富山大学「人権と福祉」後期講義の概要2002年度




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  •  このページは、富山大学「人権と福祉」後期講義(八木、大嶋、阪井、塚本担当)の2002

    年度分の概要をお伝えするページです。



    第1回 2002年10月08日午後4時45分〜午後6時15分

    (1)立川人文学部教授よりガイダンス
       ・「人権と福祉」という講義が1986年に「人権と差別」と題して始められた経過
        と1993年のカリキュラム変更に伴う「人権と福祉」への名称変更及び内容の変
        更(良くも悪くも)の経緯、「障害」にターゲットを絞って(「重点化」)かれこ
        れ10年あまり経つ事などの説明。
    (2)各講師自己紹介と講義の目的等につき説明
       ・大嶋非常勤講師 養護学校の教員として、また障害を持つ子の母親としての立場か
        ら、地域社会における障害を持っている子ども、大人の人として生きる権利がどの
        ように扱われているか、実際に突きつけられている問題、課題について考えます。
        障害を持っているといないとにかかわらず、人が「自立」するとはどういう事なの
        か、講義に参加される方々自身の「自立」の問題としても考えてほしいと思います。
       ・塚本非常勤講師 医療や福祉の相談員としての立場から、現実の地域社会の中で生
        起する様々な問題とその解決に向けての取り組みなどについてお伝えしたいと思っ
        ています。今年度は、介護保険制度の実態と問題点、改善に向けての課題などにつ
        いて主にお伝えしたいと思います。
       ・八木非常勤講師 2003年度より、「障害者」をとりまく制度の枠組みが大きく
        転換します。これまでは行政処分(措置制度)として上から与えられていた福祉サ
        ービスが、「障害者」自らが選択、自己決定する「支援費制度」になります。この
        事について、立場により様々な評価が成り立つのですが、障害を持つ当事者として
        考えるところを述べたいと思っています。また、自ら施設を出て独り暮らしをして
        ている体験から、「障害者」が「自立」するとはどういう事か、自立という言葉の
        意味の新しい考え方についてもお伝えし、皆さんといっしょに考えていきたいと思
        います。
       ・阪井非常勤講師(当日所用により欠席。立川教授により代理説明。) 子どもも高
        齢者もいっしょに過ごせるなど、既存の制度や施設の枠組みを超えた取り組み(「
        富山方式」などと言われます)を先駆的に実践してこられた方です。通所サービス
        の拠点として「にぎやか」を設立した経緯やその後の取り組みの状況、NPO法人
        格取得後の状況や支援費制度へ向けての課題などについてお話いただく予定です。
       (3)その他
       ・八木非常勤講師から アンケート用紙がありますので、出席票を兼ねて提出して下
        さい。
       ・大嶋非常勤講師から 養護学校の行事へのボランティア参加者を募集しています。
        希望者の方は立川教授までご連絡下さい。
       ・今後の日程
        10月08日 ガイダンス 立川教授
        10月15日 塚本  22日 八木  29日 塚本
        11月05日 八木  12日 塚本  19日 八木  26日 大嶋
        12月03日 大嶋  10日 大嶋  17日 阪井
        01月14日 阪井  21日 阪井  28日 ミニシンポジウム(全非常勤講師)
        02月04日 最終講(まとめ)立川教授


    第2回 2002年10月15日午後4時45分〜午後6時15分(担当 阪井→塚本)

    (−1)事務局より説明(阪井非常勤講師の都合により予定を変更し塚本非常勤講師代理出講
       となる事について)
    (0)はじめに(本論に入る前にこの講義に際して非常勤講師の側が考えている事などを述
       べます)
       1)「非難」と「批判」の違いについて
       ・講義では、アンケート票などを通して参加されている方々のご意見やご質問などを
        お受けします。その際に、あるいはそれ以外の場合でもそうですが、「非難」と
        「批判」の違いをよく考えて、「非難」ではなく「批判」を行うように努力して
        ほしいと思っています。ここで言う「非難」というのは、相手の人格に対するマ
        イナスの感情の表出であり、それを繰り返してもお互いに傷つくだけで、なんの
        メリットもありません。それに対し「批判」というのは、相手の論理、思考の論
        理や行動の論理に対する論理的な吟味(何が正しくて何が間違っているかの吟味)
        です。「批判」は、相手を一個の批判に値する人格として認める事、相手への人
        間としての敬意が前提となる行為です。また、「批判」は相手の「あら探し」で
        はありません。「批判」を行った結果、相手の論理が正しいという事が証明され
        る場合もありますし、この部分は正しいがこの部分は間違っている、といったよ
        うな事が明らかになる場合もあります。本人が気づかなかった誤りに、他者の批
        判を得てはじめて気づかされるという事があります。従って、「正しい批判は
        (真実を知りたい人からは)歓迎される」という事が言えます。本講義の非常勤
        講師の言っている事や現実の社会の中で行っている事が本当にそれで良いのか、
        正しい意味で批判を試み、それを言葉にして伝えていただきたいと思います(こ
        の場で用いた「非難」、「批判」という言葉の使い方は、あるいは一般的ではな
        いかもしれませんが、その事も全部含めて「批判」してみて下さい)。
       2)目的的思考と体系的思考について
       ・大学の講義は、これまで人類が築いてきた理論を学ぶ場であり、その理論を現実
        の社会に当てはめるという体系的な思考を身につける場であると思います。しか
        し、実際の社会現象や人間の現象にその理論を当てはめてみても上手く説明でき
        ない事が次々と起こってきます。そこで、そのような新しい問題を解決する理論
        や、説明できる理論を考究する目的的思考が必要となります。この目的的思考と
        体系的思考は車の両輪のようなもので、どちらが元でどちらが末という事はない
        と思います。両者を行ったり来たりしながら、いわば「らせん階段」を登るよう
        に知が発展していくのだと思います。私たち非常勤講師は、全員大学の外の人間
        であり、軸足は現実の社会の中にあります。どちらかというと目的的思考になじ
        む立場です。大学の講義という場に、現実の社会に対する問題意識を持って行動
        している人間が加わる事は、この二つの思考の統合の試みでもあると思っていま
        す。
       3)外部講師の存在意義について
       ・大学の外から講師を招くという場合、ともすると知名度の高い人で客寄せをする
        とか、適当に人選して丸投げし、担当教官が楽をするといった安易な方向に流れ
        る嫌いがありますが、私たち非常勤講師としては、この「人権と福祉」の講義を
        そのような形で流したくないと思っています。外部講師が大学にかかわる意義は、
        両思考の統合という意味で、あるいは理論と実践の統合という意味で、地域とい
        う現実の社会の中で大学が一定の機能を果たすよう良い意味で巻き込んでいくと
        いう事にあると考えています。
       4)双方向の対話について
       ・この講義を受けられる方に望む事ですが、ちょうど有名な落語家の話を聞きに行
        くような、お客さんというか受け身の立場にとどまらないでいただきたいと思い
        ます。あの話はおもしろかった、話し方が上手かった、下手だったというだけで
        は、講義に参加したうちに入りません。せっかく通常の講義では聴けないような
        (実際にこの講義でなければ聴けない内容の話がいくつもあるはずです)「考え
        る種」が与えられるのですから、そこから出発して自分で考えていく、本当にそ
        うなのか、実際に出向いて確かめたり、文献で裏付けをとったり、そしてまた考
        えを深めていく、そういった努力をしていただきたいと思います。各非常勤講師
        の考えがよく分からなかったり、間違っていると思ったら、どんどん「批判」し
        て下さい。各講師はその「批判」に対して「反批判」を試み、それを積み重ねて
        いくうちにお互いに新しい「気づき」を得るかもしれません。
       ・通常大講義方式では、一人の人間が不特定多数の人に対して一方的に伝える事と
        なりますが、少人数方式ほどではないにしても、なるべく双方向のコミュニケー
        ションの機会を確保したいと考えていますので、講義の「主体」として積極的に
        参加し、授業料の元をとっていただければと思います。皆さんの参加の仕方によ
        って、この講義はどのようにも変化・発展する可能性があります。
       5)「だから」から後を一人称で考えるということ
       ・あと、4名の非常勤講師が共通に望んでいる事は、自分の人生との関わりで「人
        権と福祉」の問題を考えていただきたいという事です。「○○は、○○である」、
        「○○は、○○でなければならない」ともっともらしい事をレポートに書いて提
        出してそれっきりという事ではなく、「○○は、○○である」の後に、「だから」
        どうなのか、もっと言えば、「だから」「私は」どうなのか、そこまで言葉にす
        る努力をしていただきたいと思います。「だから」から後を一人称で考え、行動
        するという人が一人でも多くなる事、それが私たち4名の望んでいる事です。

    本論 「日本における高齢者ケアマネジメントの現状と課題」

    (1)ケアマネジメントとは何か(歴史的な生成過程)
       1)ケアマネジメント成立の背景事情
       2)地域福祉、地域ケアを推進する上での問題点の発生
       3)問題解決手法としてのケアマネジメントの登場

    (次回につづく)


    第3回 2002年10月22日午後4時45分〜午後6時15分(担当 八木)

    (1)「障害者」って?
       1)「障害」と「病気」の違い
         ・「病気」は通常ではない一時的な状態で、治さなければならないものであるが、
          「障害」はそうではない。
       2)国が認定した「障害者」って?
         ・認定の基準に問題があり、日常生活のしづらさなどを判断基準に設けるべき。
         ・認定を受け「手帳」交付を受ける事には一定のメリットがある。
       3)先天性障害と後天性障害の違い
         ・後天性障害を持つ人は、「健全者」としての体験を持っており、違う自己を
          受け容れられない事で苦しむ傾向がある。
         ・違う自己で苦しむという事では、「障害者」から健全者になった場合でも同
          じ事が言える(治療を受けて目が見えるようになった人の例から)
         ・通常人間は空を飛べない。飛びたいと思う事は時にあるかもしれないが、切
          実に四六時中望んでいる者はいない。それと同じように、先天性障害を持つ
          人も、そのままの姿が当たり前であって、ことさら歩けるようにならなけれ
          ばならないとか、歩けない事を不幸だと思うとかいう事はもともとない。周
          囲の人たちの価値観がそうだと、「そう思わなければならないのかなぁ」
          となってしまう。
         ・男が女に、女が男に急に入れ替わったら大混乱するであろうように、当たり
          前の今の自分という存在を否定して別の人間のようになれと言われても受け
          入れられるものではないという事を分かってもらいたい。
       4)NHK「真夏の挑戦」(過去の番組から)
         ・自主制作映画「できんでいいが」(約40分)に代えて
       5)障害者の歴史→次回以降へ
       6)言葉の違い(障害者と「障害者」、「障害者」と「障がい者」)
         ・昔は「不具者」(完全に具わっていない者の意味)という言葉が行政用語と
          しても用いられていたが、歴史的な経過の中で「障害者」が用いられるよう
          になった。
         ・障害者にカギ括弧(「 」)をつけるかつけないかで考え方に小さな対立が
          ある。害をひらがなにすべきかどうかについても意見の対立がある(資料参照)。
       7)質疑応答
       8)「介護」と「介助」の違い→次回以降へ
       9)介助研修のお知らせとNPO「文福」設立の案内
         ・11月3日に設立総会を開催します。

    (次回につづく  次回のテーマ:「障害者」差別って?)
     

    第4回 2002年10月29日午後4時45分〜午後6時15分(担当 塚本)

    序 前回アンケートの結果とご質問への回答

    (前回の続き)
       2)地域福祉、地域ケアを推進する上での問題点の発生
         ・制度、サービスが縦割りで事業の実施主体(利用のための窓口)がばらばら。
         ・制度、サービスの実施に連携がない。
         ・制度、サービスに関する情報がない。
         ・必要なサービスそのものがない。
         ・行政の都合や事業者の都合に合わせて制度、サービスが提供される。
         ・費用対効果を考えると効率が悪い。
       3)問題解決手法としてのケアマネジメントの登場
         ・制度、サービス事業者との間の連絡調整(一部申込みなどの手続き代行)
         ・制度、サービスの利用に際して利用者のニーズや希望に即して調整。
         ・その人のニーズや希望を充足するために必要な情報の提供。
         ・その地域に必要なサービスがなければ行政や議会などに働きかけて事業を創造。
         ・行政や事業者の都合を押しつけられそうになったら利用者の権利を擁護・代弁。(アドボカシー)
         ・必要にして十分なサービスの提供 → 但しケアマネジメント導入により費用対効果を改善できる
          かどうかについては、未だにどの国においても証明されていない。
    (2)ケアマネジメントとは何か(個別ケアマネジメントの過程)
       1)インテーク
         相談受付→主訴確認→ケアマネジメントの説明→契約もしくは他機関紹介
       2)ニーズアセスメント
         ニーズ(フェルトニーズ、ノーマティブニーズ、プロフェッションニーズ)の把握、問題点の整理
       3)プランニング ← インフォームド・チョイス
         ニーズの充足や問題解決を目的とするプラン(ケアプラン)を作成
       4)ドゥー
         プランの実行
       5)モニタリング・エヴァリュエーション
         プランの実施状況の確認 目的達成度、満足度調査
         → 問題がある場合は 2)ニーズアセスメント に戻る
       6)ケアマネジメント終了
         利用者の逝去 利用者からの契約解除 利用者の自立(ケアマネジメントの不要化)

    (次回に続く)






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