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               今後、GMT 
                の East Front Series (EFS) 
                が尊敬の対象となるのは疑いもない。1995年に "Typhoon!" 
                でスタートし、第5作が発売されたばかりだというのに、年内には (クリミア半島を扱う) 第6作が登場すると見られる。 このシリーズの特色の一つは、巨大なジグソーパズルのように開発されていることだ。 各作品は個別にプレイされるが、他の作品との連結が可能になっている。そのため、新作が出るたびに、過去の作品は 
                さらに魅力的になるのだ。  
                 
               
              Hervé 
                BORG  
                 
               
                このシリーズは独ソ戦 (東部戦線) を扱う。枢軸陣営は、ソビエト体制下の赤軍と対峙した ナチス・ドイツ、そして その同盟諸国 
                (ルーマニア ・ ハンガリー ・ イタリア ・ スロバキア ・ フィンランド 等々) が結集したものである。 
                "Typhoon!" はドイツ軍によるモスクワ侵攻 
                (1941年 9月〜12月) を作戦級のスケールでシミュレートした。 1ヘクスは8km、1ターンは2日、ユニットは大隊〜師団を表す。 
                次に、独ソ戦の冒頭に興味を抱いたためなのか、本シリーズは 『 Barbarossa 
                』 (バルバロッサ:1941年 7月22日に対ソ連戦の火蓋を切った侵攻作戦のコード・ネーム) と検印を押されたゲームを引っ提げて、少々時間を遡ることになる。 
                1996年、"Barbarossa : Army Group South" 
                が発売となり、"Typhoon!" にも適用される 
                ルール第2版 が提供された *1 。 その後、"Army 
                Group Center" が 1998年に、"Army 
                Group North" が 2000年に出版された。 
                  *1 
                : これは GMT が発行する雑誌、C3i 第9号でお披露目となった。 
                後者 
                ("North") では、"South" 
                で施されたような基本システムの手直しは為されなかったが、それ以外の海軍関連のルール・システムの導入、及び レニングラード での市街戦用の特別マップが用意されている。 
               
              というわけで、"Army Group" 
                の3作品を連結すれば、1941年 6月22日〜8月16日まで (28ターン) のソ連邦における戦闘全体を作戦級のスケールで再現が可能だった。ここで言う 
                "Army group" とは、ドイツ陸軍 (Wehrmacht) 
                の下で戦略レベルの指揮をそれぞれ担当するドイツ軍の3つの軍集団を指す! 各ゲームは多少複雑な8〜9個のシナリオで構成されており、キャンペーン・シナリオに取りかかる前にルールを習得し、幾つかの特殊な戦いをプレイできるようになっている。個々の 
                (各ゲームの) キャンペーン・シナリオは真の 『モンスター・ゲーム』 であり、この3つのモンスターを 理想郷に近い高尚な 『ウルトラ 
                ・モンスター ・ゲーム』 へと昇華させるには、時間と場所と複数名のプレイヤーを要する!  
              このように、ソ連邦における 1941年の主要な戦闘のすべてがシミュレートされていたのだ。  すべて? しかし実際は違っていた。"Army 
                Group South" は8月半ばで終了し、その後の 11月初め頃まで実施された東部ウクライナやクリミアでの全作戦は扱っていなかった。その空白期間を埋め、しかも 
                1942年をシミュレートする計画を先延ばしにして "Army Group 
                South" を完結させるという、プレイヤー達の要望に ( GMT は) 応えた。 こうして "Kiev 
                to Rostov" が届けられたのだ ・・・・ "Army 
                Group North" から8年もの長い月日を経た後に! だが、この待ちわびた年月は、"Barbarossa 
                : Crimea" が発売間近との告知により報われた。その 
                "Crimea" は "Barbarossa" 
                および 1941年の軍事作戦を締めくくる作品となる。 
                "Kiev to Rostov" にはドネツ盆地 (特にハリコフ市) 
                とドニエプル河の湾曲部が描かれたマップが用意されている。さらに このゲームは、シリーズ全体に適用される いくつものルール修正を提供する。それらは、これまでの作品に新たな目配りを利かせる 
                EFS のルール第3版を構成している。  
                
              《 ヒット ・ 
                シリーズ 》  
              本シリーズがヒットした理由の一つは、とりわけソ連軍側の戦闘序列の充実ぶりと正確さによることは明白である。もう戦力未確認かつ諸兵科の寄せ集めの駒とは 
                おさらばだ。 代わりに、エリート部隊 (例えば、ソルツィ Soltsy 
                での 第70狙撃兵師団) や 「カチューシャ」 ロケット砲連隊、各大都市の民兵部隊、そして NKVD 
                *2 や士官学校の連隊の登場だ。リサーチの正確さは驚異的で、同規模の他のゲームのそれを上回る。一方、EFS 
                には高品質の内容物 (駒やプレイ補助アイテム (新作が出る度に向上している) ) が用意されており、中でもプレイ意欲を刺激するマップの出来栄えは神業である。 
               
                  *2 : Norodnyi 
                Kommissariat Vnoutrenykh Diel ; KGB の前身である内務省の人民警察。  
              ゲーム・メカニズムは、これまでと同じではない。行動フェイズの非対称性を基軸にしたシステムとなる。 
               枢軸軍は 移動 ・ 戦闘、そして機動部隊 (機械化 及び 騎兵) による二次移動が可能であるのに対し、ソ連軍は機動部隊を戦闘の前にだけしか動かせない。一般部隊は攻撃実施後にのみ移動する。これは、第2次世界大戦当時の高速移動と、ゆっくりとではあるが整然とした部隊配置が行われた第1次世界大戦とを対比させている。発想はシンプルだが、ゲームのリアリズムと興味深さを表現する上では非常に効果的だ。 
                 
                このシリーズのもう一つの特徴は防御側に対応フェイズを与えていることで、危険地区への予備部隊の投入・砲兵部隊の割り当て・退却命令を実施できる。 
                枢軸軍はこれらを自由に行えるが、赤軍側は司令部の存在に左右される。しかし、ここでドイツ空軍は赤軍司令部を無力化できるのである 
                (Interdiction) 。その場合、赤軍司令部は機能しなくなり、攻撃を受けた陸上部隊は戦力が制限されることもある。 
                 
                こうした司令部関連ルールは特別な戦闘ボーナスで補われ、有名な 『ブリッツ・クリーク』 *3 
                の効果(航空機の役割や通信の途絶)を非常に上手くシミュレートしている。 加えて機械化部隊は、稀に生じる損害と引き替えに、交通路の確保や、相手側戦線に崩壊をもたらす側面への回り込み 
                 (訳注 : つまり、オーバーラン 
                のこと) が可能である。  
                  *3 : 電撃戦  
              ソ連邦でドイツ陸軍が直面した兵站 (補給) の難しさを表現するため、枢軸軍プレイヤーには鉄道線の変換作業が求められている。さらに、攻撃側が部隊を正常に展開するためには、補給駒 
                (兵站基地?) を前線へ向かわせる必要がある。しかしながら、このテーマを扱うもう一つの偉大な作戦級シリーズ ( MMP 
                によって再開された Gamers の 
                OCS *4 ) とは違って、一つ一つの行動に補給ポイントを消費する必要はない。そのため、史実の雰囲気を保ちながらも兵站の管理が容易になっている。加えて、部隊が非補給下状態になるのは補給範囲外に2ターンの間存在する場合であり、それ故に、戦車部隊による敵兵站基地への強襲が助長されている。 
               
                  *4 : Operational 
                Combat Series 
               ただし、EFS のルールは全体としては 
                かなり複雑だ。メカニズムの一つ一つは比較的易しいものの、それらが積み重なっているため、修得するには数回のプレイを要する。にもかかわらず、このシリーズのスケール 
                (規模) は、かなり収益性のある投資となる。 Kiev to Rostov 
                まで投資 (購入) した場合、見返りとして3〜85ターンの長さのオリジナル・シナリオを全部で37個受け取れる  
                (訳注 : Typhoon! 
                6つ、AGS 8つ、AGC 
                8つ、AGN 8つ、Kiev 
                to Rostov 7つ) 。 Crimea 
                はそこへ8つのシナリオを加えることになるが、そのうちの7つは未発表である *5。 
               
                 *5 : ルーマニア軍によるオデッサ襲撃を扱う8つ目のシナリオは、以前 
                Army Group South で提供されたシナリオの修正版と思われる。 
                
              さらに存在感を増す過去の作品 
               Army Group North 
                が発売されてから Kiev to Rostov が登場するまでの歳月は、幾つかの史実の細部をより良く再現するため、さりとてゲームの楽しさを損わぬよう、幾つかのルールを修正することに費やされた。 
                ルールの紹介は繰り返しになるが、新版のルールは以前よりスッキリしていて、シリーズ全作品にとって有効な進化であることは明白である。特別 
                (専用) ルールはプレイ篇 (Play Book) 
                に記載されており、ソ連軍がドニエプル河に架かるすべての橋を爆破する方法以外は、他の作品にも関係がある。 まずは航空関連。 航空戦は消耗がより激しくなり、加えてソ連軍の対空防御射撃では僅かな損失しか与えられない事が理解できるように表現されている。つまり、全体としてルフトヴァッフェ 
                (ドイツ空軍) が有利になったようだ。多分、これまではルフトヴァッフェの有効性を少し抑制しすぎていたのだろう。 
               補給ルールは重要な変更が施された。 
                枢軸軍の機械化師団に所属する複数の連隊の中の一つだけが非補給下状態になった場合、その師団のすべての連隊が 「ガス欠 (Fuel 
                Shortage)」 に陥るかもしれないのだ。これは無条件の完全停止を意味する!  
                そして枢軸軍は戦役 (キャンペーン) の一時期 (8月17〜26日) に、補給の一時停止宣言を強いられる。この期間中に受け取る補給ポイントの数は減ってしまう。ただ同時に、補給駒の到着を楽にする基地 
                (Base) 駒が登場する。さらにその2ヶ月後、この世で最もおぞましい出来事の一つであるロシアの街道で発生したドイツ軍車輌の損耗を示すため、 
                「トラック」 の幾つかが 「荷車」 に替えられてしまう。  
              これらの枢軸軍を対象とした強制ルールは、幾つかの優遇措置で補われている。例えば、今後、夏季には2ターンより長くは連続して雨が降らなくなる。これまではちょっと運が悪いと7月〜8月の最中に本物の 
                "Raspoutitsa" *6 
                を味わうこともあったのだ! その一方で、ソ連の大都市が包囲された際、もはやその都市は補給源として機能しなくなる (大幅に事態を変えてしまうルールだ。 
                特にレニングラードでは) 。 
                  *6 : 通行可能な道路が無くなる季節のことで、4月の雪解けに相当する。ただし、10月の豪雨を語る際にも用いられる。 
              この事態を 整理 ・修復 するため、NKVD 
                の機械化部隊は対応移動ができなくなった。彼らには (史実でも) そのような機能も経験も無かったのだが、ソ連軍プレイヤーは、かつては認められていたそれらの施しを懐かしむことだろう。同様に、同じ理由で枢軸軍の同盟諸国の機械化部隊も敵の側面に回り込むこと 
                ( 訳注 : オーバーランのこと ) ができなくなった。代わりに、南方軍集団に所属するルーマニア・ハンガリー・イタリア・スロバキア軍の駒は以前より強力な駒に置き換えられており、とりわけ歩兵師団は新しい能力「浸透」を持つようになった。これまで相手の支配地域 
                (ZOC) をすり抜けるこの手段 (ターン毎に1ヘクス) 
                は、機械化部隊の幾つかと冬季のスキー部隊の専用能力だった。今現在では、正規の騎兵部隊も無条件で同様にすり抜けられるようになった。 
               
              唯一、残念に思うこと :  Army 
                Group South の幾つかの駒は Kiev to 
                Rostov の駒に置き換えられたが、Center 
                と North の駒は為されておらず、基地 (Base) 
                駒を思うように使えない。関連ルールを適用させるには不可欠だというのに。その上、"ガス欠 (Fuel 
                Shortage) " マーカーの枚数が、軍集団のすべてに同時に適用させるには全く足りない。Crimea 
                がそれを引き受けてくれないなら、次号の C3i 誌がこの気がかりを解消してくれるものと期待しよう・・・・・。 
               
              注目すべき最新の変更点は、地形 ・砂地 (Sand) 
                の出現と、ソ連軍歩兵部隊の補充方法の手直しである (これは Zapasnyie 
                Polk : 補充連隊 のおかげである ( 訳注 
                : Zap ユニットのこと。 基本ルール 7.22 
                C を参照 ) ) 。他方で、架橋工兵部隊が大河川に架橋する際、今後は丸1ターン掛かるようになった。最後に、ソ連軍部隊の降伏条件が、8月半ば〜10月半ばの期間は緩和されるようになった。これは負け戦が一ヶ月続いた後、赤軍にモラル低下が発生するのを見込んでのものだ。 
                結論として、バランスが良く、追加・導入が容易で、より史実に合った新版ルールが提供されたと言える。  
              他の "Barbarossa" 
                の作品と連結すれば、作戦級のスケールで 1941年7月22日〜9月9日までの独ソ戦のすべてを、そして12月8日までの南方軍集団の戦いをシミュレートできる! これ以上のモノは無いよね?  
                 
                と同時に、古いモスクワ戦役 (=Typhoon!) 
                でもちゃんと再発見ができるようになっている。 つまり、Kiev 
                to Rostov は 《 役に立つ 》 ゲームではなく、これまでのシリーズ作品の所有者にとっては 
                《 欠かせない 》 ゲームなのである。 この新作に関しては、シミュレーションとしての全体的な品質に疑問の余地は皆無であり、高い評価が与えられ、しかも、これまでの 
                (シリーズの) 他の作品同様、羨望の的となるだろう。 
                
              
                
                  |  
                     KIEV 
                      TO ROSTOV 
                       
                   | 
                 
                
                  |  長所 : Army 
                    Group south に完璧に連結できる続編で、新ルールは非常に適切かつ遡及力があり、システムの歴史再現性を補強するものである。 
                   | 
                 
                
                  |  短所 
                    : (単体での) キャンペーンをプレイするには広いテーブル 
                    (1.30m x 1.65m) が必要で、シリーズ全作品を結合するには卓球台を何台も準備しないといけない。 プレイに費やす時間は言うに及ばず・・・・。 | 
                 
               
                
                
              本誌11ページの写真 
                : これが "Kiev to Rostov" のキャンペーン・シナリオの初期配置。ドイツ軍の機械化部隊は長足の進歩を遂げたが、進撃するにつれて分散してしまい、補給基地からも遠ざかってしまう。赤軍の予備部隊のすべてが集結するドニエプル河の渡河という容易ならざる任務を、彼らはまだ達成していなかった。 
                 
              12ページの写真 : 同じような状況では毎度の事だが、ドイツ軍はあまりにも堅固なキエフを攻略するつもりがないのがわかる。この街の保持に拘るスターリンの執念が、ソ連軍前線部隊の大部分を窮地に陥れることになる。 
               13ページ  
                上の写真 : 赤軍が攻撃を行う1941年の珍しいシナリオ。だがルーマニア軍と正対し、勝負は楽じゃない。  
                下の写真 : ペレコフ地峡は強固に要塞化されているが、クリミア半島への侵攻を準備するのなら、ドイツ軍はこの障害を必ず通過しなければならない。ただし、クリミア侵攻はEFSの次作でのみ実施できる。 
                
               
               本記事掲載誌の Vae 
                Victis 87号は、2009年7月に発行されました。 
                 
                この記事の翻訳は Vae Victis 編集部の許可を得て公開しています。 
              Translated 
                by T.Yoshida 
                
              Kiev 
                to Rostov のページへ戻る 
                 
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