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「あ、やってるやってる…」銀ギツネのトーシーが銀色のしっぽを光らせながらうれしそうに空中で二回周りました。
どこからか美しいヴァイオリンの音が聞こえてきました。
「もうすぐだから練習してるんだね」ヴィオリンは森に住む男の妖精のアナーザがひいているのです。
「もうすぐって何?」この森にきてまもないユウラが尋ねました。そばにいたシューモがにっこり笑って上を見上げました。
「やってくるのさ…」
「だから何が・・」
また尋ねたユウラには返事もせずにシューモは夢見るようにまたヴァイオリンの音を聞いていました。
「僕、アナーザのところへ行ってこよう…モナをさそって」
トーシーが森の奥のモナの家にやってくると、いちじくとモナは二人で切り株の上に座っていました。
「モナ、モナは今度の音楽会で何をするつもり?」
見上げたモナの様子がなんだか変でした。モナの身体はそこに確かにあったけれど、トーシーにはそこにモナが感じられなかったのです。
「モナ?モナ?どうしちゃったの?」
モナはうつろにただ前をぼんやりと見つめているだけでした。そしてそのうつろな目には涙がたまっていて、涙はじんわりと奥の方からにじんできて、目が涙でいっぱいになるとそれはゆっくりと一筋の流れとなって、ほおを伝っていきました。
「モナ?」
「ね、いちじく。モナはいったいどうしちゃったんだ?」
トーシーがあわててモナの洋服を口でゆするようにひっぱると、モナの身体はゆっくりとトーシーの方へ倒れていきました。
いちじくのこれ以上ないといった悲しい声がワォーンとあたりに響き渡りました。