単位の話「gにこだわるぞ〜」(未完)

尾形正宏
 


■ずっと抱いていた問題意識
 話題を整理しましょう。まずは,Sさんのメールから。
 
今日、I小でTさん(I小の先生)が3年生の算数の研究授業をしました。
重さの単位の導入で「g(グラム)」を扱ったんです。それを見ながら、まったく違うことを考えていたという話をひとつ。
 6年生の授業で今「メートル法」をしています。
「キロキロとヘクトデかけたメートルがデシにおわれて、センチミリミリ」とやっているのですが、基本単位が、mになったり、gになったり、l(リットル)になるだけだと教えました。
 が、1メートルって結構長いじゃないですか。1リットルも結構量があるじゃないですか。でも1グラムってあるかないか分からないくらいの重さだと思いませんか?同じ基本単位なのに、この違いは大きいなあと、授業を見ながら、考えていました。たぶん子供さ
んに話しても、だからなんなの?と言われそうですね。
 まあ、大人もそう思うと、思いながら、こんなに長々とメールを書きました。
 私の言いたいこと、分かりましたか?
 
 これについては,ボクも昔から「変だなあ」と思っていました。
 というのも,国際単位系の基本単位(SI基本単位)というのには,物理学科のころからつきあっており,それは
長さ     メートル   m
質量     キログラム  s
時間     秒      s
電流     アンペア   A
熱力学温度  ケルビン   K
物質量    モル     mol
光度     カンデラ   cd
の7つなのですが,そのうち質量だけが,なぜか「k」なのです。ま,sの方が,それから派生するいろいろな単位をつくるのに便利なのは分かります。しかし,それなら「1sが1gと決めておけばよかったのになあ」と,ずっと思っていたのです。
 ちなみに,ここにはリットルという単位はありません。それは,メートルから導き出される単位だからです。ただ,SI単位の一貫性を損なわない範囲で,「時間の分,時,日,角度の度,分,秒,リットルおよびトン」を利用しても良いことになっています。
 
■SI基本単位とは*1
 ここでSI単位系というものの説明をしておきます。引用は『世界百科事典』(平凡社CD-ROM版)です。
 
 国際単位系の構成は次のとおりである。まず互いに独立な概念であると取り決めた七つの物理量,すなわち長さ,質量,時間,電流,熱力学温度,物質量および光度を選び,それぞれの単位の名称と記号を与え,大きさを定義する。これらの単位は単位系を構成する基礎として基本単位(基礎単位)と呼び,対応する物質量を基本量(基礎量)という。国際単位系の基本単位(SI 基本単位)を表1に示す。大きさの定義は単位名の項目を参照。
 基本量でない物理量は組立量(誘導量)と呼ばれ,定義式や経験式など物理量の間に成り立つ関係式を用いて基本量,またはすでにある組立量から導き出される。
 
というわけです。世界共通の単位の基本となる思想が,SI単位系なのです。そして,そのSI基礎単位の場合,より大きな量やより小さな量を表すために「SI接頭語」というのを単位の記号の前につけてあらわすします(これは,この前のサークルで紹介しました)。
『世界百科事典』でも,次のように述べています。
 
 単位の大きさの調節は SI 単位の十進法による倍量単位,分量単位を用いて行う。その倍量単位,分量単位の名称と記号は,その十進法の因数に対応する SI 接頭語をその SI 単位につけ加えることによって形成される。ただし質量の単位では,基本単位の名称キログラムに歴史的な理由からすでに接頭語キロがついており,その倍量単位,分量単位の名称は,接頭語が重ならないよう,適切な接頭語をグラムという名称につけることによって形成される。(波線は尾形)
 
 ついに出てきました。sの不思議さです。「基本単位の名称キログラムに歴史的な理由」という説明が分かりません。そこで,さらにその部分を調べてみました。
 
■質量の基本単位s−なぜ「g」ではないのか?
 このあたりの歴史的なことが分かれば,何とかなりそうです。そこで,「グラム 語源」などとインターネットで検索をかけてみました。すると次のような説明に出会いました。
 
●出展不明(ひかえませんでした)
 質量はキログラム原器で定義されるので基本単位は g ではなく,kg です。基本単位に接頭語(の k)がついているのは不適当だと言う人もいます。新しい単位記号を作ったらどうかと言うのです。でも kg は歴史的に重みのある(重さの話なので特に重みがある)単位なのでこれを採用しています。昔は g (グラム)が基本単位でした。ですから記号としては g が基本単位であるかのように使います. (1/1000000) kg=1μkg と書かずに (1/1000000) kg=1mg (ミリグラム) と書きます.
 
 う〜ん,これだけでは,「sだけに歴史に重みがある」という楽しい冗談が分かるだけで,「重み」とは何なのかを教えてはくれません。これじゃあ,ダメですね。で,次に引っかかってきたのは,日本語としての「質量」ということばのことです。日本計量史学会会長岩田重雄氏の文章「カラット・分銅・質量」と題して,以下のような記事が載っていました(抜粋)。
 
http://www.cosmo-oil.co.jp/inf/kankyo/dagian/39/05.html
 重さを質量の意味に使うためにおこる、国際的混乱をさけるため、国際度量衡総会は1901(明治34)年に、物体そのものを構成する物質の分量である質量(基本単位=キログラム・kg)と、物体に働く重力の大きさである重さ(重量・目方/基本単位=ニュートン・N)は異なることを決議した。日本で最初に、質量という訳語が現れたのは、1879(明治12)年である。その後、物理学訳語会は1883(明治16)年に質量を採用した。それから100年以上たっている現在、小学校3年の算数では「重さの単位(グラム・g)」と誤ったことを教えている。中学校になって力の単位(ニュートン)や質量という用語が出てきても、混乱を助長するだけである。こんなことでは、理科離ればかりでなく、科学技術の発展も阻害されるであろう。
 
 まあ,ここのところはあまり本筋には関係ありませんが,せっかくですので一言。
 ここで言う<混乱>というのは,「重さと質量との混乱」を指しています。確かに中学生でこの部分に引っかかる子はたくさんいました。「sが質量」で「重さや力はs重」でしたよね,ボクたちのころは。今は,N(ニュートン・1N=1s・m/s)なんですかね。仮説実験授業の≪ばねと力≫をはじめとする力学の授業書では,力の単位を「s力」と,そのまま「力」をつけて表しています。これが一番混乱しません。
 
■打線ついでに瓦と匁の話
 日本でも単位の話が出たついでに,もう少し積極的に脱線してみましょう。
 グラムを漢字で「瓦」と書きます。で,このグラムについて,おもしろいページを見つけたのでご紹介します。このHPは,なんと愛知県陶器瓦工業組合のページの一部です。おもしろいですなあ。
 
●重さの単位として使われた瓦
           (http://www.grace.ne.jp/kawara/san/hana/haed.htm
 長さの単位であるメートルを米、平方メートルを平方米といった表記はまだ使われている。さらにミリメートルは粍、センチメートルを糎というように毛、厘といった伝統的に使われてきた単位の漢字と組み合わせて、新しい漢字まで作ってしまっている。これは縦書きの文書にセンチメートルは馴染まないということからもきている。またワープロなどのために、1字で表示できるミリ、キロ、センチやmm、kgなどの単位記号も用意されている。さらに平方米は訛ってヘーベと呼ぶまでに日本語化しまっており、ツボと同様に日本特有の建物の面積の単位と勘違いしている日本通の外人もいるほどである。
 いっぽう容積の単位であるリットルは立と表記される。これも米と同様、リットルの音訳からきたものであるが、3次元である立方となぜか一致して馴染みがよい。リットルにもやはり竓、竰、竕といった漢字が作られている。
 重さの単位であるグラムは、瓦として表記されてきた。これもグラムという呼び方に瓦のガやグワが近いことからくる音訳であるが、さらに文字をくずした時にgに雰囲気が似ていることからもきているものと思われる。さらにわが国の重量単位であった匁とも瓦という文字がやや似ていることも、他の同音の漢字をさしおいて瓦が選ばれた理由になっているとも想像できる。
 しかしメートルと違ってグラムとして瓦の表記は、今ではほとんど行われていない。瓦を使って日本で作った重量単位のための漢字は次の7つである。
瓱(ミリグラム) =1グラムの1000分の1
甅(センチグラム)=1グラムの100分の1
瓰(デシグラム) =1グラムの10分の1
瓧(デカグラム )=1グラムの10倍
瓸(ヘクトグラム)=1グラムの100倍
瓩(キログラム) =1グラムの1000倍
瓲(トン)    =1キログラムの1000倍
 ちなみに瓦1枚の重さは、普段使う桟瓦で2.6瓩程度である。実際の瓦はグラムとしての瓦の2600倍の重さがあることになる。
 グラムは、小さい重さという意味のギリシア語grammaから由来している。漢字表記の場合はグラム(瓦)が基準となり、瓩、瓲などが派生させているが、メートル法での基準は、グラムではなくキログラムとなっている。グラムはキログラムの1000分の1と定義されている。 (波線は尾形)
 
 いやはや,行ったり来たりの堂々巡りですが,おもしろい情報が次々入ってきます。ここで分かったことは「グラムというのはギリシア語のgrammaから由来している」ということです。道草ついでに,もう少し日本の単位の話をします。なんと,あの「はないちもんめ(花一匁)〜」と歌にもなっている<匁>の単位に隠れた秘密です。
 
●“もんめ”は世界の共通語!?
           (http://www.indexo.co.jp/dendo/komatta/komatta01.html
「匁(もんめ)」という単位、ご存じでしょうか。知っている人、では何グラム? まあ、ここまで知っている人はよっぽどの雑学王、クイズ王だと思いますが…。その答えは3.75*2グラム。
 1958年に尺貫法が廃止されて以来、「匁」の単位はすたれていくかと思われましたが、実はこの「匁」、世界中で使われている単位なんです。
 ダイヤを「カラット」単位で取引するように、真珠の取引ではこの「匁」が重さの単位として広く使われています。これは、日本人の御木本幸吉が世界で初めて真珠の養殖に成功し、日本が世界の真珠の集積地になったことからはじまったもの。海外の宝石店で真珠を見かけたら、重さを訪ねてみましょう。「○○MONME」と答が帰ってくるはずです。
 
 匁が,真珠の取引の時の重さの単位だなんて知りませんでした。実際,真珠販売のページを見たら,匁(MONME)という文字がよくでてきます。楽しい話だなあ。
 
■お話の整理
 さて,話題を本題に戻しましょう。
 今までのお話ではっきりしてきたことは,次の通りです。
 ・sがSI単位系として主導権を握っている。
 ・基本単位に接頭語「k」がつくのは変だとみんな思っている
 ・<g>では,値が小さすぎて扱いにくいので<s>を使っているらしい。
 ・この問題には「歴史」が絡んでいる。
 ・grammaというギリシャ語が語源である。
 さて,以上のことを手がかりにして,さらなるステップに進むわけだが,さて,どうなることやら。
 
■gという単位の歴史
 そんなわけで,さらに単位の歴史にのめり込んでいきます。なんせ,このレポートは,「同時進行レポート」と銘打っています。今調べていて分かったことを,少しずつ書き加えています。まずはgrammaの意味ですが,それは以下のページに出ていました。
●単位の語源(http://www1.gakugei-hs.setagaya.tokyo.jp/~g47h10/units.html
 単位の呼び名には、もちろんいわれがあります。
 例えば、メートルは「測る」という意味のフランス語で、これはそのものずばりですね。グラムというのは、ギリシャ語の gramma=小さな重さ、から来たのですが、さらにそのもとは、グラマー(文法)や、グラフと同じ語源で、「字を書く」ということだそうです。
 
 しかし,これでは,何も解決しません。もうこれ以上grammaにこだわることはやめて,「重さの単位そのもの」について調べてみました。すると同じサイトに,次のような説明が出ていました。
 
●重さの起源(http://www1.gakugei-hs.setagaya.tokyo.jp/~g47h10/units.html
『旧約聖書』にシケルという単位が出てきます。このシケルとは、知られている最も古い重さの単位で、メソポタミアのシュメール文化の生み出した物です。
 このシケルの起源は、180粒の小麦の重さだということです。必要に応じて、小麦を数えては標準にしていたのでしょうか?いかにも「単位は生活から」を地でいったような単位です。
 このシケルを元にして発達したのがミナです。これは古代オリエントで広く用いられ、西洋の重さの単位にも受け継がれた、言うなれば、「重さのキュービット」にあたるものです。ミナは50ないしは60シケルで、450〜500グラムにあたります。これはそのままポンド(453.6グラム)につながっています。
 また、ダブル・キュービットと同じように、このミナの倍の「重いミナ」もあったようです。「重いミナ」はちょうどキログラムほどになるので、ダブル・キュービットが1メートルに対応するのと同じように、「重いミナ」もメートル法に対応しているのです。
 つまり、メートル法の基礎は、すでに古代オリエントで築かれていたらしいのですっ!!
 
 この辺のことは,ボクの本棚にあった小泉袈裟勝著『数と量のこぼれ話』(日本規格協会)にも出ていました。小泉袈裟勝さんは,単位の歴史や計量器などに大変詳しい人らしくて,単位に関する本を何冊も書いています。*3この本には,「小麦とキログラム」という章で,次のように書いています。
 
 質量の単位の基準は,東西ともその地域の民族の主食である穀物にとられた。古代オリエントでは小麦で,古代中国では黍(きび・コーリャン)である。そして東西とも質量の単位は,名称が変わり,組み合わせは変わっても,最初に設けられた単位の大きさへとたどっていくことが出来る。(『数と量のこぼれ話』22ぺ)
 
 あらま,以外と簡単に本題に入っていけそうです。重さの単位のはじまりは,東西を問わず,身近な穀物の一粒の重さだったのです。なるほど,それなら,キログラムよりもグラムに近い単位です。
 
 これは質量が主に貴金属や宝石を測るのに用いられたため,注意深く扱われたということと,天びんという器具が古くから高い精度をもっていたことによる。(同書)
 
 わずかな違いを表すために,小麦一粒の違いも大切だったというわけです。しかし,それが,あまりに小さい単位のために,実際はある程度の固まりとして扱われたのでしょう。先のHPの記事にもあったように,実際には,「小麦のまとまり」として「カンヅメ単位」が作られたようです。
 
 しかし穀物は1粒ではあまりに小さく,重さも一定していない。そこで,あるまとまった数の重さを基準にとった。こうして古代オリエントのシケルは,180粒の小麦,古代中国の銖(しゅ)は100粒の黍の重さであった。(同書)
 
 以上のことを,一覧表にしてみると,次のようになります(『数と量…』より転載し加工しました)。
カンヅメ単位 定義(ビンヅメにすると) gでいうと その他
シケル 180粒の小麦 8.36g  
ミナ 60シケル 501.5g 約1ポンド
重いミナ 120シケル(2ミナ) 1003.0g 約1kg
100粒の黍 400mg  
 
■一応の結論(しかし未完)
 ここまで調べてきことをまとめると次のようになります。
 
 重さの単位は,東西を問わず,小さな種を基準としてきた。それは,軽いものをはかるのに都合がよいからである。これが,gが小さな単位になっている理由の一つである。しかし,その単位はあまりに小さいために誤差があるので,ある程度の固まりとして扱ってきたことで,sというところにつながっている。
 また,単位を決めるときに,sを用いたのは,おそらくそれがすでに通用してしまっていたのだろう。本当は「g」にしたかったのだけれども,それまでの「g」=「小さな重さ」の歴史があり,そのまま「s」を基準としたのだろう。ただし,このあちりは,まだ調べてみたいことがあります。
 gの発祥の地なども,まだ分かりませんしね。
 
*1 単位系…他にCGS単位系というのもあります。CGI単位系では、長さをcm、重さをg、力をdyneなどの単位であらわします。これにしても,gに合わせるとpになりますがね。 
*2 3.75g…1匁。現在使用されている5円玉1個の重さがちょうど3.75gで1もんめである。コレハ偶然とは思われない。
*3 本…ボクの家には,小泉編著の『図解単位の歴史事典』(柏書房)もあります。まず最初にこの本にあたったのですが,期待する情報は出ていませんでした。