わが子が川崎病にかかって

ジョイの母


親愛なる吉田先生、

 6月、7月には川崎病にかかった私たちの娘、ジョイのことで一方ならぬお世話になり、私ども、親といたしましてはお礼の言葉を申し上げても言い尽くしきれない気持ちです。

 振り返ってジョイの病気に関するすべての状況は、変な言い方ですが、まるで何か夢でも見ていたかのような感じなのです。まず最初に、今までに見たことも聞いたこともなかったような川崎病のすべての症状、40度Cの高熱が続き、目や口の中が真っ赤になったり、発疹が出ているのを見て、「これは普通じゃないな。」と直感しました。たいていは自宅療養で済ましてきた私たちも今回はそういうものではすまないと感じて、近くで私たちの事情を理解してくれる小児科を探しました。初めは先生も診断に困っていらっしゃった様子でしたが、2日たって「ひょっとして」と言って川崎病の名前を出されて「かなり深刻な病気である」と聞いたときには娘や自分達がのっぴきならない立場に立っているのに気がつきました。

 インターネットで情報を得たのはよかったのですが、ほとんどがかなり悲観的な気分にさせられるものばかりでした。読み続けていくうちに、唯一の解決策のように言われている免疫ガンマーグロブリンが血液製剤であることや、投与のために両親の署名が必要だと知ったときには、ますますジレンマに苦しみました。これが夢であればさめてくれっていうあの感覚ですよね。血液検査の結果で「やはり川崎病ですよ」と言われ、どのように対処するか、とても短い時間内で決断する必要があったので、とにかく主人も私はもちろん、仲間の人にもこの時とばかり祈っていただきました。クリスチャンとして神は癒してくださるに違いないと感じていても、万が一の時に絶対必要とわかればそれなりの治療を受けさせる覚悟はあるものの、必要がない場合に何か別の手段はないのでしょうかという思いでした。

 それからはまさしく一瞬、一瞬祈りながら事を進めていきました。インターネットの中にも元来自然治癒する病気であるけれども・・・とか、小児科で心エコー検査をしてくれるところがあるという情報もあったのでそれらを頼りに小児科の中にもきっと良い先生がいるはずだと希望かけて電話で探すことにしました。その時の気持ちはまるで広大な砂漠の真ん中でオアシスを見つけようとしているようなものでした。

 電話をかけたどの医院も設備を持っていらっしゃらなくて、ついに野々市の中村先生が吉田先生の事を教えてくださったときには嬉しいのと怖いのと両方の気持ちでした。やっと可能性が見つかってうれしかった半面、この病気のほかにも、私たちは薬を使いたがらないという事情があり、(そんな患者を喜んで助けてくれるお医者を探すことも至難の業なので、)せっかくの可能性がお流れになるおそれも大だったからです。

 ですからお電話で先生が喜んで引き受けて下さったときの私たちの喜び、きっとご想像いただけると思います。思わず涙がこぼれました。その上、先生が2年前に小松のレストランで私たちに会われて覚えていらしたことを聞いたときには、これは単なる偶然ではないと思わざるを得ませんでした。そして私たちにとっては神の愛の奇跡以外の何ものでもありませんでした。

 お電話でお話していた時、先生が(免疫ガンマグロブリンの点滴について)「選択肢もあるんです。」とおっしゃったのは(嬉しい!)驚きでした。まず医師の方からそんな事を言ってもらえるなんてとても期待薄だったものですから。そしてそちらに診察しにお伺いしたとき、先生の書かれた本についての張り紙を見、正直言って私は自分の目を疑いました。「こんなこというお医者さんが本当に存在するなんて・・・!」

 先生がそんなに急進的なお医者さんでいられるには恐らくいろいろな過程があったと思われるのですが、この日本の社会で自分の信念のために立ち上がるということはとても勇気のいる事だと思います。特に先生の場合、その信念が愛と思いやりに根ざしたものであるのはとても素晴らしいです。

 先生に会う機会もなしに、他の病院で診察を受けていたら、経験しなくてはいけなかったジョイの苦しみや精神的なダメージ(あるいは薬の副作用?!)、それに私たちの心痛を思うと本当に感謝の気持ちでいっぱいになります。

 同封した読み物、お忙しいとは存じますが是非お目を通して下さい。先生が毎日の生活の中で役に立つかもしれない情報として読んでいただけるだけでとても嬉しいです。

 先生の仕事がますます充実したものになりますように、先生が伝えられている真実ができるだけ多くの人々に広がり、多くの人々の人生と健康が真に改善されますように心からお祈り申し上げます。

(ホームページへの掲載を快くご承諾いただきましたジョイちゃんのご両親に厚くお礼申し上げます。ありがとう!!)


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インフォームド・コンセント(説明と同意)の時代になったとはいえ、医療の現場では今もってお任せ医療(パターナリズム医療)が主流となっているのではなかろうか。私自身は毎日の診療にインフォームド・チョイス(説明と選択)を取り入れ、母親と相談しながら治療しているつもりだった・・・。だが、ジョイちゃんの母親との話し合いで、この点で教えられるところが多々あった。ご自分の納得のいく治療を求めて、インターネットで検索し、多くの小児科医に電話し、遠方も苦にせず受診する。子を思う母親の一念に感嘆すると同時にその真剣な態度に報いるためにはいい加減な判断は許されない。そして、私自身クスリの副作用について本まで出版しておきながら副作用に対する認識がまだまだ甘いことを思い知った。母親が治療法などをチョイスする際に参考とすべき情報提示、アドバイスがまだまだ不十分だということだ。副作用の種類と確率、薬なしでも治る可能性とその見極め、その上で薬を使うか使わないか、ギリギリの選択をしていただろうか?まだまだ“薬物療法に頼りすぎ”医療から脱却できていない。

診療上使う薬はできるだけ少数に絞ること。そしてそれらの薬については十分に精通しておくこと。

ドクターズルール425(医者の心得集)クリフトン・ミーダー著・福井次矢訳、南江堂


川崎病の合併症の冠動脈瘤を予防するには、ガンマ・グロブリン大量点滴療法という方法があり、エビデンスもあるスタンダードな治療法だ。したがって、最初のドクターがこの治療を勧めたのは当然のなりゆきである。ただ、川崎病にかかって冠動脈瘤ができるのはおよそ18%であり、82%は治療をしなくてもこの合併症は生じない。逆に、治療したとしても3%ほどに動脈瘤ができる。そして、たとえ動脈瘤が心臓にできても紡錘形のものであれば1-2年かけて自然消失するケースが多いし、冠動脈の拡張だけであればほとんどが治ってしまう(頻度的にもこの紡錘形or拡張タイプが多い)。

一方、ガンマ・グロブリンは確かに効くが、副作用も多い薬である。ショック、無菌性髄膜炎、溶血性貧血、腎不全等の他に、もし冠動脈瘤がすでにできていた場合にはかえって心筋梗塞を起こしやすくなる(大量投与による血液粘度の上昇のため)。その上、血液製剤であるがゆえの未知のウィルスの混入の可能性も考えておかねばならない。これらは頻度的には低いとはいえ、母親の立場になれば無視できない副作用であろう。この中でも特にショックは怖い。成書によればその頻度は0.1-5%となっており、病気そのものによる死亡率0.1-0.2%よりも高い。

万が一、大きな動脈瘤ができれば、心筋梗塞のため死亡という危険性がある。死亡されたお子さんを何人も診てきた者としてその恐ろしさは十分認識しているつもりだ。ただ、昔と違い、アスピリン等の抗血小板療法のおかげで死に到る患者さんは減った。そして、小児の場合、たとえ冠動脈がつまっても自然バイパスができやすいという特徴があり、心筋梗塞にまでいたらない場合も結構ある。

医者とすればスタンダードな治療をすれば気が楽であることは事実であるが・・・、しかし、母親の「血液製剤はなるべく避けたい」という希望と上記の諸条件をギリギリ考慮し、“無治療”という選択肢を母親とともに選んだ。診察でも冠動脈瘤(少なくとも大きな瘤)ができるほどの重篤感が感じられなかったことも理由の一つだ。

その後、祈るような気持ちで経過観察したが、幸いなことに心エコー上、冠動脈は腫れる兆候もなく、炎症反応のCRPも正常化し、熱も下がり、危機を脱した。そして、後日、ジョイちゃんとご両親がお礼に来られ、前記の手紙をいただいた。「何もしない治療」でこれだけ喜んでいただいたのは初めての経験だった。

参照:川崎病とガンマグロブリン療法


このお手紙から、日本の医療の一面が見えてくる。「たいていは自宅療養で済ませてきた」という一文に注目していただきたい。何人ものお子さんを育てられ、その過程でそれぞれのお子さんが大きくなるまでに何度か病気にかかられたはずだ。それでも医療に頼らず自宅療養のみで快復してきたとのこと。そして今回も薬なしで治った。もちろん、「運が良かっただけだ」とおっしゃる方もいるでしょう。しかし、逆に、こう考えられないだろうか。「子どもの病気はほとんどは寝ているだけで治ってしまう。医者にかからなければいけないことなど滅多にない」と。そしてもしかして、医者にかからなかったからこそ、あるいは、クスリを飲まなかったからこそ、お子さん全員が元気に育ったとも・・・・。

(2000/9/30)