「官僚主義的ケアマネジメントを超えて」(2004.10.11.)



公開会議「ケアマネジメントの独立と介護保険の展望」シンポジウム塚本発表分
   日 時 2004年10月11日(月) 13:00〜16:00
   場 所 熊本県民交流館パレア第一会議室(熊本県熊本市)
   テーマ 「官僚主義的ケアマネジメントを超えて」
   話 者 塚 本  聡(富山総合福祉研究所所長 兼 介護支援専門員)



はじめに

(1)「ありえない」から「あたりまえ」に

 私事で恐縮ですが、当協議会の副代表理事を今期限りで退任する事になりました。来年
1月から、あたらしい執行部で会を運営しますが、これは単に定期的な組織の人事という
だけではなく、この会が新しい次の段階に入った事を象徴しています。
 私は、この会における自分の役割の8割を既に終えたと思っています。その8割とは、
草創期の組織の枠組みを作り、方針を立て、社会に向けてその存在意義を訴え、また社会
を変える提言を行うという役割です。幸いにして「ディーセントワーク」や「積算根拠」
といった政策提言で使用した言葉は関係者の間で話題になりましたし、アメリカのGCM
の紹介などの試みはそれなりに社会的な反響を呼び、研究者、実践者からも注目されるよ
うになってきました。
 残りの2割のうちの1割は、来年の第4回大会の開催。これは当方の出身である富山市
内で、時期は来年の丁度この時期に開催予定ですが、この計画と実施という役割です。残
る1割は、高い志を持ってこの会に入会された若い方々が、研究や教育、実践の場で活躍
される事を後方からサポートし、そういった方々が近い将来この会を担っていただけるよ
うにする役割です。
 この会を設立した当初は、ケアマネジャーの独立など想定外、あり得ないという考え方
が一般的でした。本年3月に会として厚生労働省の担当者の方と懇談した際にも、旧厚生
省自身独立開業する者が出てくることなど想定していなかったと語られました。それが、
今日では介護保険法改正案の中に、「ケアマネジメントの独立」が言葉として登場し、政
策的にもその役割を肯定されつつあり、当協議会の言葉遣いで言う独立とは厳密には異な
るにせよ、ケアマネジメントは独立があたりまえという社会通念が形成されつつある状況
にまでなってきました。

(2)次に求められるもの

 第2期目に入り、この会に求められる事は何か。このテーマは、実は前日の日程(総会)
で会員全員で議論し、合意を形成しなければならなかったテーマなのですが、残念ながら
時間が足らず、合意形成にまでは至りませんでした。そこで、これからお話するのは当方
の個人的な意見という事になります。全部で10の項目があり、シンポジストの発表とし
てはボリュームがありすぎる事を承知していますが、一つには他のシンポジストの方々か
らも独立型として介護保険法改正案をどのように評価し今後どのように行動するつもりな
のかという趣旨の質問が寄せられておりますので、これに答えるのが主催者団体の側の当
然の責務であるという理由で、もう一つは会の今後の方向を考える上で、昨日の代償とま
ではいきませんが、会としてこのタイミングできちんと意識化しておかないといけないと
いう理由で、この発表の場をお借りしてお話させていただきます。

1)アイデンティティ、あるいはビジネスモデル

 さきほどの粟倉さんのご意見の中に、どのサービスとどのサービスを受託するかという
意味合いでビジネスモデルを創造する事の必要性の指摘がありました。当方も同じ意見で
すが、より広くとらえるならば、この会の会員のアイデンティティをどう形成するのか、
これは理念にかかわる問題だと思うのですが、これに取り組まなければいけないと考えて
います。そして、当方の私見としては、ILOの提唱する「社会的企業」、ソーシャル・
エンタープライズをアイデンティティの核とすべきではないかと考えます。株式会社など
の営利企業でも、得られた利益はすべて地域社会に還元する。雇用は地域で暮らしている
人を採用し、サービスの利用者も地域で暮らしている人とする。企業経営も地域で暮らし
ている人が参加して透明に行う。そういった条件を満たす企業が「人としての尊厳が大切
にされる地域づくり」を目指すケアマネジャーの起業形態にふさわしい。そう思うのです。
社会的企業という発想は、他方でNPO優位論と営利企業優位論の平行線の議論にも打開
というか、変化の端緒を与える事ができるのではないかと思います。

2)偽装中立の排除と質の保障 → ブランド・イメージとしてのifncm

 ケアマネジメントの独立が「あたりまえ」となって次に問題となるのは、偽装中立の問
題です。本当はダイレクト・ケアサービスと一体の経営なのに、組織上表面的にケアマネ
ジメントだけ分離させて、独立でございますという事業所が出てくる。門前薬局という言
葉がありますが、門前ケアマネジャーと本物の独立ケアマネジャーとをどうやって区別す
るのか。第三者機関主義の定義上、「所属法人や関連法人以外」という条件が設定されて
いるにせよ、実際に見分けるのは難しいかもしれません。この問題に対しては、アメリカ
のGCMの行動準則が参考になると考えています。GCMによれば、ケアマネジャーが何
らかのダイレクト・ケアサービスを利用者に紹介する際に、そのダイレクト・ケアサービ
スを提供する事業者とケアマネジャーとの関係について、事細かな説明を利用者に対して
行う事とされています。どのくらい細かいかというと、資本提携があるかないか、親戚関
係かどうか、キックバック契約があるかどうか、互いに便宜を図るような友人関係かどう
かといった念の入れようです。こういった情報はサービス利用者がサービス提供事業者を
選択する際に必要な情報である、だからケアマネジャーはこういった情報を提供しなけれ
ばならないという考え方をしています。当協議会でも、同様の行動準則を作り、第三者機
関性をより一層自ら証明する努力が求められます。もっとも、偽装中立ではなく、本物の
独立ケアマネジャーであるという事が証明されたとしても、それが直ちに一定のケアマネ
ジメントの質の証明にはなりません。本物の独立である事の証明ができるだけでは足らず、
さらにそれが質の証明になるようにするためには、会員のケアマネジメントにかかる専門
性を高める、一定の質を確保する努力が必要となります。この会の会員であるという事が、
あたかもブランド・イメージとしての効果を持つようになれば、自分も会員になりたいと
思う人が増えて、会の基盤強化にもつながると思います。

3)地域包括支援センターのブランチ機能

 今般の介護保険法改正案によれば、要介護度の低い人のケアマネジメントについては、
地域包括的な支援センターを新たに設置してこれを行う事とされています。この構想には、
予算的に果たして実現可能なのかどうか、既存の在宅介護支援センターとどのような関係
になるのかなど、すっきりしていない部分があります。この構想に反対するのも一つの方
向ではあるのですが、その場合には客観的で説得力のある反対根拠を示さなくてはなりま
せん。当方の考えでは、地域包括支援センターの当否の判断はひとまず置いて、仮に地域
包括支援センターが設置された場合であっても、その機能の一部を公正中立の立場で当協
議会所属のケアマネジャーが担っていけるようにする、新制度から締め出されないように、
新制度にからむようにしていく事が肝要と思います。からんだ上で、実際に実務を自ら体
験した上で、新制度の問題を客観的に証明し、改善を促していく、そういう流れを作るべ
きではないかと考えます。

4)支援費、精神障害者ケアマネジメントへの取り組み

 今般の介護保険法改正案では、先にご講演で詳細な説明をいただきましたとおり、改正
案のIIIで支援費、精神障害者ケアシステムの介護保険への統合が先送りされたものの、厚
生労働省サイドの統合への意思はとても強固であると考えられます。統合する事が良いこ
となのかどうかについては意見が分かれるところですが、この論点についても、当否の判
断はひとまず置いて、統合されようとされまいと、支援費ケアマネジメント、精神障害者
ケアマネジメントの担い手として手を挙げる事が肝要と思います。サービス利用者が希望
すれば、ケアマネジメントサービスの提供者の選択肢の中に当協議会所属のケアマネジャ
ーがいて、利用者が選択することができるようにする。いい仕事をしなければ選ばれない
だけの事です。ケアマネジメントサービス提供者として新制度にからむ事により、統合さ
れなければされないでそれぞれのケアマネジメント実践を通じて明らかになった制度上の
問題を改めさせていく、統合されたらされたで同様に制度上の問題を改めさせていく。実
践者としてやらなければならないのはそういう事だと思います。これは当方個人だけの意
見になるかもしれませんが、ケアマネジメントは1つのサービスであり、制度の縦割りに
よって分断すべきではない。そういう意味でも、あらゆるケアマネジメントにからんでい
くべきだと思います。

5)地域密着型サービスと選択権保障

 今般の介護保険法改正案では、地域密着型サービスというのが新たに提案されています。
これは、いわゆる小規模多機能の、オール・イン・ワンの資源を新サービスとして位置づけ、
都道府県ではなく市町村に権限を下ろして地域限定でやってもらいましょうというものだ
と理解しています。実は、当方の出身である富山県がこの小規模多機能のメッカのような
地域がらなのですが、草の根でこの運動に関わってきた人たちは、その実績が認められた
という意味では喜んでおられるのですが、反面制度として一つのサービスになってしまう
ことによる弊害、たとえば大規模で財力を持っている法人が系列としてぽこぽこ小規模多
機能型をあちこちに作ってしまわないかといった事を心配しておられます。もともと小規
模多機能型というのは、大規模施設の画一的、非人間的処遇への反省から生まれてきたも
のなのに、その批判の対象であった大規模施設経営法人が、形だけ小規模多機能の箱をつ
くり、やっている事は大規模施設同様の経営管理、処遇であったという事では、まともな
小規模多機能型が淘汰されて、いわば「仏つくって魂いれず」になってしまうのではない
かという心配です。ちょっと「門前ケアマネジャー」の心配に似たところがあります。既
にグループホームなどでこのような弊害が現実のものになっており、危機感を煽ります。
 当方の目から見て心配だなと思うのは、全部まとめて一つの事業所が行う事の便利さば
かりが宣伝されて、一つの事業所に生活のすべてを握られてしまう事のリスクが見過ごさ
れている嫌いがある事です。少なくとも、地域密着型サービスを利用する場合も、ケアマ
ネジメントだけは公正・中立な第三者機関に委ねるという仕組み、利用者が希望すれば地
域密着型サービス提供事業所以外の事業所のケアマネジャーに依頼する事ができる仕組み
を選択権保障の観点から提案すべきではないかと考えます。

6)介護予防サービスと選択権保障

 今般の介護保険法改正案では、要介護度の低い人に対しては、これまでの介護保険サー
ビスではなく、介護予防サービスという新たな給付を作って、そちらを利用してもらいま
しょうという事になる模様です。介護予防サービスについても、果たして予防効果がある
のかないのか賛否両論があります。また、給付内容が、その方にとって必要な量・質を確
保できない内容になるのではないかと心配する声も聞かれます。
 当方がおかしいと思うのは、介護予防サービスを受けるかどうかを決めるのは、利用者
・家族ではなくて介護認定審査会であること、その審査基準もほとんど審査会の裁量の余
地がなく、一定の条件に該当すればほぼ自動的に振り分けられてしまう事です。介護保険
制度が導入されるにあたり、これからは上からの措置ではなく契約になる、自由に選択で
きるようになるとよく言われたものですが、今般の改正では介護予防サービスと従来のサ
ービスのどちらが自分のために必要かを利用者自身が考え、選択し、決定する事が認めら
れていません。これは、おおいに矛盾があります。介護予防サービスが本当にいいものか
どうか専門家の間でも議論があるのですから、どっちを選ぶかは自己決定に委ねるのが当
然だと思います。介護予防サービスを選んで効果があったという人が増えれば、自己決定
で介護予防サービスを選ぶ人が増えるでしょうし、ダメだこりゃという人が増えれば、自
己決定で従来の給付を選ぶ人が増えるでしょう。そのように選択権を保障する事によって、
介護予防サービスの当否は、社会の中で自然に検証されます。制度改正に当たっては、審
査会が最終的に振り分けを決めるのではなく、これまでの審査会がそうであったようにあ
くまで審査会意見を出すにとどめ、最終的な選択は利用者に委ねる仕組みにする事を提案
すべきではないかと考えます。

7)支部組織化と緊急時対応ネットワーク、研修体制の確立

 当協議会は、独立開業した一人親方ケアマネジャーやその人を核とした少人数体制のケ
アマネジャーが大半なのですが、そういった形態の短所としてよく言及されるのは、休日
・夜間や緊急時の対応が不十分であるとか、ケアマネジャーが病気などで入院したら利用
者に迷惑がかかる、交代で研修に出向けないため、研修を受ける機会が少なくなって仕事
のレベルが下がるなどというものです。こういった指摘が必ずしも客観的な事実と一致し
ない事は、本日ここにお集まりの皆さんにとっては自明の事かと思いますが、対外的にも
「そうではないんだよ」という事を根拠とともに示せるようにならなければいけないと思
います。このことは、協議会設立当初から課題として認識され、地域地域での支部組織の
設置とそこを核とした緊急時対応ネットワークの確立、地域内研修と情報交換の機会の確
保を到達目標として掲げておりましたが、地域によって取り組みにばらつきがあり、十分
な成果が得られておりません。第2期の2年間で、こういった基盤の強化を図る必要があ
るだろうと考えます。

8)全国組織にふさわしい法人格の取得

 これも、協議会設立当初からの課題ですが、会員数が増えたら法人格取得を目指しまし
ょうと申し合わせてきました。法人格を取得する事によって社会的な信用が高まる事、研
究や事業に関する受託の可能性が高まる事などがその理由です。また、仮に制度・政策が
小規模ケアマネジメント事業所の存続を危うくする方向に転回してしまった場合に備え、
法人としての協議会の下に各事業所の経営を統合するという究極の手段としても意識して
いました。昨日の総会において、来年の富山大会を目処に法人設立となるよう準備作業を
進める事が決まり、一歩を踏み出しましたが、なんとか制度改正の動きに間に合えばと思
います。

9)事務局機能の明確化と委員会制度の導入

 法人化とも関係しますが、会員数が増え、今までのような「身内の集まり」的な運営に
限界が見え始めてきました。理事(旧運営委員)のボランタリーな会務協力に頼るのでは
なく組織として事務局機能を明確化し、役割を分担する事、多岐に亘る懸案についてそれ
ぞれに対応する委員会を設置して審議に当たる事が必要です。この点についても昨日の総
会で議論され、事務局の場所と機能については新理事にて継続審議となってしまいました
が、委員会制度については原案通り承認されました。今後は共同研究プロジェクトは委員
会の一つという位置づけになり、順次必要な委員会が新設されていくものと思います。

10)共同研究プロジェクトの拡大強化

 最後に当方も直接関わってる共同研究プロジェクトについてですが、いくつか研究課題
があり、どれも喫緊の課題なのですが、協力いただける研究者や資金の面で折り合いが付
かず、作業が止まったままになっています。先に述べた法人格取得やブランド・イメージ
の確立などを通じて、こういった阻害要因がなくなっていけば良いなぁと思っています。

 以上、レジュメの「はじめに」の(1)と(2)までお話を進めました。本来であれば
ここから本論に入るべきところですが、現時点ですでにシンポジストの一人として発言で
きる制限時間を大幅に超過しているので、ひとまずここで終わらせて頂きます。本論に関
する事については、シンポジウムの議論の中でいくらか言及できるかもしれません。また、
後日別の機会にお話をさせていただくことができるかもしれません。長々としゃべりまして、
現地実行委員会と御登壇の皆様にご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした。


(以下レジュメの項目のみ転記)


        「官僚主義的ケアマネジメントを超えて」

はじめに
(1)「ありえない」から「あたりまえ」に
(2)次に求められるもの

1 「人間」を黙殺する冷たい力
(1)介護保険制度施行直後の混乱とそれぞれのアイデンティティの喪失、そして再構
   成〜いつのまにか停止していく思考〜
(2)起こり始めている「人間」への攻撃

2 ケアマネジメントが官僚主義的であるとは?
(1)官僚主義の特徴と功罪
(2)官僚主義的ケアマネジメントの行き着くところ

3 官僚主義的ケアマネジメントを超えて
(1)思考をとりもどすには 人間をとりもどすには
(2)目的的思考から実践地平の理論を

おわりに
(1)求められる連帯
(2)人としての尊厳が大切にされる地域づくりをめざして



                                (2004.10.11.)




   
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