医薬分業Q&A(ドクターの質問)



Q1:諸外国では分業しているんですか?
A:先進諸国はほとんどすべて医薬分業です。医薬分業の起源は1231年フリードリッヒ2世が定めた五箇条の法令に始まると言われています。彼はプロイセンの有名なフリードリッヒ大王ではなく、神聖ローマ帝国の皇帝です。皇帝とは名ばかりでその基盤はかなり弱いものであったようです。そのため毒薬を盛られる危険を感じ、それを阻止するために医師と薬剤師を互いに監視し合うようにしたのではないかと想像されます。
Q2:医師法ではどうなっているんですか?
A:医師法第22条 処方箋の交付義務 「医師は、患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には、患者またはその看護に当たっている者に対し処方箋を交付しなければならない。」原則はこのようになっていますが、例外規定がいくつかあり、それをさらに超拡大解釈しているのが現状です。詳細は、乾宣子さんの 「お医者さんのお薬に関する法律講座」をご覧ください。

Q3:町の薬剤師に調剤を任せて大丈夫なの? 上手に服薬指導できるの?
A:この様な質問をよく受けます。ご心配はごもっともです。しかし保険調剤は薬剤師の職能(本来の仕事)です。彼らには薬学の基礎知識と能力があり、調剤実習と服薬指導の経験をつめば短期間で信頼できる域に達します。大多数の薬剤師は本来の仕事をしたいと切望しており、機会さえあればすぐにも取り組めるように準備しています。現在,当クリニックの処方箋は38件の薬局に行き、正確な調剤と親切な服薬指導で患者さんに喜ばれています。処方監査もきちんとされ、私の処方ミスもチェックされ、事故を未然に防いでいます。私は薬剤師に全幅の信頼を寄せ、薬のことは任せて、診療に専念しています。

Q4:分業すると薬の剤形や色、味が分からなくなり不便ではないか?
A:確かにその点は不便ですが、たとえば一錠ずつ入れた薬包紙を張りつけた一覧表を作るとかで解決できます。味見も薬局でさせてもらえばいいのではないでしょうか。

Q5:20点以下の薬剤名も基金側に知られ、査定の対象となり心配だ。
A:処方箋発行の場合、医療機関のレセプトには薬剤名はいっさい載りません。薬局側から出るレセプトの総点数が、2,000点以上の患者さん場合のみ、医療機関のレセプトと薬剤名を照らし合わせて、審査することになっています。薬局のレセプトが2,000点以上になることは比較的少ないので、医薬分業の方が保険適応にとらわれず、薬効で処方できます。ただ、私は分業=情報公開と考えており、20点以下の薬剤名も患者さんには開示すべきと思います。(Q19ご参照下さい)

Q6:抗ガン剤の場合は処方箋発行しにくいのではないか?
A:告知していない場合は確かにしにくいです。抗ガン剤の薬名を書いた処方箋を出すことはその時点で告知したことになります。医師法ではこのような場合は逆に院内処方にしなさいと言うことになっています。しかし告知しないで処方箋が出ている場合もあるようです。そこで薬剤師は主治医に告知の有無を問い合わせてから薬の説明をするようにしています。告知が不明の時は告知されていないとして、病名を察知されないように無難な説明がなされます。薬剤師は主治医に無断で抗ガン剤であるなどとは決して言いません。もし主治医から薬局にファックス等で知らせてもらえばスムースに事が運ぶと思います。病名告知の問題をここで議論するつもりはありませんが、私は抗ガン剤などの副作用の強い薬こそきちんと説明して、重篤な症状になる前に未然に防げるようにしておくべきではないかと思います。

Q7:胃潰瘍の患者さんに、向精神薬をそっと入れることが出来なくなります。
A:医薬分業=情報開示ですから、確かに出来ません。このような投与法は、好意でしていることですし、患者さんにいらぬ心配を与えず、治療効果もきっと上がることでしょう。しかし、患者さん側から見ると、何の薬か分からないものを飲まされているという事にもなりかねません。薬のことはドクターに任せて患者さんは療養に専念しなさい、という父権主義的(パターナリズム)医療につながりかねません。今はインフォームドコンセントの時代ですので、なぜこの薬が必要か納得していただいてから、投与する方が本筋だと思います。薬の安全性の確保の上からも、副作用の説明義務違反を問われないためにも。

Q8:どの薬局が調剤の出来る薬局か分からず患者さんが迷うのではないか?
A:「調剤薬局」とか「処方箋受け付け」の掲示のある薬局に行くように言えばよいと思います。待合室に近隣の調剤薬局の一覧を掲示しておけば間違いは起きないはずです。

Q9:医者自身や家族の薬もわざわざ薬局まで取りに行かなければならない。
A:確かに分業前に比べると不便です。ただ慣れてしまえばどうと言うことはありません。私はその機会に薬剤師といろいろ情報交換してよりよい分業に役立てています。薬局の状況も分かりますし。

Q10:薬局で多数の薬の備蓄が可能なのか?
A:確かに薬価収載品目すべてを備蓄するのは不可能です。現在は薬局同志の薬のやりとり、備蓄センター、薬の卸の迅速な配送などその地域ごとで工夫しています。処方箋に一般名で記載できる薬剤が徐々に増えてきており、これが広ま指れば備蓄の心配は更に減少するでしょう。ただ、備蓄に関してはドクター側は心配しなくても薬局がきちんと対処するはずです。

Q11:MRや卸の訪問が減って薬剤情報が得られなくなるのではないか。
A:そういう懸念は確かにあります。私の所でも訪問回数は減りましたが、しかし、副作用などの必要な情報は薬剤師会から十分届いてます。価格交渉をしなくなった分、彼らとは和やかに、むしろ友人として情報をやりとりしています。新薬が発売された時は、パンフレットを持って説明に来ます。彼らも処方してほしいのですから。

Q12:院外処方にしたり、院内処方にしたり、変更が出来ますか?
A:出来ます。ただ、薬を安全に飲んでいただくためには、なるべく院外処方にするよう患者さんを説得した方が良いかと思います。尚、同一の患者さんに対して、同一診療日に一部の薬剤を院内において投薬し、他の薬剤を院外処方箋により投薬することは、原則として認められていません。ということは同一診療日でなければ処方箋料は頂けることになります。薬価差益のない薬は院外処方に、差益のある薬は院内処方にしたり、集団的個別指導の基準となる社保の平均点数を下げるため、その対象患者のみ院外処方にすることがあると伝え聞いています。このような分業は患者に不信感を抱かせる恐れがあり、余り勧めれられた方法ではありません。(下線部分は訂正しました。平成9年4月25日)

Q13:「二度手間」や「医療費負担アップ」が診療抑制につながらないか心配。
A:至極当然なご心配で、一番良く受ける質問です。ある信頼できる医療コンサルタントのお話では、分業しても患者さんが減る事はきわめて稀で、薬局の対応が極端に悪い場合に限るそうです。患者さんたちは、それぞれの判断基準で医療機関を選択しています。たとえば、「近所だから」、「親切だから」、「見立てがいいから」などなど。その選択理由がよほど脆弱なものでない限り、医療機関を代えようなどとは考えないものです。受診された患者さんをもっと信じてもよいのではないでしょうか。当クリニックの場合は「薬局での薬の説明がよい」という噂を聞いて受診された方もおり、患者数は増加しています。分業は、患者サービスの一つとして、今後、更に重要性を増すでしょう。

Q14:薬局から、薬を医院に全部運んでもらえば「二度手間」は省けるのでは。
A:確かに便利な方法だと思いますが、これでは薬を「外注」しているようなもので、分業本来の使命が果たせません。それに法的にも認められていません。

Q15:電話で「薬だけ」希望の患者さんの場合、直接薬局に行けると便利ですが。
A:これが出来ると患者さんは確かに楽です。アメリカの場合は、同一処方であれば、回数制限はありますが可能です。しかし日本では、その都度、処方箋が必要な決まりになっており、出来ません。それに、基本的には、診察なしで処方してはいけない訳ですし。

Q16:信頼しているドクターから薬をもらうという心理的な効果が、分業により失われるのでは・・・

A:確かにおっしゃる通りですね。この効果は治療する上で無視できません。以前NHKの「病院、薬局、どちらで薬をもらいますか?」という番組で、あるご年輩の方が「東大病院でもらう方が効くような気がするんです。」との主旨のことを言っていました。医師と患者さんの絆はかなり強いものですね。患者さんに信頼されたドクターほどその傾向はより大きくなるでしょう・・・・ただこれに関しても、もし薬局での説明が親切で患者さんの満足の出来るものであれば、「心理的効果」以上のものが得られるのではないかと私は思っています。それに、もしかして、そのような患者さんは「お任せ医療」の傾向が強くないでしょうか?

Q17:分業のメリットは理解できますが、患者さんの「二度手間」の不便さを考えるとなかなか分業に踏み切れません。

A:私の周囲のドクターも皆さんそうおっしゃいます。確かに「二度手間」で不便ですね。分業の普及を阻む最大のデメリットです。しかし、私は次のように考え分業しました。今の患者さんのニーズは薬の安全使用と情報公開にあるのではないか。もし薬局で患者さんの満足のいく服薬指導が出来れば、すなわち「二度手間」以上のメリットを患者さんに感じてもらえれば、うまく成功するのではないかと。地域の薬剤師の方々の分業に対する意欲と熱心さにも賭けてみました。幸いにも、結果的にうまく行き、二度手間の不満は聞かれず、薬の親切な説明に多くの患者さんは満足しています。勿論、小児科だから出来たのかもしれません。足の悪いご年輩の方では・・・経験がないので何とも言えませんが・・・。ただ、薬の相互作用のことを考えると、ご年輩の方ほど分業が必要と思います。それに、薬のことをもっと知りたいという方が、我々ドクターが考えている以上に多いようにも思いますし・・・・・私だけの感触なのでしょうか?
Q18:医薬分業は医療費が高くつく分、医療保険財政を圧迫するのでは・・・

A:確かに医薬分業は薬局のフィーの分、余計に医療費がかかります。その分患者さんや保険者はアンハッピーになるでしょう。国の医療費の赤字にも影響します。ただ、もし医薬分業によって薬の処方に変化が見られれば、必ずしもその通りにはならないかもしれません。厚生省は分業になれば無駄な薬の処方が減り薬剤費が減少し、たとえ薬局のフィーが増えてもそれ以上の医療費の減少が見込めると考えています。厚生省の思惑通りいくとは限りませんが、厚生省は医薬分業の進んでいる地域では薬剤比率が低くなっているというデータを持っているのではないか。だからこそ「分業、分業」と言うのだと思います。私もこの点については厚生書に同意しています。たとえば新薬の高価な抗生剤をパセトシンなどの低薬価の薬に処方変更すれば、それだけで薬局のフィーが賄えるでしょう(もっとも使用量と処方日数にもよりますし、勿論パセトシンが同等に効くという条件での話ですが・・・)。私はそのように考えています。ただ、薬価差にとらわれず信念にもとずいて処方されてきたドクターには、当てはまらないことですね。

Q19:たとえばをアダラートLを処方すると、その内容がレセプトに載ると思いますが、もし「高血圧」の病名漏れがあった場合、医院と調剤薬局のどちらの点数から削られるのでしょうか?
A:基本的には医院の処方箋料が削られます。但し、「2,000点条項」というものがありまして、その患者さんの薬局側のレセプトが2,000点以下の場合は医院側のレセプトと突き合わせることはありません。必然的に「高血圧」の病名漏れは見逃されることとなります。これはもしかして、「分業しておれば無駄な処方はなくなるだろう。」とお上が考えたのか、あるいはレセプトの突き合わせに膨大な労力が掛かり過ぎるためなのか、それとも分業を進めるための{撒き餌}なのか・・・。実はこの3月までは「2,500点」でしたが、リベート分業対策のため下げたようです(リベート分業では無駄な処方が減らないという理由で・・・多分)。まとめますと、どちらのレセプトも削られないということです。但し、万が一、監査が入った場合はその限りではないでしょうね・・・。尚、分業の場合医院側のレセプトには薬剤名はいっさい載りません(但し、注射薬は除く)。(必読!!下記のメール)

この説明に関して医薬分業されている奈良県のドクター松田成器氏より以下のメールいただきました。

興味深く先生のホームページを見させていただいております。 いつも敬服して拝見しておりますが、医薬分業Q&Aの先生の回答Q19について:確かに、地元の審査では薬局側と医院側のレセプトの突き合わせがありませんので、病名漏れでカットされることはありませんが、保険者に行ってからカットされてくることが時にあります。200点位のレセプトで、リンデロン軟膏一本だけ、ロキソニン6錠だけ審査されたというようなことが、過去に何度かありました。2年間で数度ですから、希ではありますが・・。半年位後で戻ってきます。病名漏れのこともありましたが、理由が判らないこともあります。

「保険者」では2,000点条項は適用されないのでしょうか?・・・・あるいはこの条項を知らない「保険者」もいるのでしょうか?・・・・いずれにしましても、分業している場合でも病名漏れのないように注意が必要ということですね。松田先生、貴重なメールありがとうございました。