ペットボトル浮沈子とガリレオ温度計
−超能力,そして思わぬ副産物−
尾形正宏



1998.12.18
● ペットボトル浮沈子について 

 『たのしい授業』の1998年11月号に「ペットボトルとミニしょうゆ差しとナット」を使った「浮沈子」の作り方が載っていました。しかし,先月のサークルでもお話ししたとおり,この「ペットボトル浮沈子」は,『21世紀子ども百科科学館』(小学館)*1に出ていたのとそっくりだったので,「こりゃ,盗作にならないのかな」とちょっとだけ心配もしました。で,すぐに仮説社にメールしようとも思ったのですが,「まあ,だれか,東京近辺の人が気付いていて,すでに仮説社の方でも知っているだろう」と思って,何も連絡しませんでした。
 すると,12月号で,『科学館』のことを,長野の北村さんがちゃんと連絡していたことがわかりました。それと共に,この「ペットボトル浮沈子」の出典についても記事が出ていました。さらに,この浮沈子を子どもたちに紹介する口上も書かれていました。

*1 この本は,11月のサイエンスシアター「音と振動のなぞ」のために購入したものです。というのも,この本には,「ストリングラフィー」の写真が載っていたからです。あとで,この本の姉妹品であるビデオを手に入れたので,シアター本番では,結局,そちらの映像の方を使いました。

● ペットボトル浮沈子 

 ボクは,『科学館』を見て,「ペットボトル浮沈子」を作ってみました。以前作ったことのあるマヨネーズの入れ物と違い,なかなかかっこいいです。しかも,ナットが綺麗なのと魚を何匹も入れられるので,迫力と上品さも兼ね備えています。『科学館』の写真では,しょうゆ差しに色を塗っていたので,ボクも図工の先生からプラスチック用の絵の具*1を借りて色を付けてみました(実際は,受け持ちの子どもがこの絵の具を使うときに一緒に塗ってもらった)。そして,せっかくなので,しょうゆ差しの中に入れる水の量を少しずつ変えて,圧力を加えたときしょうゆ差しが順番に落ちてくるように加減して入れました。
 で,しばらく職員室に置いておきました。
 それまでは,職員室に,ペットボトルを使ったトルネード*2が置いてあり,これでも1カ月ほど遊びました。だから職員室では「今度は何を作ってきたの?」なんてな目で,ボクと「ペットボトル浮沈子」を見ています。これも,いくらかは珍しがって触っていました。

*1 この絵の具は「乾くと色が落ちにくい」と思っていたのですが,ダメでした。水の中に入れて1日ほどたつと,もう,しょうゆ差しからはがれてきてしまいました。今は,まだそのままにしてありますが,ここは油性の色のペンで色づけするのが一番良いようです。
*2 ペットボトル・トルネードは,ペットボトルの口と口とあわせてジョイントでつないで作ります。砂時計の大きいのだと思って下さい。もちろん砂じゃなくて水を入れるのですが…。ボトルのつなぎには(ペットボトルのキャップに穴をあけたものを2つつなぐため),フィルムケースの胴の部分を使っています。ボクは自分で作ったのではなく,全国大会で手に入れました。
 
● 月曜日の輪番制お話 
 ボクの学校には,毎週月曜日に全校朝礼があります。たいていは「校長先生のお話」と「校歌」で終わり。たまに,「表彰」があるくらいなのですが,なぜかときどき,「先生のお話」といって,校長以外の先生たちが一人ずつ話すことになっています。
 「先生の話」は,職員室の座席を右回りして1学期から順番にいってたのですが,12月14日,ついにボクの番がきました。で,このことは先週の金曜日に教頭先生から聞いていたのですが,すっかり忘れていました。月曜の朝,「今日は全校朝礼です」という放送を聞いて,「おっ,そうだった。完全に忘れていた!! 話すネタを何も考えていない!!」とあせったのですが,ときすでに遅し。そこで,何を話そうかと短い時間で考えていると,ペットボトル浮沈子が目に入りました。「そうだ,これでいこう」。ボクは,ペットボトルを片手に,体育館へと向かったのであります。
 
● ボクは超能力者 
教頭先生 「今日は,尾形先生のお話です」
さて,ボクはおもむろにペットボトルを高く掲げ,話し始めました。
ボク「これはペットボトルです。この中にお寿司なんかに入っているしょうゆ差しが入っています。ちょっとだけ色が付いているの,わかりますか?」
ボク「今,しょうゆ差しは浮いていますね。ここでボクがこの下にある糸を引くと,さてどうなるでしょう。ここの糸見えますか?」
といって,ペットボトルの下10センチほどのところの糸をつまむようにして下に引きます。それと同時に,ペットボトルを持っている手に力を入れます。
ボク「そおら,1匹降りてきましたよ」
子どもたち「おお〜〜」
特に前の1年生は,目を丸くしています。
ボク「じゃあ,2匹目も下に引こうかな」
教頭先生「見えないだろうから,みんな座りましょう」
子どもたち(座る)
ボク「じゃあ,2匹目ね」
といいながら,またまた,手を下に引いていく。
子どもたち「おお〜」(ぱちぱちぱちと拍手が)
ボク「これ,糸なんかないと思うでしょ。でもあるんです。ボクには見えるのです。超能力者だから。これ上げようと思えば,ほら…」
といって手の力を抜くと,魚はすーっと上がっていく。
子どもたち「おお〜〜」
何を話そうか考えていなかったボクは,だんだん調子に乗ってきます。話しながら,自分でも「調子に乗ってきたなあ」と感じるからねえ。そこで,1年生の子に登場してもらいます。
ボク「かっちゃん,出てきて。どう,ここに糸が見えるでしょ」
かつ「…」
ボク「見えるよね。これね,信じないと見えないよ。見えるね」
かつ「…」
ボク「じゃあ,糸を持って(といってボクも一緒に糸を持つふりをする)。さあ,下に引くよ」
引くが,魚は降りてこない。
ボク「かっちゃん,うたがっとるやろ。それじゃだめや。ちゃんと信じないと先生の超能力が移らんよ。良い,もう1回やるよ」
といって,一緒に引く。今度は,す〜っと,魚が降りていく。
子どもたち「おおお〜〜」(ぱちぱちぱちと拍手も)
ボク「いや〜,さすがですねえ」
などといいながら口上を終える。
 もちろん,最後には,「超能力じゃないこと」と「作り方」を伝えておきました。さらに,手品の話*1も,ちょっとだけしましたが,これも乗りすぎたため。イカンなあ。へいぜい,「校長の話と女のスカートは短い方がよい」*2といってるわりには,時間をオーバーして話してしまった。反省!。で,最後に
ボク「実は,この浮沈子。押さえなくても,机の上に置いたままにしてあるのに中の魚が浮いたり沈んだりしているんです。これは,本物の超能力でしょうか。まだ,はっきりしたことはわかりませんが,多分,職員室の温度が関係しているのだと思います。このあたりのことは,もうちょと詳しく調べてみたいと思っています。みなさんも,何か興味をもったらいろいろと作ったり実験したりしてみて下さい。これでボクのお話を終わります」
*1 この浮沈子の実験は,右手に注目をさせておきながら,実は左手でペットボトルをへこましていたわけです。いろんな手品も,「動いていない方の手が怪しい」という話をしました。
*2 「この言葉は,女を商品化する見方だ」と非難される方は,こんなレポートは読まない方がよい。

● ペットボトル浮沈子とガリレオ温度計 
 職員室でストーブを焚くようになってから,室温が20度をこえることもあります。そんなとき,ときどき,ペットボトルの中のお魚浮沈子が降りていることがあります。
 初めは「塗ってあった色がはがれて,重さが変わったんだろうな」*1というくらいにしか思っていなかったのですが,次の日の朝来てみると,ちゃんと上がっています。また,22度の室温がしばらく続くと,いつの間にか1つだけ下がっているのです。
 朝礼に話したあとでも同じ現象が続きました。室温が25度近くのときには,ついに
2つ目も下に来るようになりました。室温とペットボトルの中の水温はだいぶん違うとは思いますが,なかなか興味深い結果です。
 これは,ガリレオ温度計に違いありません。今年の夏に手に入れたボクの家のガリレオ温度計は17度をこえるとまず最初の浮沈子が下がります。29度をこえると全ての浮沈子が下がってしまいます。この温度計と,ペットボトル浮沈子の動きはすごく似ているのです。ボクはうれしくなってしまいました。
*1 何かがはがれると軽くなるのが普通ですが,この場合はしょうゆ差しに塗った色のふやけた部分に空気が入り込んでいる様子でもあったので,そう思ったと言うわけです。

浮沈子01  浮沈子02  浮沈子03
全部浮いている     1つ沈んでいる    1つ浮いている
● 実験 
 そこで実験です。もう一度浮沈子を出して,沈み具合を調節します。そして,5つのしょうゆ差しを5段階の沈み方をする浮沈子にします。これはそう難しいことではありません。むしろ同じ沈み方をする浮沈子を作る方が難しいです。水面から出るしっぽの長さや突っついて沈むときの様子を比べるとうまくいけます。 そして,職員室の流しで実験。食器洗い用のたらいにペットボトルを入れ,少しずつお湯を加えていきます。もちろん温度計も準備して。
 さて,結果やいかに…。
 ………。
 しかし,待てども待てども*1,浮沈子は落ちてきません。水温はもう30度です。部屋の気温は22度くらいで反応したのに,おかしいですなあ。
 どうもお湯の中に入れただけでは,ペットボトルの下の方だけ暖めているので,なかなか水が膨張しないようです。温かい水は上にいくとはいっても,全く締め切ったボトルの中では,水の分子もそんなに自由に動けないのでしょうか。ペットボトルをそっと横に傾けて,お湯の中に浸してみると,おお〜,ちゃんと沈んでくるではありませんか。やはり,立てたままでは,ペットボトル全体にうまく熱が伝わらなかったようです。
 室内の場合は,じっくりと周りから暖まってくるので,反応ができるのでしょう。しかし,室内の場合でも,気温と水温が一致するわけではないので,室温が結構高くなってから上がります。
 とにかく,このペットボトル浮沈子で温度もわかるので,飾っておくのもいいと思いました。ガリレオ温度計*2のように,もっと細くて,ガラスの入れ物で作れば,気温に反応しやすくなるのでしょうね。機会と材料が手に入ったら,今度はそれに挑戦してみたいと思います。
*1 実際には,20分から30分ほど待っただけである。
*2 ガリレオ温度計のガラス管の中には水ではなく,「ハロゲン化した炭化水素の溶液」が入っているそうです。