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旅の始まりは海外から届いた一通のメールでした。
「ボストンに住んでいます。三沢と言います。山元さんの講演録『みんな大好き』を読みました。いつかボストンの日本語学校でも講演会をしていただけたらと思います。それから日本での講演会のビデオの上映会をしたいと思っています。それで山元さんから、上映会へのメッセージをお願いしたいです」
 正確には覚えていませんが、そんな内容のメールだったと思います。私はとてもびっくりしました。私の講演録を外国にいる方が読んでくださったのだということが、やっぱりとても不思議だったのだと思います。ただ、私は地理が本当に驚異的にわからないものだから、ボストンっていったいどこなのかなあって思いました。そしてそのときどうしてだか、児童文学の「パディントンベア」がハロッズというデパートの前でボストンバッグを持っている姿を思いました。パディントンベアはイギリスの物語だと思うのです。そうだ、ボストンってイギリスだ、きっと。私の中でそういうことに落ち着きました。場所が自分の中で落ち着いたら、ほっとしてうれしくなって上映会のメッセージのメールをさっそく書いて送らせていただきました。ところが、私は自分でボストンがイギリスだと思ったとたん、ロンドンからメールをいただいたのだとまた自分勝手に思い込んでしまったようなのです。「ロンドンの方に講演録を読んでいただけるなんて感激ですとか、ロンドンでビデオを上映していただけるなんて夢のようです」なんて書いたメッセージのメールを送らせていただいたらすぐに三沢さんからお返事がきました。
「メッセージありがとうございます。うれしいです。山元さんはたぶん、最初の文章をボストンのみなさんへと書かれたかったと思うのですが、文中になんどかロンドンのみなさんへと書かれていましたので、そこだけ訂正させていただきました」と書かれていました。
ああ、恥ずかしいです。なんて申し訳のないことでしょう。私にとってはロンドンでもボストンでも感激でうれしいのには少しも変わりはないのです。それなのに、それからも何度もメールでボストンをロンドンと間違えてしまうのです。ボストンをイギリスだと思い込んでいるためとたぶん「ン」という字がどっちも使われてるからかなあ・・それとも一度自分の中で納得したことをかえることがむつかしいのかあな・・そうなのです。私っていつもそんな失敗ばかりしてしまうのです。人の名前、土地の名前、いっさい、覚えられないの。何度このことで失敗をしていることでしょう。
 小林さんという方がおられます。私の講演会のお世話をボランティアでしてくださったり、講演録を出してくださってる方です。「ロンドンからメールをいただいたの」とお話すると、「ボストンじゃない?僕の方にもメールがきたんだよ」
「そう、そのボストン。イギリスでも講演録を読んでいただけたなんて、すごくうれしかったです」
「いや、アメリカだよ、ボストンって」
本当に最初っから間違えていたとやっと気がついたのでした。
 前の年に、アフリカに行きました。小林さんが「山もっちゃんといくアフリカ旅行」なんていうツアーをくんでくださって、そして驚いたことに私を含めて15人の方が行きたいと言ってくださって、エジプトとケニアにでかけてきたのです。
 「ボストンの三沢さんは本気で山もっちゃんを呼びたいって思ってるらしいよ。バザーをしてでも講演会の準備をしたいって言ってるんだよ」
 バザーをしていただかなくても、今年も、去年アフリカに行ったみたいにみんなでアメリカに行けないかしら?私と小林さんで冗談のようにお話していたら、その次に小林さんに会ったときはもうそのお話が具体化されていました。
「ボストンと赤毛のアンのプリンスエドワード島はすぐ近くだよ。ボストンだけじゃツアーは組めないけど、プリンスエドワード島やナイアガラかニューヨークと組めば、いいツアーが組めると思うよ」
 赤毛のアンと聞いて、私の心臓は急にドキドキしだしました。私は小さいころから赤毛のアンがずっと大好きでした。あんまり赤毛のアンに夢中で、ずっとそのシリーズを読んでいたり、赤毛のアンの島「プリンスエドワード島」の話や赤毛のアンの話ばかりをするから、父から「赤毛のあんこちゃん」と呼ばれてしまうくらいでした。そしていつかきっとプリンスエドワード島に行きたいと思っていました。ボストンがどこにあるかは知らないけれど、赤毛のアンのプリンスエドワード島はカナダにあるとちゃんと知っていたくらいにその島に行きたかったのです。でも、それはあまりにも遠いところで、かなわない夢だろうなとも思っていました。
 「小林さん、私行きたいです」私は声がうわずっているのを自分でも感じながら、言いました
 そしてついにボストンとプリンスエドワード島にでかけられることになりました。

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