第三次ハリコフ戦ゲーム
Enemy Action : Kharkov [Compass Games]


Enemy Action : Kharkov

Manœuveres en Solitaire en 1943

1943年における “お一人様” での部隊運用


(Vae Victis  #169)

 


1943年の東部戦線 (ロシア戦線) における 「無謀な作戦」 と思えるテーマを扱う ソリティア (一人用) ゲームを採り上げよ。
ソリティアゲームの場合、二つの陣営のどちらか一方が 静止態勢 の状況であるのが好ましいが、この東部戦線における両陣営 (ドイツを中心とする枢軸軍と、ソ連軍) は機動戦力のすべてを、いまだしっかり保持していたのだ。
さてさて、こんな無謀な賭けに勝てるのだろうか?


by Grégory ANTON

ソリティア (一人用) ゲームの市場は数年前から拡大し続けている。
当然ながら、それは もはや 近所に対戦相手などいない プレイヤーの 数 が増えているからではなく、Covid (コロナウイルス) の感染拡大が理由だ と今でも 説明 がつく。そのため ソロプレイ (一人でゲームをプレイすること) に適したゲームが、新製品のなかでも次第に数を増している。とは言っても それらの品質には バラつき があるのだが、Decision Games の有名な "D-Day at 〜" シリーズ や "RAF" シリーズ、GMT の "SpaceCorp" シリーズ、それに Victory Games の高名な "Ambush!" シリーズ をはじめとする作品の ジョン・バターフィールド John Batterfield 氏のように、ソリティアゲーム作品で 抜きん出た存在 となっている ゲームデザイナー が何人かいる。そんな彼の最新作、"Enemy Action : Kharkov" は他の多くの作品と比べて異色といえるものだ。

 Enemy Action : Kharkov のボックスアート まず、これは ソリティア単体 のゲームではなく、同梱されている三つのゲームのうち二つが ソリティアゲーム となっている! オーソドックスに 二人でプレイ することも充分可能だが、“ソビエト陣営のみ” で、あるいは “ドイツ陣営のみ” でもプレイできる! 
もう一つの特徴は、もちろんゲームのテーマ : 1943年2月に起きた 第三次ハリコフ戦 である。この戦いは ソ連軍 による大攻勢 “星作戦” と “ギャロップ作戦” で始まる。この二つの作戦は スターリングラ―ドをめぐる戦い に勝利した後に発動されたが、マンシュタイン元帥による名人芸の策略 ・ ドイツ軍の有名な反攻により、ソ連軍部隊は壊滅してしまう。
 “主題”、それも特に (この戦いの) テンポ は、プレイヤーが 明確に役割が分かっている陣営 (普通は攻撃側) を指揮するのに対して ゲームシステム側の陣営は さまざま ルーティン を経て 自陣営 の 管理 ・ 運用 を行う 『 ソリティアゲーム 』 では、滅多に お目にかかれない ものである。 このゲームでは 両陣営が 交互に攻撃側 となるので、両者に (役割等の) 違いは何もない。 実際、既に このような Enemy Action システムの傑作ゲーム "Enemy Action : Ardennes" が 2015年 に出版されていて、このゲ―ムは二作目となる。 後者 (Ardennes) は アルデンヌの戦い (訳註:1944年12月の西部戦線における ドイツ軍の反攻作戦、通称 「バルジの戦い」 ) を シミュレート するもので、この Kharkov と同じ 攻撃/反撃 シークエンスを用いるが、舞台となる 戦場 はもっと狭い範囲 となっている (訳註 : ゲームマップのサイズは同じだが、1へクスあたりの距離が Kharkov では 7.5マイル、Ardennes では 2.5マイル)。 東部戦線は その激しい流動性 が良く知られていて、この点で (西部戦線の) アルデンヌ戦 とは大きな違いがある。そのため Enemy Action のゲームシステムは、予想をはるかに上回る 「戦線の動き」 を二作目で描写できねばならない、あるいは正面から それに取り組まねばならないのだ。

 

入念仕上げの内容物

 この Enemy Action シリーズは Compass Games が出版している。 極めて多作なこの出版社は、のちにその ゲーム内容物 の 品質の良さ で認められている。
この会社のゲームには、発売前の (ルールの整合性等の ソフトウェア面 での) 検査不足という 一面 も確かにあるかもしれないが、しかし それはゲームデザイナーの意識次第であり、そのような不安要素は、このゲームにおいては ジョン・バターフィールド によって取り除かれている。

 ハードウェア (ゲームの内容物) の面では、ギッシリ中身の詰まった 大きな箱 に プレイヤー は満足する。 三つのゲーム が同梱 されているため、ルール冊子が三部、マップが三枚、それに各ゲーム毎に専用の プレイ補助アイテム が収められている。 すべてが上質で、三つのゲームの 用具を取り違える ことは まず無い。その代わり、432個のユニット (駒) は三つのゲームで 使い回し をする。 馬鹿デカい サイズの ユニット(駒) に関しては、どちらかといえば 古典的な字体 を使っているが 駒に厚みがあり、角が丸みを帯びていて ボードゲームの駒 と言ってもよいほどのモノが同梱されている。 だがそれよりも、箱の中にはゲームプレイで あらゆるアクション を引き起こす 110枚のプレイカードが入っている。それらのカードは硬めの素材が使われていて、ゲームに登場する様々な 部隊 (フォーメーション) のカラーで着色されている。

 要するに、ゲームの内容物は高品質なのだ

 

三つのゲームに 唯ひとつのゲームシステム

上述したように、第三次ハリコフ戦のゲームが 箱に 三つ入っているわけだが、全く 異なる ゲームシステム が 三つ用意されているわけではない。この 三つのゲーム は 実際には 同一のゲームメカニズム を使用しているので、一つのゲーム から 他のゲームへ と 比較的容易に 移行できる。
簡潔に言うと、この三つのゲーム の間にある違いは、主に ソリティア (一人用) ゲーム に関するものだ。 というのも、このゲームには ゲームシステム側がプレイする陣営 が用意されているとは言っても、ソ連軍側、あるいは ドイツ軍側を ゲームシステムがプレイする ソリティアゲーム は 同一の手法では運用されない  ことは分かりきっている (訳註 : 史実での両軍は、部隊運用のドクトリンが異なる) からである。そのため、この三つのゲームの 戦闘 ・ 移動 ・ 補給 の メカニズム は共通してはいても、それらの微妙な違いを説明するために 二人用ゲームのルール冊子が 25ページ あるのに対し、ソリティアゲームの冊子は ソ連軍でのプレイ用が 42ページ、ドイツ軍でのプレイ用が 47ページ となっていて、明らかな違いがある。 尚、これら 三部の冊子 すべてには 多くの例図 が掲載されていて、とても理解しやすくなっている。

三つのゲームで共通の ゲームシステム は、その特徴をよく示している。
まず、ユニットの活性化は、ゲームに登場する各々の 部隊 (フォーメーション) が表示されている 手持ちのカード を使って行う。 一つ一つの 駒 は、ドイツ軍では 一個連隊、ソ連軍では 一個師団 に相当する。 ただし、それらの駒は ドイツ軍だと 六個の 部隊 (フォーメーション) ( 「軍」 の下位組織である 「軍団」 に相当) に、ソ連軍では 六個の 部隊 (フォーメーション) ( 「軍」 に相当) に まとめられている (訳註 : つまり、各々の 駒 はいずれかの 部隊 (フォーメーション)  に所属している)
次に、それらの 駒 を実際に動かすには、動かしたい その駒に対応する 活性化カードを 場に 一枚出して (手番の際に 手札 を一枚プレイして) 部隊 (フォーメーション) を活性化する必要がある。 ゆえに、 このゲームの 核心 は、二つの陣営の部隊活性化 が 循環 (交代) する点にある

 これって簡単なの? 
 まぁ、それほどでも ・・・ 。

 実際、この段階では 両プレイヤー に与えられる 選択肢 は多いのだ。
とにかく、プレイヤーは 自軍各部隊 (を活性化するため) のカード を少なくとも 一枚 は確実に使用できる。 さらに加えて 他に 二枚までのカード を 手札 として所持でき、そのカードを使って 同じ部隊を 活性化できる。少なくとも、その一部をね。
とは言え、プレイヤーは 同一ターン中には 少数の限られた枚数のカードしか使えないので、すべてを活性化できるのかどうかは 不確実 となる。 おまけに プレイヤーの手札 (手持ちのカード) は 無作為抽出で補充する ため、部隊活性化に使うカード を おそらく 三枚は 手にするだろうけれど、お望みのカード を入手できるとは限らない! 加えて、ソ連軍の ( 「軍」 の上位組織たる) 「方面軍」 や 「スタフカ Stavka 」、そして ドイツ軍の ( 「軍団」 の上位組織たる)  「軍」 や 「軍集団」 として機能する「ワイルドカード (ジョーカー・カード) があり、これは プレイヤーが 任意の部隊 (フォーメーション) を活性化できるようにする 。
けれども、これらの 部隊活性化カード を自由に使える ことと、それを 自分で選ぶ ことは同じではない。 実際、これらの 部隊活性化カード を ユニットの活性化 に使った場合、他のチャンスも与えてくれる。例えば、「別のカードで 活性化 したユニットが起こした戦闘」 にボーナスを提供したり、特殊イベントを発生 させたりするのである。

とにかく、部隊活性化カード の運用が 完全に駆け引き であること、それに 勝負の行方を決めてしまう ことが分かるだろう。

 

サイコロ 無しで戦う!

戦闘システムには別の特色がある。
多分、あなたは従来型の 戦力比 や、戦闘状況を反映させる コラムシフト、それに伝統的な サイコロ振り に慣れ親しんでいるだろう?

それらを全部忘れるのだ。

このゲームでは チット を引き当てて戦闘を解決 する。プレイヤーには両面印刷された 60個のチットが用意されていて、戦闘の経過に沿って アトランダムに これを引き当てて (無作為抽出して)  戦闘結果を得る。引き当てるチットの枚数は、その戦闘の規模、それに 投入したユニット や 場に出した (プレイした) カード、さらには これから引き当てるチット によって変化する。

次に、チットの効果は戦闘の状況により変化する
例えば両陣営のどちらかが 砲撃支援カード を 一枚持っているなら、60個のなかに 6個ある 「砲撃チット」 に 効果 が生じる。どちらも 「砲撃支援カード」 を持っていないなら、引き当てた 「砲撃チット」 に効果は全くない。あなたが 「砲撃支援カード」 を所持していても、「砲撃チット」 を一つも引き当てなければ、その 「砲撃支援カード」 は全く影響力が無かったことになる。同様に、戦闘が起きた場所の 地形 ・ 戦力比 ・ 側面包囲 (オーバーラン?) ・ 戦車の参戦 等々の カード や チット も、(対応する チット や カード が出ていないと) 無駄になる。

戦闘時に被る 損害 は、引き当てたチット によって確定される。そのため個々の戦闘を解決する際、チット引きが 不確定要因 となる。そのため、アドバンテージをひっかき集めたつもりでいた戦闘 で期待を大きく裏切る結果になることもあるし、戦力不足 でも戦闘で血を浴びる目に遭ったり、敵陣突破 したりと、多様な可能性があるのだ。

サイコロを振りたくてウズウズするかも、って?
少なくとも、チット引き がそれに相当する。

もちろん、運や偶然がすべてを引き起こすわけではない。 これは例えば、効果的な 「航空支援カード」 を 場に出しておかなければならなかった であろう戦闘で、チットを引き当てた後、手にした チットを見て その戦闘の重要性を思い知る ことが多いからだ。
それでも この場合も、予備にとっておいたほうがいいカードを使ってしまうものらしい。というのも、そのカードを使えば、ある (活性化された) 部隊 (フォーメーション) に属する いくつかのユニット を 同一ターン中の もっと後で 活性化できるのだから。

結局、限られた品揃えの中でリッチなゲームを好むのなら、あなたは このゲームのシステムに満足するだろう。

 

ソリティア(一人用)ゲーム

ちなみに、このゲームをプレイしたいけど 対戦相手 がいないって?
それなら、どちらかの ソリティアゲーム ・ モード をどうぞ。

まず ハッキリ しておかなければならないのは、マーケティング (訳註:市場が求める商品・サービスを提供して利益を得る仕組みを作ること) を目的 として大慌てで 『 つまらぬ小間物 (=流行モノ?) 』 に適応したことは問題じゃない、ということ。 そのゲームシステムにより、ソリティアゲーム ・ モード ではプレイヤーが担当する陣営に 真の深み がもたらされ、さらに ゲームシステム側の陣営の作戦行動 は 毎回 あなたを当惑させ、驚かせさえもする

Enemy Action : Kharkov ボックス裏面一人用のゲームシステムは二人用のそれとは根本的な違いがあり、関連性がない。 なので、まるで人間プレイヤーのような そのゲームシステムは、活性化カードによって自軍部隊 (フォーメーション) を活性化する。
反面、ゲームシステム側のユニットの行動は、最大限に尊重しなければならない指令への服従を強いられる。このゲームメカニズムは概ね論理的であり、その時々のゲームターンに応じた優先指令によって整理されている。

確かに 戦い の 「テンポ」 は時間と共に変化するものであり、( 第三次ハリコフ戦 は) ドイツ軍陣営が回復する以前に ソ連軍の一斉攻撃で始まり、のちにドイツ軍が凄まじい反撃を行う。そのため、ノンプレイヤー (ゲームシステム) 側の陣営が受け取る 指令は ターンが進むにつれて変化する。そういうわけで、ドイツ軍陣営 に関しては、優先して第1ターンで生じた穴 (訳註 : ソ連軍が形成した突破口) を埋めようと努力するが、増援が到来するにつれてドイツ軍ユニットのスタックは増強される。 この 部隊集結 は、危険に晒されたソ連軍に対する強襲が行われるゲーム終盤へと 事を進める ために行われる。

ソ連軍の陣営に関しては、ゲーム冒頭の攻勢段階を充分に利用したい とは当然思うものの、そのテンポは落ちてゆく。 このテンポの変化は、消耗したソ連軍がドイツ軍の強襲を受けないよう サドンデス で決着をつけるべく、人間またはゲームシステムがプレイするソ連軍陣営に対して あらゆる危険を冒すことを強いる。
その効果は ハッタリ そのものだ! 
これに対し、プレイヤーは指揮下にないユニットの活性化指令を守るため、ある程度の苦難を選ばねばならない。各部隊 (フォーメーション) には たった10個ほどの駒しかないので その苦難には骨が折れるかもしれないが、あえてもう一度繰り返し言うが、その努力は 大戦果( = サドンデス ) を目標にすることで維持できるのだ。

ゲームシステムの行動 は、実際のところ、彼が担当する陣営が 防御段階 になって ようやく 戦線を見事に立て直すことができるようになるし、彼の攻撃は よく考え抜かれたものであることが多い。特殊な状況に陥る事態がゲームシステム側に起こる場合も もちろんあるかもしれないが、それは極めて副次的であることに変わりはなく、しかも当前、プレイヤー自身が常識的に 『彼を手助けする』 こともできるのだ。
他方で、ノンプレイヤー (ゲームシステム) が担当する陣営に関して、その 主要概念 と 着手すべき行動 が要約されている プレイ補助カード が ゲームに付属している ことをハッキリ明示することが望まれる。 これは本当に使えるモノで、ルール冊子の中を引っ掻き回して探し出す必要をかなり減らしてくれる。



最後に、スターリングラード戦終了時の1943年に 勇猛なソ連軍 と 機械化部隊で増強されたドイツ軍 が対峙した 第三次ハリコフ戦 を探求したいと あなたが思うのなら、このゲームは 当たり である 。 よく考えられたメカニズムを備えた オリジナル (二人用) のゲームは、主に二つのシナリオ 「ソ連軍の襲撃 ("Operations Star and Gallop" : 6ターン)」 または 1ターン=3日間 の 14ターン から成る 「フルキャンペーン ("The Campaign Game")」 を通して この戦いの様々な局面をプレイできる。
これは絶対、対戦相手がいないせいで 「棚に飾りっぱなし」 にはならないゲームである。信頼性 および 両陣営への適応性 を備えた ソリティアシステム を提示しているからだ。ただし、その 『仮想敵 ( 《 virtuel 》 adversaire ) 』 は 脇役的存在 であろうとはせず、本気で 「勝ち」 を取りに行こうとする。 そのため、人間プレイヤーは真剣にそれを奪い取ることに没頭しなければならない、という事実を強調しておく。

このシリーズの アルデンヌ戦を扱う一作目が 成功作 だったのなら、それと対を成す より流動的な 東部戦線モノ の本作も まったく 同様 と言えよう!



ENEMY ACTION : KHARKOV
     
長所 ソリティアゲームとして本当によく考え抜かれている
  ソリティアゲームでは二つの陣営のどちらでもプレイできるし、二人用ゲームもプレイできる
  プレイヤーに多くの選択を与えるユニークなゲームシステム
  高品質の 内容物
     
短所 ドイツ軍の反攻のみを扱うシナリオの欠如
  (ソリティアゲームで) ゲームシステム側が担当する陣営のユニットを活性化する際、注意を要する
この出版社の製品のなかでは相変わらず高価である
     
出版社   Compass Games
     




本誌図版説明

P.10  : ソ連軍による攻勢開始前の初期状況。精鋭のグロス・ドイチュラント師団が最前線にいるものの、ドイツ軍の戦線は急速に崩壊する
P.11  : ハリコフ市街は砲兵と工兵に支援されたソ連軍に占領されたばかり。ドイツのSS部隊は第3戦車軍に抵抗しなかった。
P.12  : ドイツ軍の反攻時期が到来。彼らの機械化部隊はポポフ戦車集団のウィークポイントに集中する

 

 

Fin

 



本記事掲載誌の Vae Victis 第169号は、2023年夏に発行されました。

この非公式翻訳文は Vae Victis 編集部の許可を得て公開しています。

Translated by T.Yoshida

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