「通り過ぎる調査」(1998.06.28.)
このところ、介護保険法上の市町村介護保険事業計画の策定のための実態調査や、障害者基本法上の市町村障害者計画の策定のための実態調査の準備作業がいくつかの市町村で始まっています。そして、行政サイドの実態調査とは別個に、市民サイドからの調査活動もところどころで始まっています。このような調査活動は、これまでにも行政や介護家族、市民団体などが行ってきましたが、肝心の医療・保健・福祉諸サービスを必要とする当事者の方々から、調査への不信の声を聞く事がしばしばあります。それは、調査がいくら行われても、調査にいくら協力しても、その結果、自分たちの望むような社会にはならないという不信の声です。
社会調査の方法には、大きく分けて統計調査と実態踏査があります。通常行われる調査は主に前者であり、個別訪問やアンケート郵送を行っても、それは統計をとるための手段である場合が専らです。そして、計画策定のための統計調査は、ホームヘルプサービスや入所施設などの量が足りているかどうかのアセスメントに偏り、質を問う事が抜け落ちがちです。
例えば、若い障害を持っている方が、女性のヘルパーさんではなく男性のヘルパーさんに来て欲しいと思っても、性別までアセスメントされなければ、その願いは統計に反映されなくなります。また、ホームヘルパーさんに夜間にきてほしいと考えているのに、日中しか派遣が認められないという場合、そのような現状のサービスの質を前提として「どのくらい利用したいか」を問われても、夜間に来て欲しい人は「利用したくない」と答えざるを得ない。「利用したくない」という回答の中に、「もし夜間に利用できれば利用したい」、「もし男性が派遣されるのであれば利用したい」というメッセージが込められていても、統計処理された後では「利用したくない」うちの一人としてしか評価されない。そのあげくに、「ホームヘルパーを利用したいという人があまりいないので、人員を増やそうにも増やしにくい」という話で落ち着いてしまう事がしばしばあります。
本当にサービス利用者のニードを満たすための計画を立てるのならば、アセスメント項目に何を選ぶべきかを知らなければなりません。そして、それを知る唯一の方法が、サービスを利用する当事者といっしょに考えるという方法です。サービス利用者は調査の客体ではなく主体として扱われなければなりません。それがなければ、いくら時間とお金を費やしても、意味のある実態調査はできないでしょう。
ある若い障害を持っている方は、「調査はいつも私の頭の上を通り過ぎていく」と嘆いておられました。その人にふれあう事なく通り過ぎる調査は、その人の為にならないばかりか、その人を傷つけてしまいます。せめてその人の前で立ち止まる調査、
できればその人と共に歩き出す調査であってほしいと思います。(1998.06.28.)
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