公平・公正・中立、利用者中心主義
のコミュニティ・ケアマネジメント
システムの確立を目指して〜介護保
険法施行年度におけるケアマネジメ
ントの実態調査から〜」     




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  • 2001.04.18.


    「公平・公正・中立、利用者中心主義のコミュニティ・ケアマネジメント
     システムの確立を目指して 〜介護保険法施行年度におけるケアマネジ
     メントの実態調査から〜 」


       「介護保険・この1年から」シンポジウム(2001年4月21日富山県
        女性総合交流センター)塚本発表原稿より


     はじめに

     介護保険法が施行されて1年が経過しようとしている。この社会福祉制度の大
    変革により、福祉サービスの利用者は権利主体としての地位を確立し、競争原理
    によってサービス事業者を淘汰し、その結果として利用者中心の社会福祉システ
    ムが生まれると説明されてきたのだが、現実の社会実態はどうであろうか。
     ところで、支援センター運営事業と居宅介護支援事業は違うという論拠とし
    て、「支援センター運営事業は介護保険非該当の自立した人などに対する介護予
    防を主たる目的とする」という理由付けがなされる中で、直接報酬に結びつかな
    い事ともあいまって、これまで支援センターの重要な業務と考えられてきた介護
    予防以外の業務、具体的にはソーシャルワーク・リサーチやソーシャル・アクシ
    ョン等が閑却視される傾向が介護保険法施行後強まっている観がある。しかし、
    このような制度の一大変革期こそ、その改革理念と社会実態との関係をきちんと
    調査し、地域という「現場」において真に改革理念を実現させていく作業が求め
    られているのであり、在宅介護支援センターこそがその役割の担い手として最も
    ふさわしい社会的位置にあるのではなかろうか。
     本稿は、社会福祉実践の中でも間接的な援助技術とされるソーシャルワーク・
    リサーチを通じて、利用者中心のコミュニティ・ケアシステムの確立を試みるも
    のであるが、領域が膨大であるため、考察の対象を居宅介護支援ないしケアマネ
    ジメントに絞り込む事とした。尚、今回の調査は一度限りのものではなく、今後
    も周期的に実施し、動態の把握と分析を行う予定である。

    (1)調査の目的

     公平・公正・中立、利用者中心主義のコミュニティ・ケアマネジメントシステ
    ムを地域の中で実現していくために、利用者の権利や事業者の義務などの客観的
    な情報を調査対象である地域住民に伝えつつ、その地域における達成度等を調査
    し、課題を分析する。

    (2)調査の方法

     富山県上新川郡大沢野町在住の介護保険サービス等の利用者(またはその家族
    )100名を無作為抽出し、当支援センターのケアプラン無料診断基準のうちの手続
    面の基準15項目をそのまま質問項目としてアンケート票を作成(原票書式は別添
    資料参照)、平成12年11月15日から平成13年1月15日までの期間内に対面して聞
    き取りを行った。

    (3)調査の結果

    ※調査対象者数100 うち回答回収数50

    00)本票に回答されたのはどなたですか?

     □サービス利用者 13
     □家族 37
     □その他(   ) 00

    01)ケアマネジメント(居宅介護支援)契約に先立ち、ケアマネジメント(居宅
      介護支援)とは何かについて説明を受けましたか?

     □書面と口頭で説明を受けた 29
     □書面で説明を受けた 00
     □口頭で説明を受けた 01
     □説明を受けなかった 02
     □その他( ) 18
       ・忘れた11
       ・分からない01
       ・4月以前から決まっていた。介護保険に際しとりたてて説明を受けてい
        ない02
       ・ケアマネジメントという言葉が分からないし、説明を受けたかも覚えて
        いない01
       ・失明しているため見ていない01
       ・説明を受けたのは覚えているが、内容はわからない。01
       ・アンケート回答者以外の者が(契約に)立ち会ったため分からない01

       ※調査に際しては、用語の意味が分からない人には説明を補足した。説明
        文書や契約書の内容に説明個所がある場合は、多少調査対象者に理解不
        足がある場合も「書面と口頭で説明を受けた」にカウントした。

    02)ケアマネジメント(居宅介護支援)契約は書面で行いましたか?

     □事業者と利用者が双方一部ずつ保管する書面を取り交わした  48
     □書面を作成したが、利用者の側には書類が残らなかった 00
     □書面を作成していない 00
     □その他(  ) 02
       ・よくわからない01
       ・覚えていない01

    03)ケアマネジメント契約時に、「重要事項説明書」の閲覧・配布を受けました
      か?

     □説明書を受け取った 49
     □説明書を閲覧したが受け取らなかった 00
     □説明書の閲覧・配布を受けなかった 00
     □その他(  ) 01
       ・よくわからない01
     ※調査に際しては、「重要事項説明書」の意味がわからない人にはその意味を
      説明した。また、配布を受けたか覚えていない人のうち、御自宅に残された
      ケアプラン関連資料を調査員が調べ、その中に「重要事項説明書」が含まれ
      ていた場合には、「説明書を受け取った」にカウントした。

    04)ケアマネジャー(介護支援専門員)を選ぶ権利(選択権)について説明を受け
      ましたか?

     □書面および口頭で説明を受けた 35
     □書面で説明を受けた 00
     □口頭で説明を受けた 00
     □説明を受けなかった 02
     □その他(  ) 13
       ・よく分からない01
       ・覚えていない05
       ・「あなたの担当は○○さんです」と言われたので自分で決められないと
        思っていた。02
       ・今までの関係で、そのまま4月以降も担当してもらった。選択できると
        は知らなかった。もっとも、変更するつもりはない。01
       ・4月以前から担当してもらっている。説明は受けていないと思う。02
       ・家族が役場に行って手配してもらったのだと思っていた。選ぶ権利があ
        るとは知らなかった。01
       ・目が見えないので書面については分からない。01

    05)ケアマネジャー(介護支援専門員)を選んだ後で、他のケアマネジャー(介護
      支援専門員)に選び直す権利(変更権)について説明を受けましたか?

     □書面および口頭で説明を受けた 29
     □書面で説明を受けた(但し意味はよくわからなかったとの事) 01
     □口頭で説明を受けた 03
     □説明を受けなかった 07
     □その他(  )→複数回答 10
       ・忘れた07
       ・覚えていないし、変更するつもりもない02
       ・変更時に次の事業所を斡旋されたので、そのまま移った。変更先を選べ
        るとは知らなかった。01
       ・目が見えないので書面の事は分からない01

    06)ケアマネジャーの新規選任や変更選任の際に、保険者の作成した居宅介護支援
      事業者一覧資料の閲覧・配布を受けましたか?
     □配布を受けた 36
     □閲覧したが配布されなかった 03
     □閲覧も配布もなかった 02
     □その他(  ) 09
       ・分からない02
       ・覚えがないが見たような気がする09
       ・見当たらない01
       ・介護保険以外のサービスを利用しているのでもらっていない01

     ※調査に際しては、上婦負介護保険事務組合作成の一覧資料を調査対象者に示
      して確認した。資料を持っていない人には参考資料として1部ずつ配布し
      た。

    07)ケアマネジャーを変更するにはどのような手続きを行えば良いかについて、具
      体的な説明を受けましたか?

     □書面および口頭で説明を受けた 23
     □書面で説明を受けた                    01
     □口頭で説明を受けた 02
     □説明を受けなかった 09
     □その他(  )→複数回答 15
       ・忘れた11
       ・分からない01
       ・言われたかも知れないが変更するつもりがないので覚えていない01
       ・変えられる時は言って下さいという説明を受けた01
       ・説明は受けたが内容がよく分からない01

    08)ケアプラン(居宅サービス計画)の新規作成時と変更時に、「居宅サービス計
      画書(1)(2)」を含むケアプラン原案につき説明を受けましたか?

     □書面および口頭で説明を受けた 28
     □書面で説明を受けた                    00
     □口頭で説明を受けた 04
     □説明を受けなかった 12
     □その他(  )→複数回答 06
       ・分からない01
       ・覚えていない01
       ・見えないので分からない01
       ・週間サービス表は受け取ったが居宅サービス計画書(1)と(2)はも
        らっていない01
       ・説明は受けたが、計画を変更した時に(1)(2)の更新が一ヶ月以上
        遅れてまだ来ない。01
       ・介護保険外サービスのみの利用で、(1)(2)は作成してもらってい
        ない。別の資料はもらっている。01

     ※調査に際しては「居宅サービス計画書」の意味がわからない人には、書式雛
      型を示し、読み方を説明した。

    09)月々のサービス利用票につき、利用者確認欄に署名または捺印を行っていま
      すか?

     □事業者分と本人分の二通とも署名または捺印を行っている 37
     □事業者分のみ署名または捺印を行っている 08
     □本人分のみ署名または捺印を行っている 02
     □サービス利用票は配布されるが、署名も捺印も行っていない 00
     □サービス利用票が配布されず、署名も捺印も行っていない 01
     □その他(  ) 02
       ・介護保険サービスを利用していない(サービス利用票が存在しない)02

     ※調査に際しては「サービス利用票」の意味がわからない人には、書式雛型を
      示し、読み方を説明した。

    10)ケアプラン(居宅サービス計画)を完全実施した場合に発生する費用の概算
      情報につき説明を受けましたか?

     □書面および口頭で説明を受けた 38
     □書面で説明を受けた 00
     □口頭で説明を受けた 00
     □説明を受けなかった 10
     □その他(  ) 02
       ・4月当初は書面および口頭で説明があったが、今では説明がない01
       ・目が見えないので書面の事は分からない01

    11)ケアプラン(居宅サービス計画)を担当する各サービス事業者を選ぶに当た
      り、保険者の作成した居宅サービス事業者一覧資料の閲覧・配布を受けまし
      たか?

     □配布を受けた 38
     □閲覧したが配布されなかった 01
     □閲覧も配布もなかった 03
     □その他(  ) 08
       ・配布を受けたと思うが覚えていない02
       ・4月前からのサービスをそのまま受けた。配布の有無は覚えがない02
       ・「お任せします」と言った。自分で選択しなかった。閲覧はしたと思う
        がよく覚えていない01
       ・介護保険サービスを受けていない。閲覧も配布もない。02
       ・記入なし01

     ※調査に際しては、上婦負介護保険事務組合作成の一覧資料を調査対象者に示
      して確認した。資料を持っていない人には参考資料として1部ずつ配布し
      た。

    12)ケアプラン(居宅サービス計画)の変更を希望した場合、迅速に対応してくれ
      ましたか?

     □迅速に対応してくれた 28
     □まあまあ迅速に対応してくれた 02
     □ふつう 05
     □あまり迅速に対応してくれなかった 00
     □対応が迅速ではなかった 01
     □その他(  ) 14
       ・変更した事がない11
       ・分からない01
       ・目下変更中で、これが迅速なのか遅いのか普通どうなのか分からないの
        で答えられない。01
       ・記入なし01

    13)ケアプラン(居宅サービス計画)について苦情を申し出た場合、問題解決に向
      けて迅速に対応してくれましたか?

     □迅速に対応してくれた 13
     □まあまあ迅速に対応してくれた 05
     □ふつう 01
     □あまり迅速に対応してくれなかった 01
      ※「医師との連絡に一ヶ月ほど時間がかかった。長すぎる」とのコメント
       あり。
     □対応が迅速ではなかった 00
     □その他(  ) 30
       ・苦情はない15
       ・苦情を言ったことはない13
       ・苦情を言うと後が怖くて言えない01
       ・記入なし01

    14)ケアプラン(居宅サービス計画)のサービス種類、サービス内容、サービス費
      用などについて困った点、希望する点などはありますか?

     □ない 38
      ※「訪問の都度、ケアマネジャーから困ったことはないか聞いてくれる」と
       のコメント1名あり
     □ある(具体的に→  )複数回答あり 12
       ・通所回数を増やしたいがお金がかかるのでできない01
       ・介護保険サービスを申請してから決定するまでの段取りが悪く時間がか
        かる01
       ・入れ歯について相談したが、対応が中断したまま01
       ・散髪について困っているが言い出せないでいる01
       ・訪問診療で困っているが、医師に苦情を言うことは憚られる01
       ・介護保険のサービスとそうでないサービスの区別がよく分からない01
       ・利用者の自己負担を無くしてほしい02
       ・自立・要支援にならないか不安01
       ・紙を配られても字が細かいし見ても分からない05
       ・内容は分かるが字が細かくて困る(サービス利用票)01
       ・毎月の紙は印鑑をまとめ押しするなど儀式化していて無意味01
       ・膨大な紙を使う制度に問題がある。資源の無駄使いは止めるべき04
       ・家族の反対で、利用したいサービスを利用できない01
       ・日中本人しかおらず、サービス利用票への押印は本人が行っているが、
        本人は紙を見ても意味がわかっていない。内容が分からない文書に印鑑
        を押す事が習慣づけられ、悪徳商法や詐欺に遭わないか心配01

    15)その他、ケアマネジャー(介護支援専門員)に対して希望すること、困ってい
      ることなどはありますか?

     □ない 32
     □ある(具体的に→  )複数回答あり 18
       ・いちいちケアマネジャーを通じてものを頼むのが面倒くさい01
       ・ケアマネジャーを通じて事業者に頼んだ事が伝わっていない01
       ・ケアマネジャーの書類の作成不備で申請が二度手間になった01
       ・この頃は呼ばないと来ない01
       ・ケアプラン資料が3ヶ月遅れで来る01
       ・利用料のかかるサービスは使えないので、訪問看護の代わりに支援セン
        ターから定期訪問してもらっている。01
       ・ケアマネジャーの制度がよく分からない02
       ・書類が遅い03
       ・身障手帳の交付申請に時間がかかりすぎ01
       ・介護保険の前からケアマネジャーを持っている人でなければ、(ケアマ
        ネジャーの仕組みについては)わけがわからないのではないか01
       ・資料には3から4ヶ月分まとめて押印。儀式化している01
       ・資料が2,3ヶ月遅れる02
       ・訪問が3ヶ月に1度あるかないか。資料をまとめて持ってくる01
       ・ものを頼みたくても、忙しそうで気の毒で言えない。02

    (4)考察

    00)サンプル数が50と少ない。各居宅介護支援事業所ごとのサンプル分布に偏りが
      あるため、サンプル数を増やすと今回の調査でサンプル数の少なかった事業
      所の担当ケースの特徴が調査結果に強く出てくる可能性が高いものと思われ
      る。

    01)文書による説明を受けている人が多いが、「ケアマネジメント」、「居宅介護
      支援事業所」という言葉を知り、内容を理解している人は極めて少なく、対
      面時に一通りの説明を要した。ケアマネジャーからの説明が形式に流れて理
      解度を測定していない事、「ケアマネジメント」サービス自体の特徴とし
      て、訪問介護などのダイレクトケアサービスに比べて利用者にとって仕組み
      を理解するのが難しい事などが推察できる。説明のあり方を見直す必要があ
      るものと思われる。

    02)契約書を作成している人がほとんどだが、各条文の理解が十分であると思われ
      る人は 少なかった。これも、ケアマネジャーからの説明が一種儀式的なも
      のに終始している事、利用者が理解しにくい仕組みである事などを推察させ
      る結果である。

    03)重要事項説明書を受け取っている人がほとんどだが、「重要事項説明書」とい
      う言葉を知り、内容を理解している人はほとんどおらず、対面時に一通りの
      説明を要した。また、受け取った人でも紛失してしまっている人が少なから
      ず見受けられた。重要事項説明書には苦情処理体制や損害賠償方法などの利
      用者側の権利に関わる重要な情報が記載されているはずであり、利用者側の
      権利意識が未だ低い状態である事を推察される結果である。権利意識を高め
      ていく説明方法や権利行使に際して必要な書類の保管方法の指導方法などを
      検討すべき。

    04)サンプル数が多ければ、書面で説明を受けた人と受けていない人の比率が逆
      転する可能性が高い。書面で説明を受けた人でも、介護保険制度導入時にこ
      れまでのケアマネジメント関係をそのまま引き継いだ人が多く、本当に権利
      として意識し、必要に応じて権利行使できる人は少ないものと推察される。
      今後、新規でケアマネジメントサービスを 受ける人が増えてくれば、各ケ
      アマネジャーの説明方法如何によっては利用者の権利意識を高めることがで
      きるものと思われる。

    05)調査結果は04)とほぼ同じ。ケアマネジャーに競争が求められる中で、変更権
      についての説明に消極的となるモチベーションが働く構造的問題があり、説
      明義務の制度的強化が求められる。

    06)サンプル数が多ければ、資料配布を受けている人と受けていない人の比率が
      逆転する可能性が高い。配布義務をより一層明確化する必要がある。

    07)調査結果は05)とほぼ同じ。サービス利用者は、変更希望があっても立場上の
      弱さがあり、なかなか変更を切り出せない。制度によってこの力のバランス
      の修正を行うことがなければ、利用者中心のシステムにはならないであろ
      う。具体的には、変更届などの書式をすべての利用者に配布し、変更したい
      ときにはいつでも当該書式を用いて変更する権利がある旨の説明を義務付け
      るなどの対応が求められる。

    08)サンプル数が多ければ、書面を受け取っている人と受け取っていない人の比
      率が逆転する可能性が高い。書面を受け取っている人でも、プラン実施に間
      に合うように受け取っている人はほとんどおらず、1〜4ヶ月遅れとなって
      いる(調査項目15参照)。おおまかに言って、件数をこなして各利用者のニ
      ーズに応えようとすれば書類の作成が後回しになったり作成をそもそもあき
      らめたりせざるを得ず、利用者への説明義務を厳格に果たそうとすれば件数
      をこなせず各利用者のニーズへの即応ができないというジレンマ(現場のケ
      アマネジャーであれば誰しも体験する事と思うが)が端的に示された形とな
      った。

    09)ほとんどの利用者が何らかの形で押印を行っている。これは、金銭トラブル
      や監査時の指導等を念頭において、事業者側が契約書書式や利用票などの必
      要最低限の要の書式の整備等に努めているためと思われる。しかし、利用票
      を見て内容を理解して押印している人は少なく、忙しそうなケアマネジャー
      に遠慮して、あるいはケアマネジャーを信頼して読まずに押印しているのが
      実態と思われる。調査項目14の回答の中に、「日中本人しかおらず、サービ
      ス利用票への押印は本人が行っているが、本人は紙を見ても意味がわかって
      いない。内容が分からない文書に印鑑を押す事が習慣づけられ、悪徳商法や
      詐欺に遭わないか心配」という声があるが、ほとんど儀式化しているシステ
      ムの無駄に加え、システムが新たな問題の引き金になりかねない事の指摘と
      して重要である。いろいろな意味で無理・無駄のある利用票のシステムを抜
      本的に見直す必要があろう。

    10)サンプル数が多ければ、概算情報を受け取っている人と受け取っていない人
      の比率が逆転する可能性が高い。また、制度導入当初は説明を受けていたが
      やがて説明がなくなったという回答は、ケアマネジャーの手が回らなくなっ
      てきていることを推察させる結果と思われる。

    11)サンプル数が多ければ、一覧資料を配布された人とされなかった人の比率が
      逆転する可能性が高い。

    12)変更希望時の対応への満足度は概ね良い結果だった。

    13)苦情を言った事がない、あるいは苦情がないと回答した人が多い一方、怖く
      て苦情が言えないという回答もあり、ケアマネジャーへの遠慮や立場上の弱
      さと苦情の少なさとの関連に注意を要するものと思われる。ケアマネジメン
      トに対する利用者の理解が深まり、権利意識が高まってくれば、苦情を言え
      るコンディションが整い、件数も増える可能性があるものと思われる。

    14)医師をはじめとするダイレクトサービスの事業者に苦情を言えないという利
      用者の立場上の弱さが浮き彫りになっている。苦情として上がってこない以
      上苦情処理機関はあっても機能する事は期待できないため、代弁機能を果た
      すケアマネジャーの存在が重要となる。しかし、ケアマネジャーの身分保障
      が制度化されておらず、公平・公正・中立性の観点から十分ではない中で、
      代弁機能がどの程度実効性を持つか疑わしい。利用者の権利性を高めるため
      にも代弁機能(アドボケート)のシステム化を考える必要があるものと思わ
      れる。

    15)書類受け渡しの遅れが明確に示された結果となった。これは、ケアマネジャ
      ーの仕事量の過多を推察させるに十分な結果である。また、不要に紙を大量
      消費する現在のシステムの無駄に利用者側も気づき始めていることが分か
      る。今後、環境問題に敏感な利用者や家族からは批判が強まるであろうし、
      事務費用が介護保険の保険料などで賄われる事が周知されれば、保険料引き
      下げ要求の声とあいまって、システムの合理化を求める声が高まるであろ
      う。

    (5)結論

    1)利用者の権利を明確化し、利用者中心主義の社会福祉システムを確立すると
     いう介護保険制度の理念と法施行後の社会実態との間に大幅なずれがある。
    2)権利主体とされる利用者自身が、ケアマネジメントというサービスの消費者
     であるという自己認識が低く、自らの権利に気付いていない。利用者自身がケ
     アマネジメントというサービスをよく学び、利用者の目でケアマネジメントの
     質を見極め、良質のケアマネジメントを選択できるよう、消費者としての成長
     を側面的に支援する必要がある。また、サービスの利用者は、消費者であると
     同時に、当該地域の住民でもあり、地域ケアシステム創造の担い手としての地
     位も有する。コミュニティの構成員として、当該地域のサービス全体の評価や
     質の悪いサービスの改善、費用負担の軽減に向けての取り組みなどが主体的に
     展開されるよう支援する必要があるものと思われる。
    3)利用者の権利の代弁者としてケアマネジャーの果たすべき役割は大きいが、
     現行制度下ではケアマネジャーに対する身分保障がなく立場が弱い。これに加
     え、ケアマネジャーに与えられた業務量が過多であり、介護保険制度によって
     期待された役割を果たしきれていない。ケアマネジャーが本来期待される役割
     を担い、かつ利用者側の権利・利益の代弁者として機能していくためには、業
     務内容の大幅な見直しと身分保障制度の確立が求められる。
    4)上記2)3)の課題について、在宅介護支援センターの立場から何らかのサポー
     トを計画的に行う事が望ましい。
     (例)
      ・支援センターの広報活動を通じてケアマネジメントそのものに関する説明
       やケアマネジメント契約時の留意点、権利義務などについての情報を発信
       する。
      ・担当地域におけるサービス資源に関する直近の情報を収集し、発信する。
      ・ソーシャルワーク・リサーチなどの援助技術を用いて担当地域におけるニ
       ーズ把握を継続的に行う。
      ・社会福祉協議会などのコミュニティ・ワーク実践とリンクし、地域住民
       が主体となってコミュニティケアシステムを創造する取り組みに協力す
       る。
      ・ケアマネジャーの身分保障制度の確立方法を検討する。また、ダイレク
       トケアサービス機関以外の第三者機関からケアマネジャーを選ぶ事の意義
       をPRする必要があるものと思われる。
       (たとえば、甲さんがA事業所の訪問介護とB事業所の通所リハビリ、C
       医院の通院加療を受けたい場合は、ケアマネジャーはABCの法人や関連
       法人以外の事業所から選ぶ。これにより、ケアマネジャーはサービス担当
       機関とのしがらみを断ち切り、純粋に利用者の権利・利益を第一に考えた
       ケアマネジメントに専念できる。また、利用者がこのような選択をする事
       によって、結果的にケアマネジャーの身分が間接的に保障される。さら
       に、利用するサービスが多ければ多いほどケアマネジャーの選択肢は併設
       事業所からケアマネジメント専門の事業所、具体的には市町村直轄の地域
       型支援センターなどに絞り込まれ、集中的なケア管理を要する利用者ほど
       相対的に公務員など身分的に安定したケアマネジャーのケアマネジメント
       を受ける事となる)。

     おわりに

     今回の調査によって明らかになった事実は、介護保険法施行後一年を経過しつ
    つある今日、現場を奔走するケアマネジャーや担当する行政サイドにとっては実
    に自明の事であるが、直接関わりのない人々にとっては、むしろ情報が閉ざされ
    ていて分からない(知らされていない)事が多い。介護保険法は、法施行後利用
    者やサービス機関などの意見を集約しつつよりよい方向に改正していく事が制度
    そのものに内在化して定められている。しかし、制度がどのように運用されてい
    るか、その社会実態についての情報が公開され、判断材料が提供されなければ、
    このような民主的な制度改変は期待できないであろう。介護保険制度施行により
    様々な問題が発生しているが、それを隠すのではなく、明らかにしていく事によ
    って、よりよい制度に改変する動きを作っていく事が求められる。





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