第三次ハリコフ戦ゲーム
Staligrad Roads [Nuts! Publishing]


Stalingrad Roads

Tout Part De Stalingrad

すべてはスターリングラードから始まる


(Vae Victis  #176)

 


ロシア戦線における象徴的な戦いである 『スターリングラード戦』 は、恐らく 独ソ戦 のなかで最もシミュレートされてきた闘いである。
デザイナーの ニコラ・リダ Nicolas Rident による この新作は、 このテーマに何を与えることができたのか?


by Hervé BORG

  二つのゲーム ( Liberty Roads および Victory Roads、 Vae Victis #85 と #125 を参照 ) から成るシリーズを Hexasim 社から出版した後、デザイナーの Nicolas Rident は同じゲームシステムで開発を継続し、今回は Nuts! Publishing 社から発売した。

Staringrad Roads のマップ画像だが このゲームが扱う領域は 以前の二作品よりもずっと狭い。というのも、そのゲームマップは ロストフ を南端として ハリコフ と スターリングラード のあいだの地域が描かれていて、クルスク や ヴォロネジ は範囲外となっているのだ。

17ターンの長さの キャンペーン ・ シナリオ は 1942年11月半ば から 1943年3月末まで繰り広げられるが、これはつまり、ソ連軍の冬季攻勢 から ドイツ軍よるハリコフでの反攻 まで扱うものとなる。 それに加えて、12月のドイツ軍の反撃 から ハリコフをめぐる戦いまでを扱う つの シナリオが用意されている。

Hexasim 社から出版された2つのゲームとは違って、こちらの ユニットカウンター(駒)は VUCA 社のビジュアルを彷彿とさせる簡素なデザインで描かれている。(全体の)サイズが小型化され、ゲームマップを 非常に理にかなった サイズに留めることができた一方で、取り扱いの面で ちょっとしたアクシデントの原因にもなっている。

Stalingrad Roads のユニット・サンプル画像問題は、フランス製のゲームであるにも関わらず、我々がこの記事を執筆している時点では Nuts! 社から入手できるフランス語版ルールが無く、残念としか言いようがないことである
訳註 : その後、Nuts! 社の公式ホームページから PDFファイル形式で仏語版ルールは ダウンロード可能になった )

ユニット(駒)は、この戦役期間では 常に適切 且つ 心ときめく スケール(部隊規模)である 『師団』 を表す。

 

 シンプルな基本システム

他の大多数のゲームとは異なり、Stalingrad Roads のユニットは、補給 あるいは 特殊移動 ( 鉄道移動 や 戦略移動 ) に関わる場合を除いて 支配地域 ( ZOC : Zone Of Control ) を及ぼさない。そのため、戦線の裂け目は 即座にすべて突破されてしまう だろうが、それは駒の移動力が 歩兵部隊で たったの、機動部隊 ( 騎兵 と 機械化部隊 ) でも であるため、と説明できる。

ゲーム・プレイの手順 は、まずは移動、次に戦闘、それから突破、という 伝統的 なものだ。

しかし 戦闘システムは、一般的なものとは異なる。
実際、戦闘結果は 3列 で表示されていて、そのうちの 2列 は色彩の変化を用いた かなり珍しい形となっている。 1列目 (Losses) は両陣営が被る 「素の損害」 を示し、2列目 (A) と 3列目 (D) は それぞれ 攻撃側 と 防御側 の 「戦術的な戦闘結果 訳註 : 戦闘後前進 や 退却、突破 など ) 」 を表示している。
Stalingrad Roads の戦闘結果表画像この 「戦術的な戦闘結果」 では "退却" と "隣接する敵部隊の反応" の両方を、あるいは 攻撃側に対して < E > 表記で "突破" の許可を提示できる。攻撃側が受け取った < E > の数値 ( E、E2、E3 ) 毎に1個師団の突破許可が与えられるというわけだ。
攻撃側が "戦車戦 ( Armored Attack ) " を宣言すると、彼はさらに < E > を1個 追加して受け取る。 さらにボーナスとして、簡素な 「 一ツ星 ☆ 」 がユニット上に 印されている エリート部隊 は、この 「戦術的な戦闘結果」 を 同じ列の中にある同色の別の結果に変更要求できる。これがために、このゲームの 戦闘結果表 は カラフルになっているのだ。

上記の ユニークな戦闘手順 には すぐに慣れてしまうものの、ドイツ軍の優位性に関するルールをマスターするには より多くの時間を要する。その優位性は、丁度 4つ の場面 ( 攻撃時の2つ、防御時の2つ ) で発揮され、『 ドイツ軍部隊が自らの損害を減少させる 』、または 『 ソ連軍部隊の損害を増大させる 』 、あるいは 『 < E > マーカーをより多く獲得する 』 ことを可能にする。このアドバンテージは ドイツ第三帝国部隊 の ”戦術的な優位性” を表現するためのもので、ソ連軍プレイヤーが重大な勝利を得るたびに 「待った」 が掛かるようになっている。
それにより、ソ連軍部隊が主要都市 ( 当然ながら スターリングラード や ハリコフ、ロストフが含まれ、他にも マリウポリ ) を占領するにつれて "ヒトラー総統の慢心" と それを要因とする "ドイツ国防軍 ( Wehrmacht  ヴェーアマハト ) の 敗北" は連動しながら進行し、徐々に ナチスの傲慢 は自らを失墜させてゆく。 これは コンパクト 且つ 妥当 な サブシステムではあるが、( プレイヤー側に)  吸収 ・ 習得 する努力が求められる。

 突破フェイズ時 に貴重な < E (突破) > マーカー を所持している師団は、その 移動力値の半分まで 移動できる。その師団が 機械化部隊 ならば、攻撃 もできる。

 

 支援が無いなんて、ありえないyo

Stalingrad Roads のボックスアートこのゲームの もう一つの特性 は、"支援マーカーの無作為抽出" である。

枢軸軍陣営は ヒトラー総統の満足度 次第で "支援マーカー"1枚引き当てるが、総統の満足度は ソ連軍の 「重大勝利」 および 「目標地の占領」 に応じて変動する。 この "支援マーカー" を使って 将軍 ・ 特殊部隊 ・ 航空部隊 ・ 砲兵部隊 による支援提供、あるいは 特殊戦 (例えば、移動フェイズの前に "一撃喰らわせる") を実施する。
枢軸軍は、これらの 支援マーカー を前線のあらゆる場所で活用できる

それに対し、ソ連軍は もっと遥かに複雑である。 なぜなら ソ連軍側の支援では、無作為抽出した枚数の支援マーカーを 攻勢マーカーの有効範囲内 に配置しなければならないからだ。
ここで詳細には触れないが、赤軍 (ソ連軍) は 大規模攻勢 (大攻勢) マーカー を1枚 と 小規模攻勢 (小攻勢) マーカー を2枚を所持 し、各ターンでは 実施中の攻勢 (つまり、マップ上に配置した 「攻勢マーカー」 ) 毎に 支援マーカーの枚数をランダムに決定する
 
訳註 : 攻勢マーカー毎に 6面体ダイスを2個振って出目を合計 (2d6) して 「支援表」 を参照し、 "無作為抽出する支援マーカーの枚数" を決定する)


上記の方法で、上手く行けば 赤軍は最大で 14枚の支援マーカーを入手するのに対し、枢軸軍は 敬愛するヒトラー総統が特別上機嫌な時でも せいぜい3枚しか得られないのである。

このように、Stalingrad Roads は 「ドイツ国防軍の最高度の柔軟性」 と 「赤軍の 戦闘手段 と 戦闘能力 の顕著な優位性」 とを 同時に 且つ 精緻に 再現している。 このシステムの もう一つの利点は、"ソ連軍プレイヤーが 戦略的な自由度 をある程度残しつつ、自身の望む場所に 戦争資源を集中 できる" ことである。 けれども、この自由度は 攻勢マーカーの枚数 と その影響範囲 が原因となって 窮屈なまま であり、その為に プレイヤーには (攻勢マーカーの) 展開移動ルールに耐え忍ぶ努力 が少しだけ要求される。

 

 こりゃぁ、錯綜するわな

Stalingrad Roads には "特別ルール" が多数用意されている。

例えば 「ヒトラー総統の満足度 Satisfaction of Hitler」 は、フォン・マンシュタイン将軍の更迭へと至る可能性がある。

しかし この マンシュタイン将軍は条件付きで 二度の反攻を枢軸軍に実施させることができて、その反攻のターンの間は 無作為抽出なしで 支援マーカー を選択できるのだ。
一度目の反攻は、'42年12月のターン中に自由に実施できる (史実的に この反攻は、スターリングラードで孤立している第6軍との合流を試みた「冬の嵐作戦」なのだが、これは無駄に終わった)。
'43年1月からの 二度目の反攻は 「後手からの一撃 The Backhand Blow」 の呼び名でよく知られていて、(枢軸軍は)疲弊した赤軍に手酷い絶望を味わせてから ハリコフを奪還したのである。

「ヒトラー総統の気力 (moral)」 が ゼロになるたび、ヒトラーは OKH (ドイツ陸軍総司令部) に対して苛立ち始めるのだが、これにより フォン・マンシュタイン の信用が低下する可能性がある。この信用がゼロになると彼は更迭されてしまう。
これは なかなか面白いルールだが、あなたはそれを (イチイチ) 確認するハメになるので、局所的な勝利を対象とする 少々面倒なルール でもある。

Stalingrad Roads のプレイ画像「ウラヌス (天王星) 作戦 (スターリングラード方面でのソ連軍の攻勢)」 と同様の意図により、これと対になる作戦が、もっと北のモスクワ方面で繰り広げられた。 「マース (火星)」 と名付けられた この作戦は、ウラヌスの時と同様の戦法を多く採用したにも関わらず、塹壕をめぐらせて守りを固めたドイツ軍部隊に直面し、 血まみれの大失敗 に終わった (赤軍側の死傷者は 50%を越えた)。 まぁ、そういうわけなので、ソ連の歴史家達は 良心的に 訳註 : ここでは 「忖度して」 の意です) この作戦を "無かったこと" にしてしまったのだが。 
今ではよく知られている この 「火星作戦」 を、Stalingrad Roads では 幾らかの 増援の到着を 早めたり遅らせたり する "火星作戦トラック" で表現 している 訳註 : 「火星作戦フェイズ」 の際、ソ連軍プレイヤーはダイスを振り、出目に従って マーカーをトラック上で前進させる)。 その点では まだ好感の持てるルールなのだが、その効用には異論の余地があるし、しかも、プレイヤーには手出しができない 「ダイス振り」 によって完全にコントロールされてしまうのである。

当然ながら 「火星作戦」 ほど 無駄ではないものの、大半のルールを動員する 「スターリングラード要塞 Fortress Stalingrad 」 の重要性である。実際には、第6軍がスターリングラード地区で補給を断たれた際、ドイツ軍プレイヤーは この都市の周辺に要塞地帯の形成を宣言できる、というもの。この決断を下せば、まず第一に "ヒトラーの気力(moral)" に与える影響を抑制できる。
第二に、これら包囲下の部隊は "ピストン空輸(航空補給)" の恩恵に浴するのだが、この恩恵は、ピストン空輸の総輸送量に応じて無作為抽出される "特殊支援" が追加で与えられる、という形で表現されている。
第三に、要塞内に閉じ込められたユニットは "非補給下" の状態ではあるものの、少なくとも補給レベルが規定内であれば、そのユニットは潜在的な防御力の低下が免除される。
そして第四に、ソ連軍プレイヤーは スターリングラードの包囲に少なくとも 24個師団を割くだけでなく、それらの部隊を第6軍殲滅のために尽力する攻勢に投入しなければならないが、この攻勢は必然的に西方への 圧力を抑制することになる。

 スターリングラード・ポケット は、枢軸軍に対して 一つの可能性 を ・・・ 少なくとも初期段階では ・・・ 示しているかもしれないし、コントロール不可能な重圧とは到底言えないものだ、とは理解できる。 なぜなら、赤軍に "一時停止" を強いるのだから。
とは言っても 一方で、 数の上で勝り続ける数多の敵部隊 と対峙する ドイツ国防軍 (Wehrmacht) は、他の戦線を維持するために 自軍部隊を上手く運用 しなければならない。
他方で、件のポケット (孤立地帯) の補給を復旧可能にする "装甲部隊の拳" を形成するために (他の戦線から) ドイツ軍部隊の大半を引き抜いたことが バレバレになる、そんな事態は くれぐれも回避するように (この事態は現実に発生した)。

 

  見た目よりも難しい

Staligrad Roads の裏箱これらの 「複雑さ」 は、史実の経緯や、そこに加えられた(政治的 ・ 軍事的な)強制作用を かなり細かく復元 (再現) 可能にしてくれる。
ソ連軍優位であるにも関わらず、枢軸軍は 切れ味鋭いであろう反撃能力を依然として所持している。 加えて、赤軍が西進するにつれ、無作為抽出される 支援マーカー は、徐々にではあるが確実に (支援体制の悪化を経て) 弱体化していく。そのため、ドイツ国防軍は最後の反攻のための部隊再建が可能になる。
他方で、ドイツ軍は最初からスターリングラードの第6軍の撤退を試みることが十分に可能だが、その試みが 政治的観点からも 軍事的観点からも お世辞抜きで非常に現実的 であることが明らかになるという "代償" を、彼は払うに違いない。

とはいえ、Stalingrad Roads は "制御された害悪" だと思われかねない 「複雑さ」 を提示している。
それは まず第一に、このゲームのルールが常識的な長さ(22ページの分量)で、且つ 理解するのは難しくないとは言いながら、各々のサブシステムには詳細なルールがたくさんある。確かにそれらは必要なのかもしれないが、しかし プレイヤーの習得努力を かなり重くしてしまっている。そして一見したところ 中難度 のゲームとしか思えないこの作品が、実は 高難度、それどころか 極めて高難度であると 直 (じき) に判明するのだ。
第二に、その 「複雑さ」 を通じて 私たちを導くのが仕事であろう "プレイ補助アイテム" が、その役目を果たしていない、と言うか、それほど十分には果たしていないのである。そのため、キャンペーン・シナリオをプレイする際はゲームマップの およそ二倍に等しい面積が必要、と見ておかなければならない。 というのも、「増援表」 や 「状況表 (火星作戦、天候、etc)」 といった多くの 紙片(カード) を置くスペースを見つけなければならず、そこには 「ソ連軍の支援の一覧表」、「ドイツ軍の支援の一覧表」 それに 「スターリングラード要塞」 のルール・カード が加わり、まぁ、地形や戦闘結果用の補助アイテムは いらないとして ・・・ もう たくさんだ! 
これらの 補助アイテム は、気軽に扱うには (素材が) 柔らかすぎて どうにもならない 点に注意すべきである。

これら全てが Stalingrad Roads を粗悪にしているわけではない。
それどころか、示唆に富み、独創的、しかも何度でもプレイできる優れたゲームであることが(逆に)問題なのだ。 この点に関しては、どちらかと言うと、このゲームが要求する "負担" を吸収するための 決意記憶空間( = 記憶力?) が、プレイヤーの側に必要となるだろう。



STALINGRAD ROADS
     
長所 ソ連邦南部における 1942年 ~ 43年の冬季戦役を扱う 非常に完成度の高いゲームで、各プレイヤーが自身で戦略を決断できる。
     
短所 (ルールの)複雑さが負担になるかもしれない。
内容物(の品質)は、このゲームに見合うものではない。
     
出版社   Nuts! Publishing
     




本誌図版説明

P.25 上段 : ヒトラーの命令には反するものの、ドイツ第6軍はスターリングラードを放棄し、懸命に隷下の歩兵部隊を救出しようとした。
歩兵部隊の移動力値は2であり、加えて イタリア軍部隊との連結点である チル川 北方で ソ連軍戦車部隊が猛攻を仕掛けているため、さすがに 救出したとは明言できない。
右上のハンガリー第2軍(ライトグレーの駒)まで戦線が続いている様子が、この写真で見てとれる。
P.26 上段 :
このゲームの入門シナリオは、ヘクスで区分けられた専用のミニ・マップを使用する(思ったよりも)ずっと立派なもので、「冬の嵐 Wintergewitter 作戦」を扱う。
枢軸軍は 支援マーカーを2枚選択可能で(ここでは「ホト将軍 Hoth」と「奇襲攻撃 Suprise ATT」)、それに加えて「ドイツ空軍 Luftwaffe」を引き当てた。そうしている間に、増援として第17装甲師団が到着する(マップの左端に配置)。
スターリングラードで孤立しているドイツ軍部隊は "支援マーカー" を得てはいるが、これは シナリオ終盤にならないと中身が判明しない。この状況下で 孤立部隊に 包囲網外からの来援を援護するための攻勢を可能としてくれるのは、その支援マーカーだけである。
P.26 下段 : 戦闘結果表を見ると、 ちょっと目がチカチカしてしまう。だが未経験者諸君、安心したまえ。案外早く目が慣れてしまうのだ。このシリーズの常連プレイヤーなら、ササッと自軍の戦闘結果のスコアを捜し出してしまう。
P.27 上段 : 主攻勢(大攻勢マーカー)上空、彼ら(赤軍)の行動範囲内での 空軍による支援の甲斐あって、悪名高い 第3SS "Totenkopf" 師団の目と鼻の先で ソ連軍部隊は ハリコフ を解放したばかり。ただし、弱体化した彼ら赤軍は、第三帝国のエリート部隊から反撃を受けるかもしれないのだ。

 

 

Fin

 



本記事掲載誌の Vae Victis 第176号は、2024年9月に発行されました。

この非公式翻訳文は Vae Victis 編集部の許可を得て公開しています。

Translated by T.Yoshida

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