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 さあ、いよいよアンの島、プリンスエドワード島に出発です。思えば小さい頃から何度となく読んで、いつか出かけることができたらなあと夢見ていた島に、今日降り立つことができるのです。朝から胸のたかなりをおさえることができず、なんだかもう感激して涙が出そうな気持ちでした。
 ハリファックスの空港からは、19人ほどしか乗れない、とても小さい飛行機に乗ることになっていました。空港でいつものように、小林さんにチケットの番号を伝えると、小林さんは飛行機の座席の調整をしてくださいました。それで、自分が持っているチケットで、ゲートを通って、そのチケットをしまおうとして驚きました。同じ便のチケットが私の手の中に2枚もあるのです。
 え、どうして!?驚きました。だって、そのうちの一枚は紛れもなくどなたかの一枚だからです。大変です。そのチケットを持っているはずの人が飛行機に乗れなくなってしまうもの・・・。今頃困って困って、飛行場の中をうろうろしておられるかもしれませんもの。
 「誰かチケットのない人おられますか?私2枚持っていたの・・・どうしよう」
 本当に私と来たら、いつもいつも、なんだか大変なことをしでかしちゃうのです。大騒ぎしたけれど、私たちの仲間たちの中にはチケットをなくされた方はおられませんでした。でも、それだったらもっと大変です。どうしてだかわからないけれど、私はチケットをふたつもっていて、ぜんぜん知らない人に今また、迷惑をかけているのです。
「座席番号は何番?そこの番号の人の近くの人に聞けばいいよ」小林さんが言ってくれたので、あわてて、その番号の場所のところへ行ってみたら、その場所には日本人の男の方が座っておられました。
「あの、私、今気がついたら、チケットを2枚持っていたのです。ごめんなさい。どうされましたか?」
「いえ、ないことに気がついて、驚いて、ちゃんとまた発行してもらいましたから・・・チケットをわたすときに、なぜかそんなふうになってしまったのでしょう。気にしないでください」私があんまりどきどきして、おろおろしてただ謝るばかりだったからか、その男の方はにっこり笑って、なぐさめるように言ってくれました。
 本当にどうしてだか、いろんなことがおこります。私が原因のことがほとんどだけど、そうじゃないことでも、何かいっぱいいろんなことが起きて迷惑をかけてしまうことになってしまうのです。
 結局、どうしてそんなことになったのかはわかりませんでした。チケットがないとわかったときは、どんなに心細い思いをされたことでしょう。私だったら、すごく悲しいだろうと思うけれど、とにかくその方も飛行機に乗れて本当によかったです。
 飛行機がプリンスエドワード島の上空に来ました。夢にまで見たプリンスエドワード島の景色です。そこに散らばる家々のなんて愛らしいことでしょう。緑や花畑は、絵の具をおいたようにあざやかで美しく、私は飛行機の窓におおいかぶさるようにのぞき込んで、心はもうプリンスエドワード島の空の空気の中にうかんでいるようでした。
 けれど、そんなにのんびりしていては本当はいけなかったのです。なぜってこの旅行は手作りの旅行で、今までのお世話はみんな小林さんがしてくださったのですが、プリンスエドワード島は、大谷さんと私のかかりになっていたからです。まずレンタカーを借りることになっていました。日本にいるときから、島のレンタカー会社に予約はしてあったのですが、でも、実際についてみないと、なんだかとても心配なのでした。それからそのレンタカーは自分たちで運転をすることになっていました。前にも書いたけれど、島のレンタカーの移動のために、小林さんと、奥さんのあいこさん、大谷さんと私の4人が国際免許をとったのです。その運転もとても不安でした。
 19人乗りの小さい飛行機が、とてもかわいい飛行場に着陸しました。空港には赤毛のアンのポスターがそこここに貼られていました。毎晩行われている赤毛のアンのミュージカルのポスター、それから島そのものの観光ポスターなど、それからおみやげやさんにもアンのお人形でいっぱいで、たくさんのアンが私たちを迎えてくれているようでした。
 ここへくる前に、本やインターネットでずいぶん島のことを調べました。インターネットの中で個人のホームページで、レンタカーを借りて島の観光をした日記を載せておられる方がおられて、そのページはとても参考になりました。
 そのページによると、「まず空港内で島のくわしい地図を無料でわけてもらえて、それがとても使いやすいので、それをゲットしよう」と書いてありました。いったいそれはどこでもらえるのかなときょろきょろしていたら、日本語でかいてあるわけじゃないけれど、たぶん看板に「観光案内所」とかかれているコーナーをみつけました。そこへ行くと、私が地図をほしがっていることをどうしてだかすぐにわかったみたいに「プリーズ」と地図を渡してくれました。それからレンタカーのことも教えてくださったようで、小林さんと大谷さんが車をとりにいかれました。さあ、いよいよプリンスエドワード島の二日間がはじまりました。

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