『決戦! ネルフ大食堂』
度重なる使徒の襲撃。訪れるあてのない平和。それよりもいつ訪れてもお
かしくない次の襲撃への不安に、第3新東京市を離れ疎開する人々は今日も
後を断たない。
第3新東京市が、人類最後の砦たるネルフが壊滅すれば、それはもはやど
こに逃げようが意味をなさないのだろうが、それでも人々は今日の生を明日
へと繋ぐためにこの地を離れる。
そしてそれはここネルフ本部に於いても例外ではなく、出入り業者によっ
て営業されていたネルフ本部展望大食堂は、今や深刻な人手不足に悩まされ
ていた。
このままでは職員の食生活が危ない!
「仕出し屋でも呼びますか」
「その前に、ちょっちやってみたい事があるの」
日向マコトの冗談めいた口調に、ミサトは何やら思惑ありげな微笑を浮か
べた。
・ ・ ・
ネルフ総司令官執務室
冬月 「レトルト食品の組み合わせによる、メニューバリエーションの増
加かね?」
ミサト 「そうです。レトルトですので値段も低く押さえられ、管理・保管
も容易。第一に調理師免許の必要がない為、かなりの小人数でも
営業が可能です」
冬月 「”MAGI”はどう言っている?」
ミサト 「スーパーコンピューター”MAGI”による回答は食べられる、
2、条件付きで食べられる、1でした」
冬月 「食用としての適応率は8.7%か…」
ミサト 「最も高い数値です(しょせんコンピューターに、あたしの料理の
おいしさは分からないのよ)」
ゲンドウ「反対する理由はない(私はコンビニ弁当だし) やりたまえ、葛
城一尉」
リツコ 「しかし、また無茶なメニューを考えたものね」
ミサト 「無茶とはまた失礼ね。小人数で実現可能、おまけに栄養満点でオ
イシイのよ」
リツコ 「これがねぇ…。でも、こんなメニュー、プロの料理人が作るって
言うかしら? どうするの?」
ミサト 「決まってるでしょ。そのために司令の許可、とったんだから」
リツコ 「司令の許可って、まさか!」
ネルフ大食堂
ミサト 「以上の理由により、このメニューを作って頂きます」
ゲンドウのサインの入った命令書をちらつかせ、にっこり微笑む
ミサト。
料理長 「…かと言って、しかしそんな無茶な」
ミサト 「可能な限り、職員一同に食堂を利用するよう務めますので。では、
御協力感謝いたします」
料理長 「はぁ…」
ミサト 「いいわよレイ、持ってきて」
最初からこうなる事が分かっていたのだろう。レイが押してきた
ワゴンの上にはレトルトカレーとカップメンが山と積まれていた。
それを満足気に眺めたミサトは、まだ渋い顔を崩さないでいる料
理長の方に向きなおった。
ミサト 「販売は本日1900。以後、本メニューを『ミサト風特製カレー
ラーメン』と呼称します」
・・
中央病院 第3内科病棟
シンジ 「…また…知らない天井だ」
意識が戻ったシンジにレイは『ミサト風特製カレーラーメン』が
正式メニュー採用された事を伝える。顎然とするシンジ。
何故なら、シンジの入院の原因はミサトが担当した昨夜の夕飯、
”MAGI”に食用としての適応率8.7%と判定されたミサト風
特製カレーラーメンにあたったからなのだ。
レイ 「60分後に夕食よ」
シンジ 「また…あれを食べなきゃならないのかな」
レイ 「ええ、そうよ」
シンジ 「僕はイヤだ。綾波はまだあれを食べて怖い目にあった事がないか
らそんな事が言えるんだ。もうあんな思い…したくない」
レイ 「じゃあ寝てたら」
シンジ 「寝てたら…って」
レイ 「『ミサト風特製カレーラーメン』はあたしが食べる。赤木博士が
夕食のレシピの書換えの用意、しているわ」
シンジ 「リツコさんが…(ジャア、タベラレルカナ?)」
レイ 「じゃ、葛城一尉と赤木博士が食堂で待っているから。さよなら」
レイの言葉に安心したのも束の間、リツコのレシピ書換え計画は
ミサトに発覚。『ミサト風特製カレーラーメン』は当初の予定通り
食卓へ上ることになる。
リツコ 「これはもう、薬でふせぐしかないわね」
マヤ 「薬ですか」
リツコ 「使用期限切れてるけど、これでミサトのカレーにも17秒は保つ
わ。医療部の保証書付きよ」
ネルフ大食堂 18時50分
シンジ 「こんな夕食むきじゃないメニュー、出していいんですか?」
リツコ 「仕方ないわよ。間に合わせなんだから」
シンジ 「…大丈夫ですよね」
リツコ 「理論上はね。けど、胃や腸がもつかどうかは食べてみないと分か
らないわ。こんな大量に作ったこと1度もないから」
シンジ 「そんな…」
リツコ 「今はよけいな事を考えないで。ひと息に食べることだけを考えな
さい」
シンジ 「…大ピンチって事か」
レイ 「わたしは……わたしはこれを食べればいいのね」
リツコ 「そうよ」
レイ 「分かりました」
シンジ 「……綾波は何故これを食べるの?」
レイ 「助かるから」
シンジ 「…何が?」
レイ 「食費が…」
シンジ 「……」
レイ 「時間よ、食べましょ。じゃ…さよなら」
ネルフ大食堂 19時00分
マコト 「作戦、発動しました。第1から第10テーブル、オーダー開始」
なんたって初日だから、と厨房で自ら盛りつけ役を引き受け張り
切るミサト。そんなミサトをよそに、シンジは目の前に置かれた器
に手を出せずにいた。
シンジ 「これで…死ぬかもしれないな」
レイ 「どうしてそういう事を言うの?」
シンジ 「……」
レイ 「あなたは死なないわ。…私が守るもの」
ミサト 「おっ待たぁ。あれ、どうしたの? わざわざ待っててくれたの?
先に食べててくれて良かったのに。ほら、食べて食べて」
一方そのころ厨房では。
マコト 「鍋の外縁に化学反応!」
リツコ 「まずいっ!」
ミサト 「何か言ったぁ?」
ガチャン!
シンジ 「落としちゃった…」
ミサト 「2皿目、急いで!」
マコト 「2皿目、盛りつけ開始…………はいっ、葛城さん」
ミサト 「さぁ、食べてン(ハァト)」
レイ 「(碇君は私が守る)……ささっ(ぱくっ)」
シンジ 「あ、綾波っ、僕の皿を…」
レイ 「£#*☆★¥∞∴(-_-;;;;;;;;;;;;)」
シンジ 「綾波っ!大丈夫かっ。綾波ーーーーっっ!!」
リツコ 「早く、薬!」
リツコの素早い判断が効を奏し、レイはシンジの腕の中で意識を
取り戻した。
シンジ 「食費が浮くなんて、そんなこと言うなよ。ミサトさんのカレー食
べる前にさよならなんて…怖いこと言うなよ」
ミサト 「ほらぁ、せっかく作ったんだからシンジ君も食べて。ほいっ」
シンジ 「むぐっ…£#*☆★¥∞∴(T_T)」
レイ 「なに泣いているの?」
シンジ 「…(スッゴク、マズインデスゥ)」
レイ 「…ごめんなさい。こういう時どんな顔すればいいか分からないの」
ミサト 「どお? すっごくいけるでしょ(^^) ねっ、ねっ」
シンジ 「…笑えば、いいと思うよ」
レイ 「……(^_^)」
つづく