プレイバック版『戦士の友情 さよなら亜美ちゃん
             (後編)−ほっとけないよ−』



『亜美ちゃんお元気ですか? 最初はちょっと寂しかったけど、うさぎはとーっ
ても元気です。レイちゃんもまこちゃんも美奈子ちゃんもルナもアルテミスも元
気だから心配しないでね。
 亜美ちゃんがドイツに行って、もう1カ月になるんだよね。(あ、春だが来た。
へへへ、いま授業中に書いてまーす)ドイツって言えばソーセージがおいしいそ
うだけど、もう食べてみた? 私も本場のソーセージを1度は食べてみたいなぁ。
 そうそう、この前レイちゃんがね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それじゃあまた今度お手紙するね。

  P.S1 外国に手紙出すなんて初めて。ちゃんと届いた?
  P.S2 今度ソーセージ送ってください(冗談だからね)
                             o o
                            /(^-^)\ うさぎ』

『うさぎちゃんお元気ですか? ドイツはとても過ごしやすい所なので、私はと
ても元気に毎日を送っています。
 この地方の気候は日本と違って夏はそんなに暑くないんですよ。と言うか、ヨ
ーロッパの高緯度地域の気候は西岸海洋性なの。これは暖かい北大西洋海流と偏
西風が原因なんだけど、年間の温度変化があまり激しくないのが特長なの。
 でも今年の夏は、南米沖のエルニーニョ現象が影響しているみたいで、いつも
の年より涼しいっていう話です。日本で言えば北海道の夏みたいな感じかしら?
 ドイツに来てから私は、こちらに招いてくれた方の家に住んでいます。この家
には私以外にもいろいろな国からの留学生が住んでいて、日本人は私1人なんだ
けど、日系の人もいたりしていろいろな面でとても助かっています。
 私の行っているキャンパスは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今度の日曜日に
1度日本に帰る予定です。ではお元気で。みなさんにも宜しくお伝え下さい。

                              水野 亜美』


「まこちゃんまこちゃんまこちゃーーーーんっ!」
 昼休み。いつもの場所で弁当をひろげていたまことの所に、息せききってうさ
ぎが駆けてきた。
「1度呼べばわかるよ」
 まことは苦笑しながら言った。
 期末試験も数日前に終わり、あとは夏休みまでの日数を指折り数えるだけとあ
って、うさぎの表情も試験前と較べると目に見えて明るい。
 もっとも成績いかんによっては、うさぎもまことも補習授業をうけねばならな
いかもしれないが、亜美がドイツに行ってからというもの、まことの目から見て
もうさぎはいろいろと努力しているようだった。
「そんなに慌ててどうしたんだい? またお昼持ってくるの忘れたとか」
 まことは自分のお弁当の蓋を開けた。その中には彼女特製の料理の数々が、色
とりどりに詰め込まれている。
「そうじゃなくってぇ・・・・あぁ、それおいしそー。1個食べていい?」
 まことの隣にちょこんと座ったうさぎは、だし巻きの1つを摘むと、まことが
苦笑しながら頷くのを見てから口の中に放りこんだ。
「おいしーーーーっ!」
「うさぎちゃん、なにか言いたい事があったんじゃないの?」
 食べることに意識をとられてしまったうさぎにまことが訊いた。タコさんウイ
ンナーに手を出しかけていたうさぎは、その言葉にはっと顔をあげた。
「そうだっ。あははっ、わたしぃ、おいしいもの食べるとつい他の事忘れちゃっ
てぇ。あのね、亜美ちゃんが帰ってくるの。ほら、これ見て!」
 うさぎは持っていた亜美からのエアメールを封筒から引っ張りだすと、まこと
の前にひろげて見せた。
「その事なら知ってるよ、ほら」
 まことは傍らにあった封筒をうさぎに見せた。うさぎのもとに届いたのと同じ
封筒で、中の分厚さも同じくらい、便箋にして20枚くらいか。
「ええっ、なんだぁつまんなーい。せっかく驚かそうと思ってたのにぃ」
 うさぎは残念そうに言うと、まことの側に座りなおした。
「多分レイちゃんや美奈子ちゃんの所にも届いていると思うよ。今度の日曜って
いうと夏休みに入ってるし、みんなで迎えに行こうか?」
「うん!」
 うさぎは力いっぱいうなずいた。
「それでさ、亜美ちゃんがドイツに行くときは何にもしてあげられなかったでし
ょう。だからー、今度はパーッと何かやらない?」
「いいね、それ。じゃあ今日は学校が終わったら、レイちゃんのところでその事
を相談しようか?」
「さんせーい・・・・・・・・ね、まこちゃん」
 手をあげて喜びを表現したうさぎは、その手を降ろすと不意に真顔になってま
ことの顔を見た。
「な、何?」
 思わずまことも真面目な顔で訊き返す。
「亜美ちゃんの手紙・・・・ちゃんと読めた?」
「・・・・・・・・半分くらい難しくって、よく分かんなかった(^^;)」
「エヘヘ、私も」
「(^^;;;;;;;;)」
「(^^;;;;;;;;)」


 TOKYO国際空港。夏休みに入ったとあって、ここの空港も毎年の夏と同じ
ように国外脱出をはかる人々であふれかえっている。
 その人々の中にあって、ゲートから出てくるであろう亜美を今や遅しと待ち受
けている一団がいた。
 言うまでもなく、うさぎ、レイ、まこと、美奈子のセーラーチームに加え、ル
ナ、アルテミス。そしてちびうさと浦和良の姿もある。
「浦和君ごめんね、また呼び出しちゃったりして。でも亜美ちゃんをびっくりさ
せてあげたかったんだ」
 まことが浦和に謝った。それに対して浦和はとんでもないとばかりに手を振っ
た。
「いえ、わざわざ知らせてもらってそんな」
「あれ?浦和君、亜美ちゃんから手紙こなかったの?」
「(^^;;;;;;;;)」
「う、うさぎちゃん!」
 横からひょっこり顔をだしたうさぎが無神経に訊く。苦笑いのまま動きが凍り
ついてしまう浦和。まことは慌てて2人の間に割って入った。
「なに? まこちゃん」
「ううん、なんでもない(--;)」
 まことは内心ため息をついた。うさぎに悪気がないのは分かっているからいい
として、亜美はいったい浦和の事をどう思っているのだろう。
 亜美も浦和も互いに嫌っている訳では勿論ない。好きには違いないのだろうが
それが恋かというと、どうもはっきりしないのだ。浦和の方もそうだが、亜美は
まだ彼をいい友達以上の存在には思っていないらしい。そのあたりがまことには
どうにも煮えきらないものがある。
「亜美ちゃん!」
 ゲートから出てきた亜美の姿をみつけたうさぎは、大きな声で叫ぶと両手を振
った。他の5人も口々に叫びながら手を振る。
「うさぎちゃん!」
 うさぎ達に気付いた亜美が、同じように手を振って応えた。彼女にしては珍し
く、人混みをかき分けるようにしてうさぎ達の所までやってくる。
「みんな・・・・」
「亜美ちゃん・・・・」
 見つめ合う亜美とうさぎ、レイ、まこと、美奈子。うさぎの目は亜美を見たと
きからずっと涙目になっている。
(こりゃ、ダメだな・・・・)
 亜美と会っても泣かないようにしようと思っていたうさぎだったが、こうやっ
て亜美を目の前にした時、その決意が音をたてて、しかし快く崩れていくのを感
じていた。自然と足が前にでてしまう。
「あみちゃん!」
 そのうさぎの横をすりぬけて、真っ先に亜美に飛びついた影があった。
「ちびうさちゃん!」
 亜美は腰をかがめて飛びついてきたちびうさを抱きとめた。
 それをきっかけにうさぎ達が、わっとばかりに亜美を取り囲む。
「おかえりなさい、亜美ちゃん」
「むこうはどうだった?」
「ただいまみんな。あ、そうだ。うさぎちゃん」
 亜美は持っていたバックの中をごそごそと探ると、ひと塊はある紙包みをうさ
ぎに手渡した。
「本場ドイツのソーセージよ。うさぎちゃん、食べてみたいって言ってたでしょ
う。だから向こうで一番有名な所で買ってきたの]
「うさぎ、あんたそんな事言ったの?」
 レイが小馬鹿にしたような目付きでうさぎを見た。
「いや、アハハ。ほんの冗談のつもりだったんだけどなー(^^;;;;;;;;)」
 そう言いながらもしっかり紙包みを受け取るうさぎ。
「うふっ、みんなの分もあるわよ。はい、レイちゃん」
「あ、ありがとう」
 なんだか催促したみたいだったと気付いたレイが顔を赤らめる。それでもしっ
かりと受け取ったのは、今さらいらないというのも亜美に悪いと思ってだ。
 レイにとってはそのおみやげが、うさぎと同じソーセージでなかったのが幸い
だった。亜美の事だ、ちゃんとそれぞれに違うものを用意したのだろう。
「はい、これはまこちゃんに・・・・まこちゃん?」
「そっくりだ・・・・」
 まことの目は亜美を見ていなかった。その視線は亜美を通り越し、彼女の後ろ
に立っている男に注がれていた。
「眉毛の感じがふられた先輩にそっくり・・・・」
「ねぇ亜美ちゃん、その人・・・・亜美ちゃんのお知り合い?」
 まことの様子に気付いた美奈子が、これまた興味深そうな視線をその男性に向
けながら言った。男は亜美の後を追いかけるようにして人混みを抜けてきたのだ。
そして、亜美の後ろに立つと、黙ったまま彼女達の様子を見ていたのだった。
「あ、そうだった。彼の事みんなに紹介しなくちゃね」
(彼!)
 その言葉の響きに、浦和は一瞬びくっとした。無論、亜美はつきあっている彼
氏という意味で言ったのではない。
「彼はジェフ・市原さん。ドイツ語の事とか、生活の事とか、むこうでいろいろ
とお世話になっている人なの。お父さまが日本の方なんだけど、日本に来るのは
今回が初めてなのよ」
「ジェフ・U・市原です。はじめまして」
 どことなく照れくさそうに眼鏡を押し上げたジェフは、うさぎ達の前に進み出
ると軽く礼をした。
 ちょっと見ると人のよさそうな田舎の大学生といった感じだが、190以上は
ありそうな身長と短く刈った髪がハーフらしい彫りの深さと合いまって、何かの
スポーツ選手のようにも見える。
 簡単に言ってしまえば、アクション映画俳優に眼鏡をかけさせそれをもっと俗
っぽくした感じ。ありていに言ってイイ男という部類だろう。年齢は30前とい
ったところか。
「ジェフ、こちらがいつも話しているうさぎちゃん、レイちゃん、まこちゃん、
美奈子ちゃん。それとちびうさちゃんと浦和君」
「亜美のステディかい?」
 浦和を紹介したところでジェフは、いたずらっこのような微笑を浮かべて亜美
の顔を見た。こういう表情をしたときのジェフはさらに2、3歳は若く見える。
「え、えーと・・・・」
「日本語おじょうずですのね」
 赤面してうつむく亜美を横目に美奈子がジェフに握手を求めた。このあたりの
気楽さは、さすがに外国で生活した事のある彼女ならではだ。
「ええ、家の中ではずっと日本語でしたからね」
「日本にはご旅行でですか?」
 美奈子の前に割り込んだレイが、両手でジェフの手をとった。
「え、ええ。そんなところですよ」
 ジェフはちょっと口ごもり、ちらっと亜美の方を見た。亜美はジェフと目が合
うとかすかにだけ頷いた。
「日本にいる間はどちらに?」
 そんな2人の様子に気付いていた浦和だったが、だからといってどうする事も
できずにジェフと握手する。
「うん、亜美の家に泊めてもらう事になっているよ」
「!」
 握手する手に一瞬力がこもる。
「そうだっ!」
 うさぎが突然叫んだ。浦和が慌てて握手していた手を引っ込めた。
「亜美ちゃんの帰国歓迎パーティに、ジェフさんも来ませんか!」
「ええっ!? 私の歓迎パーティ」
「うん、そうだよ」
 うさぎはこっくりと頷いた。
「ほら、亜美ちゃんがドイツに行ったとき何もしてあげられなかったでしょう。
だからー、今度は絶対何かやろうって、みんなで決めてたんだー。ちゃあんと場
所も用意してあるんだよ。ふふっ、明日になったらみんなで行こうねー」
「でも・・・・」
「亜美ちゃん、しばらくは日本にいるんでしょう?」
 顔をのぞき込むようにして訊かれ、亜美はおずおずとうなずいた。
「え、ええ。そうだけど・・・・」
「亜美ちゃんそうしなよ」
 まことは積極的に薦めた。彼女にしてみれば眉毛の感じが先輩にそっくりなジ
ェフと一緒にいられる事はうれしいに違いない。握りしめた両手の力の入り方を
見ていてもそれが分かろうというものだ。
「・・・・うん」
 小首をかしげ口元に手をあて、どうしようか? という風にジェフを見た亜美
に、ジェフが目だけで合図する。それを見た亜美の顔が、ぱっと明るくなった。
「それじゃあ、せっかくだからお言葉に甘えさせてもらうわ」
 目と目で会話する亜美とジェフ。2人の仕草の1つ1つが浦和には気になって
仕方ない。彼の目から見ても、亜美とジェフはなかなかお似合いに見える。
(やっぱり・・・・あまり会えなかったせいなんだろうか?)
「決まりだね!やったぁ!」
 浦和の苦悩をよそに、まことは思わず手を叩いて飛び上がった。
「まこちゃん・・・・」
「え? あはははははは(^^;;;;;;;;)」
「いいんですか? 私なんかが行っても」
 一応、という感じでジェフが一同の顔を見回した。
「ええ!」
 レイが気色満面で返事をした。彼女にしたところでイイ男には目がない。
 一方浦和にはこの件に関して発言する権利はない。いや、下手をすればジェフ
だけが誘われて、彼はお呼びでない可能性もあるのだ。
「勿論よ。ない袖振るも多少の縁って言うじゃない」
 美奈子は自慢げに指を1本立てると、ジェフにぱちっとウインクをして諺の知
識を披露した。美奈子ちゃんすっごーい、と言わんばかりのうさぎの視線が熱い。
「袖すりあうも他生の縁、じゃないかしら?」
 さりげなく亜美が訂正した。
「・・・・(^^;)」
「・・・・(^^;)」
 ややあって、指を立てたままのポーズで動きが固まっていた美奈子が、ぎこち
ない微笑を亜美に向けた。
「亜美ちゃん(^^;) 変わってないわね」


 翌日。うさぎ達おなじみセーラーチームの一行と、ちびうさ、浦和、ジェフを
乗せた電車は、TOKYOから小1時間ばかり走った後にとある海ぞいの小さな
駅で停車した。
 これといって有名な観光地が近くにないせいもあってか、既に夏休みに入って
いるにも関わらずその駅で下車したのは、うさぎ達といかにも土地の人と思える
2、3人の老人だけだった。
「本当にここでいいのかい?」
 大型のボストンバッグを肩にかついだまことは、降り立った駅の小ささに思わ
ず後ろを歩いていたレイに訊いた。
「大丈夫よ。私たち前にも1度来た事があるんだから」
 照りつける夏の日差しに、暑そうに麦わら帽子を被りなおしたレイの横で、亜
美はなつかしそうに辺りを見回していた。
「わざわざ場所を予約したって言ってたのは、ここの事だったのね。ありがとう、
うさぎちゃん」
「やだなぁ、そーんな改まって言われると照れちゃうじゃない」
 ガイドマップをうちわ代わりにパタパタしながら、うさぎは隣でバスケットか
らルナとアルテミスを出してやっている美奈子を見た。
「美奈子ちゃんは、ここ来るの初めてだったよね」
「ええ、でも本当にこんな所にあるの? プライベートビーチ付きのリゾートペ
ンションなんて。それもこの時期に格安だなんて・・・・」
「だ・か・ら、穴場だって言うのよ」
 レイが振り返って自慢気に笑う。もともとこの場所を広告で発見したのは彼女
だったのだ。それを覚えていた亜美はクスっと笑った。
「前はね、うさぎちゃんとレイちゃんとでここに強化合宿しに来たのよ」
「へへー、本当は遊びに来たんだけどー、いろいろあって・・・・」
「亜美お姉ちゃん!」
 うさぎが以前ここに来た時の話しをしようとした時、駅の外から元気な女の子
の声が響いた。全員がいっせいに声のした方を見る。
「サキコちゃん!」
 亜美の懐に飛び込んだサキコは、両手で亜美の服をつかんだまま顔をあげると
うれしそうに微笑んだ。


「いやぁ、こんなバカンスを過ごせるとは思ってもみなかったネ」
「そうですか」
 先頭に立って歩くレイとうさぎ。その後からつまらなそうについていくちびう
さ。喋りながら歩いている亜美とサキコと、その様子を微笑ましげに眺めている
まこと。そしてルナとアルテミスを連れた美奈子。
 それら女性陣の後を浦和とジェフはぶらぶらと歩きながらついていった。
 2人とも亜美以外の女性とはあまり喋らないために、自然とこういう組み合わ
せになってしまったのだ。
「でも本当に僕まで呼んでもらってよかったんですか?」
「気にしない気にしない。枯れ木も山のにぎわいって言うじゃない。大勢いた方
がきっと楽しいわよ」
 あくまで控えめな浦和に、前を歩いていた美奈子が笑いかける。
(ひ・・・・皮肉なんだろうか?)
 浦和はあいまいな微笑を浮かべた。
 隣ではジェフが苦笑している。してみれば、彼も諺の意味は知っているようだ。
 それを見て浦和はちょっとムッとした。
「ジェフさんは日本へは何をしに来られたんです? 観光だけという訳ではない
んでしょう?」
 昨日の空港で会ったときから気になっていた疑問を口にする。
「うん・・・・ちょっと日本で調べたい事もあったし、亜美の母親とも話してお
きたい事とかもあったし」
 案の上ジェフは歯切れがいいとは言えない調子で答えた。もっとも浦和にはジ
ェフの口調より、その内容に気を取られていた。
(亜美さんの母親に話し?・・・・それって、それってもしかして)
 そして、ジェフのその声は、当然前を歩く美奈子の耳にも入っていた。


「またお世話になります。でも・・・・本当によろしかったのですか? 急に人
数をふやしちゃったりして・・・・」
 レイがペンションの主であるサキコの父にペコリと頭を下げた。以前からは考
えられない事だが、サキコと一緒に彼もまたうさぎ達を出迎えに駅まで来ていた
のだ。
「そうよねー、ジェフさんや浦和君はいいとしてー、なんでちびうさまでついて
くるのよ」
 先を行くレイとうさぎの後をついて歩いていたちびうさは、うさぎの視線を感
じると、ふんっとばかりにそっぽを向いた。
 セーラー戦士達が全員そろって出かける。当然誰かが銀水晶を持っているはず
で、しかも同じペンションに泊まるのだ。ちびうさにしてみれば、こんな千載一
遇のチャンスを逃す訳にはいかない。
「ほんっっとに、かわいくないんだから。ママもどーしてちびうさにはあんなに
甘いのかしら?」
 ちびうさからレイに視線を戻してうさぎはぶーたれた。昨日の夜、いきなり育
子ママから『ちびうさちゃんも連れてってあげなさい』と言われたのだ。多分ち
びうさが泣きついたのだろう。
「いやいや、いいではないですか。礼を言いたいのはこちらの方ですよ。あなた
達のおかけでサキコはあんなに明るい娘になったのですから。今では友達も大勢
いるんですよ」
 サキコの父は目を細めて娘を見た。屈託のない笑顔で亜美と喋っているサキコ
の顔に以前のようなかげりは微塵も感じられない。
「それに・・・・今年は客足がすっかり遠のいてしまったもので」
 サキコの父はふっと表情を曇らすと、小さくため息をついた。
「何かあったんですか?」
「実は・・・・でるんですよ」
「出るって・・・・何が?」
「何が? って、夏に出ると言えば決まっているじゃないですか」
 サキコの父はそういうと両手を胸の前でだらんと下げ、うらめしやぁと言って
うさぎを上目使いで見た。
「やだやだやだやだ、レイちゃんこわいーーー」
 うさぎは荷物を放り出して叫ぶとレイの背中の後ろに隠れた。
 レイは、しょーがないわねぇといった表情でうさぎに一瞥くれると、険しい顔
つきでサキコの父親に向きなおった。
「あなた、またサキコちゃん使ってなにか・・・・」
「とんでもない!」
 サキコの父親はレイの言葉を遮るように激しく手を振った。
「あれ以来サキコの力を利用しようと思った事はありません。誓ってありません。
私は今の、あの明るいサキコが大好きなんです」
「そう・・・・」
 サキコの父の真剣なその様子に、レイは自分の考えを改めた。
(これは調べてみる必要がありそうね)
 しかしこの後の起こった出来事に、レイはその事をすっかり忘れてしまうのだ
った。


「えーっ!亜美ちゃんが結婚!!」
「しーっっっ、うさぎちゃん声が大きいっ!」
 うさぎの反応に、美奈子は思わず口の前に指を立てた。それよりも早く、レイ
がうさぎの口をふさいでいる。
「でもそれって本当の事なのかい?」
 まことが信じられないといった様子で美奈子に聞き返した。
「うん、私もちゃんと確認した訳じゃあないんだけど・・・・」
 浦和とジェフの会話を聞くともなしに聞いていた美奈子は、浦和と同様にジェ
フの来日の真の目的を察した。曰く、ジェフがわざわざ来日してまで亜美の母親
に話さなければならない事とは、ジェフと亜美との結婚の相談に違いない。
 そう判断した美奈子は、ペンションの部屋割りが決まると同時にうさぎ達を呼
び集めたのだ。無論その中に当事者である亜美やジェフ、そして浦和とちびうさ
は含まれていない。
「でも、ジェフさんはともかく亜美ちゃんはまだ14歳だよ」
「そうなのよね、だから今回は婚約の約束を取り付けに来たんじゃないかしら?」
「信じられないな、亜美ちゃんが結婚だなんて」
 ジェフと仲良くなるためにも、亜美と浦和をこの機会にうまくまとめようと考
えていたまことは、予想外の事にとまどいを隠しきれないようだ。
「そうよね、いくら何でも急すぎやしない?」
 レイも同じようにうなずく。
「それもそうね」
 改めて言われてみて美奈子もちょっと首をかしげた。亜美の性格から考えて、
自分からジェフに言い寄ったとはとても思えない。とすればジェフの方からアタ
ックしたという事になるが、果たして本当のところはどうなのだろうか?
「亜美ちゃんに聞いてみればいいじゃない」
 神妙な顔で考えている3人をよそに、うさぎは椅子がわりに座っていたベッド
から立ち上がるとドアのノブに手をかけた。亜美の部屋は壁1枚へだてただけの
すぐ隣だ。
「だからうさぎは単純だっていうのよ」
 レイが不満げな顔のうさぎを、ひきずるようにして連れ戻す。
「ちょっと静かに・・・・誰か来るわ」
 美奈子が左手をあげてレイとうさぎを制した。その目はドアに向けられている。
うさぎ達のいる部屋に近づいてきた足音は、そのまま部屋の前を通り過ぎると隣
の部屋の前でピタリと停まった。そしてドアをノックする音。
 はい、と返事をする亜美の声がかすかに聞こえた。
「誰かしら?」
 美奈子は亜美の部屋側の壁に耳をつける。それにつられるようにして、他の3
人も息を殺して壁に耳をくっつけた。


「あら・・・・良くん、どうしたの?」
 ノックの音に、読んでいた英文のテキストを閉じて応対にでた亜美は、何か言
いたそうな顔をしている浦和にいつもと変わらぬ笑顔を見せた。
「亜美さん、少しいいですか?」
「え、ええ」
「実はどうしても訊いておきたい事があるんです」
 ドアを開けたまま部屋に入った浦和は、そのまま椅子にも掛けずに亜美の顔を
正面からみつめた。
「ジェフの事?」
「え、あ、うん」
 彼なりにかなり意気込んで来たせいか、あっさり聞き返されて思わず口ごもっ
てしまう浦和。
 いずれその質問は受けると感じていたのか、浦和にそう聞き返したまま亜美は
海に面した窓の側まで歩いていくと、しばらくそのまま黙って外を眺めていた。
 蝉の声に混じって波の砕ける音がここまで聞こえてくる。
「わたし、いつも誰かに頼ってるな・・・・」
「え?」
 窓の外を向いたまま呟いた言葉は、蝉の声に消されて聞き取れなかった。
 振り返った亜美は、少し寂しそうな微笑を浦和にむけた。
「ごめんなさい・・・・まだちゃんとした事は言えないの。いい加減なこと言っ
て、みんなに迷惑かけたくないから・・・・」
「それは・・・・」
「亜美お姉ちゃん、いっしょに遊ぼぅ」
 どういう意味なんですか? と、浦和が問いかけるよりも早く、開け放しのド
アからサキコが駆け込んできた。早くも水着に着替えて右腕にはビーチボール、
左肩には浮き輪をひっかけている。
「うん!」
 亜美はサキコに向かってにっこり微笑むと、机の側に置いてあった水着の入っ
ているバッグを取った。その際ほんのわずかな時間だけ、さっきまで見ていた英
文のテキストに目がいった。
「行こ、サキコちゃん」
「うん!」
 サキコはうれしそうに頷くと亜美の手をつかんだ。
「わたしってダメね。意志が弱くって・・・・それとも、若さゆえの過ちって、
こういう事を言うのかしら?」
 サキコに引っ張られるような感じでドアの所まで来た亜美は、うれしいような、
それでいて困ったような笑顔を浦和に向けた。
「え!?」
 聞き返すいとまもなく、亜美とサキコは足音も軽く部屋を出ていった。
 ひとり部屋に残された浦和の背に、思いだしたかのように鳴きだした蝉の声が
降り注ぐ。
「・・・・・・・・」
 しばしの間その場に立ち尽くしていた浦和は、スローモーションのような動作
で振り返ると、机の上に置かれた亜美の英文のテキストを手に取った。
 そっと開いてみる。
 亜美の手でびっしり書き込みが加えられている中に混じって、別人らしい筆跡
の書き込みが見えた。
(いろいろとお世話になっているの)
 ごく普通に聞き流していた台詞が、こんな時になって鮮明に思い出された。


「聞いた?」
 レイはそう言うと後ろを振り返った。
「うん・・・・」
 まことと美奈子は言葉少なにうなずいた。
「・・・・若さゆえの過ち?」
 美奈子が亜美の台詞をそっと声に出して言ってみる。
「かなり意味シンな台詞だね」
 まことは親指の爪を噛むような仕草をしながら呟く。
「まさか・・・・亜美ちゃんが・・・・そんな、ねぇ」
「なになに? どーいうことなの?」
 うさぎは訳が分からないという表情で3人の顔を見回した。
「うさぎ」
「え?」
「亜美ちゃんが自分から話すまで、今の事を彼女に訊いちゃ駄目だからね」
 レイの真剣な眼差しと声の様子に、うさぎは無言でうなずいた。事態を完全に
理解した訳ではないが、亜美が何か隠しているらしい事は分かった。
「まだちゃんとした事は言えないって、言ってたもんな・・・・」
 まことは壁越しに聞いたさっきの言葉を思い浮かべた。
「それって、やっぱり亜美ちゃんのお母さま次第って事かしら?」
「それだけかな? だってさ・・・・お互いに好きならあんな・・・・過ちなん
て言い方はしないんじゃないかな」
「そうよね・・・・」
 4人は重い表情でうなずきあった。
 

「かんぱーい!」
「かんぱーーーーーーいっ」
 その日の夜、ペンションの庭で行われたガーデンパーティは、表面上なごやか
なムードで進んでいった。
 幽霊騒ぎで客が減ったせいか、それとも以前の事があったせいか、テーブルの
上に並べられた料理は中学生の予算でとは思えないくらいの豪勢さだった。
 もっとも前回にしたところで泊まりがけだったから、いかにこのペンションの
宿泊料が格安か知れよう。
「あーーー、えびえびえびー、うーーん、かにかにかにぃ」
 テーブルの周りをところ狭しと飛び回っているうさぎを横目に、レイは半ば呆
れながらため息をついた。
「こんな時によく食べてられるわねぇ」
「うん、でも私達が暗くなってても仕方ないじゃない」
 美奈子はそう言うと、オードブルの皿に手を伸ばした。
「浦和君どうしたの? あまり食べてないみたいだけど」
「木野さん・・・・」
 食べ物にはあまり手をつけずにジュースを飲んでいた浦和は、まことの姿を見
ると、さりげなく亜美の方に視線を向けた。亜美は今うさぎと、そしてジェフは
今は1人でグラスを傾けながら、亜美の方に視線を送っている。
「おせっかいな事かもしんないけどさ、あんまり亜美ちゃんとも会えないんだし、
もっと話しといた方がいいんじゃない?」
 眉毛の感じがふられた先輩にそっくり、なジェフの事は気になるが、それより
亜美と浦和をこのままにはしておけないとまことは思っていた。かと言って、昼
間の盗み聞きの事を持ち出す訳にもいかず、どうしても励まし以上の事は言えな
かった。
「ええ、それは分かっているんですが・・・・」
 まさかあの時、隣の部屋で全てを聞かれていたとは夢にも思っていない浦和は、
自虐的ともとれる微笑をまことにみせた。
「浦和君!」
「まーーーこちゃーーーん」
 煮えきらない浦和に思わず文句をいいそうになったまことを、背後から脳天気
な声がさえぎった。
「なに、うさぎちゃん・・・・!」
 できるだけ気持ちを押さえて振り向いたまことの目の前に、にゅっと大きな皿
が突き出された。不意をつかれてギョっとなるまこと。皿には今日の料理のメイ
ンとも言える伊勢海老が、でん、と居座って彼女を睨んでいた。
「これすぅっっっっっっっっっっっっっっっっっっごく、おいしいよ。まこちゃ
んもう食べた?」
「ううん(--;)」
 目を戻したときにはもう浦和は側にはいなかった。内心ため息をつき、まこと
は右手でむんずっと海老の頭を掴むと、左手で胴を持って首根っこから豪快に2
つに折った。
「あははははは、まこちゃん凄い(^^;)」
 なにか殺気じみたものを感じて、うさぎの声はわずかにだがうわずっていた。
 一方こちらは再びレイと美奈子。適当に食べ物をつまんだり、亜美とあたりさ
わりのない会話をしていた2人は、さりげない風を装ってジェフに近づいていた。
「どうです? 日本の印象は?」
「うん、なかなかいい所だネ。景色もきれいだし、料理も申し分ないし、なんと
言っても美人が多い、うん」
 少し酔っているのだろう、シャンパンのグラスを持ったジェフはそう言うと、
美奈子にぱちっとウインクして残っていた酒を喉に流し込んだ。
「・・・・」
「・・・・」
 美奈子とレイは目と目でうなずきあった。初めてのドイツでホームシックにな
った亜美に、優しい言葉などかけてジェフが言い寄ったのではないか? と推測
していた2人にとって、今の台詞は要チェックだ。
「それで・・・・亜美ちゃんをどうするつもりなんです?」
 空のグラスにシャンパンを注ぎながらレイが訊く。
「・・・・僕としては、ドイツに連れて戻りたいネ」
(やっぱり・・・・)
 2人の中で疑問は既に確信になりつつあった。


 それから30分ほど後。
「きゃははははは、あはは、あははははは」
 うさぎが笑っていた。
 最初に異変に気付いたのはルナだった。
「うさぎちゃん、どうしたの?」
 サキコの前ならともかく、ジェフやペンションの従業員の前では亜美達と話す
訳にもいかず、ルナはテーブルから離れた所でパーティの相伴に預かっていたの
だが、やはりどうにも気になったのでそっと近づいて声をかけてみた。
「あーーーっ、ルナだぁ。きゃははははは」
 うさぎはルナを見つけると指を差して笑った。その顔は暑さだけとは思えない
くらいに赤い。
 その様子を見てルナはピンときた。
「もしかして・・・・うさぎちゃん、お酒飲んだでしょう!」
「ほぇ、お酒なんて飲んでなーんかないわよぉ。ほらぁ」
 うさぎが取ってみせた瓶は、確かにオレンジジュースのそれだった。いま彼女
が飲んでいるのも、その瓶からつがれたものだ。
「変ねぇ」
 ルナは首をかしげた。
「ほらー、ルナも文句ばっか言ってないで、芸の1つもしてみなさいよ」
「やっぱり酔ってる・・・・(--;)」
 ルナは捕まえようとするうさぎの手からするりと逃げると、黙々とジュースを
飲んでいるレイの側に行った。
「レイちゃん。うさぎちゃんたらねー、お酒飲んじゃってるみたいなの」
「へ?」
「レイ・・・・ちゃん?」
 振り向いたレイの目を見たとき。ルナの背筋に冷たいものがすーっと走った。
 うさぎと違って表面には出ないのか、レイの顔はむしろいつもより白く見える。
だがいつもの彼女とは違い、今はすっかり目が座っていた。
「しょーがないわねぇ」
 レイはやおら立ち上がるとつかつかとうさぎに歩み寄った。
「うさぎっ!」
「きゃははははは、なぁにぃレイちゃん?」
「えーと、何だったかしら? とにかくうさぎが悪いっ!」
「えーーへへへー。なんでぇ?」
「大体あんたはねー」
 いきなりうさぎに説教を言い始めるレイ。どうにも話しが噛み合っていないよ
うだが、2人ともそれには気付いていないようだ。
「一体どうなってるの?」
 ルナはテーブルの上に飛び乗ると、レイが飲んでいたジュースをなめてみた。
(これって・・・・)
 それは、口当たりはジュースに近いが間違いなくアルコールだった。さっきま
では間違いなくただのジュースだったのに、いつの間にか酒に変わっていたのだ。
「まこちゃん、うさぎちゃん達が大変なの。まこちゃんっ」
「・・・・なんて」
「まこちゃん?」
「男なんてぇっ!」
 ばきっっっ。
 木製の椅子が粉々に砕け散った。
「遅かったみたい・・・・(;_;)」
「美奈子、おいっ美奈子ってば」
 テーブルを挟んで向かい側では、同じように異変に気付いたアルテミスが美奈
子を必死にゆすっていた。
「くーーーーーー」
 美奈子は寝ていた。
「ふぅ」
 亜美は疲れたように息をつくと、テーブルに手をついて立ち上がった。やはり
酔っているらしく体がふらふらしている。
「きゃはははは、あみちゃーん、どこ行くのー?」
「うん、ちょっと風にあたってくるわ」
 応えた声の調子からすると、うさぎ達ほど重傷ではないらしい。
「わたしも行くー」
「待ちなさい。まだ私の話しが終わってないでしょう」
 亜美を追って席を立ったうさぎは、レイに両肩にを押さえられると強引に椅子
に座らされてしまった。
「・・・・・・・・」
 ジェフは黙って席を立った。もちろん亜美の後を追うつもりだ。が、その彼の
前に両手を広げた浦和が立ちふさがった。
「どこに行くつもりです?」
 浦和の顔は赤い。間違いなく彼も酔っているのだろう。普段の彼ならば、たと
えこういう場合でも引き留めたりはしないはずだ。
「ジェフさん・・・・僕と・・・・僕と勝負してください!」
 酔った勢いにまかせ、浦和はそう言い放っていた。
「みんなどうしちゃったのよぉ」
「一体誰が酒なんかを混ぜたんだ・・・・」
 ルナとアルテミスは途方にくれて見守るしかなかった。


(ふふっ、うまくいったようね)
 ちびうさはほくそ笑むと、そおっとペンションへと戻った。ジュースに酒を混
ぜたのは彼女の仕業だったのだ。ルナPの力を使えば、誰にも気付かれずにジュ
ースと酒を入れ換えるなどたやすい。
 みんなが酩酊しているうちに、それぞれの荷物を確かめる。我ながら完璧な作
戦だとちびうさは思った。
「さてと・・・・」
 ちびうさは第1の目標であるうさぎの部屋の前に立った。居候しているにも関
わらず、今だに銀水晶を発見する事はできないが、やはり彼女が一番持っていそ
うに思える。
「あれぇ?」
 ドアのノブに手を伸ばしかけたちびうさの背後から、びっくりしたような声が
あがった。
「な、なによ」
 慌てて手を引っ込めて振り向いたちびうさは、そこに洗いたてのシーツを抱え
たサキコの姿を認めた。
 ガーデンパーティの席では皿を並べたり、従業員にまじって料理を運んだりと
めまぐるしく動いていた彼女は、今はどうやら客の入っていない部屋の整理をし
ていたらしい。
「ここで何してたの?」
「いーじゃない。私がなにやってても。あんたに関係ないでしょ」
「ふぅん」
 つっけんどんに言い放すちびうさを見て、サキコは何か思いあたる事があるか
のような、いたずらっぽい微笑をうかべた。
「そうだ。これを片づけ終わったら、一緒に海へ行ってみない?」
「海に? だってもう夜だよ」
「大丈夫よ、月だってでてるし、こーんなにあったかいんだしさ」
「でも・・・・」
 ちびうさはちらっと後ろを見た。こんな所でもたもたせずに早く銀水晶を探し
たいところだが、断ったら変に疑われてしまうような気もする。
「ね?」
「・・・・うん」
 サキコに念を押すようにせまられて、ちびうさは仕方なくうなずいた。
(まぁいいわ。30分くらいならうさぎ達も戻ってこないだろうし、適当に遊ん
でやればこの子の気もすむだろーし)
「じゃあすぐ戻ってくるからちょっと待っててね、うさぎちゃん」
「これだから子供ってヤなのよねー」
 ぱたぱたと駆けて行くサキコを見送りながら、ちびうさはいつも通りの大人ぶ
った言葉を口にしたが、その顔はどこかうれしそうにも見えた。


「勝負? ペナルティエリアの外からシュートでも撃つのかい?」
 両手を広げてたちはだかった浦和を前に、ジェフは久しぶりに自分のジュニア
・ハイ時代を思い起こしていた。だからという訳ではないが、男がこんな行動に
出る理由も十分すぎるくらいに察しがついた。
(どうやら彼は私と亜美の事を誤解しているようだ・・・・)
「僕が勝ったら・・・・水野さんと別れてください」
 酔っているとはいえ、浦和の表情は真剣だった。
「いいだろう」
 ジェフはおもむろにうなずいた。誤解をどうこうと言うより浦和の男を買った
のだ。もちろん酔っていたせいもある。それに彼はこーいうノリがまんざら嫌い
でもなかった。
「それで? どういう方法で決着を付ける気だ?」
「それは・・・・」
「はいはいはいはいはーーーーーーーーいっ!」
 様子をめざとく察したうさぎが、手を大きく振りながら2人の間に割って入っ
た。その後から、こちらはまだ説教したりない顔のレイがついてくる。
「浦和君はー、頭がいいから、勉強で勝負すればいいと思うなぁ」
「うさぎあんたばっかじゃないの? ジェフさんは大人なのよ。いくら浦和君が
頭いいからって・・・・」
「いえ、レイさん。僕の方はそれでいいです」
「オーライ、僕もそれで結構だ。だが、このままでは確かに彼女が言うとおり君
にとって不利だと思う。そこでだ、何の教科で勝負するかは・・・・君に決めて
もらおう」
「えっ! わたし?」
 いきなり指名されてレイはとまどった。浦和が勝つも負けるも彼女の選択1つ
にかかっていると言っていい。一瞬ことわろうかとも思ったが、不意にある考え
がひらめいた。これなら浦和も勝てるかもしれない。
「分かったわ・・・・勝負は・・・・漢字の書きとりよ!」


(日本にいられるのもあと少しね・・・・)
 心地よい汐風を受けながら、亜美は少しぼぉっとしたまま浜へと通じる道を歩
いていた。月明かりに照らされた海が、以前どこかで見た映画のワンシーンのよ
うに輝いている。
(うさぎちゃんん達、おこってないかしら?)
 ふとそう思って今来た道を振り返ってみる。考えてみれば、どうして自分がメ
インのパーティを抜け出してきたのだろう?
 まさかジュースにアルコールが入っていたとは思ってもみなかった。
 そのアルコールのせいで、いつもの自分からは想像が出来ないくらいに、次々
と考えが移ろっていく。むろんその事すら今の亜美は自覚していない。
(ドイツ・・・・か)
 亜美は足元に目を戻した。
 ドイツでの生活は、亜美が予想していた通りの素晴らしいものだった。勉強に
集中できる整った環境や各人の個性を尊重した教え方、そして何よりも自分と同
じ夢を抱いて集まってきた大勢の留学生。
 それは亜美が長らく求めていた理想の生活だった。だが、そんな理想の生活の
中にあってさえ、ふと一抹の寂しさを感じる事があった。
 何かが違うような気がする。言葉に出しては言えないけれど、これでいいのか
しら? という漠然とした思いが、たびたび脳裏をよぎるようになった。
(「それは多分ホームシックだね。誰だってみんな・・・・特に女の子の場合は
最初のうちはそうなる事が多いよ」)
(・・・・本当にそうなのかしら?)
 ジェフの言葉を思い出して、亜美は分からないという風に首を振った。
 それならこうして日本に帰ってきているのに、そしてもしかしたらこのまま日
本に残っていられるかもしれないのに、なぜこんな気分になるのだろう?
 結局、答えは出てこなかった。
 そのまま特に目的もなしに歩き続けているうちに、波打ち際が見える所まで降
りてきた亜美は、水辺で遊んでいる人影を見つけて足をとめた。
「ほら、うさぎちゃんこれ見て!とーってもきれいだよ」
「えー、見せて見せて、わぁっ本当だぁ!」
 それはサキコとちびうさだった。亜美は、遊んでいる2人に声をかけるのはな
んだか悪いような気がして、そのまま黙って見ている事にした。
(うさぎちゃん・・・・か)
 ちびうさを呼ぶサキコの声を聞いて、亜美はちびうさの方に目をやった。
 亜美達はふだん、2人のうさぎを区別するためにルナPボールを連れた方をち
びうさと呼んでいるが、サキコにしてみればちびうさの方が「うさぎちゃん」で、
月野うさぎは「うさぎお姉ちゃん」になるのだろう。
(ふふ・・・・なんだか知り合った頃の私とうさぎちゃんみたい)
 多分サキコが連れだしたのだろう。普段のちびうさの行動から考えて、彼女が
自分からサキコを誘ったりはしない筈だ。
 大人びた態度で常に周りの人間に対して壁を作っているちびうさと、毎日塾へ
行っていたせいで誰かと遊ぶ事もなく、真面目だの頭がいいのを鼻にかけてるだ
の言われ友達が出来なかった自分。そんな亜美にわけ隔てなく接してくれたうさ
ぎ、そして今ちびうさと遊んでいるサキコ。
 人前では滅多に見せない心の底から楽しそうなちびうさの笑顔を見ていて、亜
美はまだセーラー戦士が2人だけだった頃の事を思い出していた。一緒にショッ
ピングに行ったりゲームセンターで遊んだり。その後学校や塾で友達が増えたの
も、ひとえにうさぎの訓練(?)のおかげだろう。
「あっ、亜美お姉ちゃーん」
 サキコが、浜に出る坂道にいた亜美に気付いて手を振った。
「いまねー、うさぎちゃんと貝殻を集めていたのー」
 見ればサキコは左手に、ちびうさは両手いっぱいに貝殻を持っているようだ。
「そうなの・・・・」
「それはよかったわねぇ」
  「!」
 亜美がサキコの方へ行きかけたその時、海の方から甘ったるい女の声がした。
 驚いて声のした方を見ると、海の上に人が浮かんでいた。
 三つ編みにした髪、肌にぴったりとした薄青のコスチューム。
 昼の浜辺で普通に出会えば特に疑問も持たなかっただろうが、何の支えもなし
に空中に浮いているという事以上に、亜美はその女の笑顔の裏に隠された冷たい
ものを感じていた。
「あなたは誰?」
 亜美は心を落ちつかせ、早くないよう遅くないようサキコ達の方へ歩きながら
女に尋ねた。右手がそうと気がつかないうちに、肌身はなさず持ち歩いている変
身スティックを握りしめている。
 わずかな酔いは、女が現れたその時点ですっかり醒めていた。
「さぁ? 誰かしら?」
 その女、ダークムーン、あやかしの四姉妹の三女ベルチェは小悪魔のような微
笑を亜美にむけ、それからあとの2人、ちびうさとサキコを見た。
 サキコは亜美と同様にベルチェに異質なものを感じたのだろう、こわばった表
情を向けている。
 ちびうさは恐怖で震えていた。せっかく拾い集めた貝殻が指と指の間からポロ
ポロとこぼれ落ちている。
(ふふっ、あんなに震えちゃってカワイイ)
 ベルチェはそう思っただけですぐに亜美に目を戻した。彼女にしてもまさかこ
の場にちびうさ、彼女達が探しているラビットがいようとは考えてもいなかった。
「そうねー、教えてあげてもいいけどぉ。どうせあなた、ここで死ぬんだしぃ。
聞くだけ無駄でしょ」
 にっこりと笑った顔からは想像もつかないような言葉を投げかけたベルチェは、
ゆっくりと亜美の表情の変化を楽しみながらさらに続けた。
「うふ、そんな心配しなくてもいいわよ。今ごろはあなたに化けた私の部下が・
・・・ふふふふ」
「そんな!うさぎちゃん・・・・みんな・・・・」
 亜美は見えるはずのない崖の方に目を向けた。


「どじょう!」
 ジェフが叫ぶ。
「鰌」
「はたはた!」
 浦和が言い返す。
「鰰」
「なんでそんなの知ってるの?」
「父親が秋田の生まれなんでネ」
 呆れ顔で聞くレイに、ジェフはすまし顔で応えた。
 浦和とジェフの勝負は既に20分近く続いていた。日本人の浦和に有利なよう
にとレイが考えた方法だったが、予想に反してジェフの知識は並ではなかった。
それを言えば浦和の方も大したもので、ここしばらくは難しい字の多い魚の名前
に集中しているが、1歩もひけをとってはいない。
「あーん、ひゅまんなーい」
 さすがに笑い疲れたうさぎがテーブルにつっ伏して声をあげた。ちなみにテー
ブルの周りあった椅子は、寝ている美奈子が座っているものを残して全てまこと
が破壊しつくしている。
 そのまことは体を動かしたせいでアルコールがまわり、今はすっかりグロッキ
ーといった状態で庭に座り込んでいた。
 あれほど気になっていた浦和とジェフの対決にも気が廻らないらしく、膝をか
かえてうつむいている。
 と、急に何かの気配を察したのか顔をあげた。
「あ、亜美ちゃん。どこに行ってたんだい?」
「え、あ、ちょっとね」
 まことに声をかけられた亜美は、ちょっとびっくりしたように応えた。
「亜美ちゃん!?」
「あー、あみちゃんだぁ」
「水野さん・・・・」
 その声に気付いた4人が振り返る。
「みんな、何をやっているの?」
「なにって・・・・ねぇ」
 どこか取り繕うような微笑を浮かべる亜美に、こちらも内心おだやかでないレ
イが言葉をにごして浦和とジェフの方に目をやった。亜美を争って2人が戦って
いるなど、当人を目の前にして言っていいものかだろうか? という表情だ。
「・・・・・・・・」
 浦和も亜美の突然の出現に言葉が出てこなかった。もう一方の当事者であるジ
ェフはと言えば、こちらは照れたように頭を掻いている。
「あみちゃんさぁ」
 不意にうさぎが声をあげた。まだ酔いが抜けていないためろれつが回らない。
「あみちゃん、ジェフしゃんと結婚ひちゃうの?」
 ぴきっっっっっ。
 全員の動きがその場で凍りついた。ひとり、言ってはならない言葉を言ってし
まったうさぎだけが、きょとんとした顔でみんなの顔を眺めている。
「ろーしたの?」
「うーーーーさーーーーぎぃ」
 ぎぃ、と声なのか歯ぎしりなのか分からないような音を発して、レイはうさぎ
の方に顔をむけた。
「ほえ(^^;)」
 さすがに何か気まずいものを感じたうさぎの背に冷たいものが流れる。
「こぉーーーーーーーーーーの、おたんこ、おたんこ、おたんこがぁっ!」
「あぁーん、レイちゃん痛いよぉ、ぶっちゃやだぁ」
 逃げる間もあればこそ、レイはテーブルにうさぎを押さえつけると平手でお尻
を思いきりはたいた。もしちびうさが見ていたら快哉を叫んだかもしれない。
「亜美さん!教えてください。うさぎさんの言った事は本当なんですか?」
 そんな2人をよそに、うさぎの言葉に意を決した浦和は亜美の目をじっと見つ
めながら、ついにその疑問を口にした。
 困ったのは亜美、いや亜美に化けたドロイドだった。
 幽霊騒ぎの正体は、ベルチェの命で今までペンションにくる客を驚かしていた
このドロイドだったのだ。
 今回はベルチェが始末しているはずの亜美に化けてうさぎ達に近づき、機を見
て本性を現し襲おうと思っていたのである。
 が、いきなり全く予期していなかったとんでもない状況に陥ってしまった。も
ちろんドロイドの亜美に、浦和やジェフとの関係が分かろうはずもない。
 困ったような表情を作ってドロイド・亜美はジェフを見た。ところがジェフは
安心しきった表情で彼女の方を見ている。が、その顔を見てドロイド・亜美は納
得するに至った。「ジェフから言って」とでも言えばまだどうとでもなっただろ
うが、そこまで頭がまわるドロイドではない。
「ええ」
 ドロイド・亜美はこくりとうなずいた。
「そうよ、彼女の言った通り・・・・わたし、ジェフと結婚するの」
 ぐわんっ、と後頭部を鈍器で殴られたような気がして、浦和はよろよろと2、
3歩よろめいた。
 びっくりしたのはジェフも同様だった。目をまんまるにしてドロイド・亜美の
事をみつめている。
「あ、亜美・・・・」
「亜美ちゃん・・・・それ、本当なのかい?」
 口をパクパクさせながら、それでも何か言おうとしたジェフの声をさえぎるよ
うに、まことがテーブルに体をあずけるながらヨロヨロと起きあがった。
「そうよ」
 ドロイド・亜美はうなずいた。言ってしまった以上それで通す以外ない。きっ
とした顔をつくって浦和にむきなおる。
「だから、もう私にはつきまとわないで」
「!」
「亜美ちゃん!いくらなんでもひどすぎるよ」
「そ、そうよ。亜美ちゃんらしくないわ」
 さらによろける浦和を見て、思わずまこととレイは語気を荒げた。
 本物の亜美の普段を知らないドロイド・亜美は、2人の様子を見てさすがにい
い加減な事を言いすぎたと思った。
「亜美、本当に結婚するのかい?」
 そのとき、ドロイド・亜美の足元で声がした。何気なく目を下に向けたドロイ
ド・亜美の顔がすっと青ざめる。
「ね、猫がしゃべった・・・・」
「あっ・・・・え?」
 アルテミスはジェフの前だった事も忘れて喋ってしまった事に気付き、ぎょっ
とした顔になった。が、それと同時に目の前にいる亜美のリアクションに不審を
抱いた。
「ね、ねこが・・・・」
「ね、ねこが・・・・」
 期せずして、ジェフとドロイド・亜美は同じ言葉をもらしながら周囲を見回し
た。レイ、まこと、アルテミス、ルナの視線がドロイド・亜美に集まる。
「あんた・・・・亜美ちゃんじゃないね」
 まことが凄んだ声を出した。酔いが残っている分迫力がある。
「な・・・・何を・・・・」
「臨・兵・闘・者・皆・陳・烈・在・前」
 レイがどこからか取りだしたお札を顔の前に掲げて九字を唱える。
「悪霊退散ーーーーーーーーーーっっ!」
 投げられたお札は狙いたがわずドロイド・亜美の顔に張り付いた。
「ぐわああああ」
 ドロイド・亜美はお札をはがそうとしてもがいた。だが、たった1枚の紙きれ
のはずが、破るどころかますます顔にくいこんでくる。
「やっぱり・・・・!」
 ルナとアルテミスはうなずきあった。今まで亜美の姿だったものは、レイのお
札の力で本来の姿、ドロイド・シュトロームへと戻りつつあった。


「もういいかしら?」
 目を戻した亜美の瞳に、何かを決意したようなきらめきを見たベルチェは残忍
そうな笑みを浮かべた。
(なんとか・・・・サキコちゃん達を逃がさないと・・・・)
 亜美はベルチェから目をそらさないようにしながら考えていた。
 相手はどんな手を使って攻撃してくるか分からない。多分ここで変身している
時間はないだろう。
 亜美が今立っている位置は砂浜のちょうど中ほど。波打ち際にいるサキコ達の
方が彼女よりもベルチェに近い。それに加えて断崖に囲まれた猫の額ほどのこの
浜から逃げる道は、さっき亜美が降りてきた坂道1本だけなのだ。
「おあいにくさま、私はそう簡単にはやられないわよ!」
 意を決した亜美はベルチェを挑発すると、サキコ達とは反対の方向に走りだし
た。少しでも長くベルチェの注意を引けば、それだけサキコ達の脱出のチャンス
も増える。
「ふんっ!」
 ベルチェは眉根をよせると右腕を亜美の方に突きだした。砂浜をえぐりながら
走った衝撃波が逃げる亜美を弾きとばす。
「ああっ!」
 砂浜に投げ出された亜美は、それでもなんとか起きあがろうとした。だが、体
の動きとは裏腹に、意識はすうっと遠くなっていった。
「亜美お姉ちゃん!」
 サキコが叫んだ。
「さぁ、おちびさん達。次はあなた達の番よ」
 倒れた亜美を無視して、ベルチェはサキコとちびうさに近寄った。
 きっ、とベルチェを睨みつけるサキコ。そのサキコの背に隠れて、ちびうさは
ベルチェから目をそらす事も出来ずにガタガタと震えている。
 亜美にしたのと同じように、ベルチェは右手をすっと2人に向けた。
「いやぁ・・・・」
 ちびうさがサキコの服をぎゅっとつかんだ。その額に月の印、シルバーミレニ
アム王家の証が浮かび上がる。
「えぇっ!」
「イヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」
「うさぎちゃん!?」
 驚くベルチェとサキコの前で、ちびうさの額から放たれた光は雲をつらぬいて
空の果てまでのびていく。
(ちびうさちゃん?)
 もうろうとする意識の中で、亜美はその光景をぼんやりと眺めていた。
「ラビット・・・・こんな所にいたなんて。うふふふふ、クリスタルポイントを
破壊しに来たつもりが、とんだ拾いものだったようねぇ」
 突然の出来事にさすがに驚いたベルチェだったが、すぐに何事もなかったよう
な妖しい微笑を取り戻した。
(いけない!)
 亜美の心が叫ぶ。しかし体はおろか意識すらも、ともすれば失いそうになる中
では何もする事ができない。このままではサキコもちびうさも殺されてしまう。
 だが、そうはならなかった。
「あらぁ? どういうつもりかしら?」
 ベルチェは右手をちびうさに向けたまま、この状況には似つかわない、ぞっと
する程の優しい、それでいて冷たい声をだした。
「だめっ!」
 すくみこんでいるちびうさを全身でかばうようにして、ベルチェの前にサキコ
が立ちはだかっていた。目には見えないオーラのようなものが、サキコの周りで
急激に高まっていくの亜美は感じた。
「これはっ!」
 危険を感じてとっさに両腕で体を守ったベルチェに、あの出来事以来ずっと使
っていなかったサキコの力が衝撃波となって襲いかかった。
「くうっ」
 ベルチェはサキコの力を弾き返した。しかしサキコを見る顔にはもう、先ほど
までの妖しい微笑はない。その目には怒りという名の炎が宿っていた。
「もう許さないからっ」
 ベルチェが放った衝撃波はサキコの力とぶつかり合い、その周囲に激しい風を
うんだ。それもつかの間、じわじわとサキコの力が押されはじめた。
「ほほほほほ、すぐに楽にはさせないわよ」
 ベルチェはさらにパワーを増して、サキコの力を抑え込んでいく。
「サキコちゃん・・・・」
 サキコのうしろでちびうさが小さく声をあげた。
 亜美はどうする事も出来ずに目の前の光景を見ていた。体を動かす事も出来な
い。声を出す事もできない。ただ何もできないまま、ちびうさと、彼女を守るサ
キコの戦いを見ていなければならなかった。
 それは、死に直面にした人間が自らの過去を思い出す光景にも似ていた。
 あるいは、混濁した意識が見せた幻覚かもしれない。
 目の前のサキコとちびうさの姿は、いつの間にかうさぎと亜美の姿に変わって
いた。
(やめなさい悪党っ、天才は世界の平和に役だってこそ価値があるのよっ!)
(こらぁ妖魔っ!亜美ちゃんを放しなさいっ)
(そうだっ、約束しよっ!)
 それは2人が出会ってからの光景だった。
 初めてセーラー戦士となった時、妖魔との戦い。一緒に遊んだ事や勉強した事、
それらの思い出がめまぐるしく目の前を通りすぎていく。
(・・・・どこにいたって、いっしょだよ・・・・)
「うさぎちゃんをいじめちゃダメーーーーーっ!」
 幻覚のうさぎとサキコが叫びがオーバーラップした。
 その瞬間、亜美の意識ははっきりと戻った。
 ドイツへ行って以来ずっと分からないでいた答えが目の前にあった。
(なんで気付かなかったんだろう・・・・)
「こ、こしゃくなっ!」
 わずかにだがベルチェのパワーが押し返される。だが怒りに燃えたベルチェは
さらに圧倒的な力でひと息にサキコの力を押し戻した。
「きゃぁっ!!」
 ついに耐えきれず、サキコがちびうさもろとも弾き飛ばされる。
「許さないっ!」
 亜美は変身スティックを掴むと高々と掲げて叫んだ。
「マーキュリースターパワー・メイクアーーーーーップ!
「なにっ!?」
 サキコとちびうさに気を取られていたベルチェが一瞬遅れて振り返る。そこに
はさっき倒した少女がいる筈だった。だが倒れている筈の少女の姿はなく、1人
の怒りに燃えた戦士が立っていた。
「セーラーマーキュリー!」
 弱々しく顔をあげたサキコの瞳が、セーラーマーキュリーの姿を認めて輝いた。
 亜美はサキコに軽くうなずいてみせるとベルチェと対峙した。
(そう、私はいちばん大切な事を忘れていたんだわ)
(使命とか、地球の平和とかよりも・・・・)
(守りたい人たちがいる)
(そのために私は、私達は戦っているって事を)
(守りたい人たちがいるから、戦っていけるって事を)
(だから・・・・)
「2人は私が守る!」
「シャインスノーーーーーーーーーーーーーーーーー」
 亜美の声に応じるかのように、彼女の周りの水分が渦を描きながら氷結する。
「イリュージョーーーーーーーーーーン!」
 氷のつぶてはナイフのような鋭さでベルチェを襲った。
「なんなのこれはっ、きゃんっっ痛っ、くっううううっラビットを目の前にして
こんなっっこんなっ、覚えてなさいっ!」
 ベルチェは捨て台詞を残すと空間に飲み込まれるように消えていった。


「あ、亜美ちゃん?」
「なに言ってんの、敵でしょ、敵」
「うずうずーーーー」
 今や完全にドロイドとしての姿に戻ったシュトロームを前に、まだボケている
うさぎをレイは無理矢理立たせた。
「うずうずっ!」
 シュトロームは両腕を横にのばすと高速で回転を始めた。たちまちシュトロー
ムを中心に激しい風が巻き起こる。
「これじゃ台風みたいだ」
 身を低くして風に抵抗しながら、まことは体を支えられるようなものを探した。
それでなくても今はまだ酒のせいで体に力が入らない。
 風はますます強くなりながら、椅子の破片やテーブルクロス、そしてそこに乗
っていた皿やカップを吹き飛ばしていく。
「早く変身しないと・・・・」
 レイが懐の変身スティックに手を伸ばした。
「駄目よレイちゃん」
 風にかき消されまいとルナが叫ぶ。
 ルナの声にレイはジェフの存在を思いだした。ジェフは呆然とシュトロームの
作り出す竜巻を見ている。頭の中はパニックか、でなければまっ白になっている
事だろう。
「うずうずっ!」
「にげろっ」
 シュトロームが回転しながら突っ込んできた。レイがうさぎを、まことがまだ
寝ている美奈子を抱えて横に逃げる。
「何やってるんです!」
 ぼっとしているジェフを突き飛ばすようにして、浦和はシュトロームから逃げ
た。2人をとらえそこなったシュトロームは、そのまま勢いを殺さず進んでテー
ブルを粉々に砕いた。
「美奈子ちゃん、寝てる場合じゃないよ。美奈子ちゃん」
「あ・・・・おはようまこちゃん」
 まことが2、3度軽く頬を叩いたところで、ようやく美奈子はうっすらと目を
開けた。当然の事ながら今がどういう状態かは分かっていない。
「一体どうなっているんだ?」
 助けられた事も忘れてジェフは浦和の胸ぐらをつかんだ。
「敵ですよ。人間のね」
 浦和はパニックに陥りかけているジェフを見て、わざとゆっくり区切るように
言った。ジェフはまだ狼狽していたが、それでもなんとか首をめぐらせてシュト
ロームの方に目をやり、そこに人間以外の存在を認めた。
「大丈夫、僕たちには力強い味方がいます。きっと彼女が来てくれます」
 浦和はジェフを励ますようにしながら自分自身にも言い聞かせていた。
 いったん攻撃をやめたシュトロームが、再び回転を始めている。
「このままじゃ逃げられない・・・・」
 目が覚めきっていない美奈子によりかかったまことがうめいた。レイもうさぎ
も、俊敏というにはほど遠い状態だ。
「待ちなさいっ!」
 その時、凛とした声が一同の耳を打った。
「!」
「うずうず?」
「亜美・・・・?」
 月の光を背に浴びたシルエットに、ジェフは一瞬我が目を疑った。
「パーティーを楽しんでいる人達の邪魔をするなんて許せない。水でもかぶって
反省しなさいっ!」
「セーラーマーキュリー!」
 うさぎ達の声がそれに応える。
「シャボーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン・スプレーーッ!」
 亜美はすぐさまシャボンスプレーを放った。あたりが霧に包まれる。浦和には
その意図がすぐに飲み込めた。
「さあ、今のうちです。彼女達の邪魔になっちゃいけません!」
「彼女達?」
 いぶかるジェフをうながして、浦和はペンションの方に走った。走りながら1
度だけ振り向いて、霧の向こうにいるであろう亜美にうなずく。
「今よ、みんなっ」
 亜美が叫ぶ。
「うんっ、ムーン・クリスタルパワーーーーー」
「マーズスターパワーーーーー」
「ジュピタースターパワーーーーー」
「ヴィーナススターパワーーーーー」
『メイク・アーーーーーーップ!』
「うずうず?」
 霧が晴れた。シュトロームがあたりを見回す。
「海老も蟹もおいしかったんだからっ。それを全部吹き飛ばしちゃうなんて許せ
ないっ。月にかわっておしおきよっ」
「うずうずーっ」
 シュトロームが再び体を回転させて風を巻き起こす。うさぎ達は慌ててこれを
かわした。変身したとはいえ酔いが抜ける訳ではないのだ。
「どうしよう。これじゃ近づけないよ」
「くっそう、お酒さえ入ってなけりゃ」
「ええ」
 まことの言葉にレイもうなずく。2人とも精神集中がままならないため必殺技
が出せないのだ。そうしているうちにもシュトロームは進路を変えて向かって来
ている。
「待って、いま敵の弱点を探すわ」
 亜美はゴーグルを装着するとコンピューターを使って分析を始めた。
 4人とも近づいてくるシュトロームを前に、固唾を飲んで亜美を見守っている。
「分かったわ!」
 やがて、亜美はコンピューターから顔をあげた。
「渦の中心を狙うのよ。そこが敵の弱点だわ」
「私の出番ね」
 寝ていたおかげで1人元気な美奈子が4人の前に立つ。シュトロームが作り出
竜巻はすぐそこまで迫っている。
「クレッセント・ビーーーーーームッ!」
 敵に向かって伸ばした美奈子の指から、まばゆい光を発して光線が放たれる。
それは狙いをたがわず渦の中心に吸い込まれた。
「うずーーっっ!」
 悲鳴とともに風がやんだ。顔を押さえたシュトロームが地面にうずくまる。
「効いた!?」
「なんでそこで驚くのよ(^^;)」
「今よ、セーラームーン!」
「うんっ」
 亜美にうながされて、うさぎはキューティムーンロッドを取った。
「ムーンプリンセス・ハレいショーーーーーン!」
「うずうずーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
 もと、シュトロームだった砂の上に、輝きを失った宝石がぽとりと落ちた。


ENDDING.

 TOKYO国際空港。海から帰ってきて数日後、今日は亜美が再びドイツへ帰
る日だった。そしてここ、ドイツ行きの飛行機の搭乗ゲート前。亜美とジェフは
同じ飛行機に乗る人々の列を見ながら話し合っていた。
「さてと、とうとうここまで来てしまったな・・・・亜美ほど優秀な生徒なら、
わざわざドイツで学ばなくてもいいと思う。ただし、日本の教育というものが君
に適切な指導をできるものならばね」
 亜美はだまってうなずいた。
「もう1度確認しておこう。君は僕に日本で勉強を続けていけるかどうか訊いた。
僕の目から見て、日本の教育は君が勉強を続けていくうえで適当かそうでないか
判断して、よいと思えば日本に残ってもよし、駄目だと思えば一緒にドイツに戻
る。そういう事だったよね」
 もう1度、亜美はうなずいた。
「結論を言おう。君はドイツに来た方がいい。日本で勉強を続けるのは困難だ」
 ジェフの下した判断を、やはり亜美は黙って受けとめていた。


「亜美ちゃん、今度いつ帰ってくるのかな・・・・」
 滑走路に向かうドイツ行きの飛行機を送迎デッキで見送りながら、うさぎは誰
に言うともなしにつぶやいた。
 今回の見送りにはうさぎ達をはじめ、ちびうさ、ルナ、アルテミス、浦和良と
おもだった面々が全員顔を揃えている。
「そうね、冬休みくらいには帰ってこれるんじゃない?」
 どことなく寂しそうなうさぎを励ますように、レイはつとめて明るい調子で言
った。まことと美奈子もそうだとばかりにうなずく。
「元気だしなよ、うさぎちゃん」
「うさぎちゃん、知ってる? 待つ事が多いほど、待つ時間て短く感じられるも
のなのよ。亜美ちゃんでしょ、冬休みでしょ、クリスマスでしょ、お年玉でしょ、
それからそれから・・・・」
 明るく振る舞ってはいるものの、誰もがあのシュトロームとの戦いの事を考え
ていた。
 亜美の分析力や冷静さはやはりチームにとって不可欠だという事が、計らずも
あの戦いで明らかになってしまった。
「うん、そうだよね。やるっきゃないよね」
 うさぎは亜美との約束を思い起こし、自分自身に言い聞かせた。その目の前を
飛行機が轟音を響かせながら空へと舞い上がっていく。
「行っちゃったね・・・・」
 誰かがぽつりとつぶやいた。
「あら、誰が行っちゃったのかしら?」
 突然うしろからの聞きなれた声に、6人と2匹はハッとして振り向いた。そこ
にはついさっき別れたままの姿の亜美が立っていた。
「あ・・・・亜美ちゃん!」
「ドイツに帰ったんじゃなかったの?」
 驚くうさぎ達に、亜美は黙って首を横に振った。
「まさか亜美ちゃん、私達のせいで・・・・私達だけじゃあいつをやっつけられ
なかったから・・・・だからドイツに行かなかったの?」
「ううん、それは違うわ」
 うさぎの思いつめたような表情に、亜美はきっぱりと否定した。そして柔らか
な微笑をもう1人のうさぎ、ちびうさに投げかけた。
「私には守るべきものがあるの・・・・だから行かなかった。そう、これは私が
決めなくちゃいけない事だったの」
(それを教えてくれたのはサキコちゃん、ちびうさちゃん、それに・・・・うさ
ぎちゃん、あなた自身なのよ)
「だからね」
 亜美は顔をあげた。
「だから、うさぎちゃんとの約束は、私ちゃんと守るわ。日本で勉強してお医者
さんになるから・・・・。ね、うさぎちゃん」
「え、あ、うん」
 つい今しがた、自分もその事をかんがえていただけに、うさぎは妙にどぎまぎ
しながら返事をする。その様子には気付かなかったのか、亜美はふっと小さくな
っていく飛行機に目をやった。
「実を言うとね、ジェフはそのために日本に来ていたのよ」
「え? どういうことなの」
 聞き返すうさぎ達に、亜美はさっき搭乗ゲートの所でのジェフとの出来事を話
して聞かせた。


「私、日本に残ります」
 ジェフの目をまっすぐに見つめた亜美は、はっきりとした口調でそう言った。
「日本は君のいるべき所ではない」
「私、日本に残ります。日本でドイツに留学している人達に負けないくらい勉強
します」
 亜美は言葉からは固い意志がうかがい知れた。渋い顔で亜美の様子を見ていた
ジェフの瞳がふっとなごむ。
「そう言うと思ったよ・・・・」
 ジェフはやれやれという具合にため息をついた。しかしその目はがっかりと言
うよりは、むしろ笑っているように見えた。
「喋るネコがいたり、セーラー戦士だとかなんだとか、僕には分からない事だら
けだったけどね・・・・少なくとも亜美はここで何かすべき事がありそうだ。や
れやれ、正直言って亜美ほどの生徒を手放すのは惜しいんだがねぇ。今度からは
通信教育に力を入れねばならないなぁ」
「ありがとうございます。先生」
 さすがに心配だったのか、ジェフの言葉を聞いて亜美はようやくほっとしたよ
うな微笑を見せた。
「1つだけ訊いていいかい? 日本に残るつもりだったなら、なぜわざわざ戻る
ような用意をしてきたんだい?」
 貨物室に積み込むほどではないにせよ、亜美はドイツからきた時そのままの大
きなバッグを肩からさげている。
「私、自分をためしてみたかったんです。ちゃんと断れるかどうか。私、今まで
自分の事なのに自分で決めれないでいたから・・・・」
「オーケイ、君は素敵だよ亜美。またいつの日かドイツに来る事を楽しみにして
いるよ。さて、そろそろ行かないと」
 亜美と握手をかわしたジェフはそう言うと搭乗ゲートの方に歩いていった。途
中、不意に思いだしたように振り返る。
「そうだ、浦和に伝えといてくれ。いずれ決着をつけようってね」
「? はい」
 笑いながらウインクするジェフに、亜美は何の事か分からないままうなずいた。
「それともうひとつ。学校以外で僕を先生と呼ばない事」
「あ、うん。さよならジェフ。お元気で・・・・」


「へぇ、ジェフさんて、亜美ちゃんの先生だったんだ」
「そう、あの年で大学教授なのよ。それにね、ジェフは大学教授だけじゃなくて、
私や他の人達の留学を斡旋している人でもあるのよ」
「じゃあ、亜美ちゃんをドイツに招いたってのは、あの人の事だったのか」
「待ってください。それじゃあお母さんに話っていうのは・・・・」
 まだ肝心なことを聞いていないという感じで、浦和は亜美とうさぎ達の間に割
って入った。ジェフが亜美の先生だったとはいえ、それで疑いが晴れた訳ではな
い。むしろ逆に心配になったくらいだ。
「うん、どうするのが1番私のためにいいか、相談してくれていたの」
「でも・・・・海で・・・・若さ故の過ちとか・・・・」
「ああ、あれ?」
 亜美は少し恥ずかしそうに笑った。
「私、日本に残っても大丈夫だってところをジェフ見せるために、参考書を持っ
ていってたんだけど、サキコちゃんに遊びに行こうって誘われたら、やっぱり断
れなくって。こんな事じゃ駄目だなって」
「な、なんだ。そういう事だったんですか」
 勉強するつもりだったのに遊んでしまったと、いかにも亜美らしい答えに浦和
は全身から力が抜ける思いがした。あれこれと気をもんでいた自分が馬鹿にすら
思えてくる。
「そうだ、良君。ジェフが言ってた決着ってなんの事?」
「え(^^;) いえ、なんでもないんです。あははは(^^;;;;)」
 いきなり亜美に聞き返されて、酔っていたとはいえ自分の早とちりであんな勝
負を挑んだとは言えない浦和は、わざとらしく笑ってごまかすしかなかった。
「あの2人も相変わらずだね」
 亜美と浦和の様子を見ていたまことはちょっと肩をすくめた。たとえ酔ったう
えでの事だったとしても、亜美を想う気持ちがそうさせたのだから本当の事を言
えばいいのにと思う。
「いいじゃないまこちゃん」
 やはり亜美と浦和の様子を見ていたルナがまことを見上げる。
「みんなまだ中学生なんだし、慌てることないと思うわ」
 一方、まだ全てを納得した訳でないうさぎは、小首をかしげて亜美を見た。
「それじゃあ、亜美ちゃんがジェフさんと結婚するっていう話は・・・・」
「結婚!? ジェフはちゃんと奥さんがいるわよ」
 亜美がびっくりしながら否定する。実のところ、ジェフが亜美の母親に結婚の
許可を得るために来日していたのではないか、とうさぎ達がうたがっていた話を、
亜美はこの時はじめて知ったのだった。
「誰よ。亜美ちゃんが結婚するって言ったのは」
 レイがじろっと美奈子を睨んだ。
「(^^;;;;;;;;)ごめんなさーい」
「あ、逃げた!」
「待ちなさーい」
 空港のロビーを一目散に駆けていく美奈子を、うさぎとレイが追いかけていく。
「やれやれ、美奈子も人騒がせだな」
 アルテミスが呆れたようにため息をついた。
「本当に戻ってきてよかったの(^^;)?」
「うん!」
 多少ひきつりながら問いかけるルナに亜美は笑顔で応え、手をかざして飛行機
の消えた空をまぶしそうに見上げた。
 どこまでも続く青い空と、はるか向こうに巻き起こっている入道雲。セーラー
戦士達の夏はまだ始まったばかりだった。

                                End.

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