「言葉による拘束」(2001.07.15.)



「言葉による拘束」(2001.07.15.)

(富山県介護福祉士会会報塚本原稿より)

 厚生労働省の身体拘束ゼロ作戦推進会議から、2001年3月付で「身体拘束
ゼロへの手引き」という冊子が発行されました。これは、身体拘束原則禁止の趣
旨を医療・福祉現場の中で本当に実現するために、同推進会議のマニュアル分科
会のメンバーにより執筆されたものです。
 手引きでは、身体拘束はなぜ問題なのか、身体拘束とは具体的にはどのような
行為なのか、そして、身体拘束をなくすためにはどうすればよいのかといった問
いに対して、具体例も交えて分かりやすく解説されています。また、例外的に拘
束が認められる条件として、憲法学上の人権理論をベースにして3つの要件
(「切迫性」「非代替性」「一時性」)が示されており、医療・福祉領域におけ
る人権保障の観点から意義深い内容となっています。
 しかし、他方で課題も残りました。その一つが、「言葉による拘束」の問題で
す。
 手引きの7ページには、身体拘束禁止の対象となる具体的な行為として11の
類型が挙げられていますけれども、紐でしばる、施錠隔離するなどの「物理的拘
束」(physical lock)や「薬物拘束」(drug lock)ばかりであり、それ以上に
問題であるとも言われている「言葉による拘束」(speech lock)については、す
っぽりと抜け落ちてしまっているのです。かろうじて15ページに、「・・、身
体拘束禁止規定の対象となっていない行為でも、例えば『言葉による拘束』な
ど、虐待的な行為があってはならないことはいうまでもない。」との一文が挿入
されていますが、他の物理的拘束や薬物拘束のように細かな類型化や対応策は示
されていません。
 物理的拘束や薬物拘束の場合、外形的に客観化・類型化しやすく、防止のため
の対策もマニュアル化しやすいのに対し、言葉による拘束は、具体的にどんな言
葉が拘束に該当するのか、その判断基準が必ずしも明かではありません。そこ
で、実際の個別判断は、現場スタッフの人生観や倫理観に依存してしまう嫌いが
あります。ケアの向上を目指してカンファレンスを開催しても、具体的な行為を
指摘すると道徳論、感情論として受け止められて、客観的なケアの分析と向上に
結びつかないという事もしばしば見受けられます。
 しかし、拘束を禁止する最も根本的な理由は、それが人としての尊厳を傷つけ
る行為、すなわち人権侵害行為であるからに他なりません。人権侵害行為かどう
かの判断基準が、たまたま担当となったスタッフの人生観、倫理観に左右される
という事では、人権を侵害される側はたまったものではありません。
 言葉による拘束も、他の拘束同様に人権侵害なのだという明確な認識を持ち、
その克服に向けて更に考究を深める必要があるものと思われます。個々の施設の
中には、言葉による拘束も身体拘束に含めて施設内対策マニュアルを作成すると
ころも出てきました。そのような現場の動きと連動する形で、推進会議の「手引
き」をさらに充実させていく事が求められます。
 さらに言及すれば、言葉による拘束の問題は、医療・看護専門職や法律専門職
以上に、介護福祉専門職が守備範囲とすべき問題であるとも言えますので、「手
引き」の改訂に当たっては、介護福祉士などの介護福祉専門職の団体・個人が心
理ケアの研究者・実践者と連携しながら主導的な役割を果たす事が望まれます。
(2001.07.15.)





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