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 100円ショップに出かけて、四角い浅い入れ物をいくつも買ってきました。それに、紙おむつの素材で作ったペットシートを敷いて、お部屋ごとに置きました。


 いちじくにどうやってトイレの場所をわかってもらったらいいのでしょう。とにかく「犬のしつけ方」の本に書いてあるとおりにしてみるしかないなあと思いました。

 ゲージから出したいちじくに、
「おしっこするときはここよ。ここにするのよ。トイレはここ」
ペットシートの入れ物を指さして、何度も何度も言い聞かせました。
でもね、「おしっこ」とか「トイレ」とかそういう言葉だって、いちじくにとっては初めてのはず、わかってくれるのかなあと心配でした。

 案の定いちじくはトコトコ歩き回っていたかと思うと、じゅうたんの上にいきなりウンチをしました。


「ウンチ…だ!!」

たかがウンチをしただけで大騒動です。
「ウンチをしたらどうするんだっけ?」私はまた「しつけの本」を取り出して調べました。

「えーとね。……一番始めにウンチやおしっこをしたときに、犬の鼻をウンチにおしつけて、ここでしてはいけないときつく言い聞かせます。それからすぐにウンチをシートの上に持っていきます。そしてシーツの上にしなさいと言い聞かせます。そそうをしたジュウタンや床は犬に見せないようにしてさっさときれいにし、消臭剤などふりかけて、においを消しておくことが大切です」

 いちじくの首をつかまえて、まだ湯気のあがっているウンチに鼻をおしつけると、いちじくはびっくりしたことに、においをかいでそれをなめようとするのです。
「だめ、だめ」あわててウンチからいちじくを離すと、二番目に小さい家族が
「してはいけないことをしたときは『いけない!』って言いなさいって書いてあるよ。『ダメ』って言ったり、『いけない』って言ったりしたら迷うからって」

「ああ、そうなの。いちじく、いけないよ、いけない。ここでウンチしちゃ"いけない!!"」

 いちじくはきょとんとした顔をして私を見ていました。「なに言ってるの?」という顔をして私を見ていました。

 こんなふうじゃ、なかなかおしっこやウンチの場所なんて覚えられないよね、私は本気で心配でたまらなくなっていました。犬を飼いたいって簡単に考えていたけど、おしっこやウンチのこともちゃんとできないで、"いけない""いけない"ばかり言っていたら、いちじくはとってもつらいよね。

 でもそのとき、いちじくはとてもおりこうでした。
 またグルグル歩き回ったと思ったら、ウンチのついたペットシートのにおいをくんくんかいで、なんと、ちゃんとペットシートの上でおしっこをしたのです。

「なんておりこうさんなの。いちじくって本当におりこうさんね」初めてのおしっこをすぐにペットシートの上にちゃんとするなんて、本当にいちじくはおりこうさんです、何もわかってないのは私ばかり、心配して、おろおろしているのも私ばかり。

 何もできない飼い主のところにはおりこうさんのワンちゃんが来てくれるものなのかな?

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