第四次ハリコフ戦ゲーム
Ukraine'43 [GMT]


Tradition et modernité

( Vae Victis #35 )



伝統と現代性 ( Vae Victis #35 )


1943年の東部戦線といえば、多くのシミュレーションゲームのテーマであるフォン・マンシュタインの名高い反攻や、クルスクでの大激突が思い浮ぶ。
同年のソ連軍による夏季攻勢は、まだそれほど馴染みはないものの、上記の2会戦と同様、この戦争の推移に対する大きな決め手となった。

我々がお薦めする GMT のオーソドックスで上質な製品こそが、その新たな巨人達の争いなのである。


by Théophile MONNIER



依然として精力的で、しかも『古き良き時代』のように製品を提供し続けてくれるヒストリカル・ゲーム出版社は、近頃では益々稀少になってきている。

他の出版社と同様、経済的な多くの困難に直面したGMTは、《プロジェクト 500》と呼ばれる販売方法を採用することによって、どうやら安定を取り戻した。 なにしろ、もう2年も前から GMTは、顧客からの少なくとも 500個のキャンセルのない注文を得た後でないと、製品を売り出していないのである。

この慎重なアプローチもまた、伝統的なヒストリカル・ゲーム市場の、とりわけ米国での瓦解を当然示している。 しかしそのアプローチは、感心なことに、少なくとも GMTの財政上の安定を保証している。 これは非常に重要な事であり、今年(訳註:2000年)出版された全て良質な10個以上のゲームによって、我々に真の復活を見せることができた。




完璧なバランス


Ukraine'43は、『中間レベル』の良質なゲームとして登場した。
その扱う期間は比較的マイナーだが、非常にオーソドックスな東部戦線モノであり、難易度は程々ながらもエキスパート達を満足させるには充分なボリュウムが有る。手頃なサイズではあるが、箱入りゲームとして真に値する内容だ。

Ukraine'43 のスタートライン : ドイツ軍(手前)の防御ラインは一見薄そうなのだが、これに突撃するソ連軍は大出血を強要される。



Ukraine'43は作戦級ゲームである。… 各ユニットは1個師団(バリエーションが幾つかある:ソ連軍は2個狙撃兵師団で1ユニットを構成しているし、ドイツ軍のティーゲル大隊ユニットも含まれている。)を表し、1ターンは5日に相当する。なぜこれらが上手く機能するのだろう。

このゲームが扱う期間は比較的ユニークで、とても興味深い。:
壮絶なクルスク戦直後の、ソ連軍初の夏季攻勢なのである。大損害を被っていたにも関わらず、ソ連軍はまず初めにハリコフ、次にキエフを目標とする南ウクライナ解放に向けた大規模攻勢を、8月3日から実際に開始した。

手短に述べると、このゲームが扱う 3ヶ月の間には、とりわけ国境手前に存在する最後の巨大な天然障害物たるドニエプル川への競争、時にはカネフ橋頭堡での空挺作戦のように完全な失敗に終わることもあったソ連軍の激しい攻撃、そしてマンシュタインによって巧みに指揮されているものの敵を撃退しきれないのが明白な絶え間ない反撃、これらが繰り広げられた。


各々の長所と短所、そして実際には均衡が取れているという観点から両軍をクッキリと対比させるという意味で、この期間は特に興味深い。

一方でソ連軍は兵力と物資の面で勝っており、表面的には無尽蔵な戦略予備軍を適切に使用することによって、然るべき場所で大規模な攻勢を実施することができた。しかし、この戦争の1年目に露呈した重大な欠陥のいくつかを、依然として抱えていたのだ。:
時には無能な司令部、無益な攻撃による全部隊の喪失を時には無視すること、ドイツ軍が実施した焦土作戦によって悪化した補給問題の統制不足、それに明らかな戦術上の劣勢。
これらの欠陥の全ては 1年後('44年)にはほとんど無くなるのだが、現時点でスタブカ (ソ連軍の最高司令部) は依然として重大な過ちを犯していたし、勝利は決して確実なものではなかったのである。

それに対してドイツ軍は、殆ど正反対の状況に置かれていた。:
依然として彼らは戦術面と作戦レベルで敵を圧倒しているものの、結局、クルスク戦後には出血多量の状態になり、戦略的主導権の全てを失ってしまった。
SSや幾つかのエリート装甲師団といった最前線の火消し部隊の介入にますます依存することになったが、彼らの介入は常に決定的ではあったものの、戦争全体の流れを変えるには決して十分ではなかったのだ。


Ukraine'43は多くの “独特な” ルールを用いることで、これらの状況を上手く再現している。ドイツ軍は僅かながらも戦術的優位を大抵の戦闘で享受しており、しかも戦線の裂け目を塞ぐために、非常にタフで機動力のある幾つもの師団を自由に使えるのである。
ソ連軍もまた、いくつかの《突撃》戦車軍 (両陣営の戦車部隊はスタックさせることによって、その固有戦力以上の力を得ることができる) と、敵の戦線を決壊させるための砲兵ボーナスを所有している。

最後に、前線の最高指揮官、当時はジューコフとマンシュタインを表す2つの駒は、固有の特殊能力を有している。:
前者は損害を激化させるボーナスをソ連軍に与え、後者はドイツ軍部隊ユニットから混乱マーカーを取り除くことで正常な移動を可能にしてくれる。




簡単だが、上手く活用されたアイディア


厳密な意味でのゲーム・システムに関して、Ukraine'43はオーソドックスではあるが緻密さに富むという原則に基づいている。
ゲーム・フェイズは互いに2回の戦闘フェイズと2回の移動フェイズを持ち、わりと複雑である。

手番プレイヤーは、まず第1移動フェイズから始め、次に第1戦闘フェイズを行う。
非手番プレイヤーは、この段階で自軍の3スタックまでを対応移動させることができる。
その後、手番プレイヤーは全ユニットを再び動かすことができるのだが、機械化ユニットだけが全許容移動力で移動可能、しかもこのフェイズ(突破フェイズ中)でのみ機動強襲を実施できる。歩兵ユニットは1ヘクスだけ移動できる。
最後に、手番側のユニットは幾つかの条件下で再び戦闘を行うことができる。


このターン構成は、正規の攻撃速度と見事に一致している。:
最初の一斉攻撃、次に突破、そしてラストの攻撃努力。


これらには、幾つもの多かれ少なかれ画期的な特有のルールが付随してくる。

まず、戦闘はダイスを1個だけ振るのではなく、戦闘の規模(マグニチュード)と参加する合計ステップ数に応じてダイスを振る回数を変えて、戦闘結果表上で解決する。このため、大規模な攻撃では相応の結果を収められるようになっている。
逆に幾つかの地形 (都市または要塞ヘクス)では、戦闘解決時にダイスの出目が1〜4の場合、攻撃側に1損害ステップが自動的に科せられる。

補給は、部隊の前進に応じて鉄道の先端を進めるという、ありきたりな方式を用いるオーソドックスなものだ。少々不確実だが、ソ連軍ユニットは司令部ユニットから7ヘクスより遠く離れているとダイスを1個振ってチェックを行い、それに失敗すると燃料欠乏に陥る可能性がある。

訳註 : 正確には、このチェックは機械化ユニットが対象であり、司令部ユニットではなく補給源(普通は鉄道末端)を起点にして、7ヘクス以内にあるかを数える)


そして最後の特殊性である支配地域 (ZOC) は多孔質 (水を通す意) である。追加の移動ポイントを消費することによって通リ抜けることが可能だが、複数の防御側ユニットが間を1ヘクス空けて並んでいると例外となり、その場合は ZOCが強固になる(ZOCボンドを形成)。しかもこの ZOCボンドは、ユニットが適切に配置されている際には安定した戦線を見事に再現するのだが、最初の突破口を開けられてしまうと、すぐさま浸透されやすくなってしまう。これは優れたアイディアである。


カラフルな小冊子が付属している総じて、およそ30ページの冊子に纏められたルールは結構緻密であり、初回の通読では理解するのが難しいだろう。
幸いにもゲームの補助アイテムは多岐にわたっており、ゲームの様々な段階を巧く要約しているし、ルールそのものも非の打ち所のない明解さがあり、問題点を適切に解説すること、及び不明瞭な表現を取り除こうとする真の心意気が感じられる。

ところで、ルールや様々な例を記載したカラフルな冊子を備えていることから見ても、やっぱりこれはアバロンヒルの伝統を打ち破っているのだろう。


ゲームバランスは秀逸だ。
ソ連軍はドイツ軍の2倍以上のユニット(それに4倍もの補充ポイント)を自由に使用できるとは云え、彼の任務は途方もないものである。なぜなら、幾多の天然障害物や要塞都市を含む強固な戦線を突破しなければならないし、戦闘システムが流血タイプなので、重大損害を覚悟する必要があるからだ。

さらにデザイナーは、不安定なサドンデス・ルールを活用する優れたアイディアを考案していた。

各ターンには、ゲームの進行に従って変化する勝利ポイント数が表示されている。もし、一方のプレイヤーが(陣営ごとに修正された)ポイント数値に到達すると、そのプレイヤーが勝利するのである! 

訳註 : 各ターンには勝利ポイントの基準点が設定されており、各ゲームターン終了時にソ連軍プレイヤーが保持しているポイント数が基準点よりも6ポイント多ければソ連軍が、6ポイント少なければドイツ軍が自動的に勝利する。)


実際、この原理は、両プレイヤーを進んで危険を冒す気にさせるし、ドイツ軍プレイヤーにも現実同様、できるだけ長期間領土を保持することを強いるのである。(もちろん、徐々に放棄することが許されるような目標ヘクスに、意味も無く しがみ続けるべきではない。)


結論として Ukraine'43 は見事な仕上がりの製品であり、プレイアブル (東部戦線ゲームの中では珍しい) で、迷うことなく遊戯室に加えることができる。

たとえ、内容物やグラフィックに僅かな追加投資の必要があると思われるとしてもだ。



Ukraine'43

ゲーム 英文、難易度は普通、出版元はGMT。
付属品 大きめのマップ1組、280ユニット、ルールブック1冊。
品質 創意工夫に富み、さほど難しくないルール、非常に優れたアイディア、そしてダイナミックなプレイ。
早々に東部戦線の古典ゲームになるだろう。
欠点 グラフィックは全く平凡であり、ヒストリカルノートとプレイ例は少々大雑把である。
評価 : 4.5点 (5点満点で)

 

Fin


本記事掲載誌の Vae Victis 35号は、2000年10月に発行されました。
この非公式翻訳文は Vae Victis 編集部の許可を得て公開しています。

Translated by T.Yoshida

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