本当の魔法

  獲物がまたこの道を歩いていた。
  人の滅多に通らないこの道に。
  幅広の青の帽子に青の服。
  身長は高くない。それは若いからだろうか?
「おぃ、そこのお前。」
  兄達が声をかけ、その歩みが止まる。
  その顔を見たとき、僕はやはりそれが少女であることを知る。
(すぐに逃げろ…)
  そうは思うが、兄達の前で絶対に言えるセリフではなかった。
  それほど兄から受けた暴力の力は絶大だった。
「なんでしょうか?」
  こわごわと帽子を脱ぎ、小さな胸に当てながら少女は答る。
  当然だ。5人もの男が取り囲んでるのだ。
  これから凄惨な陵辱が始まる…
  黒髪を小さく後ろに結ったその少女が男達のなぐさみ物になるのだ。
「ちょっと用がある。断われば……」
  ニタニタと笑い、短刀を振りかざしながら少女の肩を乱暴に掴む兄達を僕はど
うすることもできない。
  抗議はした。なんども。
  そのだびに暴力を受けた。
  そして自分がそんな力を受けても、やはり女性の悲鳴には耐えなければならな
かった。
  そして僕は見張りをしなければならなかった。
  その見張っている時間と寝る時間だけが兄達の支配から逃れられた。
  少女と一瞬だけ目が合う。無垢な瞳は僕に問いかけた。
(このままで貴方、本当に良いの?)
(違う!絶対に!)
(ならあなたは何故…)
(だめだ!兄には…)
「おい、ホツマ!何してやがる!速く向こうへ行け!(そして見張れ!)」
  一番下の兄が僕の思考を止める。少女は裏路地に連れ込まれた。
  不思議と悲鳴は聞こえては来なかった。耐えているのだろうか?
  それとも僕を…
「おい、ホツマ。聞こえてねーのか!!」
  兄が拳を振りかざし僕を殴る。
「悪いけど僕はもう…」
「んだとぉ。」
  僕は無意識に手の平を向けた。その時だ。
″がっ!″
  けたたましい音があがる。兄は吹き飛び真後ろの壁に当り、その壁に大きな丸
い跡を残した。
「そ、そんな…」
  僕は自分のやった行為に驚愕し、悲鳴をあげた。
  他の兄達がその音に驚いて僕の所にやって来る。
「おぃ、これは一体。」
「まさかホツマが…」
  出て来た兄達に僕は思わず手を向けた。
(消えてしまえ!なくなってしまえ!僕の過去と一緒に!)
  同じような派手な音をあげ兄達は吹き飛び死んだ。
「そうだ!彼女は…」
  数秒の後、僕はそれに気付き、連れて行かれた裏路地に向かう。
  そこには長兄が立っていた。
  片手で衣服の乱れたあの少女を捕まえ短刀を持ち刃を首筋に当てていた。
「動くなよホツマ。いつ貴様が悪魔に魂を売ったのかは知らんが、動けばこいつ
の命はないぞ。」
(僕が悪魔に魂を売っただって!一体いつ!)
  だが、それならばあの力は理解できる。
「おとなしくしなよ。お前が望むなら彼女だけは助けてやろうじゃないか。」
  兄の声はしかし震えていた。短刀にもそれが伝わったのか、少女の首筋に淡い
血の線が走る。
  少女を今度ははっきりと見る。少女の瞳は澄んだ蒼色だった。
(お願いです。)
  僕に訴えかける。
(力を…貸してください。)
  思わず手に力をこめた。
  たったそれだけだった。
  それだけでなにがしかの力を受け、兄は全身から血を流し崩れ落ちた。
「これが…『本当の』魔法…人の思考を使役する人の力…」
  少女は目をうるませ、悲しそうな声で確かにそう言った。
「あなたは…」
「私はレミカ。魔族の…」
  泣き崩れる彼女を僕はどうすることもできなかった。
  彼女は人を殺させてしまったんだ…