「提言・私たちが期待する介護保険」によせて(2008.09.21.)






     「提言・私たちが期待する介護保険」によせて
       認知症の人と家族の会公開シンポジウム
         「こうあってほしい介護保険」
            塚本発表原稿
         2008.09.21.SAT.13:00-16:00
          サンフォルテ2階ホール


                  富山総合福祉研究所
                  所長兼介護支援専門員 塚本 聡

 富山総合福祉研究所の塚本と申します。介護保険の居宅介護支援事業所で介
護支援専門員として働いています。社団法人認知症の人と家族の会でとりまと
められた「提言・私たちが期待する介護保険」を読ませていただき、介護現場
の最前線に身を置くものとしてその内容に全面的に賛意を表するものでありま
す。それと同時に、この提言に書かれていることを実現させるために、介護支
援専門員の立場から何をなすべきなのかを考え、行動する社会的責任を感じて
います。

 以下、与えられた時間の中で、提言の中の3つの項目に絞って意見を申し述
べます。

 まず、第一点目として、「基本的な考え方2」の「切れ目ない支援体制」と
の関連で申しますと、精神科専門医の訪問診療が今よりももっと利用できるよ
うな環境になれば、「切れ目のない支援体制」を下支えするという意味でとて
も効果的であると考えます。

 たとえば、認知症の人の権利・利益を守るために成年後見制度を活用しよう
と思っても、ご本人が専門医への通院を強く拒むために手続きが滞るという問
題があります。この点について、富山県内でも東京や大阪のように手続きの簡
素化を求める声が以前からあり、本年4月には書式が簡素化されたほか、症状
が明らかな場合に鑑定を省略することができるようになりました。また、精神
科専門医ではなくても、かかりつけ医であれば鑑定書の作成ができるように変
わりました。これにより、ご家族や近隣の方にとっては利便性が高まりました。
しかし、その反面で、ご家族や近隣の方の意向に押されて、一定の判断能力が
ある人でも、保佐ではなく一番重い後見になる可能性があるなど、もともとの
成年後見制度の目的である「可能な限りご本人の自己決定を尊重し守る」とい
う観点からは新たな問題も出始めています。

 認知症の人の医療保障を考えるならば、かかりつけ医と精神科専門医とが連
携して治療を行っていただければ、それがもっとも望ましいことです。鑑定の
問題に限らず、精神科専門医の訪問診療がもっと利用できるような環境になれ
ば、早い段階からの専門治療が可能となる他、ご家族の介護不安を軽減し、ご
本人への過度の権利制限も予防することができるかもしれません。精神科専門
医の訪問診療が普及しない理由は、意識面や制度面などいくつか考えられると
思いますが、介護支援専門員の立場から改善の必要を訴えていきたいと思いま
す。

 第二点目として、「基本的な考え方5」の「暮らしを支え、生活を保障する
社会保障制度へ」との関連で申しますと、この4月以降特に顕著なのですが、
「夫婦の一方が認知症になったら、介護面からも経済面からも生活が成り立た
ないから二人ともおしまいだ」という声をよく聞きます。これは、特殊な事情
の人の例外的な発言ではなく、ほとんどの人、とりわけ高齢の人に共通する深
刻な不安の表れだと思います。これまでおよそこのような言葉を口にしなかっ
たであろう人、外から見てお金に困っているようには見えない人であっても、
「このままの制度ではいずれ蓄えが底をついて行き詰まると簡単に予測できる」
と嘆かれます。

 「年寄りは早く死ねということだろう」という言葉も、悲しいことですが、
高齢者ご本人との対話の中でよく耳にするようになった言葉です。しかも、そ
う語る目の奥に険しさ、悲しさが感じられて、底のない怒りと無力感に圧倒さ
れます。

 提言には、「年金など自分の収入で生活が成り立ち、また介護保険サービス
など暮らしに必要なサービスが利用できる社会保障制度を確立すること」と書
かれていますが、まさにそのとおりで、しかも待ったなしの状態、緊急性が極
めて高い状態になっています。

 介護支援専門員には、制度に不備があれば制度の方を正す役割がありますし、
制度が足らなければ作るよう政府や議会に働きかける役割もあるとされていま
す。しかし、日本の介護支援専門員は、個々においても当事者組織においても、
必ずしもその役割を十分に果たせておりません。後でも述べますが、同じ問題
意識を共有する仲間とともに、介護支援専門員が本来果たさなければならない
はずの役割を果たしていきたいと個人的には考えています。

 第三点目として、「具体的な改善提案7」の「介護支援専門員の中立・公平」
についてですが、この問題は、2000年に介護保険法が施行される前から制
度の欠陥として指摘され、改善の必要が叫ばれていました。その後、介護保険
法の見直し時期が来るたびに、政府と議会で改善に向けた議論は行われてきた
のですが、残念ながら今日に至るまで効果的な解決策が講じられておりません。
そして、介護の現場では、未だに自分が介護支援専門員を選んだことになって
いるのを知らないでサービスを利用している人や、サービス事業者を変更した
くても介護支援専門員が他事業者のサービス利用を認めてくれないので困ると
いう人が後を絶ちません。

 介護支援専門員は、所属する事業所や法人の利益とご本人ご家族の利益が対
立する場合、ご本人ご家族の利益を優先しなければならないとされています。
そのため、ご本人ご家族が利用する医療や介護などのサービス事業者と利害関
係がないこと、言い換えれば第三者機関性を担保することが、介護支援専門員
の中立・公平の大前提となります。また、介護支援専門員の第三者機関性を担
保するということは、中立・公平の問題の解決に効果があるだけではなく、他
の様々な問題の解決にも効果があります。当方自身、介護支援専門員の第三者
機関性の問題について早い段階から言及してきた者のひとりとして、今後もこ
の問題の解決を訴えていきたいと考えています。

 最後になりますが、介護支援専門員の仕事は、介護支援専門員のみが行うも
のではなく、ご本人ご家族との協働によって初めて成立するものです。そこで、
ご本人ご家族も当事者主体として位置づけた新たな当事者組織を作る必要があ
ると考え、現在設立準備を進めているところです。また、その流れの中で、来
年4月の介護報酬改定などに向けて、全国の有志で政策提言をとりまとめ、先
月上旬に厚生労働大臣と各政党の介護保険担当議員にお届けいたしました。こ
ちらの方の提言の内容につきましては、メディカルレビュー社の専門誌「介護
支援専門員」本年9月号に掲載いただいたばかりの原稿を、出版社のご厚意を
得てそのままこの場でお配りしても良いことになりまして、お手元の該当資料
の後半部分を見ていただければ書いてあります。また、前半部分には介護支援
専門員の第三者機関性について書いてありますので、併せてご一読の上、後日
ご意見などをいただけましたら幸いに存じます。


(参考情報)
・「公開シンポジウム『こうあってほしい介護保険』」全国四会場全体の企画
 紹介
  http://www.alzheimer.or.jp/jp/oshirase/080515_kaigohoken.htm
・同富山会場のチラシ
  http://www.alzheimer.or.jp/jp/pdf/kaigohoken_toyama_o.pdf
・「ケアマネジメントについて考える会」仮設ホームページ
  http://www2.nsknet.or.jp/~mcbr/kangaerukai.html
・提言「わたしたちが望むケアマネジメントについて〜『おもい』と『ねがい』〜」
  http://www2.nsknet.or.jp/~mcbr/kangaerukai-teigen-20080728.html



                            (2008.09.21.)




   
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