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 学校に行くと犬好きの友達がたくさんいます。いつのまにか自然と話が犬自慢になってしまいます。
 和美ちゃんのおうちの犬はてっぺいちゃんと言います。本当は、和美ちゃんは大好きな「キムラのタクちゃん」から名前をとって「タクちゃん」とつけたかったらしいのです。家族から「それだけはやめてね」と言われてしかたがなく、「タクちゃん」が主人公で出ていたドラマのその役の名前をとって、「てっぺいちゃん」とつけたのでした。和美ちゃんは以前、シュンちゃんという名前の柴犬を飼っていました。それはそれは可愛がっていたシュンちゃんを交通事故でなくしてしまって、やっとその悲しみからたちなおって、そろそろまた犬を飼おうと思ったとき、「シュンちゃん」としていたみたいに、また楽しくお散歩しようと夢見て、同じ柴犬を飼いました。
「一歩私から下がって歩くようなお散歩姿の犬って素敵よね。あこがれよね。ほら、小さい犬飼ってる人で、犬を歩かさずに、抱っこし散歩している人がいるけど、あれって馬鹿みたいよね」
 てっぺいちゃんは飼いだしてから2ヶ月の間は、「犬に抗体がないから、外に出してはいけない」とお医者さんに言われていたので、和美ちゃんはお散歩デビューの日を首を長くして待っていたのです。
 ところがいざ、お散歩デビューの日がやってきて、お散歩に行こうとすると、てっぺいちゃんは足をふんばって、家の外へ出まいとするのだそうです。お庭には出ても、家の敷地からはけっして外へ出ようとはしないのだそうです。
「どうしたの?」なぜたり、すかしたり、ちょっと叱ったり、どんなことをしてもてっぺいちゃんは外に出て歩こうとはしないのです。
 和美ちゃんはしかたがなく、お散歩大好きな犬に、てっぺいちゃんをするために、てっぺいちゃんを抱いてお散歩をしました。
 今、てっぺいちゃんは10キロの大きな犬になりました。
「お散歩好きになった?」私が聞くと和美ちゃんは
「ううん。抱っこしてお散歩してる。てっぺいちゃん重くって」…
 和美ちゃんはとても優しいだんなさまと子供たちに囲まれて、和美ちゃん自身も優しいのだけど、でも和美ちゃんは家族からとっても大事にされていて、「私は家の法律」「私は家の女王様」とまで言っていたのです。でもどうやら、王座はてっぺいちゃんに取って代わられたと私はにらんでいます。
 今日もてっぺいちゃんはお散歩のときは抱いてもらい、眠るときは、足も手もぱあっと開げて、上向きになって、何の恐いものもないと言った風情で眠っています。
 もう一人の犬仲間は教頭先生です。教頭先生はビーグル犬を飼っています。名前はラブちゃん。子供さんが大きくなられて、独立をされたので、「僕たちの子供ですよ。僕たちの愛の結晶という意味でラブちゃんという名前にしたのですよ」といつものおだやかな笑顔をいっそうにこにこされて言うのです。
「旅行に行けなくなってしまってね。よそへ預けて二人で旅行して帰ってきて、どんなにうれしくて飛び出してくるだろうと思ったら、『なんで置いていった』と思っているのか、僕たちをしばらくは無視するんでね。どんなにさびしかったんだろうと思ったら、もう二人で旅行なんてできなくてね」
 私が「いちじくのことを可愛くてしかたがない、それは親ばかというか犬ばかでそう思うんじゃなくて、きっと誰が見ても可愛いだろう・・だってこんなに可愛いんだもの」なんて言うと、ニコニコ笑ってうなづきながら、「そりゃあそうでしょうとも、だけどうちのラブちゃんはもっと可愛いよ」ってまた笑いながら言うのです。
 なかなか犬自慢もとても楽しいです。

 

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