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 どうして大きな影が上へあがっていくのを見たときに、すぐに後を追いかけなかったのかとモナは悔やまれてなりませんでした。きっとあの影はマーだったのだ…その思いがモナを苦しめました。すぐに追えば、マーの居所がわかったのに…。いったいマーはどこへ消えてしまったのでしょう。上を見上げても空があるだけ…あれから何度もほうきに乗って空を飛んでいたモナは、空には何もないのだということがよくわかっていました。いちじくが心配そうにモナの手をなめていました。
 ミウユウとシューモとダビッドソンとスナーコ博士とそしてトーシーは深いブナの森のこけがたくさん生えている空気の中で頭を寄せ合って相談をしました。
「とにかくレストランに行って本当にマーがいなくなっているかどうか、まず確かめることが大切だね」スナーコ博士はすぐにでも出かけたいようでしたが,ミウユウがそれを止めました。
 「僕もマーの家へ行くことが大切だと思う。けれど頭の中で少し整理したいんだ。大切なことに気がつけるかもしれないからね」

シューモが言いました。「きのこが消えたんだ」
ダビッドソンが言いました。「しいの実が消えた」
「それからマーが消えた」ミウユウが付け足しました。
「梨やリンゴはあったんだ」トーシーが小さな声でつぶやきました。
みんなの頭の中に同時にひとつのことがあきらかになったような気がしました。
「マーは誰かに秋のシチューを作らされるためにさらわれたんだ」
「でもいったい誰が…」
「そんなにたくさんのきのことしいの実をどうするんだろう…」
本当にわからないことばかりです。
「モナは見ている。それも我々が行くことができない時間の隙間に見ているんだ」
スナーコ博士がうなるように言いました。
「やはり、マーのレストランへ行ってみよう」
5人はモナといちじくをそこにおいて、そおっとレストランに急ぎました。

 レストランは変わったところはどこもなくそこにありました。家の外はこれと言って変わったところはありませんでした。
「大きな竜巻にまきこまれたように、家が壊れてるんじゃないかと思ったのに…」
「しいの実だってそうなんだ。大きな風が吹いて、しいの木が揺れたわけでも、竜巻でまきあげられたわけでもないよ。それだったら僕にだって絶対に気がつくはずだもの」
「きのこも上手にすぽっとなくなってる。そおっと手でつんだのでなければあんなふうにはとれないんだけれどね」ミウユウとダビッドソンとシューモが思い思いに言いました。

「マー?こんにちは。マー?」中はシーンと静まりかえっています。
 そして戸口にはマーがどこかへ出かけるときに必ずかけておく「マーはただいま世界の珍しい食べ物を探すために旅行中です。レストランはしばらくお休み」の木のカードは掛けられてはいませんでした。
「やっぱり旅行に出てるわけではないんだよね」トーシーの銀色のひげがひかりました。。
 シューモがそっとドアの取ってをまわすと、ドアはギィっと開きました。
「開いてる…」
そろって中へ入ってみると、中の様子もいつもと少しも変わったところはありませんでした。ただ少し変わったところがあるとすれば、それはマーがどこにもいないことと、読みかけのバイクの本がベッドに置いてあったことと、そしてベッドの脇の灯かりがともっていたことと、そしてキッチンにはおそらく明日の料理のための準備か、じゃがいもとたまねぎが入ったかごが台の上に置かれていたことでした。
 「ベッドからそのまま消えたんだ…」
 灯かりや読みかけの本を見ていると、どんなふうにマーがそこにいたのかが見えるようでした。
「大変だ…」トーシーが悲鳴ににた叫びを上げました。
「秋のシチューはいつも特別だった。なぜって、ミウユウのお誕生日のシチューだったり、みのりのお祝いだったりして、マーは特別力を入れていたんだ。だからできあがりの最後に、マーはいつもモナにちょっぴり魔法をかけてもらっていたんだ。食べると幸せになれるようにと"うれしい気持ちの魔法"をモナはいつもかけていた…モナの味見のときにそれはおこなわれたから、秋のシチューにかぎって、モナはマーのところに出かけていたんだ。モナがいなければ、秋のシチューだって完成しないんだ」
「ということは」全員がとても怖そうに、声をそろえました。
「モナもさらわれる…」
「僕たち、どうしてモナといちじくだけを残してきてしまったんだろう」
足の速いトーシーがまっさきに駆け出しました。
そして残りのみんなもおおあわてであとを追いました。

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