面分業の広がりと薬局数予測



1)薬局はどのくらい必要か
わが石川県で仮に全医療機関から処方箋が発行されたとすると、何軒の薬局が必要になるのでしょうか。考えてみましょう。ある試算によると、人口3,000から5,000人に一軒の薬局が必要になると言われています。一般に、一人の人間の生活圏にこれくらいの人が住んでいます。この生活圏にはスーパーも、郵便局も、銀行も、医療機関も、その他諸々生活に必要な施設があり、この範囲内であれば距離感は余り感じないで移動できるそうです。分業先進国における一薬局あたりの住民数は、イギリスでは5,000 人、旧西ドイツでは3,500人です。これくらいの人口だと薬局経営が経済的にも成り立つということです。石川県の人口はおよそ118 万人なので、必要薬局数は多くて393軒、少なく見積もれば236軒ということになります。現在すでに225軒の保険調剤薬局があり、そこに勤務する薬剤師数は406 名です。そのうち160軒が基準薬局の資格があり、積極的に処方箋を応需しています。今後、保険薬局がすべて調剤に応じたと仮定した場合、少なめに見積もって、236−225=11軒、多めに見積もって、393−225=168軒の薬局が今後増えると予測されます。(尚、今回、歯科の分業は計算に入れませんでした。歯科の分業が増えれば、予測は更に変わります。)

2)薬局はどこに出来るか
これまでの薬局の立地条件は病医院のなるべく近く、できれば接して、あるいは真向かいに、これが第1条件だったように思います。いわゆる門前薬局(あるいはマンツーマン分業)ですね。これは病医院側にとっては、患者さんの2度手間を少しでも軽減できる、あるいは自分の目の届くところで調剤できるなどの利点があるといわれていました。一方、薬局もその病医院のほぼすべての処方箋を見込めるということで、経営基盤が安定するというメリットがありました。ところがここ1−2年のあいだに風向きが大きく変わってきました。ほとんどの門前薬局で収益率が低下し、その一部に経営が行き詰まったところが出てきました。特に大手の薬局チェーンに・・・。
その原因として、
  1. 薬局が病院の前に出ただけで分業の利点が生かされていないことに患者さんが気づき、自宅近辺の薬局に変更した。(患者さんがかかりつけ薬局の大切さに気づき始めた。)
  2. 診療報酬による門前薬局規制のため収益が落ちた。
  3. 薬価差益が大幅に減少した。
  4. 不動産価格が高くても病医院の近くに薬局を作ることを優先したため、初期投資が大きくなりすぎて返済に行き詰まった。
  5. 薬剤費別途負担の影響で病医院の患者数が減少し、それにともない処方箋枚数が減った。
  6. 病医院へのリベートが大きな負担となった(過去に手渡したものも含めて)。
門前薬局の経営が苦しくなってくると、病医院との関係にもひびが入ってきます。撤退をほのめかす薬局経営者も出てきます。ほのめかす前にさっと引き上げてしまう薬局チェーンもあるとか。一部の薬局では、使用期限の迫った薬の処方を要求したり、調剤点数が上がるような処方変更を求めたり、場合によっては薬局の利益の保証を求めたりもしているようです。利益優先で門前にやってきた薬局であれば、その大切な物がなくなれば、患者さんのためにならないことでも、実行しようとするものです。それが門前薬局の困った体質なのです。そのような薬局で調剤してもらっておれば、当然、病医院の患者数にも影響が出てきます。薬局に撤退されては困るし、いてもらってもまた困る。院内調剤に戻せばもっと困る。底なし沼に引きずり込まれるようなものです。
以上のことを考えれば、特定の薬剤師と手を組む危険性は明らかですね。薬剤師にしても同じ事です。薬局の立地条件は1)人の集まるところ2)交通の要所3)住宅地4)競合する薬局がないところ5)病医院からなるべく離れた場所ということになります。処方箋受け取り率が50%を越え面分業が当たり前になると、この立地条件が特に有効になります。特に5)が重要です。なるべく多数の、できれば10カ所以上の病医院からの処方箋が望めることが大切です。そして、そのような立地条件であればOTC(大衆薬)や介護用品での収益も望め、薬局の経営基盤を強化します。

3)薬局の適正配置図
日本薬剤師会は、適正な分業のためには、かかりつけ薬局の育成が大切だと言っています。私もその通りだと思います。しかし、医療機関側から見ますと、かかりつけ薬局が出来ていない場合に、「面分業」で処方箋の発行をと言われても素直には「はい」と言えません。薬局の適正配置図を地域ごとにデザインし、医療機関から処方箋を発行したいと言われれば、すぐに対応できるようあらかじめ準備しておくことはできないでしょうか。自由開業制を損なわない程度に。そして、正しい医薬分業への道筋をつけることが大切と考えます。


薬を1種類加えるときには、処方していたクスリを1種類止めること。

ドクターズルール425(医者の心得集)クリフトン・ミーダー著・福井次矢訳、南江堂