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 「いちじくって山元さんに似てるよね」
そう言われたのは一度や二度ではありません。いちじくを連れて友達のおうちに行くと、「ね、それにしてもあなたたち似てるよね」って友達が言うし、パソコンのホームページにいちじくの写真を載せると、新しい写真をアップするたび、同じ内容のメールをいくつもいただきます。
「もしかして親子ですか?兄弟?顔がにてますよね」(そんなわけないでしょ!)
「いちじくの顔、どこかで見たなあと思っていたら、山元さんの本の後に載ってる著者の写真と同じでした」
 え??どうして?
 だっていちじくは目が大きいし、私は大きいとは決して言えないし、第一いちじくは犬だから、鼻というか口というかそのあたりがぐっと出ているし、顔は茶色と白と黒だし、どこひとつとっても違うところだらけ、いったいどこが似ているの?

 「ね、私といちじく似てる?」そんなことを誰彼かまわず聞いていると、どうも犬は、そこのおうちの家族の誰かに似ているとみんなが言うのです。
 友達の和美ちゃんのところの柴犬のテッペイちゃんは和美ちゃんのうちの高校生のおにいちゃんに確かにとても似ています。いたずらっぽくおにいちゃんが笑うとなおそっくりだなあと思います。和美ちゃんによると、パグを飼ってる和美ちゃんのお友達のおうちでは、パグはパパさんに「もんでつけ」だそうです。「もんでつけ」というのは金沢弁で顔をもいで(取って)首につけかえたみたいにそっくりという意味です。
「ね、ね、パグでしょう?ブルドッグを小さくして、赤ちゃんにしたようなお顔している犬だよね、パパさんとパグがそんなにそっくりなの?」私が聞くと
「うん、おんなじ」和美ちゃんはきっぱりとそう言い切ります。
 一緒に暮らしているうちに似てくるのか、それとも似ている犬を選んだり選ばれたりしてしまうのか、その両方なのか、本当のところはどうなのでしょう。

 学校帰りにひとりでお買い物に出かけました。
 いったいあれはなあに?子馬ほどの背丈の白い動物と人がむこうの方からやってきました。どうやら犬のようです。車を脇にとめて、その犬を見つめました。顔が細長く、ぁらだが細く、背中の毛も馬のたてがみのようだし、ふくらはぎに生えている毛もやっぱり馬のようです。足の長いその白い犬の歩く姿はとても優雅です。ところで一緒に歩いている男の人は、馬というより、とても可愛いくまさんかたぬきさんに私は似ているなあと思いました。白い犬がゆっくり歩くそのあとをちょこちょこという感じで歩いておられました。
「似てないよね。飼い主とワンちゃん似てないときもあるよ」私は似ていない時もあるという証拠をにぎったぞと言った感じに、うなづきながら独り言をいいました。
 その男の人とまた会いました。今度はスーパーの中で会いました。カートを押して歩いておられたのです。どこかで会ったことがある人なんだけど誰だっただろう…知ってる人だったら挨拶しなくちゃ、でも違うかもしれない…どうしよう。私はなかなかその人が誰かを思い出せませんでした。
 そのとき、ハイヒールをはいた背のとても高い女の人が食パンを手のひらにそっと載せてその男の人に近づいてきました。そして男の人が押していたカートのかごに食パンを入れたのです。そのとき私ははっきりと男の人が誰だったかを思い出しました。なぜって、その女の人は子馬のようなあの白い犬にそっくりだったんですもの。

 ところで私はさっきから雑誌に載せていただく自分の写真を選んでいます。それで思ったんだけどどうして私の写真っていつも顔をかたげてうつってるんだろうね、ねえいちじく?振り返っていちじくを見たら、いちじくも顔を傾げて「何?」というふうに私を見上げました。
「ああ、本当。私たち似てるかも…」
 

 

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