ケアマネジャーは
公平公正中立・利用者中心主義
の第三者機関から選ぼう




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  • 2000.11.15.


    「第5回富山県医療福祉保健交流集会」
    (2000.10.22.富山市フコク生命ビル)
    シンポジウムでの塚本発表原稿より




     大沢野町の太陽苑在宅介護支援センターでケアマネジメントを担当しておりま
    す塚本と申します。介護保険の6ヶ月を検証するというと様々な角度から膨大な
    検証が可能かと思いますが、私の方は、主にケアマネジメントに的を絞って報告
    を試みたいと思います。
     介護保険法が施行されて6ヶ月余りが経過し、行政サイドからは「おおむね順
    調」といういわば大本営発表が行われ、それをそのままマスコミが報道するとい
    ういわゆる「発表ジャーナリズム」に陥っている状況下で、事情を知らない人や
    直接利害関係を持たない人は「そんなものかな」と思ってしまうのですが、介護
    保険法施行前からケアマネジメントの理論と実践を日本のコミュニティケアの現
    場に根付かせようと努力してきたスタッフ、在宅介護支援センターのスタッフや
    市町村保健婦などの方々から見れば、この4月1日以降、これまでまがりなりに
    も行ってこれたケアマネジメントが、介護保険を機に破綻してしまったという実
    感を持つのではないかと思います。私もその一人です。
     今、日本の居宅介護支援事業所は、およそ4つの類型に分化しつつあるのでは
    ないかと思います。そして、それぞれに問題点を抱えている。もっとも、ここで
    言う4類型は、あくまでも説明の便宜で設定したものであり、理論的に確定した
    分類ではありませんので、あらかじめ申し添えます。
     まず一番多いのは、居宅介護支援事業所に併設されている母体法人のダイレク
    トケアサービスの宣伝・囲い込み機能を果たしている類型です。ダイレクトケア
    サービスというのは、ホームヘルプサービスやデイサービス、デイケアなどの直
    接ケアを行うサービスのことです。一人あたりのケアマネジャーの担当する「報
    酬請求可能な」ケース件数は、指導上限ぎりぎりの50件前後であり、居宅介護
    支援事業所としてのバランスシートは、セールスによって潤った母体法人の利益
    からの還元を前提として、危機的な状況はなんとか回避できる。経営の観点から
    のみ見れば、比較的健康な事業体です。ケアプランは、その8割から9割が母体
    法人のサービスのみしか利用しない名目だけのケアプランなので、関係各機関へ
    提供義務のあるサービス提供票その他のケアプラン資料は極力省略できますし、
    各機関相互の連絡調整も、法人内の業務連絡程度で済ませられます。時間と費用
    を節約できる、儲けを出すことだけを考えればまことに合理的なシステムなわけ
    です。
     しかし、そのような事業所では、事業目的が実質的にセールスマンなので、本
    来のケアマネジメントを行う事はできません。居宅サービス計画原案をご本人ご
    家族に示して同意を得るということもないでしょう。月々のサービス利用票を配
    っては回収する、その合間合間に報酬請求のためコンピューターに張り付いて白
    い紙に黒いものを落とす機械的な労働に終始する。対人援助の専門家としてのケ
    アマネジャーのプライドは奪われ、精神的にも疲弊してしまうといった状況にな
    っているものと思います。
     また、角度・立場を代えて見れば、公平中立なケアマネジャーから最善のケア
    プラン原案を提示してもらうために保険料や税金を支払ったのに、実際に受ける
    サービスはそのような理念にかなう内容を伴わないという事になれば、これは、
    利用者・消費者の立場から見れば大きな損失ですし、そもそもケアマネジメント
    というものは、最小の予算で最大のケアニーズ充足効果を実現するために編み出
    されたシステムであるにも関わらず、実際にはそのように機能しなくなってしま
    うわけですので、国家や地方自治体の立場、保険者の立場、ひいてはサービスを
    現に消費していないけれども税金や保険料を納付している国民、地域住民の立場
    から見ても大きな損失であるという事が言えます。第一の類型にはそのような問
    題があります。
     第二の類型は、市町村直轄の居宅介護支援事業所のパターンです。市町村直営
    のダイレクトケアサービスで介護保険の適用となる事業は今般皆無に近いですの
    で、介護保険で儲けを出す母体法人のサービスに当たるものがないわけです。こ
    のことに加え、介護保険法上の居宅サービス計画費の報酬単価はきわめて低い。
    第一の類型に合わせて、つまり囲い込みばかりでろくにケアマネジメントをしな
    いだろうという前提のもとに低めに設定されていると言われています。 そうな
    ると、普通に考えれば採算割れ間違い無しなのですが、通常行政が直轄している
    居宅介護支援事業所は、実質的には独立採算ではなく、一般財源からの直接・間
    接の補填を期待できますし、個々のスタッフの身分保障もある。それに加えて介
    護保険は、公的な制度という事で、市町村にケアマネジャーを頼めば間違い無い
    だろうという単純・素朴な消費者の判断も手伝って、ダイレクトの窓口来談によ
    るケアマネジメント契約が比較的まとまり易いという強みもあります。あるいは、
    基幹型支援センターに徹する、担当ケースは一切持たないという方向も、行政直
    轄ならではであり得ます。ケアマネジャーにとっては、もちろん実際には保健婦
    さん方は兼務などで、複数の業務に忙殺されておられる事は重々承知の上で申し
    ますが、他の3つの類型に比べれば、ケアマネジャーにとっては、相対的には安
    心してケアマネジメントに専念できる環境にあると言えます。統計をとって見な
    いと分かりませんが、ケアマネジャー一人当たりの担当件数は報酬請求できない
    ケースも含めて30ケースあるかないかではないでしょうか。無理のない妥当な
    数字だと思います。
     しかし、この類型では、保険者や行政の立場とケアマネジャーの立場が両立し
    ない場合はどうするのか、といった問題も潜在的にはあります。イギリスのケア
    マネジャーは、原則公務員です。イギリスでは、新自由主義的な政策の流れの中
    で、ダイレクトケアサービスの担い手は民間に門戸を開放しましたが、ケアマネ
    ジメントは行政に残しました。それによって、ケアマネジャーの身分保障と公平
    中立性は確保できたと見る立場もあるのですが、現場の実態調査をなさった方の
    話では、サービス利用者がケアマネジャーの訪問を嫌がる。その理由は、ケアマ
    ネジャーが来るたびにサービスを減らされるからというのです。公務員であるケ
    アマネジャーは、より少ない予算でより多くの人のケアマネジメントに成功すれ
    ば、人事考課上ポイントが高くなる、そこで、本当は必要なサービスなのに、
    「あなたはこのサービスを利用してこれだけ具合が良くなりましたね。だから、
    これからはこのサービスは要らなくなったので削りましょう」と、そのサービス
    を切り捨ててしまう、利用者の方を向かず、行政の方を向いて仕事をしてしまう
    恐れがあるというわけです。ケアに関連する予算を管掌する公務員がケアマネジ
    メントを行う事の弊害ですね。このほか、土日祝日や夜間の柔軟な相談援助出動
    を行いにくいなど、一概には言えないにしても、行政直轄であるが故の不都合も
    利用者の声として日本国内でも聞こえてきます。第二の類型にはそのような問題
    があります。
     第三の類型は、母体法人に囲い込みできるほどの総合的なコミュニティケアサ
    ービス能力がないところです。特に、入院、入所できるユニットを持たない法人
    にくっついている居宅介護支援事業所では、母体法人のサービスを消費者が進ん
    で選択するというよりは、囲い込みしすぎて手に余るクライエントを同業他社か
    ら回してもらう形でほそぼそと命をつないでいる感じでしょうか。介護保険を機
    に事業を興した事業所でこの類型に該当するところは、ここ数ヶ月で相次いで居
    宅介護支援事業所を閉鎖したり休眠したりしています。母体法人のダイレクトケ
    アサービス自体が立ち行かなくなる場合もあれば、不採算部門として居宅介護支
    援事業所のみを切るところもあります。儲からないから切る、そういう論理を肯
    定できる性質の事業所、具体的には株式会社などの形態をとっている事業所に多
    く見られると思います。ケアマネジメントは公益事業であるという位置付けは間
    違っていないと思いますが、だから報酬を値切って良いとは思いません。このよ
    うな事業所のケアマネジャーの中には、これまでの社会福祉法人や医療法人の古
    いシステムではケアマネジメント能力を十分に発揮できないと考え、よりよいケ
    アマネジメントの実現を目指して転職した人も多いと思うのですが、事業所閉鎖
    となったり不安定雇用に貶められたりという待遇を受けておられる御同業には、
    お気の毒な事だと思いますし、他人事には思えません。サービスの利用者にとっ
    ても、経営の都合で勝手に事業をたたまれるという事では、はなはだ不都合な事
    です。ケアマネジメントを公益事業であるとし、かつ報酬を採算割れまで切り崩
    す設定にしたということは、政策サイドの側で、はじめからこの類型の居宅介護
    支援事業所を根絶やしにしたかったからではないか、個人的にはそんなふうにも
    疑っています。株式会社だけではなく、小規模な民間非営利事業所がケアマネジ
    メントのみで独立採算をとれないばかりに、ケアマネジメントの分野で独自色を
    出すチャンスを奪われているという側面もあると思います。第3の類型は、採算
    割れで事業の継続が困難となったり、はじめから事業開始を断念せざるを得ない
    というシビアな状況に直面していると言えようかと思います。
     最後に、第4の類型。これは、残念ながら非常に少数派なのですが、当方の所
    属している事業所もこれに該当するかと思います。母体法人のサービスは整備さ
    れているけれども、囲い込みは一切行わない。公平・中立を堅持し、利用者中心
    主義に徹する事業所です。本当は、厚生省などの通知に従えば、この第4の類型
    が最も多数を占めなければならないはずなのですが、そうはなっていないところ
    に、ここ半年間の日本のケアマネジメントシステムの破綻が端的に現れていると
    思います。 公平・中立、利用者中心を堅持すればするほど、母体法人以外のサ
    ービスをケアプランに組み込む必要が生じ、ケアマネジメントに費やす時間と費
    用が増大します。しかし、ケアマネジメント報酬はそのコストを回収できる設定
    にはなっていないですので、まともに仕事をすればするほど赤字になる、正直者
    が馬鹿を見るということになります。質の高い責任あるケアマネジメントをと考
    えると担当件数をそんなに多くは持てません。しかも、地域福祉に責任を負う社
    会福祉法人などの立場上、「採算割れになるから止めます、ハイ、さようなら」
    と言うわけにはいかない。止めることも許されないという意味では、第3の類型
    よりもさらに深刻な状況に立ち至っているという事が言えます。新自由主義者に
    言わせれば、よいケアマネジメントサービスを提供すれば、競争に勝って選ばれ
    るという事になるのでしょうが、残念ながら、ケアマネジメントとはなにか、そ
    れがどんなサービスなのか、良し悪しをどうやって見分けるのか、そういった情
    報が消費者サイドには与えられていませんので、そのような楽天的な市場原理を
    提唱なさる方々は、現場を知らない空想家であると言わざるを得ません。
     ケアマネジャーがいくら公平・中立、利用者中心主義のいい仕事を行う能力が
    ある人でも、日本のケアマネジメントシステムにはケアマネジャーの身分保障制
    度が無いため、所属法人があからさまな利益追求を求めるようなところであれば、
    いくらでも配置転換する事ができますし、人事考課上のペナルティを加える事も
    できます。ねずみをとらない猫という評価ですね。それを恐れて、ケアマネジャ
    ー自身が自分でも気づかないうちに利用者の方ではなく事業者の方を向いてしま
    っている、いつのまにか第一の類型の居宅介護支援事業所に方向転換しそうにな
    っているというところもあるでしょう。利用者と事業者のどちらを向いて仕事を
    するのかという問いは、専門職としての倫理を厳しく験す問いであり、良心的な
    ケアマネジャーほど、この板ばさみにあって苦しんでいるはずです。第4の類型
    にはそのような問題があります。
     時間が無いので詳細は後に譲る事になりますが、このような日本のケアマネジ
    メントの破綻状況をまず事実として確認する、隠さないというところから出発し、
    ではどうすればこの問題を解決することができるのか、どうすれば日本にコミュ
    ニティ・ケアマネジメントを正しい意味で根付かせることができるのか、問題意
    識を共有する人たちが集まって改善に向けて動かなければならないと思っています。
    最後に結論だけを述べるようで恐縮なのですが、私なりの考えを提言としてコン
    パクトにいくつかまとめますと、次のようになります。

    提言1

     ケアマネジャーは、母体法人や関連法人のサービスを組み込んだケアプランを
    原則として作成してはいけない事とする。ただし、過渡的には、例外を認め、そ
    れらの例外のケアマネジメントに対する報酬は現行通りの低い設定とし、囲い込
    みの全く無いケアマネジメントに対する報酬は大幅に引き上げる。また、行政は、
    ケアマネジャーごとに例外となるケアマネジメントケースの全担当ケースに占める
    割合を監査し、一定の基準を超える割合で例外ケースを担当しているケアマネジャ
    ーとその所属する居宅介護支援事業所を厳しく指導する。必要に応じ事業所 指
    定を取り消す。

    提言2

     囲い込みの全く無いケアマネジメントに対する報酬は、1名のケアマネジャー
    が30ケース担当して採算割れを起こさないレベルに引き上げる。また、当該ケ
    ースには、介護保険以外のサービスのみを利用しているケースや入院・入所中の
    ケースを含む。将来的には、ケアマネジメントを介護保険から切り離して別制度
    とし、財源を税のみとする。

    提言3

     給付限度単位数を超えるサービスを用いる事に正当な理由がある場合には、ケ
    アマネジャーから保険者に申請し、一時的に限度単位数を引き上げられるように
    制度を改正する。(イギリスなんかではそうしているみたいですね)。
    以上です。シンポジウムでは忌憚の無いご意見をうかがえればと思います。よ
    ろしくお願いします。




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