<日本医事新報への投稿文>

医薬分業のメリットは『薬の安全確保』につきる

吉田均


医薬分業は医療費アップや二度手間などの点で論ぜられることが多いと思います。しかし、医薬分業の可否は『薬の安全性』をどのように考えるかにつきます。国民に、安全な医療を提供することがわれわれ医療人の最優先課題であり、経済論や利便性で論ずることは、薬の安全性を軽視した考え方だと思います。

今年1月から手術や注射に関する医療ミスの報道が相次いでいます。表に出ていませんが、実は、投薬に関するミスが一番多いと考えられています。私はホームページ「医薬分業のすすめ」を開設していますが、全国の薬剤師から重複投与等の危険な処方例が多数メールされてきます。医療事故につながるような処方が日常的になされているのでしょうか。

薬剤師の役目の一つが処方せんのダブルチェック。問題がある場合は処方医へ疑義照会されます。日本薬剤師会の98年度疑義照会状況調査(対象:約800薬局、処方せん枚数は約150万枚)で、約2%の処方せんに疑義照会が行われたという結果でした。この内、危険な処方の割合は不明ですが、次のような報告があります。1989年上田薬剤師会の調査(対象:15薬局、1ヶ月の処方せん1万692枚)で、処方せん通り調剤した場合、副作用が出る恐れのあるケースは0.84%の90枚でした。年間の処方せん約4億枚に、これらのパーセントを掛けるとすれば、その枚数の多さに驚かざるを得ません。そして、この数値は同時に、医薬分業が本来の機能を果たしているまぎれもない証左でもあります。

私も抗てんかん薬を勘違いで10倍量処方したことがありますが、薬局でのダブルチェックで大事に至らず、医薬分業の大切さを身をもって体験しました。処方ミスや重複投与、相互作用のチェック、薬歴管理、専門家による調剤、服薬指導、副作用の初期症状の説明などなくして、安全な薬物療法はできません。