4

 「僕は今、言葉の持つ力について考えているんだ。『見るために』という言葉の魔法で、モナは僕たちの時間の中で時間の隙間にはいることができた。僕たちもその魔法を使うべきだと思う」
今、みんなは、スナーコ博士がたよりでした。
「誰かが万華鏡をのぞく、やっぱりモナがいいかもしれない。魔女はモナだけだから…みんな円になって手をつないで、そして『マーのところへ』と叫ぶんだ」
 時間の隙間とはいったいどんなところなのか、またもどってこられるのか、モナだけひとり行ってしまうということにはならないのか、みんな不安でいっぱいでした。けれど他にどんな方法も思いつかないのです。

「私がのぞく」モナはゆっくりとうなづきながら言いました。前にのぞいたときのことを思い出して、身震いしそうになったけれど、でもモナは何かせずにはいられなかったのです。
 「さあ行くよ」スナーコ博士の掛け声でみんなしっかりと手をつなぎました。モナはトーシーと、トーシーはシューモと、シューモはダビッドソンと、そしてダビッドソンはミウユウと、ミウユウはスナーコ博士とそしてスナーコ博士はいちじくと順番に手をつなぎ、いちじくはしっかりとモナのスカートを口にくわえました。
「けっして手をはなさない…モナだけを向こうにいかせるわけにはいかないんだ」みんなはそれぞれにしっかりと心の中で誓いました。
 モナはあいた手に万華鏡を持ち、そして中を覗きこみました。

 赤と青と紫と金色の光があるところでは中心にむかって、そしてあるところでは外側にむかってきらきらと流れているのが見えました。
 思わず目をそらしそうになるけれど、モナはトーシーの手をぎゅっと握りしめて、
「マーのところへ」
それだけを願いながら、その光の流れに身をまかそうと思いました。モナの耳には、仲間の「マーのところへ」という声がしっかりと届きました。
 いろいろな色はモナの身体を引きづりこみました。その光はモナだけを万華鏡の中へすいこもうとしているようでした。そしてその瞬間、トーシーは誰かがモナの手をもぎ取って行ってしまうように感じました。
「モナ」トーシーが叫び声を上げました。「トーシー手を離すな」他のみんなが祈るように言いました。けれど光のスピードはあまりに強く、どんなにどんなにトーシーがモナの手をにぎっていようとしても、かなわない力でした。そしてモナの手はとうとう離れてしまいました。トーシーは悲鳴ともつかないような小さな悲しい悲しい声をあげました。モナの身体がトーシーから離れて遠くへ遠くへと運ばれていきました。
「ああ、モナだけがひとりで、時間の隙間へすいこまれてしまう…」みんなの心を絶望的な不安が襲ったのでした。
 
 けれど、ひとりいちじくだけはけっして緑の服を噛んでいる口の力をゆるめることはありませんでした。「ぼくはモナの一部。いつだって一緒なのだから」と信じて疑わないようでした。そして不思議なことに、いちじくとスナーコ博士は離れることがなく、そしてスナーコ博士とミウユウも、離れることはありませんでした。こんなふうにして、みんなはちゃんと一直線になってモナにつながっていたのです。一直線はくねくねと列をつくりながら、どこかへ向っていました。

 今まで一度も感じたことのない不思議な感じをみんなが感じていました。どちらが上でどちらが下で、どちらが右で左なのかもはっきりとはわからないのです。そして自分たちが上へのぼっているのか、下へ降りているのか、それさえももうわからないのでした。同じ光は無限につづいて、そして自分たちの姿は奥へ奥へと映し出されて、無数の姿となっていました。
 その無数の姿は、またモナたちを怖がらせました。四方八方へ続いている姿はどれもまったく同じもので、もう自分たちのどれが本物の姿かさえもわからなくなっていました。そしてとうとう自分たちは本当にそこにいるのか、それともどの姿もただ映し出されているだけで、自分たちはまったくのにせものなのではないだろうかという気さえしてくるのでした。

 「だめだ。このままだったら、僕たちは自分というものを失ってしまうよ」ミウユウの声にスナーコ博士も
「まったくそのとおり」と言いました。

シチュー5へ
シチューの目次へ
魔女の花びらへ