはありませんでした。でも、そのうち、その方が体調が良いことに気づき、少しくらいの風邪なら、寝ていても治る!という、ごく当たり前のことに気づきました。

それとともに、薬を飲んで治した時は、体がだるくて気分が優れないのに対して、安静にする以外何もせずに治した時は、気分爽快で、下手をすると風邪をひく前より元気になったような感じなんです。それ以来、あまり薬を頻繁に飲まなくなりました。

よくよく考えると、私は小さい頃(生まれたときから)なんやかんやで薬を飲まされていました。初孫でお金で解決するなら・・・って感じもあったと思います。^^近所に名医と言われる方が居て、37度を超えたり、お腹が緩かったら、とにかくすぐ医者に行き薬をもらうのが普通でした。様子を見るなんてもってのほか! ^^

薬に関連するものがどのくらいあるのかわかりませんが、とにかく、虚弱でした。低血圧、胃腸炎・風邪・自家中毒(今は何て言う病名なのかな?)・下痢・冷え性・肩こり・風邪ひき・生理痛・・・。

成人してからは、自分の体は自分がよくわかっていると親を説得して、以来、ほとんど薬は飲まなくなりました。というか、薬を飲まないといけない症状になることってそんなにありませんでした。風邪だと、寝ていれば治るんだし、お腹の調子が悪ければ、少し食べ物を加減すればいいだけのこと!です。

しかし、子供ができてから・・・は困りました。自分だと、どうすれば良いか判断できるのですが、自分の体でないわが子となると・・・。第一子は初孫でとにかくおじいちゃん・おばあちゃんのうるさいこと! 本当はできたら自然治癒で治したいとも思っていましたが、そのような情報や説得する手段もなく・・・。

第一子が初めて風邪をひきました。38度ちょっとの熱。子供は体温が高いから、微熱。水分も取っているし、食欲もそこそこ。他に目立ったところもないし、このまま見守ろうかな?と思っていたのですが、そこに「子供が熱出しているのに医者にも連れて行かないなんて!」との声。ご近所の方によく見てくれるいう小児科を教えてもらい、早速・・・。そこは年輩の女の先生で「子供が発熱したら、すぐ医者に連れてこないとダメじゃない。」なんて親なんだろう!って感じです。解熱剤と風邪薬を処方され、2・3日しても熱が下がらないようなら、ちゃんと連れてくるように・・・とのこと。

なんとなく納得できない・・・という思いがあったのですが、その時はそのまま家に帰りました。なんとなく心配だったので、解熱剤は半分よりも少し多いくらいの量を飲ませました。すると飲ませて30分もしないうちにどんどん熱が下がりはじめ、すごい汗で・・・。下がっていくうちに白目をむきかけて、ほんの一瞬意識がなくなりました。夫婦で見守っていたのですが、あまりの出来事に生きた心地がしませんでした! 結局、ほんの数十分の間に2度体温が下がり、冷えすぎで手足が冷たくなり・・・。もうこんな思いは!と思い、子供に何かあってからだと遅い!と、とにかく夫婦で責任を持って育てようと二人で誓いました。

その後、次男が生まれ、次男はアトピー?というのか肌がデリケートで・・・。でも、ステロイドは嫌だし、できれば食事制限もしたくない・・・と思いました。いろいろ勉強したり試したりしていくうちに、合成洗剤・シャンプー、殺虫剤等がダメなことがわかってきて、それらを使わないようにしていくうちに症状がなくなってきました。それでも、夏場殺虫剤をまき散らす知人宅にお邪魔した日には皮膚が真っ赤になったり、市販の入浴剤を使うと粘膜の周りがただれたり・・・。^^

すいません、話がそれましたね。そんなこともあり、素人ができる範囲でいろいろ工夫してきました。この子は、小児科で処方される薬があんまり効かないようなのです。普段は元気であまり病気をしないのですが、病気になると、40度ちょっとまで熱が出ます。でも、薬が効きにくいのか、医者の見立てが悪いのか、薬が効かないのです。薬にアレルギーがあるかもしれないし、薬を飲ませても症状が変わらないので、一応医者には連れて行くのですが、ほとんど薬を捨てています。

けっこう抗生剤は頻繁に処方されますヨ。でも、医者も商売というか、開業医は商売人だと思っていますので、飲まないけど、技術料として、素直にお支払いしています。

三男です。前期破水(9ヶ月半)・低体重・早産で生まれました。私の仕事がハードだったので、無理をしすぎて成長できなかったの主な要因です。^^ 普通の産院で産みたかったのですが、2000gないとのことで大学病院で出産しました。

次男でかなりいろんなこと勉強したので、普通の素人で居たい^^と思っていた矢先、三男が新生児室でMRSAに感染しました。大学病院の一室に呼ばれて説明を受けた時は、正直言ってびっくりしました。&あまり外部に言わないようにとも言われました。^^ が、すぐに気を取り直して、いろいろと勉強しました。なんてことがない抗生物質に耐性があるだけ^^のことです。退院して普通の雑菌のいる環境に戻ったら半年ほどでなくなりました。

三人の子供&実体験のおかげで、医者にはかかることはありますが、もらった薬はほとんど飲まないです。(主人は時々風邪薬を飲んでいます〜。^^) でも、昔よりも薬は飲まなくなりました。

なにやら変な生活?をしている、アトピーを治した?(わけではないのだけど・・・)ということで、最近は時々、他のお母さんから色々聞かれることが増えてきたのですが、なにしろ実体験によるものですので、うまく説明できずに困っていたところ、先生のHPを見つけました。こんな考えの小児科医がいらっしゃったなんて!と感動しました。

私の古い友人にも医者が居るのですが、彼女はとにかく「封建社会だから逆らったらダメなのよ〜。勤務医だから、言われたプロパーさんの言われた薬を使わないといけないし・・・。それが実体なのよ!」とのたまっていたし、薬剤師の知り合いは訪問販売を始めて大した成分でもない製品を高値で売るしで・・・。うんぬんかんぬん・・・で、医療関係者にはあまり良いイメージを持っていなかったので、先生のような方がいらっしゃるなんて驚きです。

これからも頑張ってください。

P.S.そういえば、私の祖母はスモン病ですごい薬害(殆ど目が見えなくなり、歩くのもままならない、障害者認定を受けていました。)だったのに、私は薬漬けでした。うちの両親はアホですね。^^ 「餅は餅屋」の時代だから仕方ないですかねぇ〜?(02/10/16)



「抗生剤も解熱剤もできるだけ使いたくないのです。」

はじめまして。ちょうど病院にそして医者に疑問と不信感を抱いて悶々としていました。というのも、現在10ヶ月の娘は出産した病院で退院時の鼻の検査でMRSAの保菌者と診断され、(どうやら院内感染だと思うのですが)まったく無知な私たち夫婦はインターネット等で調べながら愕然としました。それから、抗生剤を含む薬についても少しづつ勉強しています。

上にも5歳の子供がいますが、やはり幼稚園で病気をもらってきたりで、先日も40℃の熱があがったり下がったり、痰のからんだ咳も続きました。病院に連れていくと沢山の薬。もちろん抗生剤もあり。薬の説明はまったくありませんでした。咳が止まらないので再診してもらうと、ベラチンを飲んでいるのですが、さらにホクナリンテープとテオドールを処方されました。気管支拡張剤のトリプルです。たまたま休日だったので薬の説明の用紙が出ませんといわれ、名前だけでも教えてくださいと看護婦に尋ねると、「なんで知りたいのか」と責められ、「そんなに知りたいなら診療時間内にしか来るな」というようなことも言われました。

下の子は、熱は38.5℃で元気も有り食欲も水分も取れていたのに、なんといきなり座薬をさされました。それもスルピリンです。案の上、いったん熱は36.9℃に下がりました。しかし、数時間後には手をきつく握り顔色は悪く、手の色も口唇の色も紫色になり、足も冷たくなったのです。その後体温は40.0℃まであがったのでした。親として、はっきり断ればよかったと後悔しています。もちろん、薬は抗生剤のジョサマイシンが出されました。

そうなんです。先生のいうとうり、抗生剤も解熱剤もできるだけ使いたくないのです。病院に行ったのは、風邪以外の病気ではないか、合併症がないか診てもらいたかったのです。薬は子供がつらそうなとき、少し症状が楽になる助けをしてくれるものが欲しかっただけです。

内科の場合もそうです。私にかぜがうつっても寝ていられないので病院に行くと熱は微熱なのに抗生剤。2日後、のどが痛くご飯が飲み込めなかったので痛み止めでもと思っていたら、連休だったので当番医に行くと点滴。しかも、今飲んでる薬は効かないからと全く新しい抗生剤が出されました。

先生のような方に診ていただきたいのです。病院に行くのが怖い。病院に行ったほうが殺される。そんなふうに思っていたところです。これから、冬を迎え風邪なども増えますし、下の子はこれから色々な病気にかかることでしょう。信頼してみていただける先生は一体どこにいるのでしょう。何か起きてからでは遅いのです。私の子は医者にとっては多くの患者の1人ですが、親にとっては誰も代わりのできないかけがえのないたった1人の子供なのですから。

2児の母より。(02/11/11)

お母さん方の声
抗生剤で失敗
抗生剤の副作用
かぜと細菌感染

「抗生剤」を考える(2)